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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第10章「真実の無尽灰塵」

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第38話「銀幕の佳境 グオVSチャラ男②」

「ふむ、軽い。鍛練が足りませんな」



 気絶したバルバロアを軽々と持ち上げて運んだグオは、洗濯物を干す様に木に引っかけた。

 至る所についた土埃を叩いて落とし、これで良しとばかりに頷いている。



「……もう一回確認していいか?あんたの戦闘スタイルは?」

「魔導師ですぞ」


「どこがだよ!?おもっくそ殴ってたじゃねぇかッッ!!」



 一連の主夫めいた動きの中に全く隙を見つけられなかったセブンジードは、苦し紛れにツッコミを入れるので精一杯だ。

 アレの何処が魔導師なんだ!?と声を荒げ、一気に思いの丈をぶちまけてゆく。



「さて、前衛が居なくなってしまいましたなぁ。降伏は受け付けておりますぞ?」

「降伏した場合、俺達はどうなる?」


「慣例ではぐるぐるげっ刑ですな。今なら羽毛20%OFFでお届けしますぞ」

「防壁が減ってんじゃねぇかッッ!!絶対に降伏なんかしねぇぞッッ!!」



 ぐるぐるげっ刑とは、人間が持つ本来の肉体にゲロ鳥の羽根のみを纏って舞うという……狂気の祭典。

 会場の警備を命令される事が多いセブンジードは、その度し難さを十分に理解している。



「カルーア、何としてでも勝つぞ。負ければ、そこにあるのは確実な死だ」

「え、えぇ……、降伏しても死ぬの?」


「死ぬぞ。チャラ男としての尊厳が」

「貴方と同類にしないで。だけど……、負けるのは癪にさわるわね」



 流していた髪をゴムでまとめながら、カルーアは静かに息を吐いた。

 その瞳に宿るのは、軍人であるという誇りだ。


 バルバロアという戦力を失ったのにもかかわらず平然としているのは、この流れが既定路線だからだ。

 カルーアは、所詮は新兵でしかないバルバロアの戦闘力など始めから期待していない。

 だからこそ、せめて有効に使うべく敵に突っ込ませ、そして、相手の実力を図る試金石としたのだ。



「前代の王だか何だか知らないけど、調子に乗らないでくれるかしら?」

「あえて触れないで置きましたがな……、儂のレベルは92071。貴様らよりも高いですぞ」


「それが何なの?どの国の王も有力な冒険者を囲ってパワーレベリングしてるじゃない」

「確かにしておりますなぁ。が、この筋肉に偽りがあるとでも?」


「筋肉を自慢してくるから胡散臭いって言ってるのよッ!!」



 グオは口を開くたびに、エリート魔導師としての誇りを持つカルーアの琴線に触れていた。

 そしてついに我慢の限界に達してしまったのだ。


 剣呑な睨み合いが続く横で「やべー、これは負け戦だ。どうにかしねぇと不味い」っと早急に判断を終えたセブンジードは主導権を取り戻しに動く。

 まずはその布石として、過ぎた事を忌々しそうに呟いた。



「くそ、だからナインアリアはこっちに来いって言ったんだ」

「居ない者はしょうがないじゃない。実際、サーティーズ社長を一人にしておけないわ」


「だがよ……、カルーア。出し惜しみはするな。どうせ俺達の手札はバレてんだ。5分で片を付けるくらいに気合い入れて行け」

「あら?5分なんて謙遜じゃないかしら?」


「5分で始末できるなら上等だろ。アイツの指輪には気を付けろ。かなり高位の魔道具だぞ」

「なるほど。杖の役割を果たす指輪があるって聞いて事あるわ」



 セブンジードとカルーアの両者ともが後衛職であり、接近された場合は敗北を意味する。

 特に、近接格闘を学んでいないカルーアは顕著であり、グオの拳が一発でも生身に叩きこまれれば絶命しかねない華奢な身体だ。


 近づけさせずに遠距離攻撃で仕留めるしかない。

 二人は第九識天使で意思を疎通させ、静かに己の武器を構えた。



「動ける奴は大幹を狙っても回避される。そういう時は何処を狙えばいいか分かるな?」

「馬鹿にしないでくれるかしら?あんたと組んで、もう1年も経つのよ」



 刹那――、セブンジードが前へ、カルーアが後ろへと別れて走りだした。


 二度ほど頷き合い交わし合った視線の意図は、近接銃撃戦が出来るセブンジードが牽制をし掛け、カルーアが大規模殲滅魔法で戦況を撹乱。

 隙を見てトドメを刺すという、少数戦闘術の基礎を意味している。


 そんなセブンジード隊独自のサインを見たグオは……、鷹揚に鼻を鳴らした。



「ふむ、侮られたままにする訳にはいくまい。魔導師としての真髄をお見せいたしましょうぞ」

「遺言はそれでいいのか?」



 グオに接近し、殴り込むように銃を突き出したセブンジードは迷わず引き金を引いた。

 狙うは、主武装たる腕の無力化だ。


 人体の構造上、150度程しか可動しない肘や膝は隠れた急所だ。

 銃という当てさえすれば甚大な損傷を負わせられる武器を使用している以上、一撃必殺であるものの当てにくい心臓や脳を狙うより効率が良いからだ。


 構えられた50口径魔弾可変式・デザートGRD。

 その射出口から白煙が噴き出し――、凍てついた砲身が粉砕した。



「馬鹿なッ!」



 意味が分からず思考を手放しそうになるセブンジードの眼前に、それを起こさせた悪鬼グオが迫る。

 一切の表情が抜け落ちたその男は、能面のような薄い笑みのまま、セブンジードの腰の銃ホルダーへと拳を放った。

 再びの白煙が噴き出し、氷結したホルダーは内部の銃ごとヒビ割れ砕け……崩壊する。



「詠唱無しだと!?陛下じゃあるまいしあり得ねぇ!!」



 瞬く間に武器を二つ失ったセブンジードは腰からナイフを引き抜いて投げつけ、稼いだ一瞬の間で三つの小銃を召喚した。


 グオが繰り出した拳がナイフを軽々と払い退けたのが0.5秒前。

 瞬きよりも速く銃を構え直したセブンジードは、予め装填してある実弾を発射。

 何ら特殊効果がないそれは……やはり同様に氷結した事で空気抵抗が増し、あらぬ方向へ飛んでいった。



「分かってんだよ、その指輪が悪さしてるって事はッ!!だが、それでも俺の常識の範囲外だッ!!」

「情報部隊と言えども、儂や陛下が所持している宝具の情報を手に入れるのは容易ではありますまい」


「宝具だと!?」

「ブランマンの息子と違い、儂の指に嵌っとるのは本物でしてな。真王陛下に『補助輪』と揶揄された伝説の武具ですぞ」


「今の説明、何かがおかしかったぞ!?」

「代々の王に継承されてきたこの指輪は、世界を律する千海山シリーズの一つ。『十本指が象る輪火(ゴレム・レイス)』」



 グオが十指に纏う指輪の名を告げた瞬間、セブンジードの右手に冷たいものが走った。

 やっぱりコイツも大魔王陛下側(理不尽側)だったかと歯を食いしばり、氷結してしまった小銃を投げ捨てる。


 グオが先ほどから起こしている凍結事象、それは『十本指が象る輪火』の能力『確定魔法顕現』によって引き起こされた、完全状態での魔法行使によるものだ。

 通常の魔法の行使とは、神が定めし呪文を世界に示す事で、魔法次元から取り出す事を指す。

 だが、この十本指が象る輪火は予め魔法を記憶させておく事で、一瞬でかつ、完全状態で魔法次元の扉を開き、魔法の行使を可能にするのだ。



「ゴレムレイスだとッ!?」

「聞いた事がありますかな?」


「魔導銃の魔法シリンダーリングが同じ名称だっつーの!」

「ほっほ、よく勉強しているようですな。もう少しヒントをくれてやれば、さらに真理に近づけますかな?《氷国の破壊者(フロストジャッカー)》」



 人差し指と中指をまっすぐに伸ばし銃の様に構えたグオの目の前に、屈強な氷の魔法陣が出現した。

氷国の破壊者(フロストジャッカー)』。

 万物を酸素と水素の化合物……『水』へと置き換えて凝結させる、大規模殲滅魔法だ。



「いっ!?」

「崩れるがよい。絶対零度の果てに」



 全長1m程の魔法陣から発せられたのは、機関銃めいた派手な乱射だった。

 そのあまりにも不釣り合いな結果を見たセブンジードの背筋は凍り、隠し持っていた奥の手の一つ、永久の西風(アネモイ・ゼピュロス)が封じ込められた手榴弾を躊躇なく地面に投げ付ける。

 弾丸を身に近づけさせない為に爆風へ飛び込んで耐え忍ぶ最中、セブンジードの視界の端に映ったのは朱色の閃光だった。



「《火之十束剣ヒノトツカァァァァ!!》」

「氷には火。定石通りの良い判断ですぞ」



 カルーアが戦闘に参加していなかった理由、それは詠唱に時間がかかる大規模殲滅魔法の準備をしていたからだ。


 自身が知る最高威力の炎系大規模殲滅魔法、『荼毘に臥す火之迦具土(ヒノカグツチ)』。

 セブンジードの切り札たるそれを、リリンサによる魔法講習を終えたカルーアは手に入れていた。


 熱波が噴き出す強大な剣が容赦なく振り下ろされ、グオの氷国の破壊者(フロストジャッカー)へと向かう。

 吐き出されている全ての弾丸が炎の剣の中に飲み込まれて行き……その結果、大地に氷の剣(・・・)が突き刺さった。



「相打ちですって!?」

「ですな」


「ふざ――っ!?――っっ!!っxtぅつ!!!!!」

「おや、聞こえませんなぁ」



 魔法が相殺されたと知るや否や、カルーアは次の魔法の準備に入っていた。

 無詠唱で魔法を発動できるのはお前だけじゃないと内心で笑いながら、ポシェットの中へと手を忍び込ませ――。苦悶の表情で喘ぐ事になる。


 そう、全てが遅かったのだ。

 グオが発動していた魔法は一つだけでは無い。

 始めからセブンジードなど眼中になく、後衛という逃げやすい位置にいるカルーアに狙いを定め、虎視眈々と罠を張っていたのだ。



「陛下ほどではないにせよ舌戦は得意な方でしてな。戦闘中に語らうなど、大抵は敵の策謀なのですぞ」

「――っっ!!!!!が、がはっ……」



 いつの間にかカルーアの目の前に位置に移動していたグオが、ゆっくりと手を伸ばす。

 逞しい掌に触れたのは、蒼く冷たい水のクリスタルだ。


 火之十束剣ヒノトツカを攻略された事により僅かによろめいたカルーアが踏み抜いてしまったのは、設置型の大規模殲滅魔法。

勝敗を知らさぬ水精霊ウィンディーネ・アウタ』。

 触れた生命体を取り込み捕らえ、口内から体内に侵入。

 内外から均等の圧力を掛けて動きを封じる、ランク9の封印魔法だ。



「これであなた一人ですぞ、セブンジード。降参しますかな?」

「くっそ……。俺はまだ、チャラ男でいたい」

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