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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第10章「真実の無尽灰塵」

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第76話「悪性と悪逆」

「……やれやれ、全く意味が分からない。なんなんだよ、タヌキロボ。カッコ良過ぎだろ、タヌキロボ」



 静まり返った室内に響いたのは、力の籠っていない悪性の声だ。


 この部屋は悪性が率いている指導聖母達の拠点であり、それぞれの机には書類の山が築かれている。

 基本的に不干渉を貫く指導聖母達が一堂に会するなど前代未聞。

 それ程までの脅威をレジェンダリアに感じたが故の結果だった。


 だが、それらの机に主人の姿は無い。

 唯一、自分の机に着いている悪性は肩から力を抜き、付けていた仮面も外した。

 その素顔は……、ワルトナやリリンサと同年代の少女のものだ。



「悪才の切り札たるシルバーフォックス社・サーティーズ。ブルファム王国の最大戦力であり、澪騎士よりも上の存在。まさか、レジェリクエに負けるとはね」



 悪性の呟きは、誰かに聞かせる為のものではない。

 一人きりで過ごす事が多かったが故に、思考を整理する際に口に出す癖があるのだ。


 ぽつりぽつりと紡がれる、悪性の独白。

 この大陸の頂点に立つ聖母の懺悔は、誰にも阻まれる事は無い。



「悪質は最後の魔王シリーズを使用するも、全く及ばずか……。そりゃそうだろとは思う。が、彼女は本当に運が無かったね。リリンサ達と出会わなければ逃げ伸びる事が出来ただろうに」



 ブルファム姫達が住む東塔に幽閉された悪性は、情報を習得する手段が残されていない……はずだった。

 東塔を覆っている結界はワルトナによって強化され、転移魔法による移動や、機械式の電波、生物の往来などに著しい制限が掛けられているからだ。


 この制限を突破する為に必要な物は二つ。

 神殺し or タヌキ。

 前者はこの結界を作る為にシェキナを使ったからであり、後者はタヌキだからである。


 そして、それらを持っていない悪性は結界を抜け出し、この部屋に赴いた。

 逃亡経路上にあった宝物殿にも侵入し、運び出せる全ての伝説級魔道具を携えている。



「悪徳の自律神話教も壊滅か。有象無象の冒険者だが、悪徳の為なら命をも捨てる狂信者共。それらを澪騎士が率いていたのなら一矢報いる事が出来ただろう。残念だ」



 順当な評価を述べ終えた悪性は、虚ろな目で息を吐く。

 脳裏によぎるのは、全ての目が一しかないダイス。

 どれだけ振り直そうとも、レジェリクエが持つ六ばかりのダイスには勝てない。


 勝敗は決し、後は破滅の時を待つばかり。

 ラルラーヴァーへの嫌がらせとして逃亡こそしたものの、この場所にも直ぐに心無き魔人達の統括者が出向くだろう。


 やる気の感じられない顔で悪性は椅子にもたれ掛る。

 あぁ、バットエンドだ。……と。



「走馬燈、か。人生を振り返ろうと思っても、浮かんでくるのは虚無感だけだね」


「人間には、三大欲求って言うものが有るらしい。食欲、睡眠欲、性欲の三つだ」


「だけど、ぼくはそれらで喜びを感じることが出来なかった。何を食べても大した刺激にはならないし、睡眠を取っても何も変わらない。肉体的な快楽に関しては想像すら及ばない。必然的に、最低限の栄養補給と睡眠を繰り返す日々だ」


「それでも、指導聖母としての暗躍には没頭できた。虚無感を感じない為に罪悪を積み重ね、僅かに動く心に安堵した」



 指導聖母を束ね、ブルファム王国を支配した悪性。

 彼女には目標が無い。


 しいてあげるとしたら、そこにあるのは小さな感情。

 自分と同じような境遇であるはずの悪辣ワルトナへの想いだ。



「ぼくはキミが羨ましいよ、悪辣。認識錯誤の仮面越しですら見え透いている笑みと苦労が、羨ましくて堪らない。……今となっては、この独白にも意味が無いか。あぁ、虚しい」

「あらら、しょぼくれちゃってどうしたん?」


「……悪逆」



 いつの間にか開いていたドア。

 まるで気配を感じさせずに動き出した悪逆は、静かにそっと歩み寄る。


 それは、きっと、世界に絶望した少女の前に現れた……救い。

 虚ろな目の少女を救済する、神の導きだ。



「どうもこうもないさ。ぼくらの負けが確定したから、哀愁を漂わせていただけ。キミが来たって事は、ノウィン様から正式な通達があるんだろう?」

「ノウィン?ノウィンなら捕まえた悪徳に最低限の礼節を叩きこむって意気込んでたよ。鞭も使うってさ」


「言っている意味が良く分からないが……、まぁいいさ、ぼくはこれからどうなる?」

「おっとその前に、ラルラーヴァーからどうやって逃げたのかと、なぜ状況を把握しているのか。その理由を教えてくれないかい?」



 興味津々な様子の悪逆は質問を投げかけた。

 気になって仕方が無いと言った雰囲気を醸し出し、ついでに神々しいオーラも纏う。

 そして、一体何なんだよ。っと眉をしかめた悪性は訝しげに口を開いた。



「レジェリクエと同じように、ぼくは世絶の神の因子を持っている。『物質主上(アイテムマイスター)』。これが全ての答えだよ」

「おぉ、唯一神様が世界に顕現する時に重要視する能力だね。特に、物質主上は優先度が高い」


「知っているんだね。物質主上は、この世界に現存する道具に、いつでも無条件で過去最高の力を発揮させる。ぼくはほぼ全ての魔道具を、初見で支配下に置く事が出来るんだ」

「うんうん、ラルラーヴァーが神殺しで結界を強化しようとも、その結界を支配下に置かれては意味が無い。普通に解除されてしまうからね」


「素晴らしい能力だとでも言いたげだね。でも、この神の因子は呪いの様なものだよ。なにせ、全てが最高の結果に収束してしまうんだから」



 悪性の人生が虚無感に苛まれている理由。

 それは……、自分自身が行った行動に達成感が得られないからだ。


 人間は道具を使い、文明を発達させる事でこの大陸の支配者となった。

 その根底にあるのは、他者よりも優れたいという劣等感と好奇心。

 だが、最初から過去最大の結果を出してしまう悪性は、他人を目標にする事も、目標に向かい努力する事もできない。


 神に等しき能力を持つが故の苦悩。

 己を高める事が出来ない悪性には、滅び朽ちる運命しか残されていない。



「ぼくが戦況を把握しているのは、ブルファム王国各地に設置した監視の魔道具を支配しているから。汎用性という一点に置いて、魔王共の特殊能力なんて足元にも及ばないよ」

「扱う魔道具が優れていればいるほど、キミが行使できる能力も強くなっていく。なるほど、それで詰んでいると思った訳だ」


「ぼくが行使できるのは、その魔道具が過去に発揮した事がある力だ。ナイフで大砲を壊せないように、並みの魔道具では天穹空母や帝王枢機は破壊できない。それらを持つレジェリクエやラルラーヴァーには勝てないんだ」

「なるほど、なるほど。キミには二つの物が不足しているみたいだね」



 指を立てて悪い笑みを作った悪逆は、悪性に視線を合わせた。

 その吸い込まれそうな瞳に、虚ろな自分の姿が映っている。

 不思議と目が離せなくなった悪性は、悪逆の言葉を受け入れた。



「不足している物?聞こうじゃないか」

「一つ、それは知識。キミが持ち出してきた天使シリーズ、これらは天魔枢機・エステルという帝王枢機の原型となった機体から建造された超位魔道具だ」


「へぇ……。強力な魔道具だという伝承はあるね。ただそれは、使えればの話だ。ぼくがさっき『ほぼ全ての魔道具を支配下における』と言ったのは、天使シリーズを始めとする一部の魔道具が使えないからだ」

「未覚醒状態の物質主上では、故障した魔道具を使用する事は出来ない。この特性を逆手に取り、故障状態を維持する魔法が掛っているんだろう」


「そんな魔法があるのか。だが、それを知ってどうする?天使シリーズはブルファム王国の秘宝であり、数百年の歴史の中で魔法を解除しようとした者が居たはずだ。だが、一つとして解除されていない」

「簡単には解けないさ。少なく見積もっても魔法十典範を3つ以上使用しているからね」



 帝王枢機や天穹空母、魔王シリーズに匹敵する武器が自分の手の中にある事は分かった。

 だが、行使する為には魔法を解除するしか無く、それの研究をしている時間も残されていない。


 結論として、何の意味もない。

 そう断じた悪性の目を覗きこむのは、愉悦に満ちた悪逆だった。



「注意深く話を聞きたまえよ、悪性。さっきボク()はこう言ったんだ。『未覚醒状態の(・・・・・・)物質主上では、故障した魔道具を使用できない』ってね」

「何が言いたいんだ?」


「くっくっく、ここは指導聖母らしく、テンプレートな悪役を演じてみようかね。ついさっきまで邪神呼ばわりされてたし」

「邪神……?いや、待ってくれ。この世界にある限り、神を名乗る事が許されるのは――!」


「そう。(ボク)こそが、この世界を作りし唯一神。力が欲しいというのなら、ボク()のこの手を取ると良い」


なんと5件目のレビューを頂きました!!

ありがとうございます!!


うぉぉ、執筆意欲が満ち溢れていく……!

ぐるぐるッ!きんぐぅぅーッ!

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