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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第10章「真実の無尽灰塵」

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第43話「銀幕の終局③」

「それは……、裏切り者をどうやってブチ転がそうか考えているからでありますねッ!!《五趣六道撃・餓鬼道掌ッ!!》」



 鳩尾が軋み、肺が圧迫されている。

 訳が分からず、ただただ痛みが思考を支配する中、サーティーズは謀られていたのだと悟った。


 元々、ナインアリアの豹変はおかしいと思ってはいた。

 今回行った記憶の植え付けによる意識改変は、元に戻す事を前提にした軽微な物。

 人格が変わってしまうなど、偶発的な事故としか言いようがない事態だったのだ。


 だが……、今のナインアリアが浮かべているのは、レジェリクエやテトラフィーア同様の『黒い笑み』。

 瞳に暗黒の光を宿すその表情、それは平然と人を騙す大魔王のそれだ。



「馬鹿な……、確かに記憶は植え付けました。確認だってしたのに……」

「記憶?あるでありますよ。テトラちゃんにこっ酷く裏切られた酷い記憶がありますね」


「ならなぜ?洗脳と違い、意識改変は解けようがないはずなのに……?」

「震えるであります。震えるんでありますよ。植え付けられた記憶が頭を過る度に、体が、魂が、それは嘘だと震えるんでありますッ!!」



 ナインアリアが持つ世絶の神の因子『魔導感知ヴァリアブレーション』。

 その力は魔法の発動を予見し、肉体を振るわせる……事ではない。

 魔法を発動する為に必要な魔力エネルギーとは『魂』。

 それを感じとる第六感覚こそが、魔導感知ヴァリアブレーションの本質だ。


 この世界の意思をもつ者すべては魔力を持っている。

 いや、意思=魂=魔力である故に、それらは同じもの。

 例え、振るわれた力が権能であったとしても、魔法と同様に魔力の揺らぎが発生する。


 そんな些細な魔力を感じ取れるまで成長したナインアリアは偽りの記憶が定着せず、意識改変に抗う事ができた。

 そして、真意を知った上で考えた作戦は……、自分を含めた三人でサーティーズを包囲し、確実に倒すというものだ。



「最悪であります。人を裏切るのはウンザリするでありますねッ!!」

「これは仕事です。仕方がありません」


「仕事?こんなんが仕事だというんなら、そんなクソ会社はとっとと倒産してしまえでありますッ!!」

「はわわーーッ!?」



 ナインアリアの暴言に打ちのめされたサーティーズの腹に、再びボディブローが突き刺さる。

 今度は捻りを加えた鋭い殴打。

 嗚咽の代わりに唾を吐き、ナインアリアは奥歯を噛みしめる。



「くそ会社ですって……?裏切り裏切りと憤っておいて、貴方だって同じ事してるじゃないですかッ!!」

「先に裏切ったのはサティちゃんでありますッ!!」



 サーティーズは軋んだ肋骨と胸筋へ無理やり魔力を通し、強制的に上体を起こした。

 ビキビキと肉体が悲鳴をあげるが気にしない。

 なぜなら、ほんの一秒の遅延が敗北に直結すると感覚で分かっているからだ。


 サーティーズの視線が見切れた先、金色とピンク色が活動を開始している。

 そして、激しいボディブローの応酬の渦中、黒い双剣がその拳に添えられた。



「余を忘れて貰っちゃ困るわぁ」



 ナインアリアの拳に合わせる様に、レジェリクエは妖艶に舞う。

 深く斬りつける事はしていない。

 剣先の数cmが肌に届く程度の速度を重視した連撃。

 それが切り刻むのはサーティーズの集中力だ。



「ちょこまかと……、というか、なんで連携できるんですかッ!?打ち合わせの記憶なんかないのに!」

「打ち合わせ?必要ないわよぉ。だって余達はナインアリアが裏切っていないと気が付いていたのだから」


「なんですって!?」

「あんなに露骨に嘘をついて、テトラが気付かないはずがないでしょぉ」



 ナインアリアが暴言を吐きまくっていた理由、それはテトラフィーア達への裏切り返しを狙っていると伝える為だ。


 テトラフィーアやレジェリクエはそれに気が付き、露骨なまでに悲壮感を押し出したり、庇うように話を振ったりして、サーティーズに悟らせないよう話に乗った。

 そして、ナインアリアが演じている暴走を利用し、事前に準備していたこの場所へ誘導したのだ。



「始めっから……、性格悪いですよ」

「男を取っ替え引っ替えして貢がせてる奴に言われたくねーであります」


「だからしてないって言ってるでしょ!!」

「セブンジードにお似合いのケダモノ……って、マジでケダモノだったわぁ。ねぇ、キツネに発情期ってあるのぉ?」


「ないですよッ!!」

「じゃあ、一年中ずっと発情してるでありますか?セブンジードさんよりケダモノであります」


「暴言が酷すぎます!!いい加減にしてくださいッ!!」



 サーティーズの眼は血走り、犬歯を剥き出しにして叫んでいる。

 誰の目にも明らかな激怒、それはレジェリクエが求めた勝利の大前提の一つだ。


 相手は圧倒的格上の『眷皇種』。

 レベルこそ見えていないものの、1%側である事は間違いない。

 だが、冷静さを失えば技の精彩が欠けてくるは人間と同じだ。


 相手を乏しめ自分達の力を最大限に発揮して、なお互角なのだとレジェリクエは知っている。

 レジェリクエが神の因子に願った問い。


『サーティーズとの戦闘で最善手を取り続けた場合、余を含めた陣営が勝利できる確率は?』


 その答えは……『49%』だ。



「此処まで侮辱されて、はいそうですかって訳にはいきません。私はこれでも社長でプライドがあるんです」

「社長って言っても、社員が50人も居ない中小企業でしょぉ?ちなみにぃ、昨年度の年商実績8億エドロ。レジェンダリア(余やテトラ)が本気を出したら10秒で吹き飛ぶ弱小企業ぉ」


「会社までッ……!私の自慢のシルバーフォックス社まで馬鹿にしてッ……!」

「白銀比様に教えてあげたら、きっと鼻で笑うんじゃないかしらぁ?」


「……えっ?」



 ここでレジェリクエは切り札を切った。

 荒立った心を維持させるべく、隠していた白銀比の存在を匂わせたのだ。



「……ブラフですね。現に、記憶を探っても何も出て来な――?」

「出て来ないでありんしょうなぁ。わっちは子らから隠れているでありんす。葡萄酒が注がれていたグラスも、洗い流してしまえば何が入っていたか分からんなんし」


「つっ!?」

「知りたいかしらぁ?白銀比様がどこにいるのか知りたいわよねぇ?ちょっと前に会った時に言っていたのよぉ。『今度は葡萄と洋酒をたっぷり使った焼き菓子を持って来るなんし』ってぇ」


「そんな……、母様の好物まで当てるなんて……」



 人生最大の動揺がサーティーズの思考を塗り潰した。

 脳内を埋め尽くす、幼き頃の思い出。

 世界の全てだと思っていた母との触れ合いは、遥か遠く30年以上経った今でも色褪せていない。



「話してください」

「タダで?あり得ないわぁ」


「話しなさい」

「なら降参しなさい。シルバーフォックス社・社長という意地を捨てれば、あの頃に戻れるかもしれないわよぉ?」


「会社とプライベートを天秤にかけろと?……いいから話せって言ってるんですよ。分かりませんか?自分の立場が」

「余は5億人を統べる女王、貴方は中小企業の社長。上下関係は明白よねぇ?」


「女王?……所詮は人間風情、その女王でありんしょう?わっちら眷皇種と同格などと、付け上がるのも大概にするなんし」



 ピシリ。と空間が凍て尽き、レジェリクエ達の動きが一瞬で鈍った。

 まるで目標を見失ったかのように精彩が欠け、振られた剣と拳が無意味に宙を舞う。



「私の姿が見えないでしょう。認識した側から記憶を消していますから。戯れなどしなければ人間風情との戦いなど、お遊戯にもなりませんよ」

「そうかしら?声は聞こえるわよ」


「人間が得る情報は視覚が8割。まぁ、感覚器官が鋭い野生動物――!」



 サーティーズの喉元へ寸分たがわずに長剣が付きつけられ、薄皮を1枚切り裂いた。

 たらり。と零れる鮮血、それは敵対者(同格)たる証明。



「なぜ……?」

「テトラが居るからよぉ。音響探知って知ってるかしら?」



 いつの間にか姿を消しているテトラフィーア、彼女の役割は自身の神の因子『絶対音階』を使った戦闘指揮だ。

 彼女は伊達や冗談で、世界戦争の総司令官を任されているのではない。

 それに足る実力があるからこそ、レジェリクエの信頼を勝ち取り此処にいる。



「音で居場所を把握してる?あぁ、木の上ですか」

「どこでもいいでしょぉ。テトラの所には行かせないものぉ」



 煩わしそうに二人を一瞥したサーティーズは、抱いていた計画を大幅に書き換えた。

 改めた作戦は、『無傷での完勝へのこだわりを捨て、己が持ちうる全ての手札を惜しげもなく使用した、圧倒的な蹂躙』。

 その結果、たとえ相手の人格が破損し廃人になろうとも、生きたレジェリクエ(悪才が求めた商品)と白銀比の情報さえ手に入れば良いと思っている。



「確か、降参させたら勝ちでしたね。待ってあげますから痛い目を見る前に降参したらどうですか?」

「しないわよぉ。サーティーズ、せっかくだから本気で戦いましょ?勝てたらご褒美をあげるわ」


「貴方達の貯金は全額私の物になるのです。これ以上は何もないでしょう?」

「一緒にご飯を食べましょぉ。白銀比様と一緒にねぇ」



 ふらり。っと先導して走り出したのはナインアリアだ。

 僅かな目くばせでレジェリクエの意図を読み取り、超至近距離での短期決戦を狙う。


 振りかぶられた拳。

 音の壁を突き破って真っ直ぐ進み――、同様に繰り出されたサーティーズの拳と衝突した。



「バッファ全開でありますッ!《獣動足跡》」



 拳だけでは対応される、それを肌で感じたナインアリアが求めたのは、獣の様な足裁き。

 一回の踏み込みで身体に蓄えられるエネルギーが2倍になり、繰り出される殴打が蹴りの様な破壊力へと進化する。


 激しさが増すナインアリアとサーティーズの攻防、そこに鞘から放たれた刀が添えられた。

 だが、今度は趣が違う。

 さっきよりも深くサーティーズの懐に飛び込んだレジェリクエは、交わされる殴打の応酬の両方を(・・・)抜刀術で撃ち落とす。



「仲間割れ……?」

「いや、パワーアップでありますね」



 両者ともが体制を崩し、そして、ナインアリアだけが瞬時に立ち直った。

 レジェリクエが態勢を立て直しやすい崩し方をしたせいもある。

 だが、これ程までに明確な差が生まれたのは……ナインアリアの拳に纏わりついた新しいガントレットから、芳醇な魔力が流れ込んでいるからだ。



「それは――っ!?」

壱切合を染め尽す戎具(ドッペルシェプター)が変化させるのは自分だけじゃないわ。接触した物質を思うがままに加工する事こそ、この武器の真価よぉ」



 壱切合を染め尽す戎具(ドッペルシェプター)は、様々な武器と特殊能力の相性を調べる為に造られた試作機だ。

 だからこそ、最適化された試験結果を他の武器に移す事が(コピー)出来る。


 レジェリクエはナインアリアの籠手が限界を迎えている事を見抜いていた。

 余分な負荷を掛ければ即座に壊れ、武器を失う事になる。

 だからこそ、ナインアリアが本気で攻め切れていない事も理解し、その籠手を丈夫なガントレットへ進化させたのだ。



「ナインアリア。本気でやりなさぁい」

「分かったでありますッ!!」

「くっ!」



 ただでさえ威力が強いナインアリアの殴打。

 それに速さと重さが上乗せされ、おおよそ格闘戦とは思えない音が響いている。


 それはまるで、巨大な重機同士の殴り合い。

 火花を撒き散らしてナインアリアを迎え撃つサーティーズの指にも、いつの間にか拳鍔ナックルダスターが嵌めこまれている。



「あらあら、それレジェンダリアから支給された武器じゃなぁい。感心しないわねぇ」

「くれたものに文句ですか。クレーマーですね」


「違うわよぉ、これは警告ぅ《声紋鍵盤魔法連オルガノンマジック太陽白斑ファーキュラ》」

「……はわっ?」



 レジェンダリア軍から支給される装備、その全てに発信機と通信機が備わっている。

 前者は最先端技術の流出を防ぐため、そして後者は、レジェリクエの魔法の射出口となる為だ。


『太陽白斑』

 高温になった太陽表面が発する磁場を模したランク8の星魔法。

 この魔法は、本来ならば白い球体を発生させ、周囲一帯の鉄分を引き寄せる用途で使用する。

 だが、今回は魔法の効果が拳唾自身に及ぶように調整カスタマイズされていた。


 その結果、ぺきん。という、10本の指の骨が折れる音が響く。

 サーティーズが付けていた拳鍔が発生した重力によって押し潰され、通っていた指をへし折ったのだ。



「い”ぃ”っっッ!!」

「隙ありでありますね。《大規模個人魔導パーソナルソーサリィ魔弾掃射殴打マガジンバレル》」



 レジェンダリア軍の近代化武装に触れたナインアリアが求めた大規模個人魔導。それは機械じみた冷徹な暴力だ。

 一度は放てば、400発の殴打を放ち終えるまで身体の動きが止まる事は無い。

 それゆえに、本物の弾丸すらも凌駕する圧倒的な破壊力を誇っている。

 きっかり一分間続いた殴打の一斉掃射。

 体から湯気を発したナインアリアは、上気した吐息を吐いて、終わりを告げた。



「フィニッシュであります」

「かはっ……」



 動きを止めたナインアリアの両腕は剥き出しになり、至る所に血が滲んでいる。

 だが、それはサーティーズも同じだ。

 400発の殴打の直撃痕。

 そこにあった衣服は弾け飛び、そして――、



痛かった(・・・・)ですよ。とても」



 逆再生された記憶が、サーティーズの全てを元に戻した。

 そして当然、そこに残るのは疲弊したナインアリアとの圧倒的な差だ。



「今度は手心を加えません。心を臓器ごと握り潰してあげますよ」

「させないわ。《確定確率殺害パラレルデス》」



 ナインアリアの胸へサーティーズの指が沈んだ刹那、レジェリクエの魔法が世界に示された。

 求められたのは、最も可能性の低い未来。

 それが実現し――、それでもなお、ナインアリアが崩れ落ちていく。



「関連付けられた記憶から効果を把握しているので無駄ですよ。心臓を握り潰されてるのに、どうやって助けるっていうんですか?精々、時間稼ぎにしか――」

「1秒の時間が稼げれば十分。あとはテトラが何とかしてくれるわ」



 サーティーズが指を指し込んだのは真正面からだ。

 だが、鮮血は前後の両方から噴き出している。


 レジェリクエの記憶を探ったサーティーズが答えを知るのと、その答えが発露したのは同時。

 眩い光に包まれたナインアリアの肉体は再生し、レジェリクエが抱えて距離を取る。



「痛ってーであります。荒療治過ぎるでありますよ、テトラちゃん」

「勘弁してくださいまし、良薬は口に苦しですわ」



 第九識天使を通じて交わされた言葉は、仲のいい友達のじゃれ合いだった。

 そこに悪意は無く、たとえ背中に弾丸を撃ち込まれていようとも、それが両者の同意の上ならば問題になりえない。


 テトラフィーアが放ったのは、天穹空母に匹敵する切り札『救命救急救世弾(クロノクロンバレット)』。

 撃ち込んだ生命体の肉体を3分前へ回帰させる、ランク0の魔法が込められた魔法弾だ。



「この距離で寸分違わずに……?セブンジードさんに匹敵する狙撃スキルですね?ですが、それはおかしいです。貴方には狙撃を練習している記憶などありませんでしたが?」

「私、練習ができるほど暇じゃありませんの。その点、この『レヴィの双撃』は良いですわ。絶対に弾が当たりますもの」



 テトラフィーアが構えている小型の二丁拳銃、『レヴィの双撃』。

 使用者が狙っている標的を取り巻く情報を習得し、確実に着弾する条件で弾丸を発射する全自動魔法銃だ。



「……どうやら分が悪い様です。戦い方を変える必要がありますね」



 戦闘が始まってから、約20分。

 お互いに治療を終えた今、致命傷どころか傷一つ負っていない。

 だが、確実に魔力は消耗し、同じ事を何度も繰り返す事は出来ない。


 そう判断したサーティーズは、母から受け継ぎし権能を解き放った。



「《わたしといっしょにあーそびーましょ》」


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