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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第10章「真実の無尽灰塵」

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第36話「銀幕の佳境②」

 

「金額をお確かめ下さい、サーティーズ社長?」

「はわ……、はわわ……、はわわ……。本当に77億エドロ……?こんなのはじめてぇ……」



 テトラフィーアが平然と差し出した小切手の額面を覗きこみ、サーティーズは緩み切った笑顔を溢している。

 あまりの衝撃に小切手に触れる事が出来ず、何度も何度も目で金額の桁を確認する。

 そして、しっかり『@7,777,777,777エドロ』と書かれているのを7度ほど確かめ――、サーティーズは両手を差し出した。



「では、謹んで拝領いたしま――。」

「《魔弾・雷光槍》」



 その光り輝く魔弾は唐突に、サーティーズの後ろから放たれた。


 誰もが予想しえないその暴挙は真っ直ぐに小切手へ向かい、炸裂。

 一瞬で燃え尽きた小切手の切れ端がサーティーズの手の上に落ち、15秒。

 この世の終わりを知った叫びが、深緑に木霊した。



「はわわわわーッッッ!?ッッ!?ッッ!?」

「あら上手ぅ。射撃の腕は本当に見事よねぇ」



 手を引っ込めて驚いているテトラフィーアに変わり、冷静なレジェリクエが野次を飛ばした。

 その恍惚としている表情に混じっているのは、愉悦に塗れた悪感情。

 「ナイスよぉ、セブンジードぉ」という愉快な気持ちと、「あらら、バレちゃったのねぇ」という腹立たしい気持ちが入り混じった複雑なものだ。



「はわ、はわわわ、はわわわわ……、ぐすん。セブンジードさん、なんで……?なんで……こんなこと……」

「詐欺だからだよ。コイツら金を払う気なんかねぇぞ」


「はわわ!?!?」

「小切手つーのはな、金を受け取る前に問題がいくつもある。金が無くても好きな金額を書ける。書いた後で口座を凍結できる。あげればキリがねぇ」


「はわ、はわわ……」

「本来なら、そんな詐欺を働けねぇ様に国が厳しく監視している。が、コイツらは取り締まる側だ。支払わなくても罰する事は出来ないし、むしろ少額を下ろさせる事で飼い殺しにされるぞ」


「はわわ……?」

「5億エドロ程度は下ろせるだろうが、これは罠だ。『預金しておけば金利が良い』とか、『レジェンダリア圏で商売をするなら預金を残しておくと便利』とか言われて、残りの金を人質に取られる。結果、泥沼に嵌り、無償で依頼を行う事になるぞ」


「はわ、はわわわわわ……。記憶を確認しました。騙してたんですね」



 真実を知らされたサーティーズは、今にも飛びかかりそうな目でレジェリクエ達を睨んでいる。

 記憶を覗きこみ、セブンジードの言った過去が実際にあったと知ったのだ。


 サーティーズが記憶を覗きこむ時、おおまかに二つのルールがある。

『この瞬間に見ている光景から時系列順に逆再生し、記憶を探さなければならない』

『逆再生している記憶には関連する別の記憶が結びついており、その記憶へ意識を向けると、そこまで一気に遡れる』


 例えるなら、テトラフィーアの好物を知りたい場合は、まず食事をしている記憶まで逆再生する。

 そして、その時に関連づけられた記憶……好き嫌いに関するエピソードを探し、その記憶が発生した時まで遡って覗き見るのだ。


 また、今回の様にいつまで遡るか分からない記憶を探る場合、キーワードを口にする事で現在の記憶に関連づかせ、結びつけてしまえばいい。

 相手に気取られてしまう欠点があり一長一短だが、77億に目が眩んだサーティーズは迷わず使用した。



「つーことで小切手は信用ならんから、今すぐ現金で寄越せ。話はそれからだ」

「はわわ……。77億も持ってる訳ないですよ。でも、小切手だと詐欺だし……。はぁー、やっぱりそんなおいしい話は無かっ――」

「現金一括払い?もちろん良いわよぉ。余のポケットマネーで払ってあげるぅ」


「えっっ!?持ってるんですかッッッ!?!?!?」



 事もなさげに告げたレジェリクエへ勢いよく振り返ったサーティーズは速攻で記憶を覗きこみ……そこに黒鉄の山を垣間見た。

 黒光りする鋼鉄のアタッシュケースが、ざっと数えて100個以上。

 その中に詰め込んでいく光景まで記憶を遡ったサーティーズは、言葉通りに腰を抜かしてヘタリ込む。



「《異次元ポケット、解錠オープン》これだけ広いと整理が大変でねぇ。人が出入りできるように改造してあるのぉ」



レジェリクエの横で空間の裂け目が開き、5m四方の部屋が現れた。

そこにあるのは、サーティーズが見た黒鉄の山だ。



「は、はわわ、これ全部、お金が入ってるんですか……?」

「勿論よぉ。使いやすいようにケース一つで10億エドロ。空間魔法で圧縮してるけど重さはそのままだから100kgあるわぁ」


「使いやすいようにって、10億エドロも使う事ってないですよ、ね……?」

「あるわよぉ。最近二つも10億エドロの買い物をしたものぉ」



 そんな馬鹿なと思ったサーティーズは迷わずレジェリクエの記憶を覗き、ぐるぐるきんぐー!と鳴く2名を垣間見た。



「はわわ……キングフェニクスが10億エドロ……。ま、まぁ、キングフェニクスは元眷皇種ですから分からないでもないですが……、ユニクさんまで10億ですか」

「ちょっと待ちなさい。今の聞き捨てならないわ」


「え、だってユニクさんって割と普通っぽい――」

「そっちはどうでもいいわよ、10億ってのも適当だし。サーティーズ、今、フェニクが元眷皇種って言ったわよねぇ?その情報を10億で買いたいのだけれど話してくれないかしら?」


「はわわ!?10億エドロですか!?」

「こういう衝動買いをする為の10億エドロなのよ。このケースを一つ投げてあげれば大抵のものが手に入る。手っ取り早いじゃなぁい」


「はわわわわ……女王様ってしゅごい……」



 真剣な顔で詰め寄るレジェリクエと、差し出されたアタッシュケースを抱きながらへたり込んで追い詰められているサーティーズ。

 そしてその光景は見ているテトラフィーアは、いつツッコミを入れようかとタイミングを見計らっている。



「えっと……、私もそうですけど、眷皇種になると恩恵として他種族言語が理解できるようになります。で、元眷皇種っていうのはキングフェニクスが言ってた事です。一応、記憶も見たので本当だと思います」

「フェニクと会話できるのね?詳しく語りなさい、今すぐに」


「なんか、ヴァジュラコックっていう皇種に仕えていたんだそうです。でも、そのヴァジュラコックは死んじゃったらしくて、眷皇種じゃなくなっちゃったって言ってました」

「眷皇種じゃなくなると、どうなるの?」


「与えられていた権能が使えなくなります。権能って、持ってるだけで全能感に酔いしれるくらい頼もしいんですよ。それが無くなったフェニクスはとっても困り……タヌキに襲われかけた所をリリンさんに保護して貰ったと言ってました」

「そのタヌキってアルカディアよね?」


「ソドムってのに追い立てられ、疲れ果てた後の連戦で分が悪かったらしいですよ?今は権能なしでの立ち振る舞いを覚えたから負けないとも言ってました」



 全く戦争に関係ない雑談であっても、この話はレジェリクエにとって最優先調査事項の一つだ。


 キングフェニクス1世と名付け、可愛がっている鳶色鳥の王。

 だが、彼が持つ類稀なる成長スピードと統治能力に、レジェリクエですら驚く事が多かった。


 手に入れた時は、女王としての格付けと愛玩目的。

 寝食を共にし、その理知を知ってからは、半分真剣に侵略大臣に任命した。


 そんなフェニクの根源を知る機会を得た幸運は、現状でこの戦争最大の功績。

 ロイを手に入れた時よりも遥かに嬉しいと、レジェリクエは心の底から歓喜した。



「陛下陛下、話が逸れてますわ。後でゆっくり調べればいいと思いますわよ」

「そうねぇ。温泉に入りながらの考察とかいいかもぉ。フェニク連れて混浴に行っちゃう?」


「いいですわね。ゆっくり羽を伸ばしたいですわー」



 おいゲロ鳥、そこ変われ。

 臨戦態勢で警戒しつつ話を聞いていたセブンジードは、人生で始めて鳥が羨ましいと思った。



「さてと……、ナインアリア、アタッシュケースを運び出してくれないかしら?いつまでも広げておくのもねぇ」

「良いでありますよ。サティ社長の所に持って行けばいいでありますね?」



 しっかり話を聞いていたナインアリアは、アタッシュケースを七つサーティーズの前に並べ、残り一つはレジェリクエの前に持って来た。

 端数の7億7777万7777エドロを支払って貰う為に蓋を開け、目で「数えて欲しいであります」と訴えかける。



「テトラぁ。なんで77億なんて中途半端な数にしたのぉ?数えるのが面倒なんだけどぉ」

「まぁ、ノリですわね」


「そう。じゃ、更にノって80億にしておきましょぉ。ナインアリア持ってって良いわよ」


「サティ社長、ノリで3億エドロも増えたであります!!」

「……はわわッッ!?!?」



 自分が抱えているものも含め、サーティーズは9つのアタッシュケースに囲まれている。

 目の前でナインアリアが蓋を開けて物珍しそうに眺めているせいで、現実感もたっぷり。

 札束に囲まれて恍惚とした表情をしているサーティーズは、戦争って素敵ですねと思っている。



「セブンジード隊のみなさん、短い間でしたが大変お世話になりました。あなた達が稼いでくれたこのお金は、我が社の福利厚生に当てたいと思います。はわわ」

「……いや、待て待て。女王討伐はどうした?欲がねぇにも程があるだろ」


「え、だって、90億エドロですよ?これだけあれば……事務所の電気を明るい奴に交換してー、トイレを新調してー、エアコンも買い替えてー、それからそれから……」

「いっそのこと建て替えろ、5億もあれば足りっから。じゃなくて、あのな……俺の価値は6億でも全く足りてねぇんだよ。俺の隊があんちくしょう共の命令で何をしてきたと思う?」


「さ、さぁ?知らないですけど……?」

「麻薬密売組織襲撃に、通貨偽造局の摘発。違法カジノ運営者拘束、特級危険区域での特殊個別脅威討伐。どれもこれも、たった1件で数百億の金が動く案件ばっかりだった」


「はわわーッ!?」

「つーか、アイツらの横に高く積まれた金の山な、ほぼ俺がどっかしらから奪い取って来た金だぞ。レジェンダリアの国としての交易金なんかは別管理されてて、真っ当に表に出せねぇ金があそこに溜まっていくんだ」


「はわ、はわわ……、」

「他の場所から流れ込んでくるのも有るんだろうが……、俺が今まで奪い取った金をざっくり計算すると1200億。あの金は全部俺のものになって良いもんだ。だがな……、俺の財布の状況は好ましくねぇ。温泉郷のチケットを買い渋る程にだ」


「はわ、はわわわわ……」

「俺の資産価値が1200万エドロ/時?……あぁそうだよ、数字上はな。だが、俺が行っている仕事は国王や総司令官の命令であって依頼じゃねぇ。普通の給料以外は手元にこねぇんだ」



 苦々しく奥歯を噛みしめた、セブンジードの静かな慟哭。

 反射的に記憶を覗いてしまったサーティーズは、今までの人生を振り返ったセブンジードの走馬燈を見て絶句した。



「……。あの……、こんな扱いをされて、よく今まで裏切らなかったですね」

「裏切ろうと思ったさ。いや、実際行動を起こし、俺の私兵を育てても居た」


「レジェンダリア軍以外にですよね……?それで……?」

「10日ほどレジェンダリア軍の任務で遠征して戻ってきたら、俺の私兵全員がゲロ鳥Tシャツを着てた」


「……。」

「そんでもって、ねぐらの奥であん畜生陛下が寝てた。裸で」


「……。」

「俺は屈するしか無かった。副リーダーが土下座で跪いている上に優雅に座った大魔王に成す術なく心を折られ、屈したんだ……」



 まるで毒を飲めと強要されているかのような表情で、セブンジードは天を仰ぎ見ている。

 その目に光は無く、焼き魚の瞳よりも濁っている。



「そんな事もあったわねぇ。若気の至りで恥ずかしぃわぁ」

「心にもねぇ事を言ってんじゃねぇ!!」


「それで、サーティーズに誘われちゃったのねぇ。余の敗因はなんだったのかしら?心当たりがないわぁ」

「その白々しさだよッ!!」


「でも、セブンジード以外も裏切ってるなんて意外ねぇ?他のにはそこまで酷い事してないのだけれど」

「こんの大魔王、俺には酷い事をしていたって自供しやがった!!」



 そろそろ真面目に話を終息させようと思ったレジェリクエは、頭の中で確定確率確立を使用した。

 そして、指定した審問の確立が示され……レジェリクエは笑みを溢す。



「分かってねぇ様だからはっきり言ってやる。俺をいくらで買おうが関係ねぇ。俺の人生は俺のもんで、俺が誰に仕えるのかも俺が決める!!」

「レジェンダリアに戻りたくないのねぇ。調教が足りなかったようで残念だわぁ」



 僅かに芝居がかった口調で肩を竦めたレジェリクエに今すぐ弾丸をブチ込みたいと、セブンジードの拳が強く握りしめられた。

 だが、ここで暴走するのは格好悪いという自制心が行動を妨害。

 葛藤が渦巻くもギリギリで堪え、静かに身を引く。



「セブンジードもこう言ってるしぃ……。ではこうしましょう。余のポケットマネーの残りは約950億エドロほど。今から私達と戦って勝てたら……全部あげるわぁ」

「陛下っ!?」

「はわわッ!?!?」


「ようするに、私達が負けた場合の身代金って訳ねぇ。ただし、お金が仕舞われているのは異次元ポケット。もし余を殺してしまった場合は全ての現金が異次元に流れ、取り戻す事が出来なくなるからぁ、注意してねぇ」

「あぁ、そういう事でしたら、私の空間に仕舞ってある現金150億エドロも差し上げますわ。陛下ほど多くはありませんが、小領地をまるごと買い上げる事も可能な額でしてよ?」

「はわわッッ!?!?」



 突然語られた荒唐無稽な話も、その後しっかり説明されてしまえば納得せざるを得ない。


 レジェリクエが冥王竜と交わした契約を簡単にすると『フィートフィルシア領、食べ放題』だ。

 そこでは数百億の金が簡単に動いていると言われてしまえば、冥王竜よりも格上だという自負によって、1000億エドロの金額に現実感が出てくる。


 レジェリクエ達の記憶を入念に調べたサーティーは、そこに嘘が無いと判断し……二匹の大魔王と契約を結んだ。



「契約成立ねぇ」

「お手柔らかに頼みますわ!」

「はわわ、もちろんです。セブンジードさん、殺してはダメです。怪我もなるべく避けてください。無傷での完勝を目指してください。これは社長の厳令です!!」



 レジェリクエがテトラフィーアと立てた作戦は『戦わずに勝つ』だった。

 だが、想定よりも遥かにサーティーズがチョロすぎた。

 だからこそ目標を上方修正して、タヌキ攻略の足がかりにしようと思ったのだ。



 このままサーティーズを洗脳するのは容易ねぇ。

 そもそも、指導聖母に飼われてる時点で大したことがない。

 人間に御せるという前例があるのなら、何も恐れる事は無いわぁ。


 ならばこそ、ここでサーティーズという1%側の戦力を知っておく事が重要となる。

 大陸平定後、今度は余が世界各地に点在している特殊個別脅威の対応に悩まされる事になるのだからねぇ。



「アイツら相手に生ぬるいと思いますがね……、で、どっちが俺の相手だ?優しく組み敷いてエスコートして、色んなもんをブチ込んでやるよ」

「まぁ、品が無いですわね。そんなんだからメイに逃げられるんですのよ」



 明確な敵意を放ちながら、青筋を立てたセブンジードは銃を引き抜いた。



 思えば、お前らには散々な目に遭わされた。

 第一王子派閥だった実家が失墜したのも、軍で汗水流して働くようになっちまったのも、未だにメイを手に入れられないのも全部お前らのせいだ、と睨みつける。



「うっせぇ!今の俺は魔弾のセブンではなく、シルバーフォックス社のチャラ男だ。やる事やるに決まってんだろ!!」

「セブンジードさん!!会社のイメージを損ねるような事はしないでくださいね!?これも厳令ですよ!!」



 横からサーティーズの叱責が飛ぶが、セブンジードの耳には届いていない。

 新入社員が言う事を聞いてくれません……と落ち込みそうになるも、胸の中の希望を思い出して立ち直った。



「では総力戦という形で良いですか?既にこの場所は私の権能の範囲内。増援は見込めませんよ?」

「やっぱりねぇ。何らかの形で外界と遮断されていると思ってたわぁ。セブンジード達を解放した後で、今度は余達を捕まえるつもりだったでしょぉ?」


「ふふ、それとこれとは話が別ですからね。弊社はお客様を裏切ったりいたしません。すでに戦争業務を請け負っている以上、当然の結果ですよ」

「そうよねぇ。じゃ、貴方の権能の中にいる()全員で戦いましょぉ。最後に立っていた者が勝者よぉ」



 適当に話を打ち切り、二人の間に張り詰めた空気が流れた。

 そして、この場で一番の巨体がセブンジードの前に歩み出る。



「ふむ、どうやら儂の出番の様ですな。お相手をお願いしますぞ、セブンジード殿」

「ふっざけんなぁぁッッ!!今の話の流れちゃんと聞いてた!?」


「聞いておりましたぞ。数多くの女を抱いた儂ですが、男にエスコートされた経験はないですからな。互いにレベルも上がりづらくなっておるでしょう?いい経験になると思いますぞ」

「そんな経験でレベルアップしたくねぇ!!チャラ男の名にも傷が付くッ!!」



 思わず噴き出したサーティーズとナインアリアを放置して、テトラフィーアはレジェリクエに視線を向けた。

 グオの戦闘力について、多くの疑問があったからだ。



「率直に聞きますが、グオ大臣って戦えますの?」

「マジな話、尻尾が生える前のリリンよりも強いわよぉ」


「……はい?」

「稀代の賢王・チュインガムの名は伊達じゃないのぉ。王宮にある魔導書を全て記憶し、7割を実践レベルで使える魔導師って言えば分かるかしら?」


「すみません、大変失礼な事を言いますわね。あの体格で魔導師ですのっ!?」



 内務大臣をしている時のグオは、全体的に丸っこい。

 常に笑顔を浮かべて人柄も良く、言葉遣いも丁寧で、ついでに身体も丸い。


 だが、重ねた厚着を脱ぎ払い、必要最低限の軍服のみを着た今、その身体は岩を彷彿とさせる。

 本職の軍人よりも鍛えられた鋼の肉体を持つにもかかわらず、魔法職(自分と同じ)だと言われ、テトラフィーアは首を傾げたくなったのだ。



「ほっほっほ、驚かれましたかな?テトラフィーア様。体を鍛えているのはただの趣味。儂の本職は魔導師ですぞ」

「……。さらに失礼な事を言いますわね。オーガの様な体格なのに魔法で戦いますの?殴った方が早そうですが」


「はっはっは!無論、儂の拳は並みの魔法よりも速いですぞ。だがしかし、魔法は拳よりも更に速い。儂の魔法を見切るのは骨が折れますぞ」

「……。グオ大臣が有能過ぎて、私の存在価値が揺らいでますわー」



 遠距離線が得意なセブンジードと近距離戦主体のグオの相性は良くない。

 そう思っていたテトラフィーアは、またもや勘違いさせられていた事に敗北感を覚えている。

 そして、このストレスを存分に発散しようと気持ちを切り替え、サーティーズへ向き合った。



「では、セブンジード隊の対処はグオに任せますわ。陛下、それでいいですわよね」

「頑張りなさい、グオ。勝てたら一週間『おにぃちゃん』って呼んであげるわぁ」

「はっはっは!……儂、本気出す」



 ばちぃん!っと拳を撃ち付けたその姿は、まさに武人。

 アレの何処が魔導師ですの?とテトラフィーア達は首を傾げるも、それぞれの敵を見据えて配置につく。

 そして、レジェリクエとテトラフィーアの前に、サーティーズとナインアリアが並び立った。



「……おい、お前はこっちだぞ。ナインアリア」

「はいはいはいー!自分はサティ社長の護衛に回るであります!!」


「ダメに決まってんだろ」

「けだもんジードさんと一緒に働くと汚されそうであります。自分、まだ生娘でありますし、どっちかを選ばなくちゃいけないなら百合の方が良いでありますので」


「お前は俺をなんだと思ってんだよ!?」

「そうです!!百合もしませんからね!!」

「それに……テトラちゃんには思う事があるでありますよ。自分、裏切られたり、捨てられたり、そういうのは許せないであります」



 ギラリ。と鋭い視線を向け、ナインアリアは睨んだ。

 獰猛な肉食獣を連想させるその瞳に、テトラフィーアが思わずポツリと呟く。



「アリア……?」

「失せろであります。人を平気で裏切るような奴は、自分、大っ嫌いであります」


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― 新着の感想 ―
[良い点] いつも楽しく読ませていだいてます! [一言] タヌキさえ相手じゃなければ、レジェ陛下はやはり強いというか自分のスタンスに持ち込むのが上手いですね! ちょいちょい怪しいと感じていましたが、…
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