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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第10章「真実の無尽灰塵」

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第44話「銀幕の終局④」

「《わたしといっしょにあーそびーましょ》」



 鬱蒼と生い茂る森に、無邪気な声が響いた。

 それは、幼子が友達に語りかけるような、遊びの誘い。

 偉大なる始原の皇種が神に願った『児戯』、その開始の合図だ。



「……遊びねぇ。真面目に戦う気が無いという事かしら?」

「いいえ違いますよ。私達、狐という種の願いは『遊び』なのです。遊技、享楽、児戯。おおよそ遊びと名の付く事象を求め、遊びにしか本気になれないのです」



 ゆらりと、サーティーズの姿が霞み掛った。


 サーティーズが移動したのではない。

 周囲一体に黒い霧が発生し、静かに、だが確実に空気に混じって侵食していく。

 そのあまりの魔力濃度に、サーティーズの肌がビクンと震えた。



「遥か昔、始原の皇種達は神に願いを捧げ、権能という宿願を叶える為の力を得ました」

「ドラゴンの命の権能や、蟲量大数の力の権能などが有名よねぇ」


「そして、偉大なる始原の皇、極楽天狐・金枝玉葉ぎんしぎょくよう様……私のおじい様は、人間の子らと無限に戯れるべく、この『時の権能』を願いました」

「へぇ、初耳ねぇ。ワルトナに教えてあげたら喜びそう」


「金枝玉葉様は、母様にこう仰ったそうです。『すべては止まった世界の出来事、夢幻の彼方に消える泡沫の戯れ。時を止めるのも、記憶を留めるのも、あらゆるしがらみを持つ人間と憂いなく遊ぶ為だ』と」



 後世に名を得る始原の皇種、『極楽天狐・金枝玉葉ぎんしぎょくよう

 皇種となる前で既に百余年の時を生きた天狐は、幾千と繰り返された別れに悲しみを覚えた。


 人間は、自分よりも遥かに短い時間しか遊ぶ事が出来ない。

 様々なしがらみを持ち、生活を制約され、やがて、大人になれば自分の事すらも忘れていく。


 あぁ……、「また明日」と言って別れ、二度と会えていないあの子は元気だろうか。

 山を降りて会いに行き、その子に再び会えたとしても……、忘れているか、もしくは化物だと石を投げつけられる。


 そんな記憶を繰り返したある日、不審な男ノワルに連れられて行った先で、天狐は『神』に出会った。



「時の権能は金枝玉葉様が考えた遊びを行う際に、最も強く力を発揮するのです」

「なるほどぉ、それぞれの願いが基礎になってるのなら納得だわぁ」


「『かくれんぼう』『こおり鬼』『だるまさんが転んだ』『かごめかごめ』『缶蹴り』。おおよそ子供が遊ぶ児戯ですが……、このルールに則った攻撃は、とっても強力ですよ」

「今からが本気って事なのねぇ。わざわざ教えてくれるなんて親切ぅ?」


「ルールを教えるという制約も遊びの内なんですよ。もっとも、これから行う遊びは……、『遊猟』ですけど」



 サーティーズが振るっている権能『時の遊郭』。

 この力を完全に行使するには権能の説明を行い、ルールのある『遊び』として確立しなければならない。


 なぜ、こんな制約があるのか。

 その理由を知っている金枝玉葉はもう既にこの世におらず、想い図る事しかできない。



「さて、最初はどんな遊びをしましょうか……、んー、まずは『こおり鬼』であそびーましょ」



 ビクビクと震える肌から危機を感じたナインアリアは、直感的にレジェリクエの腕を引っ張った。

 刹那、その場所にサーティーズの腕が突き立てられる。

 そして……、レジェリクエが身代わりとして投げたゲロ鳥勲章が捕らえられ……、氷塊と成って地面に落ちた。



「はわわ、外れですか。よく反応出来ましたね?」

「それ、さっき見てるであります。陛下、サティちゃんの手に触れると凍らされるでありますよ」



 一手で状況を把握したレジェリクエは壱切合を染め尽す戎具(ドッペルシェプター)を地面に突き刺して薙ぎ、巻き上げた土で壁を作った。

 そして、物理的な隔たりは、僅かながらも思考に費やせる時間を産む。



 今の攻撃、余は剣で受けるつもりでいた。

 だけど受けていたら終わっていたわ。ナインアリアには感謝しなくちゃねぇ。


 魔法を通じて伝えられたテトラの見立てでは、サーティーズは嘘をついていない。

 さっきの氷結は『こおり鬼』のルールに従った事象ということになる。


『こおり鬼』は、触れた者を『こおり』として拘束し、全滅させる遊び。

 触れられた者は問答無用でこおりになる一方、鬼では無いプレイヤーがこおりに触れれば溶かす事が出来る。

 なるほど……、そういう事ねぇ。



「こおり鬼とか、とっても懐かしいわぁ」

「あれ?陛下もやったことあるんでありますか?意外でありますね」


「もちろんあるわよぉ。ちょっと自信があるくらいねぇ。……この遊びのルールが分かったわ。一度しか言わないから一回で覚えてねぇ」

「もう分かったんでありますか!?」


「サーティーズが触れた物体は一瞬で凍結する。その凍結に抵抗することは出来ず、生物も無機物も同様に凍結する」

「えっと、えっと」


「凍らせられる範囲は、手首で触れた物体のすべて。付随している装備品もまとめて『ナインアリア』として凍結されるから拳を受けてはだめよぉ」

「ガード不能でありますね?ちなみに何で分かったんであります?」


「メダルに付いているリボンまで凍ったからよぉ。本来、メダルとリボンは別物。それが触れられていないのに同時に凍結したという事は、サーティーズの認識に依存してるってこと」



 こおり鬼には肌を直接触らなくてはならない、というルールは存在せず、衣服に触れられてもアウトになる。

 だからこそ、サーティーズが凍らせる対象だと認識した物は、一回の接触で全て同時に凍るのだ。



「なるほど、さっぱり分からないであります。が、要は手に触れなければ良いでありますね?」

「飲み込みが良くて大変よろしい」



 レジェリクエが女王へ至った根源、それは『遊び』を探して街へ向かい、ローレライに出会った事がきっかけだ。

 それ故に、レジェリクエは子供めいた遊びに詳しい。

 お互いに始めてやる遊びを二人で探し求め、満足するまで遊び倒していたからだ。



「そして、こおり鬼の勝利条件はプレイヤー全てを凍結させる事。おそらく、余達3人がすべて凍結されると、何らかの法則が働いて覆せない敗北になるわ」

「これは自慢でありますが、自分、鬼ごっこやこおり鬼でテトラちゃんに捕まったこと無いであります!!」



 ビキリ。と土壁に亀裂が入り、その隙間に氷が奔る。

 サーティーズは砕いた壁の間を氷結させ、それを融解する事で一気に崩壊させたのだ。



「あら頼もしいわねぇ。それじゃ、ゲームスタートと行きましょうか。《第九識天使ケルヴィム》」



 崩れていく土壁の先にある金色の八尾に視線を固定しながら、レジェリクエはナインアリアと意識の共有をした。


 今まで第九識天使を発動していなかったのは、ナインアリアの脳内を通して意識改革が感染してしまう可能性を考慮していたから。

 だが、感情を読み取れるテトラフィーアが注意深くサーティーズを観察し、その憂いを否定。

 そうして、ナインアリアと意識を繋ぎ……、真の意味でレジェリクエ小隊が結成された。



「自分と遊んで欲しいでありますッ!サティちゃんッ!!」

「いいですよ。負けても恨みっこなしです」



 一気に距離を詰めて疾駆するナインアリアは、ゆったりと構えているサーティーズに真正面から挑発を繰り出す。

 その狙いは、ひたすら相手の攻撃を回避し、隙をついて強力な一発を叩きこむカウンター戦法だ。

 その回避は流麗で、見るもの全てを圧倒する。



「……だいぶ動きが良いですね、ナインアリアさん?一回でも私に触れられたらお終いなのに怖くないんですか?」

「そんなつもりは更々無いでありますので」


「凄い自信ですね?」

「全部の動きを把握しているでありますよ。自分の肌とテトラちゃんの耳でッ!!」



 突如として加速したナインアリアがサーティーズのボディブローを紙一重で回避し、逆に拳を突き刺した。

 その予知めいた動きに、呻き声の中へ驚愕が混じる。



 また、殴られました。一体どういう事でしょうか?

 私はナインアリアさんの記憶を覗き、先読みして動いています。

 視線が向いている先に手を配置すれば勝ちなのですから、とても簡単な遊戯です。


 が、現実として私の攻撃は回避され、一方的に殴られるばかり。

 もう少し深く記憶を探――、



「ねぇ、余も仲間に入れて欲しいわぁ」



 意識の埒外から放たれた言葉が、サーティーズの魂を揺らした。

 それはレジェリクエが持つ世絶の神の因子『支配声域ドミニチュアリー』による口撃。

 相手と自分の関係性や大前提を無視し、純粋な言葉のみを伝えるこの神の因子は、身構えるという心の防御を無効化する。


 憎愛の感情を持つ生物は、言葉を交わし合う前に相手の価値を見定めている。

 そして、自分にとって害だと判断した場合、無意識に相手の言葉を拒絶するのだ。


 だが、レジェリクエの声は感情の揺らぎを起こさせず、意識の奥深くに浸透する。

 仲間に入れて欲しいとお願いされれば、遊びを求める本能に従い受け入れるしかない。



「ありがとぉ、仲間に入れてくれてぇ」

「本当に世絶の神の因子は厄介ですねッ!」



 言葉で揺さぶりを掛けられ、気を緩まされたサーティーズにレジェリクエが肉薄する。

 だが、先程と違い、今度は攻守が逆転していた。

 カウンターを狙うのではなく、レジェリクエの双剣はサーティーズの腕へ向けられている。



「こおりとった!!」

「こおりとーけた!」



 サーティーズの手が壱切合を染め尽す戎具(ドッペルシェプター)に触れた刹那、その刀身が瞬きの間に氷結し、一瞬で融解した。

 絶対であるはずの能力が攻略され、おもわずサーティーズは息を飲む。

 そして、レジェリクエは深い笑みを溢した。



「あはぁ。読み通りぃ」

「意味が分かりません。なぜ身体が凍らないんですか?」


「簡単な話よぉ。剣が貴方に触れている時だけ手を離しているのぉ」



 語られた仕掛け、それは理屈の通った暴挙だった。


 レジェリクエは剣がサーティーズに触れる瞬間に手を離し、サーティーズから剣が離れた瞬間に持ち直している。

 それはまるで、大道芸のナイフジャグリング。

 そしてそれこそが、こおり鬼攻略の鍵だ。


 こおり鬼には、こおりになった物に触れれば溶かせるというルールがある。

 だからこそ、一度ナイフを手放してサーティーズの認識外に逃げ、凍ったナイフに触れて元通りにし、事実上の無効を実現させたのだ。



「双剣を投げ剣として使うなんて……、貴方も大概に器用ですねッ!!」

「お手玉とかも得意よぉ。というか、余のテクニックを味わったんだから知ってるでしょぉ?」


「すぐにそっちへ話を振るのやめて貰えます!?」

「これも大人の遊びだと思うんだけどぉ」



 激突と回収を繰り返す双剣。

 それを扱うレジェリクエに呼吸の乱れは無く、表情には余裕すら浮かべている。


 レジェリクエが目指した自分の完成系。

 それは魔導師では無い。

 ロゥ姉様の隣に立つ事の出来る、魔法剣士パラディンだ。


 剣を持って前線に立つの王がどれほど愚かなのかは、充分に理解している。

 だがそれでも、レジェリクエが欲したのは前衛で戦える技術。

 王として間違っていようとも、この意思に間違いは無いと信念が認めたのだ。



「凍結に周囲の空気を巻き込んでいるせいで剣が吹き飛ばず、容易に回収できるわぁ。凍った仲間を取り戻すのが、こおり鬼の醍醐味よねぇ」



 こおり鬼は、触れさえすれば防御魔法を無視して凍結できるという一撃必殺スキルだ。

 だからこそ、正攻法で破られた事どころか、仲間を助けようと触れられたのすら皆無だった経験がサーティーズの脳裏に浮かぶ。

 そして、「これはダメですね」と、早々に見切りを付けた。



「もう飽きちゃいました。だから次は……、『缶蹴り』であーそびましょ」



 眩い光を発しながら、サーティーズの足元に光の筒が出現した。


『缶蹴り』

 それは、缶を蹴りにやってくる敵を視認し、名前を宣言して缶を踏む事で捕らえる遊び。

 こおり鬼とは違い、相手を捕らえる際に触れる必要は無く、ただ目視して缶を踏むだけで良い。



「レジェリクエ、ナインアリア、みーつけ……」



 そして、レジェリクエ達はサーティーズの目の前に位置し、既に足は缶の上空へと迫っている。

 二人ともが攻撃を繰り出した直後であり、対応するには時間が足りない。


 勝利を確信したサーティーズはニヤリと笑って、足に力を込めた。

 勢いよく振り下ろされた足が踏みにじったもの、それは……大地だ。



「はわわっ!?!?」



 カァン!っと甲高い音を立てて、光の筒が宙を舞っている。

 馬鹿な……、と目を見開き、振り返ったサーティーズが目にした者は……。


 声高らかに鳴く、同格なる者(元・眷皇種)



「ぐるぐるっ!きんぐぅー!!」


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