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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第10章「真実の無尽灰塵」

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第42話「銀幕の終局②」

「はわわわわ……、新しい人材、新しい社屋、新しい仕事。夢が広がりますね!」



 レジェリクエやテトラフィーアとの商談を終えたサーティーズは、見た目相応な可愛らしい笑顔を浮かべた。

 そこに含まれているのは、自社を大きくしたいという純粋な想い。

 一般の経営者と同じ夢を語るサーティーズを見たレジェリクエ達も、満面の愛想笑いを浮かべている。



「……で、いつになったら戦うでありますか?いい加減、待つのはうんざりでありますよ」



 そんな和やかと言っていい雰囲気の中、剣呑な敵意を剥き出しにしている人物が一人。

 虫の居所が悪い事を隠しもせずに悪態を付いたナインアリアは、おまけとばかりにテトラフィーアを睨みつけている。

 一瞬で張り詰めた空気感、それにたまらずテトラフィーアが声をあげた。



「アリア……、一体、どうしたというんですの?私達は友達ですわよね?」

「はっ、裏切るような奴は友達って言わないであります。そんなもん、ゲロ鳥も食わねーでありますよ」



 切り掛る様に吐き捨てたナインアリアは、それ以降、テトラフィーアに目を合わせようともしない。

 そんな露骨な態度にテトラフィーアも眉をひそめ、感情を隠そうと手で口を覆った。

 そして、悲壮感にくれる彼女を見ていられないとばかりに身を乗り出したレジェリクエが、変わりに口を開く。



「これはあんまりねぇ。サーティーズ社長、余達が勝ったらナインアリアを元に戻してくれないかしら?」

「いらねーであります」

「ちょっと拗れてしまってますから、別途料金を頂けたり……?」


「払うわよぉ。だから、きっちり治してちょうだいねぇ」

「いらねーって言ってるだろ、でありますッ!!」



 自分を蔑ろにした商談を目の当たりにして、ついにナインアリアの琴線が限界を迎えた。

 ブチリ。っという鈍い音は、踏みしめた枝が折れた音か、それとも堪忍袋が切れた音か。

 どちらにせよ、戦いの初手を仕掛けたのはナインアリアだ。



「ぐだぐだ言ってねーで転がっとけでありますッ!!《才能満ちた悪道(マガツ・アスラ)ァァ!!!!》」



 セブンジードと共に戦ったナインアリアは、自身が持ちうる最高のバッファ『才能満ちた悪道(マガツ・アスラ)』を既に発動している。

 だが、彼女の世絶の神の因子『魔導感知ヴァリアブレーション』が、このままの状態での戦闘を良しとしなかった。


 震える肌で感じるのは、己に纏う魔力の残滓。

 敗北した事によりバッファ効果に綻びが発生し、魔法の再発動が必要になったのだ。



「おっと、速いわねぇ!!」



 僅か5mもない距離の走破など、この状態のナインアリアにとって呼吸よりも簡易な行いだ。


 才能満ちた悪道(マガツ・アスラ)は、六種の戦闘を極めるランク8のバッファ。

『魔導』『剣道』『武道』『獣動』『鬼動』『極導』に分かれ、それぞれ『魔法』『剣』『武術』『野生勘』『超感覚』『全能』の特色を生かして特化する。

 それら一つ一つが歴史に名を連ねた者たちが創り上げた研鑽の結果であり、瞬きの間に切り替わる戦闘スタイルは他の追従を許さない。



「でもざんねぇん。近接戦闘は余も好きなのぉ」

「うそぉ!?でありますッ!!」



 ナインアリアが渾身の力で振るった拳、それに纏っているのは武道を極めた僧正の技だ。

 身体の一挙手一投足全てが連動しているその動きには、一切の付け入る隙がない――、はずだった。

 だが、現にナインアリアの拳は、レジェリクエが振るっている笏杖(・・)によって、すべて撃墜されている。



「思わぬ伏兵でありますね。魔法タイプだと思ってたであります」

「素直じゃなくてごめんねぇ」


「ギャップ萌えって奴であります?セブンジードさんが見たら悦びそうでありますねッ!!」



 バギィィン!っと、ナインアリアの拳とレジェリクエの()が激突し、お互いが吹き飛ばされた。

 それぞれ取り残されていた仲間の元に辿りつき、僅かに息を整えている。

 そんな準備運動の果て、疑問の声をあげたのはナインアリアだ。



「で、そろそろ説明が欲しいでありますね?さっきからコロコロ形が変わってるそれは何でありますか?」

「これの事ぉ?ちょーっと便利な伝説の武具よぉ」



 妖艶に笑ったレジェリクエの口元に、煌びやかな鉄扇が飾られた。

 それは、先程まで斧であり笏杖であったもの。

 ナインアリアの拳を受け止めた黒い薙刀から十数度変化し、現在は小型のステッキめいた形状となって、ナインアリアを指し示している。



「隷愛城の宝物殿には多くの伝説的な武具が奉納されているのぉ。当然これもその一つ、名を『壱切合を染め尽す戎具(ドッペルシェプター)』っていうのよぉ」

「なんか不気味でありますね?冒険者の噂にあるでありますよ。自分と同じ存在に出会うと死ぬであります」


「そう、この壱切合を染め尽す戎具は様々な武器の姿へと変化する。それはまるで、世界を騙し遷ろうとされた魔剣の様にねぇ」



壱切合を染め尽す戎具(ドッペルシェプター)

 千海山シリーズの一つであるこの武器は、使用者の意思と戦況を読み取って最適解を模り、あらゆる姿へと可変する。

 世界に武器と認知された道具であるならば、どんな形状にも対応し、その性能すらも模倣できるのだ。


 剣の形状であるならば、世界最高の剣を演じ、

 槍の形状であるならば、世界最長の槍を演じ、

 斧の形状であるならば、世界最重の斧を演じる。


 それらの武器は他との差別化を求めて作られたものであり、製作者が追い求めた理想がある。

 ましてや……、この武器の後ろに続くのは、世界最強・十の神殺し。

 世界の概念を壊す神略兵器の試行錯誤をする為に、この壱切合を染め尽す戎具はあらゆる武器の形状を内包した根源となったのだ。



「ようするに変な武器って事でありますね?」

「略しすぎよぉ」


「ちなみに、長い木の板みたいなのにも変化できるでありますか?」

「んー、湯板が近いかしらねぇ?」


「じゃあピッタリでありますね。さっさとブチ殺して、お前らの墓標にしてやるであります」



 はわわわわ……、湯板ってお風呂をかき混ぜる奴ですよね?武器なんですか?

 そんな事を考えていたサーティーズは、物騒な事を言って走りだしたナインアリアを止めるタイミングを見失った。


 えっ!?っと目を見開いた僅かな時間、その結果……、再び肉薄するレジェリクエとナインアリア。

 そして今度はテトラフィーアも戦闘に参加し、激しい攻防が繰り広げられている。



「一撃一撃、武器を切り替えてやがるであります。っち、面倒でありますね」

「貴方も凄い手数ねぇ。褒めてあげるわぁ」



 ガガガガガガッッ!!と金属同士が弾け、周囲一帯に火花が飛び散った。

 まるで手加減などしていない本気の攻防の果て、互いの頬には赤い筋が幾つか付くも、なお止まらない。


 一手間違えれば即座に致命傷を負う攻防を成立させているのは、ナインアリアの才能満ちた悪道と魔導感知。

 そして、テトラフィーアがもつ世絶の神の因子『完全音階』だ。



「ま・2・4……、ま・6・4……、ひ・8・2……、し・1・1……、」



 立ち振り舞うレジェリクエの陰に隠れる様に位置どるテトラフィーアは、脳内リンクを通してレジェリクエへと指示を出している。


『ま・2・4』とは、『前、2時の角度から、4秒後に攻撃がくる』という意味だ。

 相手の呼気音、筋肉の動作音、所持している武器が風を切る音。

 様々な音階を聞き分けたテトラフィーアが現状把握し、レジェリクエが持つ1%側の体術が合わさった一連の動作、それは高い精度の未来予知を可能にさせる。



「はわわ!?ナインアリアさん、ストップ、ストップです!!怪我をさせちゃダメですってば!!」



 そして、一人置いてけぼりを喰らったサーティーズも遅れて戦いに参戦した。

 だが、その立ち位置は不明瞭。

 自分達の勝ちを信じて疑わないからこそ、最大の利益を求めてどっちつかずに奔走している。



「サティちゃんは近寄らないで欲しいであります、危ないでありますから、自分がコイツら殺すまであっちにいて欲しいであります」

「ひっ!?ちょ、ちょっと落ち着いてください!殺しちゃダメなんですってば」



 唐突に飛んできたナインアリアの肘打ちを仰け反って回避しつつ、サーティーズは事態の収束を図ろうと模索する。

 求めるべきは、無傷での勝利。

 この場合の無傷の中には、権能で治せる程度の怪我を含んでもよい。


 レジェリクエが回避したナインアリアの膝蹴りを受け流しながら、サーティーズは自分の目標を見据えた。

 さらに追加の飛び蹴りを諸共せず、ついでにテトラフィーアの攻撃魔法へ尾をぶつけて掻き消し、善は急げと行動に移す。



「ナインアリアさん、攻撃が逸れてます!!一回落ち着――、えっ!?」

「しぶといでありますねッ!!さっさとくたばれでありますッ!!《五趣六道撃・人道掌》」

「あはぁ!その表情、ぞくぞくするわねぇ!!《確定確率殺害パラレルデス》」



 業を煮やしたナインアリアはバッファを活性化させて空中で拳を引き絞って溜め、そのままレジェリクエが用意した魔方陣に向かい振り下ろした。

 そして、レジェリクエが求めた結果『最も低い確率への固定』が発動し……。

 放出されたエネルギーによって巻き上げられた砂塵、その大半がサーティーズを襲った。



「がふっ!?ぺっ、ぺっ!砂が口に!!」



 拳と金属バットと魔方陣がぶつかって、何で砂嵐が発生するんですか!?

 なんて質問も、口が塞がっていれば発しようがない。


 砂が入って痛い目を必死に見開き、サーティーズは二人の間に割り込んだ。

 そして距離を取らせようと、美しい尻尾を回すようにして両者に叩き付ける。



「二人とも頭を冷やしてください!これじゃ、ただの喧嘩ですよ!!」

「うっせー黙ってろでありま……、あ、間違えたであります」


「ナインアリアさん!?」



 ナインアリアから放たれた背筋を凍らせる眼差し。

 そんなゴミを見る様な目を社長に向けないで!と抗議したいのをぐっと我慢し、仕切り直そうと周囲に視線を合わせーー。



「あれ……?何でみんな私を見てるんですか?ナインアリアさんまで酷い顔ですよ?」



 レジェリクエとテトラフィーアとナインアリア、そしてサーティーズ。

 この四人の位置関係は、サーティーズを中心とした正三角形だ。

 2対2の戦いではまずありえない配置に、流石のサーティーズも疑問を抱く。



「あの……、ナインアリアさん?どうして私の首筋とか心臓とか鳩尾とか、急所ばっかり見てるんですか?」

「それは……、裏切り者をどうやってぶっ飛ばそうか考えているからでありますねッ!!《五趣六道撃・餓鬼道掌》」


「はわわ!?」



 その言葉はナインアリアの拳と共に、サーティーズの腹の奥深くへと突き刺さった。

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