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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第10章「真実の無尽灰塵」

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第74話「瓦解する思惑」

「そうですね、確かにおっしゃる通りです」

「うん?」


「私は世界を指し示し導く聖母。口を閉ざして唯一神・アルタマンユ様が翳す御威光の何が語れますでしょう」

「どうだろうねぇ、口は災いの元とも言うけど?」



 アルタマンユ(邪神に変わる)

 それが大聖母ノウィンが名付けた誹謗中傷であると知っているワルトナは言葉を濁した。

 認識阻害の仮面で隠れている表情は複雑なものであり、その中に僅かな憐憫が混じっている。



 知らぬ事とはいえ、盲目なまでに信仰している神様を邪神呼ばわりか。

 しかも、それを神様に直接言っちゃって苦情が出ていると来たもんだ。

 僕も大概に運がないけど、コイツも相当だよなぁ。



「それに、あなたの言い分も一理あります。私が神殺しを手に入れれば未来永劫、アルタマンユ様が傷つけられる懸念が消失しますから」

「あぁ、一応言っておくけど神殺しは10本もある。一つ手に入れたからと言って、絶対勝利者になれる訳じゃないよ」



 とても深い溜め息を混ぜた警告を発したワルトナの狙いは、悪徳が持つ戦力の考察をする為だ。

 揺るぎない勝利を確信していたとしても、ワルトナは戦いの決着を急いだりしない。

 ましてや……、今回は時間を掛けて戦う事こそが、勝利に直結している。



「そのくらい理解してますよ。ただ、このタイミングで貴方が来た事に思う所があるのです」

「どういうことかな?」


「貴方は能動的に来たのではありませんね?ノウィン様からの指示でしょう?」

「おっと、僕はキミの邪神様からの指示だと言ったはずだがね?」


「崇高なるアルタマンユ様が貴方程度に直接的な神託を下すと?ありえません。ならば、ノウィン様が関与しているはずです」



 いやいや、割と気さくな感じだよ。アルタマンユ様。

 つーか、お前らのグループに在籍してるよ、アルタマンユ様。

 んで、こっちのグループには、神殺しを全部持ってる神ヲ殺セソウジャナイ?タヌキが潜伏しているよ。

 もういいや。どうにでもなーれ。



 脳裏にタヌキが出没し始めたワルトナは思考を打ち切り、真面目に状況を考察した。

 気になるのは、あからさまに神聖な旋律を奏でているパイプオルガン。

 何かあるなと当たりを付けつつ、事態が動くまで静観を選んだ。



「気になるのは、本当にノウィン様が神託を下賜されたのか、です。敬虔な信徒である自律神話教を滅ぼせと仰るなど、ハッキリ言って信用に値しませんが」

「仏の顔も三度までって、眉間に皺を寄せながら言ってたけどねぇ」


「アルタマンユ様は仏ではありません。ならばこそ、回数制限など無く罪をお許しになるのです」

「そうかい。じゃあきっと表情がコロコロ変わる阿修羅かなんかだね。後でしっかり怒られなー」


「そうはならないですよ。この襲撃の首謀者がノウィン様なのは確定的です」

「まぁ、そういう側面もあるかな」


「ですから、貴方を殺害し神殺しを手に入れた後、私達はノウィン様へ強襲戦争を仕掛けます」

「ハッキリ言うよ。絶対に勝てない」


「いえ、それが勝てるのですよ。神殺しと悪性マリグナンシィの力があればね」



 悪性に関する情報は少なく、指導聖母の中でも秘匿性が高い。

 フォスディア家と深い繋がりがある悪徳や大規模な商会を経営している悪才と違い、表立つ行動を起こしていないからだ。



 僕の見立てでは、悪性は内政特化。

 人心掌握術に長けているブルファム第六姫だ。


 噂では、ブルファム姫達は英雄に近しい能力を持っていると言われている。

 だがそれはオールドディーンが撒いた嘘であり、せいぜいランク6の冒険者程度の実力しか無い。


 それなのに、悪性はノウィン様の戦力(ニセタヌキ)を倒しうる力持っている……?

 無理無理。アップルルーンに蹴飛ばされて終わりでしょ。

 だが……。



「悪性ねぇ。もしそうなら、僕は最悪の失態を犯しただろうね。せっかく捕らえたのに目を離すなんてさ」

「ふふ、悪性を捕らえておく事など出来ませんよ。魔道具を使用しているのなら尚更です」


「随分と含みを持たせてくれるねぇ。まぁいい。キミを倒して吐いて貰うとしよう」



 悪性を幽閉している東塔の結界は、シェキナの創造の能力を用いて強化している。

 それを強引に突破する為には神殺しを使うしか無く、悪性が神殺しを持っていない事はノウィンに確認を取っている。


 ここで再び脳裏にタヌキが出没し始めたワルトナは、流石にそれは無いと思考を打ち切った。

 セフィナを守護する立場のゴモラが悪性に力を貸すとは思えないからだ。



「そうですね。私も問答に飽きてきた頃です。戦闘が継続しているあちらも飽きがくる頃でしょう」

「ん、そういえば戦闘音が衰えていない。おかしいね」


「ここは敬虔なる信徒が集まる場所。その祈りは時に、命という概念すら超越するのです」

「なに?」


「メナファス・ファント。無敵殲滅などという大層な肩書きを持っていたとしても、ただの一人も殺せないと言っているのです」



 悪徳の言葉に異常を感じ取ったワルトナは周囲を見やり、自分たちが置かれている状況を理解した。

 派手な戦闘音がしている個所が二つ。

 重歩兵戦術を得意とするメナファスは良いとしても、戦場を駆け回る超高速戦闘が主体のラグナガルムが動けていないのは忌々しき事態だ。


 そして……、積み上がってなければおかしい死屍累々の山が一つもない事に、ワルトナは眉をしかめた。



「レジェリクエが世界核戦争ニュークリアウォーを宣言して以降、自律神話教・世界信徒4億3200万人が貴方達の破滅を願い、祈りを捧げ続けています。そして……、その文言こそが魔力を集める魔法。信徒の祈りと共に集約された魔力は、それぞれの大聖堂へと集約しているのです」

「そういうことか。厄介だね」


「この大聖堂はありとあらゆる魔法を複合している魔道具。当然、救命救急救世クロノクロンに準ずる時間逆光による治癒も行えます」

「じゃあ、僕は4億3200万人分の魔力を使い切らせるまで、お前らを殺し続けないといけない訳だ」



 指導聖母が持つ特権の中に、『国宝級の魔道具』の下賜というものがある。

 肉体の損壊を瞬時に完全回復させる『救命救急救世』や、絶対切断の能力を持つ『切れないナイフ』のような、歴史上の偉人が使用した強力な魔道具を大聖母から与えられているのだ。

 だからこそ、それらの魔道具の力を無尽蔵に使える意味を理解できない指導聖母はいない。


 ワルトナは指導聖母になる前から魔道具を与えられており、

指導聖母になった後で自分だけが特別扱いじゃなかったと知って、ちょっとだけ拗ねた。

 そして、ワルトナが持っているものこそがオリジナルであり、他の指導聖母が持っているのはタヌキ謹製の模造品だと教えて貰ったので誤解は解けている。



「やれやれ、覚悟してきたつもりだったけど、思ってたよりも長期戦になりそうだねぇ」

「貴方は魔王、その罪は到底許されざるものです。何度朽ち果てようとも終わらないこの地獄、八万四千大劫の責め苦を経歴させた後、楽にして差し上げます」


「くっくっく、聖母が吐いて良い言葉じゃないねぇ」



 **********



「ふふ、アルタマンユ様はお許しになられますよ、ふふ……ふふふ、ふふふふふ……」



 雲ひとつない快晴の下、凄惨たる瓦礫の上で転がっている悪徳の目は妄想に捕らわれている。

 寝返りを打つように身を捩るも、20mmのロープで縛られていては動きようが無い。


 そんな、何処からどう見ても敗北している悪徳を、瓦礫の上に座っているワルトナが眺めている。

 指導聖母の名にふさわしい悪い笑みを溢し、これからの展開を想像して更に唇を釣り上げた。



「おーい、こっちも終わったぞ。ワルトナ」

「ん、お帰りメナフ。そしてラグナ~~!」

「わふ!」


「しっかし、戦いすらさせないとはホントいい性格してるぜ」

「僕は戦略破綻だよ。戦う前に勝つのが本懐さ。ねーラグナ!」

「わふ!」



 ラグナガルムを呼び寄せたワルトは、早速、その全身をもふって労った。

 いつの間にか召喚した櫛でブラッシングも行い、美しい毛並みに磨きをかけている。


『自律神話教を壊滅させ、教主である悪徳を捕らえて来なさい』


 そんなノウィンの命令には、そこに至る為の過程が指定されていない。

 となれば、真っ向から戦いを挑む愚行をワルトナがするはずが無いのだ。


 悪徳が祭壇に立った瞬間、ワルトナは真なる覚醒をさせたシェキナで矢を放ち、眉間を討ち抜いた。

 そして……矢に宿した『想像』の力により、悪徳の意識をワルトナが想像した妄想空間に閉じ込めたのだ。



「それにしてもよ、何でコイツはこんなにも楽しげな笑みを溢してんだ?頭に矢が刺さってんだぞ」

「あぁ、今頃は夢の中の僕らを圧倒して、優越感に浸ってるんじゃない?」


「お陰さまでオレ達が雑魚狩りをする時間が十分にあった訳だが……、ちなみに、あとどれくらい夢の中に居るんだ?」

「4億3200万の魔力が尽きるまでだね。おちゃめな僕が自分が負けるストーリーを描くとでも?」


「微塵も思わねぇ。ったく、最近はセフィナが飯食ってるのを眺めるのが唯一の癒しだぜ」

「もれなくタヌキが横に居るのが気に入らないけどねぇ」



 冗談を言い合う二人の周囲に立っているモノは何もない。


 聳え立っていた理律教会も、その信者も。

 大地の上には無残な廃墟と残骸が転がり、塵芥に塗れている。


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