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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第10章「真実の無尽灰塵」

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第58話「王城進軍③」

「う”ぎるあ~~ん!めっちゃ美味しいし!一気に食べれちゃうし!!」



 腹ペコ大魔王に施した封印が、一気に食い尽くされようとしている。

 5分くらいは持って欲しいな……という俺の願望など知らぬとばかりに、2枚重ねで食われていく。


 って、いい加減にしろッ!!

 そのチョコクッキー、大魔王陛下から貰った高級な奴だぞ!?

 もう少し味わって食えッ!!



「ったく。……で、何度も言うが降参しとけよ、悪質。あの魔王共が牙を剥いたら大変だぞ?」

「なんか凄く心配されていますわね?どういうつもりか知りませんが、指導聖母たる私に舌戦を仕掛けるなんて百年早いですわ」



 いや、純粋に心配しているだけなんだけど。

 正直な話、武力で解決して良いのなら既に戦いは終わってる。


 セフィナを奪還したい俺達だが、その為に誰かを犠牲にするなんて論外だ。

 もちろん、相手は指導聖母であり、リリンや俺の命を狙っているのは理解している。

 だが、窮地に陥っても居ないのに平気で人を傷つけられるようになったら、いよいよ相手と同じになってしまうだろう。


 俺が目指す完全勝利。それは『無傷でセフィナの奪還』。

 その『無傷で』には、敵も含まれている。



「貴方達は私の……、いえ、ブルファム王国の敵ですわ。自分の都合で侵略を仕掛けておきながら降伏を強要するなど、恥を知りなさい」

「そう言えば、俺達って侵略者だったっけな。忘れてたぜ!」


「白々しい。フィルシアの領主は上手く取り込んだようですが、私は無理ですわよ」



 上手く取り込んではいないな。

 むしろ、かなり酷い光景だったぞ。

 今だって、ぶにょんぶにょんに取り込まれてる。



「どーしてもダメか?ぶっちゃけ、その顔だと戦いにくいんだが」

「あら?テトラフィーアと恋仲だというのは本当だったんですの?ふぅん。なんなら、私が代わりに寵愛してあげても宜しくてよ?」


「断る。俺はまだ生きていたい」



 悪質が余計な事を口走った瞬間、2枚重ねのクッキーが粉々に噛み砕かれた。

 ザクザクザクッっと木端微塵に粉砕して飲み下し、俺の袖を引っ張った大魔王さまが「ユニク、転がして良い?アイツの頭」とジト目を向けてくる。


 残るチョコクッキー、あと8枚。

 時間にして3分も持たない。



「しょうがねーなぁ」

「つっ!?殺っき……」



 やる気のない俺の声に反応を示し、悪質は自らの修道服をめくり上げた。

 露わになった艶めかしい太腿をぐるっと囲っているのは、魔法陣が彫られたダガーナイフの群れ。

 ぱっと見た感じ12本。

 左右からそれぞれ1っ本ずつ引き抜いて投擲し、戦いの火蓋が切って落とされる。



「そい」

「くっ!」



 飛んできたダガーナイフの片方を指で挟んで奪い取り、もう片方へと叩き付ける。

 このダガーナイフに魔法陣が彫られている以上、どんな効果を及ぼしてくるか分かったもんじゃない。

 なら、ただ回避するだけじゃなく、原形を留めない程に破壊しておくのが定石だ。


 激突して砕けた刀身から興味を手放し、俺は一歩、前に出る。

 身体能力に任せた跳躍。

 今の俺ならば、5mの距離など障害になり得ない。



「ひっ!?」



 肉薄した俺に悪質は怯え、そして、その目の奥には静かな殺意が宿っている。

 もし、俺の読みが正しければ、彼女は攻め込まれた時に真骨頂を発揮するカウンタータイプ。

 それを確かめる為に、常人では目で追えず、達人相手では遅すぎる絶妙な速度で拳を繰り出してみる。

 そして……、伸びゆく俺の腕に、予想通りに悪質の腕が絡み付いた。



「《光導闘法・虹蛇天締クアトル》」



 俺の肘から先が絡み付かれ、骨を砕かんと締めつけられた。

 そして関節の逆側へと折り曲げられそうになり……、力任せに元に戻す。

 今度は本物の恐怖を瞳に宿し、悪質は上擦った声をあげた。



「なっ、なんて馬鹿力っ!?」

「俺の最近の訓練法は、グラムの重力制御を封印した状態での素振りだ。良い筋肉が付くんだぜ?」



 鍛えれば鍛えるほど、俺の体が洗練されていく。

 見た目上の変化はあまりない。

 だが、俺の体を構成する筋繊維が、肉から鋼に置き換わっていくような感覚が全身に広がっていくのだ。


 無理やりに腕をブン回して振りほどき、逃げようとした悪質の顔を右手で掴む。

 手を引き剥がそうともがく悪質は足からナイフを引き抜いて振りかざし――、俺は、ガラ空きになった腹にボディーブローを打ち込んだ。



「かふっ……」

「痛いだろうが我慢しろ。ドリルをご馳走になるよりかマシだぞ」


「がはっ!かふ、かっ、ぉえ……」

「そろそろ実力差を分かれよ。お前のレベル、7万しかないだろ」



 悪質はテトラフィーア大臣に良く似た顔で嗚咽を漏らし、零れた唾液を袖で拭う。

 ホントやるせない光景だ。

 俺を好きだと言った顔で、そんな痴態を見せるんじゃねぇよ。


 圧倒的な戦力差の誇示。

 だが、それを突きつけられた悪質の目には、未だに闘志が残っている。



「なぁ、お前らはラルラーヴァーに命令されてるだけで、俺達に直接的な恨みはないよな?悪い様にはしないから、レジェンダリアの軍門に下っとけ」

「命令など、されてませんわよっ……。それに、ラルヴァは貴方達の仲間でしょうに」


「……なに?」

「誰にも命令されてませんわ。……誰にも、私の悲願は穢させません。《光導闘法、解除》」



 ……ラルラーヴァーは俺達の仲間?

 何の話をしてるんだ?


 俺の提案が気に入らなかったのか、悪質は根底にある物を掻き混ぜるような返答をしてきた。

 忌々しいとばかりに唾を吐き、苦々しいとばかりに唇を強く引き絞る。

 そして、羽織っていた修道服、そのファスナーの留め金に指を掛けて引き下ろした。


 彼岸花をそのまま服にしたかの様な、真紅の武術着ドレス。

 女性らしさを兼ね揃えたそれは、今まで纏っていた怪しい雰囲気とは正反対なものだ。



「ん?真っ白な法衣から真っ赤な武道着にチェンジか。で、何が変わるんだ?」

「心構えでしてよ」


「……心構え?」

「指導聖母としての私、フォスディア武術継承者としての私、そのどちらも私ですが、きっと私の真髄は他の所にあるんですわ」


「言っている意味が良く分からないぞ?」



 言葉に込められた意味が分からず、ついでに、しっかりと吟味している時間もない。

 あっ、やべやべ、クッキー残り2枚。

 横の眷族ペットに関しちゃ食い終って戦利品を漁り始めてるし……、あんまり乱暴な事をしたくなかったが、さっさと気絶させた方が良さそうだ。



「まぁ、いいや。一旦、寝ておーーん?」

「切り札を一つ、切りますわ」



 遠く遠く、視線の彼方。

 小さく灯った赤い光に、嫌な感覚が芽生える。


 今まで気が付かなかったそれらは、いつの間にか無数に湧きだして、空を目指している。

 収束していく光が空で描くのは、無数の翼羽根で構成された……メビウスの輪。

 俺は、噴き出す汗を気に掛ける余裕もなく、それに恐怖を抱いた。



「城下町を囲む6つの関所。そこに仕掛けた魔法陣から地脈を通じて魔力を吸い上げていましたの。この魔道具は起動に時間が掛るのが欠点ですわね」

「なるほど、さっきまでのは煽りは時間稼ぎか」


「ちなみに着替えたのは、せめて服くらいは武術家の格好をしていたいからですの。聖母の服のまま魔法で貴方達に勝利してしまっては、フォスディア家の復興とは言えませんもの」



 ザザ……。っと空が波立ち、空間が歪む。

 メビウスの輪の向こうに見えるのは、あらゆる魔法を内包する世界『第四魔法次元ワールドフォース』。

 本来、隔たれているはずの世界を繋げたのは……空に舞う、魔王の翼。



「率直に聞くぞ。あれは魔王シリーズだな?」

「ご明察ですわ。伝承にて語られた魔王シリーズ、その中でも最大最強。名を『魔王の靭帯翼(デモン・リグメント)』と言いますわ」


「……。だよなー」



 リリンが無言で、俺の袖を引っ張っている。

 その表情は満面の笑顔。

 そしてもう、チョコクッキーは残っていない。


 ……。

 …………。

 ………………超・魔・王・覚・醒。



「ユニク、最後の魔王シリーズが出てきた。私がやる。」

「お、おう……。お手柔らかにな?」


「柔らかくなるまでボコボコにすればいいの?分かった。本気出す」



 やべぇ、何もわかっちゃいねぇぞ、この大魔王ッ!!

 目が平均的に据わってやがるッッ!!

 俺はどっちの味方をすればいいんだよ!?!?


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