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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第10章「真実の無尽灰塵」

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第41話「銀幕の終局①」

「くすくすくす……、活きがいいのは結構だけどぉ、お触りはまだダメよぉ」

「うるせーであります。気安く話しかけるなであります」



 深い森へと身を翻したレジェリクエ達が辿りついた場所は、全長500m程の開けた高原だ。

 その周囲一帯には不自然に木が生えておらず、靴の下の落ち葉も真新しい。


 そんな明らかに人為的に作り出された広場の中心へレジェリクエ達が差しかかった瞬間、業を煮やしたナインアリアが飛び出した。

 瞬く間に距離を詰め、僅かに遅れていたテトラフィーアの背中へと迫り、そして――。

 振り返ったレジェリクエの鋼鉄の扇によってナインアリアの拳が遮られ、鈍い打撃音を発した。



「これじゃまるで狂犬ねぇ。サーティーズ社長、新人教育を見直した方がいいわよぉ」

「ぐるるるるる……であります」

「……。返す言葉もありません。ナインアリアさん、後で始末書を書いて貰いますからね」



 今にもテトラフィーアの喉元へ喰い付きそうなナインアリアを抑えながら、サーティーズは密かに溜め息を漏らした。

 それ程までに、彼女の豹変は予想外だったのだ。



 はわわ……、よく分かりませんけど、ナインアリアさんの琴線に触れてしまったようです。

 ここまで性格が変わるなんて、裏切りに対して思う事があったんでしょうか……?


 私が植え付けた記憶はその人物の過去と結びつき、価値観を歪めます。

 ですが、大抵は正の感情と相殺し合い、大きな感情の動きが出ない事も多い。

 なので相応に酷い記憶を与え、相手の顔を見たら眉をしかめる程度の悪感情を抱かせるのです。


 しかし、稀に私の予想よりも大きな悪感情が目覚めてしまう時がある。

 それは……、もともと相手に明確な殺意を抱いていた場合などですが……?



 そんな事は無いはずだと、サーティーズは知っている。

 最近のナインアリアの記憶、その大半にテトラフィーアが関連付けられているからだ。


 ナインアリアがレジェンダリアにやって来てからの一ヶ月間は、テトラフィーアの所に身を寄せていた。

 大臣職で忙しく城を離れなれないテトラフィーアたっての希望で、王宮内にあるメイの私室で寝泊まりしていたのだ。


 だからこそ、彼女の記憶の多くにはメイやテトラフィーアが登場する。

 下町で美味しい食事に出会ったナインアリアが、「今度教えてあげるであります!」と最初に思い浮かべるのが彼女たちなのだ。



「さてとぉ……、サーティーズ社長、改めて確認しておくわねぇ。余とテトラを倒せれば、合計1100億エドロの身代金が手に入るわぁ」

「はわわ!」


「でも、余達を殺してしまうと異次元ポケットが壊れ、1100億エドロは次元の彼方へー。ここまでは良いかしら?」

「はわわ!!」



 なんなんですの?その返事。


 そんなツッコミを入れたいテトラフィーアだが、ナインアリアに睨まれているこの状況では自重している。

 下手な事を言って襲いかかられたら堪ったもんじゃないと、大人しくしているのだ。



「それで勝敗の決め方なんだけどぉ、『相手に降参させたら勝ち』でどうかしら?」

「降参させたら勝ち?妙な言い回しですが……、降参ありのデスマッチという事で良いんですか?」


「違うわぁ。例え相手を二人とも気絶させても、それが直接的な勝ちにはならない。気絶している時に降参するしかない状況を作り、相手が意識を取り戻した後で降参させて、初めて勝利になるわぁ」



 サーティーズは回りくどいルールに首を傾げるも、すぐにその意図に辿りついた。

 そして妖艶に笑い、それは使えないのだと静かに告げる。



「なるほど……、グオさんの参戦を期待しているんですね?」

「もちろんよぉ。セブンジードに負けるはずがないしぃ」


「信頼なさってるんですね。まぁ、納得です。ご相談の時に記憶を拝見させて貰いましたが、上辺だけ見ても凄い人生だったですから」



 グオがサーティーズに探りを入れていた様に、サーティーズもグオに探りを入れていた。

 お互いに使用しているスキルは違うものの、辿りついた所は同じ。

 決して油断してはならないという、最高評価だ。



「ですが無駄ですよ。いくらグオさんが優れた方でも此処には来られません」

「どうしてかしら?」


「現在、私達がいるこの周囲一帯は時間の流れ……、世界に事象が記憶されていくスピードを緩やかにしています。だから、時間の流れが違うグオさんは入って来れないです」

「なるほどぉ、『世界』という媒体に保存されている記憶が『過去』であり『歴史』なわけねぇ。それを貴方は改変できると」


「そういう事です。世界記憶に干渉するのってとって疲れるし大変なんですよ。ですから、後から改変しやすい様に時間の流れを堰き止めてるんです。すごいでしょう?」

「本当に凄い仕組みねぇ」



 白銀比と既知があるレジェリクエ達は、その権能の恐ろしさをしっかりと理解している。

 戯れに使用された能力だけでも、『時間停止』『時間逆光』『時間加速』という、抗えぬ時の力を体感しているからだ。


 だからこそ、サーティーズの説明を聞いて勝機を見い出した。

 予め準備をしておくという、手間。

 それが無いと満足に権能が使えないというのなら、付け入る隙もおのずと見えてくる。



「ちょっと話が逸れるけど……、テトラの神の因子を欺いたのも、貴方の権能があればこそよねぇ?」

「そうです。自分の記憶を消したら敵意とかないじゃないですか。ちなみに、学生時代の私の精神年齢って10歳くらいです」


「10歳であのテクニックだったのねぇ。ちょー凄ぉい」

「はわわ!!一瞬で下世話な話に!?」



 冗談を混ぜ返しながら思考を巡らせたレジェリクエは、サーティーズから漏れ出る圧倒的な自信に気が付いた。

 サーティーズの言動は、自分の敗北など全く考慮していない。

 普通に勝ってお金を貰い、そして記憶を消せばいいという思惑が見え透いているのだ。



「我が社は関係の無い一般人を万が一にも巻き込まないように、細心の注意を払っております。安全第一です」

「事業所長としてのお手本ねぇ、素晴らしいわぁ」


「ありがとうござます」

「さて、勝敗の付け方はこれで決まったし……、そうねぇ、ちょっとだけサービスして貰えないかしら?」


「サービスですか?」



 ねだる様なレジェリクエの視線に、サーティーズはちょっとだけ気分が良くなった。

 いつもならば、ねだる様な視線はサーティーズが悪才へと向けている。

 だからこそ、下位者からお願いされるという優越感に気分が高揚したのだ。



「伺いますよ。もちろん、おかしなものは断りますけど」

「戦いが終わった後で依頼を請け負って欲しいのぉ。……余が勝ったら強制的に、余が敗北したら任意でねぇ」


「依頼ですか?それ自体は問題ありませんが……、強制的というのが気になりますね。内容を窺ってからの判断です」

「今秋に拡大する事業の警備面が不安なのよぉ。そこに常駐する警備会社を探しているんだけど、なかなか良いのがいなくてねぇ」


「……常駐ですか?」



 レジェリクエが垂らした餌に、サーティーズが勢いよく食い付いた。

 ハッキリとしたお金の匂いに釣られ、目を輝かせている。



「敷地規模を踏まえての応相談となりますが……、予算はいかほどでしょうか?」

「ひ・み・つぅ」


「はわっ!?」

「戦いが終わった後のお楽しみってことぉ。ただ、余はシルバーフォックス社の実績を高く評価している。確実に押さえておきたいのぉ」


「その口ぶりだと随分奮発してくれそうですね?はわわ、もしかして私も事業拡大のチャンス?」

「常時50人は欲しいんだけど、足りるかしら?」


「全然足りないじゃないですか!?全力で伝手を辿って掻き集めます!!」



 この瞬間、シルバーフォックス社はレジェリクエに依存した。

 過度な人員補強は、仕事が無ければ成り立たない。

 一度増やしてしまえば解雇するのは容易では無く、余った人員は組織の腐敗を招く。

 だからこそ、レジェリクエから仕事を打ち切られる事は会社の倒産に繋がってしまうのだ。



「あの……、も、もちろん利益が出る料金設定ですよね?」

「当然でしょぉ。勝敗に関わらず、お互いが納得する料金になる様に商談するわよ。……守銭奴(テトラ)が」



 にっこりと笑った大魔王共の笑みに、サーティーズも営業スマイルを返した。

 千億エドロを簡単にやり取りしてしまう財力を目の当たりにしている以上、そこに疑問は無い。


 ついには、周囲の落ち葉の一枚一枚がお金に見え始めたサーティーズ。

 戦いが終わった暁には社員達を集め、豪華な親睦会を開こうと心に決めた。

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