第84話「王女攻略⑥かけがえのない友達」
「家族を失ったと思っていた私は、かけがえのない友達に支えられて此処にいる。ユニクと出会う事が出来たのも、全部みんなのおかげだった」
静かに語り出したリリンの声が、室内に響く。
真剣な表情をしているのは、アプルクサスだけでは無い。
まるで身内であるかのように、オールドディーンもアルファフォートも真剣な視線をリリンに向けている。
「家族を失った、ですか……?それはどういう」
「お父さんは私が8歳の時に亡くなった。そして、セフィナやママと別れたのは10歳の時だった」
「生きているではありませんか。それとも、何かの暗喩なのですか?」
リリンの言葉に相槌を打つのはアプルクサスだ。
ブルファム王国側として一番低い身分だから、本当ならオールドディーンが話を聞くのが筋だろう。
だが、オールドディーンは頷くばかりで口を開こうとしない。
友を想い、主導権を譲ったんだと思う。
「パパの代わりになるべく、セフィナの面倒をみる日々。大変だったけど健やかで、楽しい毎日だった」
「はい、あの子となら、きっと楽しい」
「でも、別れは唐突に訪れた。不安定機構の任務で街を離れている間に自宅は焼け落ち、その災害にセフィナとママが巻きこまれた。そして、無残な家に残っていたのは……変わり果てた……」
リリンの沈痛な表情から察し、アプルクサス達も痛々しい顔になった。
家が焼け落ち、その中に二人が取り残された。
どうなったのかを想像するのは難しくなく、こうして、リリンが天涯孤独になったのだと伝わる。
「そうですか……。今でこそ、セフィナが生きていると知っている私ですら、張り裂ける想いです。リリンサ様の心中を慮ると、とても……」
「おじぃちゃん。私の事はリリンと呼んで欲しい。祖父との触れ合いに敬称なんていらない」
「っ!セフィナにも同じ事を言われました。こんな爺を思ってくれる優しい孫達、それが他者の思惑によって引き裂かれていたなんて……」
ぽろぽろと涙を溢し始めたアプルクサスに近寄ったリリンが、優しく頭を撫でた。
自分だって話をするのが辛いだろうに、本当に優しいぜ。
「ユニクルフィン、お前は知っていたのか?いや、いつからリリンサと一緒にいるのだ?」
「一年も経ってない。最近だよ。ま、その話は後にしようぜ?まだまだリリンは語りたい事があるからさ」
アプルクサスが泣きやむのを見計らって席に戻ってきたリリンは、仕切り直しとばかりに紅茶で唇を濡らした。
ごくごくごく……と大変に美味しそうに飲み干し、ぷは。っと口を開く。
「家族を失った私の後見人に名乗りを上げたのは、大聖母ノウィン。そして、新しい環境の中で私は神託を得た」
「神託……?」
「英雄の息子・ユニクルフィンと婚姻し、失われた人生を取り戻せ。これが私に与えられた神託で、私の人生の主題になった」
告げられたリリンの目標を吟味し、三人が思案顔になった。
嬉しい様な、悲しい様な、複雑な顔をしているのがアプルクサス。
俺達の関係を祝福しているっぽいが、それを縛られていた事に思う所があるんだろう。
次に、オールドディーンは眉間に皺をよせ、裏側に何が潜んでいるのかを考えているようだ。
セフィナからの情報もあるだろうし、大臣として知っている事もあるしな。
そして、アルファフォート姫、絶句。
俺達の関係を知っていたようだが、それが神託という神聖な物で定められた運命だとは知らなかったようだ。
三者が言葉を失う中、一人頬を赤くしたリリンが俺について語り出す。
「英雄の息子、ユニクルフィン。どんな人なのかは分かない。でも、私は素敵な人物だと確信していた!」
「出会った事が無かったのですか?」
「出会っていないと思っていた。ユニクが記憶を無くしている話と繋がるんだけど、私達は大切な存在を忘れてしまっているらしい」
「それは、二人の記憶が失われているという事ですか……?」
「違う。あの子という、かけがえのない人。その存在がまるごと世界から消えている。もし、おじいちゃんたちが私達と暮らしていたとしても、あの子の存在を忘れている事になる」
あの子の存在は、あまり大ぴらに語らない方が良い。
そう俺は思っていたが、リリンは迷いなく違う選択をした。
もう既にアプルクサスの事を祖父として見ているその態度は、俺も見習うべきだな。
「では、リリンの大切な人は、痕跡すら残せずに世界から亡失したと……?」
「そう。そして、それはユニクと出会ってから分かったこと。ユニクと婚姻し『失われた人生を取り戻せ』とは、『失われた あの子 の人生を取り戻せという事』。ユニクと添い遂げ、二人ともが英雄になって初めて成せる事なのだと思っている」
そうか。
セフィナやダウナフィアさんが生きている以上、人生は失われていない。
意味的には齟齬があるし、こっちの方が納得できる。
「神託に込められた神の真意を知らなかった私は、『英雄・ユニクルフィン』に見合う力量を身につける為に、とある三人の師匠に弟子入りした」
「師匠ですか……?」
「黒魔導主義・エアリフェード。無限肢体・アストロズ。八刀魔剣・シーライン。一般的には人類最強と言われている」
……あれ?ロリコンとボディフェチとオタク侍どこ行った?
つーか、そんなかっこいい肩書きがあるなんて羨ましい。
「な、彼らと既知があるのですか……」
「ん、知ってる?」
「ブルファム王国が未曾有の大災害に瀕した場合、討伐依頼を請け負って頂く手筈になっておるのです。ただ、今回の冥王竜討伐は断られ、澪騎士様が御活躍をする運びとなったのですが……」
「当然、澪も私と顔見知り。たぶんロリコ……、エアリフェードも私が関与していると知っていたから断ったんだと思う!」
なるほど、一歩何かが違えばリリンの師匠達と戦いになっていたのか。
レベルも99999だと聞いているし、もしかしたら英雄クラスの実力があるかもしれない。
回避できて良かったぜ!
「師匠との修行はだいたい2年くらい。そして、そこそこの強さを得た私は本格的にユニクを探すべく、旅をする事にした」
「まさか、一人で旅を……?」
「最初はそうだった。でも、すぐに親友が出来て、ユニク探しの旅は私の人生の中でも彩り豊かな物になって行く」
「親友、もし良ければ、その子のお名前を教えてはくれませんか。私にできる限りのお礼を言いたい」
「彼女の名前は、ワルトナ・バレンシア。私の一番の親友!」




