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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第10章「真実の無尽灰塵」

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第71話「簒奪する思惑」

 天使を模ったステンドグラスから零れる彩光が、錦で飾られた祭壇を照らしている。

 両脇には天と地を繋ぐパイプオルガンが並び、来るべき神の降臨に備えて奏者が立つ。

 そんな祭壇へ万を超える信者が視線を注ぎ、胸の中の高なる高揚を隠そうとしていない。


 ここは、ブルファム王国北東辺境にある大聖堂、『理律教会メロディチャーチ』。

 神の御遣い――、大聖母・悪徳が率いる自律神話教の本拠地だ。



「主上聖母・恩徳フェイヴァ様がご降臨なされます。静謐に」



 仮面を被った少女の良く通る澄んだ声が大聖堂に響き、布切れが擦れる音さえも消滅した。

 それは、集団暗示へ誘う魔法。

 予め掛けられた洗脳による意識改変により、生命活動と同程度の意識として、身動き一つ取る事が許されない。


 それは、本来ならば地獄の様な苦痛だ。

 だが、祭壇へ向けられる表情はどんどんと熱を帯び――、狂おしいまでの羨望の渦中、かつん。っと小さな足音が響いた。



「唯一神・アルタマンユ様を信仰する敬虔なる信徒よ。祈りなさい、安息なる人生を」



 魂を揺らされたと錯覚するほどに整った足音の果て、祭壇の頂点に立った女が囁いた。

 決して大声量で無いその声が、この場に居る全ての人の耳へと語りかける。


 神に祈りを捧げれば、安息なる人生が手に入る。

 神に祈りさえ(・・)捧げていれば、何をしても赦されるのだと。



「遥か空高く、人の身では決して辿りつけない天の果てから、アルタマンユ様は世界を睥睨していらっしゃいます。善も悪もなく、幸せを求めて祈り、行動を起こした敬虔なる信徒を見守っているのです」



 自律神話教、その教義を簡潔に語ってしまうなら『神への責任転嫁』と言い切ってしまって良い。

 神に祈りを捧げている信徒は何をしても赦される。

 たとえ、快楽を求め人を殺めたとしても。


 人間は、誰しもが闇を背負って生きている。

 決して人には話せない心の闇、過去に犯した犯罪、異常な性癖、狂おしい程の独占欲、などなど……、大小の差はあれどそれらを隠して生きているのだ。

 そして、自律神話教はそれを肯定し、自重を壊し、冗長させた。

 支配者である指導聖母・悪徳の意図に沿う形に調整された悪行は、いつしか、このブルファム王国最大の宗教となっている。



「過去、ブルファム王国を滅ぼし掛けた大災厄・希望を費やす冥王竜(ディスペアプルート)。そして、現代の大陸を支配せんとする邪悪なる魔王・レジェリクエ。かの暴虐が手を組んだ事は、信じ難き困難でした」


「だが、神は私達を見捨てなかった」



 フィートフィルシア領壊滅の報、それに続いた澪騎士・ゼットゼロの敗北。

 この二つの知らせを聞いた悪徳は、ブルファム王国に見切りを付けた。


 既にブルファム王国の敗戦は決したと判断し、金銀財宝や宝具を掻き集め、国外逃亡の準備を始めていたのだ。

 だが、その最中に撃したのは……、空を飛行する『深真紅の魔導神』。

 己が理知を超越した存在を視認した瞬間、かの存在こそが唯一神・アルタマンユなのだと信じ切った。



「偉大なる唯一神・アルタマンユ様。長らく隠されていたお姿を現しになれたのは、世界を脅かす魔王へ対抗。御神自らの手で世界からの完全根絶を図るべく、そのお力を振るわれたのです」



 静かだった声に熱を帯びさせ、悪徳が鷹揚に腕を広げた。

 それに合わせ、祭壇を照らしていたライトが一斉にステンドグラスへと向き直る。

 そこに映し出されたのは、深真紅の魔導巨人。

 そして……、セフィナ・リンサベルの愛らしい写真だ。



「強大なるお力を持つアルタマンユ様がご降臨する為には、依り代たる存在が必要となります」


「彼女こそ、神によって導き出された少女セフィナ。世界を導くに相応しい聖導巫女なのです」



 それが世界の秩序であるかのように、悪徳は語る。

 この場に集まった万の上位信徒から数百万の下級信徒へ、そして、大陸の全ての民へ伝えられるは底知れぬ――、願望。



「聖導巫女であるセフィナは、神の導きを民衆へ伝える教主たる私と同等の存在です。巫女と教主、二つの存在がここに並び立った時、神を信奉する我らは新たな幸福を手に入れるのです」



 どんな手段を用いてでも、セフィナを手に入れなさい。

 言外に込められた意味を悟れぬ信者など、この場には居ない。


 部外者である3名でさえ、その言葉を理解している。



「幸福ねぇ、もう十分に好き放題しただろう?キミらに残されているのは降伏だけさ」



 パチン。っとスイッチが切り替わる音がして、並び立っていた信徒の中央に光が差した。

 そこに立っていたのは、眩しい光を纏った純白の聖女。



「……教義中に声を上げる無粋な方がいらっしゃるようですね」

「くっくっく、生憎と僕は神を信奉しちゃいない。キミの演説なんかにゃ、なーんの価値も感じないさ」



 再びパチンと音がして、祭壇へ続く道があつらえられた。

 それは、倒れ伏す信徒で出来た、光り輝く『苦難の道(ヴィア・ドロローサ)』。

 信徒の背に刺さった光旗の矢が、その行く末にあるのが破滅だと示している。



「やぁ、悪徳ヴァナラティ。顔色が優れないけど、気分でも悪いのかな?」

「……そこの粗忽者を自律神話教から、いえ、世界から破門なさい」



 静謐を押しつけられていた信徒の表情が変わり、一斉に暴虐が滲み出た。

 王国最大宗教の上位信徒、そこに在籍する事を許されるのは何らかの功績を上げる事が出来た者、すなわち、高位の冒険者や魔法学者、騎士だ。


 打ち鳴らされるのは、剣を抜く音と魔法の詠唱。

 続いて響いたのは、全てを埋め尽くす程の……飽和した弾丸の撃鉄音。



「なんだこりゃ、随分と質が下がったもんだな。吐き溜めのゴミの方がマシに見えるぜ」



 静かに倒れ伏す信徒で出来た苦難の道。

 その両側に追従するように、カーペットが深紅色に染められた。


 そしてその上で、腕や足を抑えた前衛の冒険者が転がり回る。

 骨が砕けた痛みに抗えず、剣を持ち続ける余裕は残されていない。

 辛うじて視線を向ける事に成功した者が、そこに立つ聖母の衣装を羽織った銃士を見て唸った。



「メナファス・ファント……!」

「あぁ、後ろが倒れたのはオレの仕業じゃねぇぞ。なお、オレなんかよりもソイツの方が殲滅の名に相応しい」


「なっ……!?」



 振り返った恰幅の良い男が驚愕の声を上げた。

 人間の構造上、絶対に視界に入るはずの自身の腕。

 それが、遥か後方で宙を舞っていた。



「ぐぎゃぁあああああああ!?」



 聞くに堪えない絶叫の羅列。

 一斉に奏でられた悲鳴は、まるで意思がある様に伝播していく。

 いや、実際に意思ある者によって、この惨劇は引き起こされていた。


 大聖堂の内部が悲鳴で満たされた後、漆黒の影が聖女の横に並び立った。

 流麗に流れる黒銀の毛並み。

 その中で唯一赤く染まった爪が、存在感を際立出せている。



「少々と度が過ぎていますね、大罪を果たした愚民として語り継ぐ必要がありそうです。名を教えてくださいますか?」

「僕の名前は聖女・誠愛シンシア。この大陸最大の聖女様だよ!」


「誠愛……、良い噂を聞きませんね」

「じゃあこう名乗ろうかな。僕こそが心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)・参謀、戦略破綻だ」


「殺しなさいッ!!」



 冷静に様子を見ていた信徒達も、悪徳の命令を聞いて牙を剥いた。


『生命活動と同程度の優先事項として、目の前の害敵を殺す』


 そして、己が持ちうる最大の殺害方法を行使するべく、一斉に動き始めた。



「あぁ、愛する僕の同胞達も紹介しておこう。こちらが心無き魔人達の統括者・無敵殲滅」

「ご紹介に預かりました、無敵殲滅です。って、ご丁寧な挨拶なんてするわきゃねぇだろ。ガキ殺して喜ぶ変態共にゃ鉛玉で十分だ」


「そして、こちらが僕の可愛い可愛いペットのラグナガルム。可愛い過ぎて毎日もふっちゃうくらいさ」

「……わふ!」



 苦難の道を悠々と踏みしめ進む三名へ、あらゆる暴虐が叩きつけられていく。

 だが、それらは一度たりとも意味を成し得ていない。


 メナファスが右の空間、ラグナガルムが左の空間。

 それぞれが守る領域に侵入したモノ(・・)は全て、大地の上で転がっている。



「この大陸を統治する聖女レジュメアスからの言伝だ。『本日よりこの国の宗教は『魔王信教』しか認めないわぁ。頭を垂れて余達を敬いなさぁい』だそうだよ」

「くっくっく、面白い冗談だよな。オレは好きだぜ」

「わふん」


「さぁメナフ、ラグナ。僕の要望に答えておくれ。……全員の頭を地面に擦りつけさせ、一人残らず僕ら『心無き魔人達の統括者』を信奉させろ」



 静かな口調の後に続いたのは、静かにその場を離れる足音だ。

 そして再び、聞くに堪えない叫びが木霊する。



「バックグラウンドミュージックはこれくらいで良いかな。さぁ、僕らはゆっくり話をしようじゃないか、悪徳」

「戦略破綻、いえ、ラルラーヴァー。なぜこのような事を」



 ギリリと奥歯を噛みしめ、悪徳が声を発した。

 その問い掛けに含まれているのは、100%純粋な敵意だ。



「さっきも言ったはずだけど。お前らが言う所の邪神様が、キミらの破滅をお望みだよ」



 そして、本当に面倒くさそうにワルトナが答えた。

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