第54話「大魔王後援会⑥」
「あの子の中に眠っているのは……、世界で初めて出現した特異者。同時に現れるはずがない『二人目の人間の皇』というべき存在だ」
真摯に厳格に、一切の遊びを捨てたローレライの声がレジェリクエ達を引き締めさせた。
二人は持っていたティーカップをテーブルに置き、真っ直ぐに視線を向ける。
そして、今から語られる話の全てを理解するべく、最初に疑問を口にした。
「質問をしても良いかしら?そもそも、人間には皇種が居ないはず。聞いた事がないわ」
「居ないって事にされてるね。だけど、普通に考えて居ない方がおかしい。皇が率いている種族とそうでない種族では明確な差がある。それこそ、人間自体が弱小種族になっちゃたら他の皇によって侵略されてるよ」
「権能なんて力がある以上、そうなるのが摂理よね」
「そんな訳で人間にも皇種は居る。そして……現在の人間の皇種はユルドルードじゃない」
語られ始めた、大前提。
それは予定通りであり、そして予想外だった。
レジェリクエは人間の皇がいるのならば、それはユルドルードだと思っていた。
ユルドルードは少なくとも、英雄見習い二人と狼の皇種ラグナガルムを従えている。
リリンサに聞き及んだ話では、白銀比やホロビノ、冥王竜などとも友好を築いていた。
だからこそ、ユルドルードの正体は人間の皇種であるというのは、レジェリクエとテトラフィーアの中では共通認識だ。
そして、それを否定された二人の中に動揺が広がっていく。
「ユルドルードは皇種では無いの?公的な記録だけでも皇種を20体以上も倒しているのに?」
「皇種だよ。でも、人間の皇種じゃない。……ユルドさんは『人外の皇種』。文字通りの意味で人間を辞め、たった二人だけの『人外種』の皇として君臨してる」
「人間を辞めた?それに……」
「そう、ユルドルードの息子であるユニくんも人外種であって、厳密に言えば人間じゃない。英雄として覚醒しているから眷皇種って事にもなる」
想い焦がれている相手が人間では無い。
そんな事を告げられたテトラフィーアは、僅かに震えた指を無理やり握って鎮めた。
そして、静かに口を開く。
「ユニフィン様は人間ですわ。温かい血を通わせた人間ですの。化け物みたいな言い方はやめてくださいまし」
「ふざけてるのはキミの方だね。人外になる事を選んだユルドさんの決意を、お前程度が値踏みするんじゃないよ」
ローレライは、ただ言葉を返しただけだ。
だが、それを向けられたテトラフィーアは威圧され、喉を握り潰されたかのように声を発する事が出来なくなった。
慌ててフォローに入ったレジェリクエによって取りなされ、短く呼吸を繰り返す。
「強い意志も無く、人間を辞めるなんて出来るものか。王にすら成れていないお姫様じゃ気付けないかもしれないけどね」
「けほ……、いえ、失言でしたわ。訂正して謝罪します。言葉のイメージだけで判断してしまいましたわ」
「人外の皇種。それはユルドさん自らが名乗っている名称だ。まあ、人間とほぼ変わらない体組織なわけだし、どうせなら英雄種とかにすれば良かったのにと、おねーさんも思ってはいるよ」
テトラフィーアの言葉に想う事があったローレライは、僅かに柔らかい笑みを溢して誤魔化した。
ローレライは、世間一般がユルドルードに向けている負のイメージを快く思っていない。
だが、普段は押さえている不快感を発露してしまったのは、大切な妹と再会して気持ちが緩んでいるからだと戒めた。
「ユルドルードは神の情報端末を使って『人外の皇』となった。そうする必要があったからだ」
「皇種になれば更に神の理から脱却できると言っていたわね。なら……。」
「蟲量大数・ヴィクティム。世界最強の皇を倒すべく、ユルドさんとアプリコットさんは二人ともが皇種になったんだ」
ユルドルードが人間以外の皇種を選んだ理由、それは既に人間の皇種の席が埋まっていたからだ。
それを理解しているレジェリクエは、別の名前が上がる事に対して思う事は無い。
ただ、その名が知っている者となれば、話は別だ。
「リリンの実父が、ここで出てくるのねぇ」
「アプリコットさんは名実ともに人類最強の魔導師だった。人間の皇種がこれほど似合う人はいないよ」
「まさか、ユルドルードよりも強いっていうの?」
「幼かったおねーさんは、ユルドさんとアプリコットさんとじじぃと鬼ごっこで遊びました。半日弄ばれて、触れたのはユルドさんだけだったよ」
「大人げないわぁ。児童虐待で訴えてやるぅ」
「それは難しいかも。アイツら素手で、おねーさんはレーヴァテイン覚醒させてたし」
レーヴァテインは神をも騙す疑心と進化の剣だ。
特性上、鬼ごっことは相性が良く、能力を駆使すれば相手を罠にかける事など容易い。
その筈なのに触れる事すら叶わなかったのは、単純な技量が圧倒的に足りていないからだ。
「ロゥ姉様を子供扱いできる力を持っていてなお、蟲量大数には届かないのね」
「絶望的な戦力差だよ。その配下たる王蟲兵ですら、大災害を引き起こした超常の怪物だからね」
「ユルドルード達が皇種になったのは、そんな相手に戦いを挑む為だった。ではなぜ、戦いを挑んだというの?」
「生き残る為さ」
「……生き残る為?」
「リリンサちゃんの中にいる『あの子』、そしてアプリコットさん。この二人は天命根樹の毒を受けた。記憶と存在を蝕む毒をね」
記憶と存在。
白銀比と交流があり、ついさっきサーティーズにその力を振り翳されたレジェリクエ達は、それが如何に強力な毒だったのかを悟った。
人格は記憶によって形成されている。
それが蝕まれ失われるというのなら、世界最強の毒と言っても過言ではない。
「天命根樹の種子弾丸を受け、死に瀕したあの子を治療したのはアプリコットさんだ。だが、その対処を間違えた。既に弾丸を受けてしまっていたアプリコットさんは毒に気付けず、肉体の損壊だけを元に戻しただけだった」
「その種子が最初に汚染して破壊するのは、毒を受けている可能性へ至る為の記憶なのね」
「そうだよ。巧妙に隠れながら蝕み、記憶と人格を吸い上げて魔力に混ぜ、世界に還元させ続ける。そして一気に人格を破壊するんだ」
「性質が悪いわ。皇種ってのが、如何に大災厄なのかが分かるわね」
「魔力量が少ない子供の方が先に異常をきたす。アプリコットさんは、何日も目覚めないあの子を見て、初めて過ちに気が付いたんだ」
伏せられていた存在が詳らかにされていく。
これは、事後にユルドルードやホーライから語られた話を聞いたローレライが憶測した、答え。
「体に異常が無い状態で、あの子は一日の半分も起きていられなくなった。どれだけ手を尽くそうと改善せず、アプリコットさんは皇種・白銀比を頼ったんだ」
「アプリコットの妻は大聖母ノウィン。その伝手を使って調べられないのなら、超常の力に頼るしかないわ」
「記憶と人格と魔力。つまり魂を破壊されたあの子は、もう、長くは生きられない。すでに破壊されてしまった記憶を取り戻す事は出来ないから」
「魂を……。でも、何からの方法を使って一時的に治癒させた」
「禁じ手とも言える手段だし、あの子にしかできない裏技でもあった。だからこそ、同じ症状に侵されていたアプリコットさんは治療が出来なかった」
「なるほどそれで、アプリコットでは無くユルドルードが世界を巡る事になるのね」
ローレライ、リリンサやユニクルフィン、テトラフィーアの話を総合すると、アプリコットが旅に参加していないのはおかしい。
だがもしも、アプリコット自体が病に侵され身軽に動けない立場だったとしたら、別行動していたのも納得だ。
そこまで考えを巡らせ、レジェリクエは思考を打ち切る。
「あの子にのみ許された、たったひとつの延命処置。それは……アプリコットさんとリリンサちゃんの記憶を移植し、失われた魂を補強する事だ」
「サーティーズの……、いえ、それ以上の力を白銀比様が使ったのね。でもなぜ?その方法なら、アプリコットも誰かの記憶を移植すれば延命できたはず」
「記憶が失われた状態で、他者の意思を混ぜ込む。そんな事をすれば人格が希薄になって崩壊するよ。どっちみち死ぬしかない」
「ではなぜ……?」
「リリンちゃんの記憶だけは反発しない。……あの子とリリンちゃんは、同じ時に生まれ、同じ記憶を持ち、同じ意思を共有したはずだから」
ローレライによって語られた憶測。
それを聞いたテトラフィーアは息を飲んだ。
自分の中にあった、リリンサへの想い。
彼女との触れ合いの中で覚える懐かしさの正体を知り、一筋の涙を流す。
「リリンと……、それって……」
「そこから先は口にしてはダメだ。封印されたあの子が世界に露見すれば、再び存在を忘却させる魔法が発動しかねない」
「色々と危ない橋を渡っているようね。なるほどそれで、ロゥ姉様は全て憶測だと言っているのね?」
「そういうこと。ワルトナちゃんが事情を把握できていないのは、それが許されていないからだよ」
世界から忘却され、その記憶を取り戻す事さえ許されない。
それがどれほど残酷な事なのかを、10年の時を待ち続けたレジェリクエは理解している。
レジェリクエは涙ぐむテトラフィーアへハンカチを渡しつつ、沈んだ気分を向上させる為、自分もティーカップを手に取った。
そして、空っぽのそれを見て殺意が湧く。
「それでロゥ姉様。あの子が皇種の資格を有していたというのは、どういう事かしら?」
「単純な話でさ、あの子はアプリコットさんの記憶も移植されている。延命措置を長くする為にね」
「なるほど、知識と記憶が失われていくのなら、その量を増やしてしまえばいいのね。でも、アプリコットだって30年程度しか生きていないはず。4倍程度の記憶しか無いじゃない?」
「そう、それこそがあの子が仮初の皇種としての資格を持つ理由。アプリコットさんは皇種になった時に得た『人間の皇種』の知識を、あの子に移植したんだ」
リリンサと同じ時を生きたあの子は、当時8歳だ。
30代であるアプリコットの記憶だけを移植しても、その4倍程度しか保たない。
「皇種に覚醒すると、歴代の皇種の記憶が手に入る。じじぃ曰く、それぞれの生涯を綴った自伝が保管されている本棚を引き継ぐようなものだってさ」
「王が執務室を引き継ぐのと一緒ね」
「だから、皇に覚醒するという事は、皇種が生まれて以降の種族知識の全てを得る事と等しい。それが非常に強力だって事は、レジィなら分かるでしょ?」
「分かるわ。例えば、歴代の人間の皇が覚醒させた神殺し、その覚醒体の性能を調べる事が出来る。失敗した今だからこそ分かるわぁ。ちょうズルぅい」
壱切合を染め尽す戒具の覚醒に失敗したレジェリクエは、恥じらいを隠しもせず頬を膨ました。
昔懐かしいその光景に心の底から笑顔を溢したローレライは、ポンポンとレジェリクエの頭を撫でながら慰める。
そして、話を締めくくる為に口を開いた。
「99%側でありながら、皇種の知識を継承した稀有な存在。その戦闘力は言うに及ばず、おねーさんすら脅かす。それがあの子の正体だ」
「ちなみに、皇種になると特殊能力とかに目覚めたりするの?」
「アプリコットさんはそんなの持ってなかったよ。権能ってのは、本来、神が直接力を与えないと発露しない。ただし、その生物が本来持ってる能力……、神の因子に影響を及ぼす可能性は否定しないね」
「なら、あの子が世絶の神の因子を持っていた場合、皇種の知識が噛み合わさっておかしな事になってる可能性がある訳ねぇ」
レジェリクエを悩ます、アホの子シスターズ。
その姉妹にボスキャラがいる可能性を垣間見て、レジェリクエは言葉を失った。
そして、幾つかの考察を脳内で並べ、その手に負え無さを確信し……ぽいっと匙を投げる。
「そんな物騒なのが封印されてるのも、よりにもよってアホの子ぉ。というか、リリンの妙な勘の良さとか、たぶんそっから出てる気がするぅ」
「にゃはは、封印されてるから容易には出て来ないはずだけど、変な感じもするんだよねぇ。なんかこう、嘘くさいというか、触れてはいけない禁忌感がビシビシと……」
「アホの子シスターズって、目を離すと尻尾が生えたり、ロボットを召喚する様になるわぁ」
「あー、タヌキが関与してんのか。つーかコイツ、マジで意味分かんないな……、明らかに体よりも多い量のリンゴゼリーを食ってるんだが?」
話を円滑に進める為に事前に用意していたリンゴゼリー・バケツタワーが崩壊している。
ローレライの絶対視束が捉えたのは、一滴も残すこと無く綺麗に舐め取られたバケツ10個だ。
どんだけリンゴ好きなんだよ、この化物。
そんなツッコミを入れながら、思考の隅から追い出した。
「それにしても、リリンもテトラもワルトナも、みんなあの子の事が大好きだったのに忘れてしまったのね。正直に言って、悲しい結末だわ」
「……結末じゃないとしたら?」
いくつかの質問を終え、事情の擦り合わせを終えたレジェリクエが溢した本音。
それにローレライが反応した。
まるでここからが本題であるかのように、鋭い視線を二人に向ける。
「あぁ、ワルトナの願いは聞いているわ。あの子を取り戻す手段があるんでしょ?」
「いや、それすらも通過点に過ぎないね」
「えっ?」
尊敬する友人が取り組んでいる、物語じみた夢。
だが、それが叶ってなお終わりではないと告げられ、レジェリクエ達は凍りついた。
悲痛な人生を歩んだ、友人たち。
報われて欲しいと願うからこそ、レジェリクエは言葉を詰まらせる。
「蟲量大数に勝利できた時の報酬は『世界最強の解毒薬』。そして、賭けられたチップはそれぞれの人生だった」
「それぞれの人生……?あの子とアプリコットは亡くなったのだから、意味自体は通るけれど」
「違うよ。二人とも蟲量大数によって殺されていない。四人全員が生還してる」
「それはなぜ?世界最強というのならば、圧倒的な力を振りかざしたはず」
「人間の皇・アプリコット。人外の皇・ユルドルード。そして、ユニくんとあの子。この四人は蟲量大数に挑み、戦い、敗れ、願いは叶わなかった。そして……蟲量大数はその中に娯楽を見い出した」
「娯楽……?」
「『我が輩とここまで戦えた者は数少ない。那由他、不可思議、極楽天狐、あとは……那由他の眷族が2匹くらいか?ふむ、面白い。生かしてやる。その代わり再び我が輩と戦え、ユルドルード』」
「それは、ワルトナが言っていた……?」
「『ヴィクティム・ゲーム』。最長で10年の準備期間の後、ユルドさん達は蟲量大数と再び戦う事になる」
全ての話が繋がり、そして、それが他人事では無いと理解した。
レジェリクエの脳裏に浮かんだのは、、歴史書に載ってる『大罪』と呼ばれた滅亡期だ。
『怒火に沈む四界』
『星屑を齧る暴食』
『渇望した命脈』
たった一つでさえ、人類の数を数分の一にしてしまう大災害。
そして、それらを起こした元凶を率いる事が出来る『世界最強』と、人類は戦う運命にある。
抗う術の無い、確実な終焉。
その刻限まで、あと2年を切っている。
「ユルドさんに提示されたルールは一つだけ。『10年、待ってやる。その間に我が輩に勝つ方法を考えるが良い』。10年の準備期間、それをユルドさんは義務付けられた」
「そんな……、8年前の約束なら、もう時間が無いじゃない」
「その10年間、蟲量大数は何もしない。配下の王蟲兵達に命令する事でさえもね。だからこそ、ユルドさんは己を鍛えながら王蟲兵の痕跡を探している。少しでも蟲量大数の戦力を削ぐ為に」
「ユルドルードは王蟲兵と戦ったの?」
「バレーリナっていう地域が虫に汚染された事件があったでしょ?あれは、王蟲兵が引き起こしたものだよ」
「ミナチル……、カミナの女医が関与したって事件ね。なら、対抗はできている、ただし……」
歴史に名を連ねた王蟲兵の上位者に、絶対に勝てる保証はない。
ユルドルードが敗北し、二人の『人類の皇』を欠いた状態で蟲量大数と戦う可能性も同じだけあるはずだ。
レジェリクエが先に続く言葉を発しなかったのは、口にすると実現してしまうと思ったからだ。
そして、更にその先を恐れたからでもある。
「ロゥ姉様は……」
「おねーさんはね、ユルドさんが死んだ時の後継者として、じじぃ育てられた。でも、妖怪の思い通りにはさせないよ」
「……行くのね。ユルドルードの元に」
「レジィ、おねーさんはユルドさんと共に蟲を倒す。この剣に封印されているカツボウゼイも含めてね。その為には力が必要で、それはこの大陸では手に入らない」
「……うん」
「だから先に行って待ってるよ。平和になった世界で、英雄・レジィに会えるのを楽しみにしてる」
ゴシゴシと強めに頭を撫で、ローレライは席を立った。
それは、別れの挨拶にしては簡素すぎる行いだ。
そして、レジェリクエは思いっきりローレライを抱き締めた後、すぐに離れた。
もう一度会うという意味を込めた姉妹の挨拶は、それで充分だ。
「ロゥ姉様、待ってなくて良いよ」
「ん」
「だって、すぐに追い越すから」
「にゃはは!生意気な事を言うようになったじゃん!それでこそ、おねーさん自慢の妹だ!!」
「でも気を付けて。あっちの大陸は理不尽の塊だって聞いたわ」
「へー、どのくらい理不尽なん?」
「カツテナイタヌキロボと30分くらい戦えないと話にならない、って」
「……。そりゃ大変だ。気を引き締めていくとするよ!」
名残惜しそうに、もう一度だけレジェリクエの頭を撫でてからローレライは歩きだした。
全く振り返ろうとせず、一定のリズムで離れていく。
そして、それに向かって手を伸ばしたレジェリクエが走りだそうとし――。
「最後に一つ、可愛い妹におねーさんからの忠告だ」
「えっ、」
「ブルファム王国に住む『プロジア・フォルトマン』。彼こそが現在の人間の皇。その席をアプリコットさんから奪ってそこにいる」
一気に与えられた情報へ、レジェリクエの意識が持って行かれた。
そして、気が付いた時には既に、ローレライの後ろ姿は何処にもなくて。
「……最後に不意打ちで抱き締めようと思ったのに。ズルイわ、ロゥ姉様」
頬を膨らませて拗ねた妹は、小さく笑ってからテーブルの上に落ちていたフォークを握る。
そして、「コイツを始末すれば英雄になれるのよね?」と、満足して昼寝をしている害獣へ右腕を振り下ろした。
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「もういいのか?ローレライ」
「ずっと話してたら名残惜しくなっちゃうからさ。それに、レジィはもう自分の足で人生を歩んでる。これ以上は過保護なんだよ、きっとね」
木陰に隠れていたミオは、ローレライの寂しげな横顔を見て見ぬふりをした。
そして、空気を読まずに、これからの予定を尋ねる。
「で、どうする?すぐに別の大陸に向かうのか?」
「いいや、ちょっち気になる事が出来た。レジィが戦争に勝つのを見届けたら温泉卿に行きたいね」
「温泉卿?リリンのか?」
「そうそう。うん、あのサチナちゃんだっけ?あの子ヤバイね。おねーさんが知っている限りじゃ、ぶっちぎりで最強だもん」
「サチナがか?白銀比様だというなら話は分かるが」
「だから白銀比様ってのにも会いたいね。実は会ったこと無いんだよねー。で、ミオにお願いがあるんだけど」
「レジェリクエにお願いしなかったのは、私の伝手を利用するつもりだったからか……、貸し一つだぞ?」
「にゃはは!友達って良いね!」
木陰に消えていく二人の後ろ姿に迷いはない。
憂いも想いも解きほどいた今、その足取りはとても軽いものだ。




