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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第10章「真実の無尽灰塵」

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第61話「王城進軍⑥」

「……ユニクっ!?」



 そこにあるはずの姿が何処にも無く、リリンサの顔に動揺が広がる。

 自分達が置かれている状況は圧倒的優位であり、不測の事態など起こり様がない。

 そんな自分の認識が粉々に砕かれ、残ったのは頬から落ちる――、焦りだ。



 ……信じられない。

 本当に悪質の言うとおりに救援が来たというの?


 確かに私は戦闘に意識を向けていた。

 だけど、自分を中心とした周囲2Kmを魔王の左腕で監視している。

 索敵を潜り抜けられるはずが……。



「率直に聞く。ユニクを何処にやった?」

「あらあら、最初から言っているではありませんか。シルバーフォックス社が救援に駆けつけると」


「……セブンジードはともかく、レジェまで負けたというの?そんな事が……」

「ありますわ。だって現に、ユニクルフィンは消されましたもの」



 リリンサが露骨に溢した『敗因』。

 それを見過ごさないからこそ、悪質は準・指導聖母の席に座っている。


 即座にユニクルフィンの『行方不明』を『安否不明』という否定的なイメージで固定。

『消された』という柔らかい言葉を選んで使った事で、その最終判断をリリンサの思考に任せ、惑わせる。

 そしてそれは、見事に成功していた。



 信じたくない。

 だけど、全ての辻褄が合ってしまっている。


 レジェだって、ユニクを簡単に取れる人物が敵だというのなら、成す術なく敗北してもおかしくない。

 だってユニクは、近接戦闘に関しては私を凌駕している。

 それなのに、音も無く、魔王に気取られもせず、ユニクを取れるという事は……、相手は英雄の域にいる。

 そんな人物の正体が、シルバーフォックス社だというの?



「……それじゃ、私達の負け――」

「それは違うぞ!!リリンちゃん!!」



 戦意と武器を手放しそうになったリリンサへ、ぶにょんぶにょんの上から張り詰めた声が飛ぶ。

 それは、力の限りに叫ぶロイの声だ。



「ユニフは無事だ!少なくとも僕の目の前で殺されてはいない!!」

「……ロイ?」


「5人の集団と会話した後、自分の意思で空間に入って行ったッ!!僕にリリンちゃんへ事情を説明してくれと言い残してだッ!!」

「……そう。ありがと、ロイ。貴方を連れてきて本当に良かった」



 ロイがユニクルフィンを連れて行かれたという話を直ぐにしなかったのは、戦闘の邪魔をしない為だ。

 実際、一手の攻防が生死を分ける瞬間にそんな話をされれば動揺し、取り返しのつかない事態になっていた可能性は高い。

 だがそれでも、リリンサは教えて欲しかったと唇を噛む。



 私の認識を掻い潜ったのにもかかわらず、ロイには姿を見せた。

 それは、私達に敵対するつもりはないという意思表示なのか、それとも、私の動揺を誘う為の罠か。


 いや、後者は無い。

 動揺なんて誘わなくても、姿を消して近づき私の首にナイフでも突き立てればいい。

 それをしないという事は、少なくとも私達を生かしておく意思が少なからずあるということ。


 ――、戦いに介入して来ないのだから、悪質とは無関係。

 転じて、シルバーフォックス社では無い。

 レジェも負けていないし、私達の優位は変わらない。


 ――、英雄パパと同等の魔法技術を持っている。

 ラルラーヴァー側の英雄の陣営が、ユニクを害する理由は無い。

 ならば第三勢力?ローレライもしくはホーライ?


 ――、それ以外は不明。敵意も殺意も目的も分からない。

 ただ、このタイミングで仕掛けてきた事は煩わしい。

 ユニクを奪還した後で、出来るなら文句を付けたいと思う。


 さて、その為に、まずは……。



 高速で思考を回したリリンサは、一片の曇りもない満面の笑みを溢した。

 それは、湧きだした黒い感情が凝縮した……悪意。

 この不愉快なゴミをどう始末しようかという、歪んだ好奇心の表れだ。



「笑ってますの?この状況で?」

「だって楽しいから。」


「……楽しい?」

「自分の愚かさや、この状況を起こした人に対する煩わしさ。ラルラーヴァーへの怒り。それを全部、全て、貴方にぶつけても良いと判断した。」


「ラルラーヴァーへの怒り?ちょっと待ちなさい、何を言って――」

「《大規模個人魔導パーソナルソーサリィ絶対魔皇空間レインワールド》」



 あらゆる事態に対応するべく使用されるこの力は、本来のリリンサが持っていないはず魔法や知識を呼び覚ます。

 それは、バッファの魔法に近しいというだけの未知なる現象だ。


 リリンサは、何故こんな事が出来るのかを理解しておらず、心の奥に従って、高ぶる感情のままに解き放っているだけに過ぎない。

 そして、この瞬間に使用されようとしているのは、5つもの魔王シリーズを体へと同調させる力だ。


 魔王シリーズに備わっている10の能力。


『負荷』『統率』

『自律』『可変』

『解析』『保持』

『循環』『増幅』

『支援』『防御』


 これらが重なり合い空前絶後の魔道具として、リリンサを包み込む。

絶対魔皇空間レインワールド』により、体の一部だと誤認させられた魔王シリーズがリリンサに直接的な影響を及ぼし始めたのだ。

 掻き立てられた圧倒的な暴虐とその意思。

 悪質が周囲に展開している『短絡憤怒アングリーハンプティ』など比較にならない悪意がそこにある。


 パリン。っと何かが弾ける音がして、リリンサの雰囲気が一変した。

 目に見えて何かが変わった訳ではない。

 だが、明確に何かが変わったのだと、悪質の粟立った肌が告げる。



「大丈夫。殺しはしないし、ちゃんとお家に返してあげる。……貴方の四肢というお土産を添えて。」

「ひっ!?」



 ガァンっと叩きつけられた魔王の脊椎尾が砕いたのは、悪質が事前に張っていた第九守護天使だ。

 振るわれた尾に同じく第九守護天使を纏わせているからこそ、魔法同士が対消滅し、そのまま悪質の体を吹き飛ばす。

 白黒に点滅する世界の中、悪質が見たのは――、空を埋め尽くす魔法陣の群れ。



「《五十重奏魔法連クィンクァゲテット×五十重奏魔法連キュービクル×五十重奏魔法連マジック超高層雷放電ガンマレイバースト》」



 12万5千の魔法陣が狙うのは、悪質が叩きつけられた『周囲一帯』だ。

 直接的な被弾ではない。

 リリンサが狙ったのは、周囲を破壊する事で空気を圧縮し、人体機能に異常をきたさせる事だった。


 直系100m程の大地が消滅し、お椀状に抉り取られた。

 その中へ落ちて行く悪質の体に力は無く、ただ風に揺れている。



「とどめ。《悪なる私が命じる。無期に渡り、苦痛を与え、拘束せよ》」



 無造作に振るわれた魔王の右腕。

 それがリリンサの腕から離れ、罪人を張り付ける為の磔刑台となって空を駆けていく。


 リリンサは悪質との戦いで手を抜いていた訳ではない。

 ただ、心無き魔人達の統括者時代に教えられた作戦を思い出し、律儀に履行していたのだ。



 リリン、相手のボスと戦う時は、じっくり焦らず丁寧によぉ。

 奇襲で簡単に終わらせてはダメぇ。格の違いを分からせなさぁい。


 そうそう、リリンの役目は示威行為。

 たっぷり凄い所を見せつけて、戦闘力を自慢するんだ。

 その方が、僕やレジェが動きやすいからね。


 身体の正中線から左右に15cm。ここさえ壊さなければ即死しないわ。

 他は、……取れちゃっても何とかなるもの。


 やられる前にやるってのも忘れんなよ?

 コイツらの教えを守るのは、お前に被害が無い状況の時だけだ。



「最初からこうしておけば良かった。思えば、セフィナやワルトナを奪われている時点で被害が出ている」



 チラリと視線を向けた先で、魔王の右腕が悪質を取り込んだ。

 鋭い数百の刃がその身を貫こうと蠢き――、バギリ。っとその刃の殆どが吹き飛ぶ。

 悪質が何らかの魔法を行使し、刃の浸食を喰い止めたのだ。



「まだ、終わりまッ……!」

「終われ。本当にウザい。」



 追加で叩きこまれた魔王の脊椎尾が、悪質の腰に付いていた魔王の靭帯翼(ポーチ)を砕いた。


 絶対魔皇空間を使用しているリリンサは、魔王シリーズの全ての能力を統合させている。

 振るわれた魔王の脊椎尾に宿っているのは、『負荷』『統率』『増幅』。

 物理的な力を魔王の靭帯翼の破壊へと特化させ、一切の抵抗を許さずに砕いて徴収したのだ。


 魔王シリーズを失った悪質は成す術なく吹き飛ばされ、椀状になっている大地の側面へと向かって行く。

 そして、激突する瞬間――、拘束しろと命令を受けている魔王の右腕が割り込んで、悪質の体を貫いた。



「私が戻るまで苦しんでればいい」

「ひぐぅ……っうぁぁ!!」


「貴方がいう援軍が私達と戦えば、それだけ戻ってくるまでの時間が長くなる。そうならないと良いね」



 人間は、生命活動に支障をきたすほどの傷を負うと、痛みが軽減する。

 それをカミナから聞き及んでいるリリンサは、魔王の右腕が苦痛を与えている限り致命傷に成りえないと知っている。


 そしてリリンサは悪質の姿を見て蔑み、興味を手放した。

 チラリと向けた視線の先に居るのは、震え上がるロイだ。



「ロイ。ユニクが消えたのは何処?教えて」

「あ、あぁ……。その石のあるあたりだ。空間の裂け目が出来て、その中に入って行った」


「《悪なる私が命じる。空間を解析して》」



 聞きたい事を聞き終えたリリンサは、全ての魔王シリーズを使って解析を試みた。

 そして、僅かな空間の亀裂が無数にある事を知覚し、ギリリと奥歯を噛む。



「これはゴモラにもやられた手段。数え切れない空間の裂け目を虱潰しに探すしか……」



 空間転移をした痕跡は完全に消す事は出来ない。

 ならば、同じような痕跡を無数に作りだして偽装してしまえばいい。


 それが有効な手である事は、リリンサもアプリコットから聞き及んで知っていた。

 だからこそ、焦りが強くなっていく。

 魔王シリーズで識別できない以上、次に頼るのは自分の勘しか無いのだ。



「……あの裂け目だ」



 それは、確証のない確信。

 リリンサの目に留まったその裂け目は、隣と比べて何らかの差がある訳ではない。

 けれど、心の奥が告げている。


 あの奥に居るのが……、敵なのだと。



「《 大規模個人魔導(パーソナルソーサリィ)魔法みたいな助言(レイン・ワード)》」



 心の奥に従うまま、リリンサは大規模個人魔導を切り替えた。

 魔王シリーズをとの結びつきを解いて消滅させ、純粋な魔導師とて最適化された状態へと互換する。


 色濃い緑を宿すその眼に宿っているのは、リリンサの知らぬ世界モノ

 リリンサが今まで経験する事のなかった、知識、技術、経験、感情、物語。

 それら人類の『叡智』と『夢』と『願い』が宿る眼が見据えるものは――、



「やぁ、キミなら入って来れると思っていたよ」



 空間に星丈―ルナを突き刺して、無造作に抉じ開けた。

 そんなリリンサを出迎えたのは、指を組んで椅子に座する根暗な男。


 そして……、張り詰めた顔でグラムを構えているユニクルフィンの姿だ。

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