第29話「ロイ・フィートフィルシア」
「もう大丈夫だ。ユニフ。大丈夫だから、そんな哀れむような目で見ないでくれ………」
あれから、動かなくなってしまったロイを抱えて、俺達で立てた方のテントに避難した。
うん。このロイの症状はあれだな、リリンに出会ってしまったがゆえのものだ。
自分の価値観を破壊するような理不尽な目にたて続けに会い、心に深いダメージを負ってしまうという、避けようもない不幸。
そうだな、恐怖症候群とでも名付けようか。
「本当に大丈夫か?無理はしなくても良いんだぜ?ロイ」
「あぁ、正直に言えば堪えてるさ。でも、戦場ではそうも言っていられない。例えば仲間が命を落とした時など、動揺しているようでは指揮官は務まらなくなってしまうからな」
これだけ言うと、ロイは笑って見せた。
痩せ我慢だろうが、それは騎士で有りたいという覚悟を示したのだろう。
「だが、一応聞いておきたいんだが、ユニフ。君はそういった凄い事を隠していないよな?」
「ん?俺ってば、この間まで近所の村に住んでた普通の村民だぜ?そんなもん、有るわけが………………。ごめん、有ったわ」
「有るのか、この際だ!洗いざらい吐いてくれたまえ!」
そうだった、そうだった。忘れるところだった。
俺は色々と有名な英雄『ユルドルード』の息子だったっけ!
なんというか、自分でも言うのが恥ずかしいくらいに超有名人らしいからな。
きっとまた驚くだろう。
さっきまで丸まっていたので、今度は反対に海老反りにでもなるかもしれない。
「実は、俺の親父は、あの有名な『英雄・ユルドルード』なんだ!」
「な、………なん………………………………。なんだ、そうなのか」
「えっ!?」
「いやまあ、凄い事は凄いと思う。が、だってあの全裸事件のユルドルードだろう?」
「くっ、そうらしいけど、英雄なんだぜ!?」
「僕にとっては、すごく強い全裸のおじさん。という認識だからなぁ………」
くそう!思ったほどの反応が得られなかった。
親父!やっぱり親父のこと誇れそうにないよ!
なんだか拍子抜けしてしまったが、まぁ、良いか。
正直、俺も親父のことあんまり良く分からんしな!
俺は今、ホーライ伝説の七巻を読み終えたところで、まだ親父のところまで読み進めていないからね。
「これで、俺に関わる凄い話は何にも無くなったぜ?リリンについてなら一杯あるけどな!」
「………その話は、また後でにしよう。そのかわり、僕の話をしてもいいか?」
ロイはリリンの話題に身震いしつつも、華麗に自分の話をしたいと切り出した。
確かに、何度か気になることを言っていたな。「本当は俺達はロイの身分を知っているんだろう?」とか、「僕の騎士領」とかだ。
「ああ、良いぜ?」
「そうか、では話す。これからする話は、絶対に他言無用にして欲しい。実は僕はここから南に位置するフィートフィルシア領の領主の長男で、時期領主となることが決まっている」
「ほう、凄いじゃないか。そのフィートフィルシア領はどのくらいの大きさなんだ?」
「領地は広く、人口は200万人くらいだ、そして半分は開拓されていない森林地帯でそこで取れる様々な恵みが、領地の主な収入源となっている」
どうやら、ロイは結構な広さの領地を持つ、領主の息子らしい。
言われてみれば高そうな服を着ているし、言葉使いも何処か箔がある。タヌキに怯えていなければだけど。
「ん?だけどさ、ついさっきまで「騎士だ!騎士だ!」って言ってたよな?」
「あぁ、そうだ。我が栄光ある、フィートフィルシア家はブルファム王国に仕える由緒正しき騎士の家系でもあるんだ」
「領主で騎士………か。色々と忙しそうだけど、こんな所に居て良いのか?」
素直に思った疑問を投げ掛けてみる。
ロイは額に手を当て、はははと軽く笑ったあと、「実は全然良くないんだ」ととんでもないことを言い出す。
「実はね、僕は逃げてきたんだ。実家からね」
こんばんわ。青鮫太です!
本日も絶賛、風邪を引いておりますので文字数少なめです。
次回から戻せるように頑張ります!