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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第10章「真実の無尽灰塵」

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第53話「大魔王後援会⑤」

「《……手放した憧れ、見果てた夢。知るのが怖いと知りながら、慕う心が積っていく……》」



 短剣へと姿を変えた壱切合を染め尽す戒具とレジェリクエが、お互いの魔力を同調させていく。


 レジェリクエは恐れていた。

 想い憧れた姉・ローレライが消息を絶って10年の時が過ぎようとしている。

 どれだけ実績を積みあげようと、どれだけ思い焦がれようと、その後ろ姿さえ見る事が叶わなかった。


 王位を継承してから打ち立てた数々の実績。

 それが優れた物で有ればある程、音沙汰がない現実が、冷酷なまでにレジェリクエを追い詰めた。

 やがて……、ローレライは世界から見放されたという空想すら抱き、吐息に諦めが混じり始める。


 だが、それは……終わったのだ。



「《燃え尽きる前に、萌え出ずるように、今を生きよう。憧れを宿し、見果てた夢を取り戻そう。覚醒せよ――、》」



 連戦を経たレジェリクエの魔力は底を尽きかけている。

 だが、魂こそが魔力である以上、魔力とは気力と同意義となるのだ。


 翳していた壱切合を染め尽す戒具の刀身が白亜へと置き変わり、伸長していく。

 それは、ローレライが持っている剣と同じ姿。

 形状、重量、性質に至るまで同一な……犯神懐疑・レーヴァテインの完全模倣。

 あらゆる武器へと変貌する壱切合を染め尽す戒具は、ついに神の領域へと踏み込み……、


 刀身の中心から先が、崩れて消えた。



「ロゥ姉様、剣がっ!?」

「うん、残念。失敗だね」



 パキパキパキと残滓を発音するだけのガラクタ。

 それが、レジェリクエが所持している壱切合を染め尽す戒具の成れの果てだ。

 そして、悲痛なまでの落胆をレジェリクエは溢した。



「どうして……、ここまでロゥ姉様にお膳立てして貰ってなお、余では届かないというの……?」

「にゃはは、失敗したもんはしょうがない。それにね……、今となっちゃ、これで良かったとおねーさんは安心している」



 失敗を肯定され、レジェリクエの落胆は困惑へ置き換えられた。

 レジェリクエが覚醒させる為に発揮した魔力の根源は、ローレライに認められたいという承認欲求が中心だったからだ。



 失敗して……良かった?

 それじゃ、ロゥ姉様は何も期待していない?

 10年の時が経てなお、自力で1%側に辿り付けていない()では、もう、触れる事すら叶わないの――。



 混乱するレジェリクエの頭を撫で、ローレライは頬笑んだ。

 失敗をするたびに慰めあった姉妹の関係は、どれだけ時が経とうとも色褪せていない。



「レジィ。なぜ失敗したのか、分かるかな?」

「分からない。どうしてなの?」


「超越者に至る為に最も必要な資格は?」

「……誰にも負けないという、強い意志」


「にゃは、正解!」



 言外に、『失敗した理由は意志の弱さ』だと告げられたレジェリクエは、それを真っ向から否定した。

 ローレライへ向ける憧れや想いは誰にも負けない。

 それは、レジェリクエの根源だからだ。



「この強い憧れは誰にも負けないわ。例え皇種であったとしても引き裂けない程に」

「いいや、その想いは負けたんだよ。レジィ自身にね」


「私自身に……?」

「レジィが作り損ねた覚醒体はレーヴァテインにそっくりだった。恐らく、おねーさんと同じ英雄になりたいと願ったんじゃないかな?」



 想いの中心を射抜かれ、レジェリクエは言葉が詰まる。

 姉に見透かされた事よりも、それの何が悪いのかが分からないのだ。



「おねーさんを大切に想い、追い付こうとするその心は尊いものだ。10年も待たせちゃったんだから当然だね」

「それなら……!」


「でもね、おねーさんの知ってるレジィはもっと向上心がある子だったよ。いつか必ず追い越して見せると言って、いつも頬を膨らませていたよね」



 優しく両側の頬を持ち上げられ、レジェリクエは童心へ帰った。

 その目はローレライを見据え、真っ直ぐ上へ向いている。


 ……いつからだっただろう。

 ロゥ姉様を追い越すという目標を下方修正してしまったのは。

 私は、余になり、そして目を曇らせていたのね。

 愚王になるなと言われていたのに、これじゃ、見習いにすら成れなくて当然だわ。



「ごめんなさい、ロゥ姉様。私は愚王だったわ」

「にゃっはは!世界はとっても広いって、おねーさんですら最近知ったくらいだ。ちょっとくらい愚かでも問題ないさ」


「ロゥ姉様ですら知らない事があったの?」

「メカ鳶色鳥とタヌキロボは始めて見たねー」



 英雄ですら知りえないとか、ホントどうなってんのよ、タヌキィ。

 愚かな自分への恥じらいをタヌキへの怒りで塗り潰しつつ、レジェリクエは息を整えた。


 既に魔力は底を付き、欠乏症の症状が出始めた。

 ふらついた身体を何とか押し留めて椅子に座り、栄養補給をしようと自分の皿へと視線を向ける。

 そして、ケーキが忽然と消えているのを見て殺意が湧いた。



「陛下、こちらをどうぞですわ」

「ありがとね、テトラ。ふぅ、少しだけ気持ちが落ち着いたわ」



 テトラフィーアが用意していたバナナパイを味わいながら、レジェリクエは考察を始めた。

 だが、既に答えは分かっている。

 ローレライが言うとおり、濁っていた自分自身が原因だったのだ。



「誰にも負けないという強い意志。なら、『ロゥ姉様と同じ』では足りなかったのね」

「もし、レジィの心が一片の曇りなく『ローレライと同じ』を求めていたら覚醒できただろうね」


「だけど、そんな物は役には立たない。私が知っているだけのレーヴァテインなんて劣化コピーだもの」



 レジェリクエが知るローレライのレーヴァテインは、研ぎ澄まされていない。

 真なる覚醒をしているとはいえ、使い方や能力に荒さが目立つものであり、ホーライにも敗北している。


 レジェリクエは無意識の内に『ローレライの超克』を願っていた。

 だからこそ心の中で想いがぶつかり合い、覚醒に失敗したのだ。



「それに実は、今は非常に覚醒しにくい状態なんだよ。既に神殺しを覚醒させているユニくんやリリンサちゃん、ワルトナちゃんでも間違いなく失敗するだろうね」

「そうなの?」


「にゃはは、騙す様な事をしてごめんね。でも、この失敗は必要な事だとおねーさんは思っている。……答え合わせをしようか」



 声の質を明るい物へと切り替えて仕切り直し、ローレライもティーカップを手に取った。

 次々とバケツに頭を突っ込んでいるブラックホール(タヌキ)には目もくれず、優雅に紅茶を嗜んでいる。



「レジィが失敗した直接的な理由は、思い描いた意思が揺らいだから。おねーさんと同じになりたいのか、超えたいのか、ハッキリしなかったのが原因だね」

「そうね。今ですら迷っているもの、自分がどうなりたいのか」


「だけどね、もし意思を強く持てていたとしても覚醒させるのは難しい。壱切合を染め尽す戒具は神殺しではないからだ」

「神殺しとは違う?神の情報端子を融合させれば同等になるのではないの?」


「エネルギー的な意味では同等さ。でも、神殺しは使用者の意思を読み取り覚醒体を形成する機能がある。一方、千海山シリーズにはそれが無いから、全て自力で創造しなければならないんだ」



 神殺しは使用者の素質によって、複数ある能力から中心にするものを自動で決める。

 ある程度の振り幅があるとはいえ、覚醒させれば、世界に干渉しうる力が確実に手に入る様に調整されているのだ。


 だが、試作機である千海山シリーズは性能を尖らせている分、使用者をサポートする能力が乏しい。

 最初から神の情報端末が搭載されていないからこそ、万能とは程遠い能力となっている。



「それに、今は神の情報端末を融合させたばかりで不安定でさ。ぶっちゃけ、おねーさんが覚醒させようとしても失敗するかもしんないね!にゃは!」

「……そんなのやらせないで欲しいんだけどぉ。凄く落ち込みそうになったのよぉ」


「ごめんごめん!でもこれで、おねーさん的には面白い展開になった。さぁ、レジィとそのお友達5人。誰が最初に英雄になるかな?」



 友達5人……、リリンサ、ワルトナ、カミナ、メナファス、既に超越者のユニクルフィンを除くのならば、あと一人はテトラフィーアだろうか?

 そんな当たりを付けたレジェリクエは、その意味を鑑みて戦慄した。


 既に英雄見習いのワルトナと、色んなモノに取り憑かれているアホの子姉は、まぁいい。

 だが、カミナとメナファスまで英雄の資格を有していると聞いて黙っていられなかった。



「ちょっと待って、カミナやメナファスまで英雄の資格を持っているの?」

「カミナちゃんって、実はおねーさんよりも神の因子の数が多い。だけど、世絶の神の因子を持っていない。もし持っていたら、おねーさんの最大のライバルになっていたね。切っ掛けさえあれば直ぐに英雄になるよ」


「あの才能の塊めぇ。ずっとタヌキと遊んでれば良い……、あ、切っ掛け(タヌキィ)……。」

「メナファスちゃんは、うん、普通に一般人枠。だけどおねーさんの姉弟子なんだってさ。戦闘の基礎をホーライに叩きこまれ、ついこないだはユルドさんの訓練を受けたらしい。真っ当な人類としては最強格だよ」


「メナファスまで……?そんな、それじゃ私が一番遅れてるっていうのぉ……?」

「それはどうかな?おねーさんと同じく、レジィは世絶の神の因子を二つ持っている。将来性は一番さ」



 レジェリクエ、カミナ、メナファス。

 この三人が同列であるならば、英雄レースで最下位なのは語るまでもない事だ。


 直ぐに自分の立ち位置を理解したレジェリクエは、先行している集団へ意識を向ける。

 既に超越者になっているユニクルフィン、英雄見習いのワルトナと続き……、リリンサの得体の知れなさに危機感を抱く。



「ねぇ、ユニクルフィンとワルトナ、リリンの話が聞きたいわ。私はどれくらい出遅れてるの?」

「そうだね……、ユニくんは蟲量大数との戦いで英雄に至っている。が、記憶を無くし戦闘力はノーマルタヌキに馬鹿にされるレベルまで落ちた」


「レベル100だったそうね。それはどうして?レベル逆行は起こりえない筈じゃないの?」

「超越者になると特典として二つのレベル錯誤が出来るようになる。『99999(カンスト)』固定と『端数表示』だ」


「端数表示……?まさか!!」

「そう、当時のユニくんのレベルは10万と100。可能な限りレベルを上げさせないように頑張った、おねーさんの努力の賜物だよ!」



 100100というレベル表示の末端5桁を切り取り表示する。

 それは、日常生活を円滑に行うべく古より伝えられてきた工夫だ。


 超越者の事を英雄と呼んで神格化した歴史は、500年程しかない。

『人外』や『化物』、『妖怪』などと呼ばれ恐れられていた時間の方が圧倒的に長く、それを正した人物こそ『初代英雄・ホーライ』だ。



「次にワルトナちゃんだけど……、この子は凄く頑張り屋さんだね。素質は人並み、だけど志はおねーさんよりもずっと強い」

「だから、神殺しも容易に覚醒させられるのね」


「そこに至る為の努力がある事を忘れてはいけないよ。結局、彼女が最も英雄に近いのは間違いないし、おねーさんも応援したいと思ってる」



 ローレライとワルトナは二律相反の存在だ。

 あらゆる才能に恵まれ、神殺しですら感覚で覚醒させたローレライと、持たざるが故に理知でそれを成したワルトナ。

 一定以上の尊敬があるからこそ、ローレライはワルトナが1%側に入ってくるのを楽しみにしている。



「そしてリリンサちゃんだけど……、この子はかなりややこしい。改変された世界に抵触するからって、ユルドさんも教えてくれなかったし」

「改変された世界?」


「それはワルトナちゃんの方が詳しいだろうね。だから、おねーさんが今からするのは、ワルトナちゃんですら知らないであろう憶測(・・)



 言葉を区切り含みを持たせ、ローレライは悪い笑みを浮かべた。

 それを告げた時の妹の反応を想い浮かべ、僅かなイタズラ心が芽生えているのだ。



「リリンの秘密……。本人はおろか、事情を把握しているワルトナですら知らないこと……。ふふ、とっても気になるわぁ」

「にゃっはは。おねーさんも直接この目で見た時は驚いたよ。持ってたウナギの串焼きで餌付けを試みちゃうくらいには動揺したし」


「あはぁ、ハムスターになったでしょぉ?」

「なったなった。何この子!?って二重に驚いたね!」



 二人揃ってリリンサの姿を思い浮かべ、自然な笑みを溢した。

 そして、その横で話を聞いていたテトラフィーアやゴモラ、跪いているグオですら頬が緩む。


 そんな和やかな雰囲気の中、ローレライは静かに口を開いた。



「レジィのお友達の中で一番ヤバいのはリリンサちゃんだ。あれ、暴走したら、おねーさんでも手を焼くね」

「リリンがロゥ姉様を脅かすの?なにそれ……」


「あの子の中に眠っているのは……、世界で初めて出現した特異者。同時に現れるはずがない『二人目の人間の皇』というべき存在だ」


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