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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第10章「真実の無尽灰塵」

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第30話「敗北の始末」

「はー。ワルトナさんが敵じゃなくてホッとしましたわー」



 深い森の中、レジェリクエとテトラフィーアは互いの顔を見やって溜め息を吐いた。


 大魔王反省会を終えたワルトナは、転移の魔法陣を使い東塔へさっさと帰還。

 親友同士で敵対した実例を知っている二人は残され、ワルトナと無事に和解できた事に安堵している。

 ……が、唐突に妖艶に笑ったレジェリクエは、深刻そうな顔をテトラフィーアへ向けた。



「いやいや、貴方にとってはドストレートに敵でしょぉ」

「なんでですのッ!?」


「ユニクルフィンのぉ、恋敵ぃ」

「あぁ、いや、まぁそうですけど……。でも、ワルトナさんは思い出話をする時に私も誘ってくれましたわ。これは友好を深めたいって意思表示ではありませんの!?」


「ワルトナならこう言うでしょうねぇ。『願望だねぇ、眼中にないねぇ』。よーするに、ワルトナから見たらテトラは敵にすら成れていないの。分かるぅ?」

「うっ……。でも、私にはリリン様やワルトナさんには無い絶対的有利がありますわ!ユニフィン様は、私の胸に興味津々でしてよっ!!」


「それを言ったら物理的に殺されるから、絶対にやめときなさぁい」



 レジェリクエが冗談を言っているのは、戦いの前に張り詰めた精神を解きほぐし、戦いに備える為だ。

 ワルトナが敵に回るという最悪のシナリオこそ回避したものの、置かれている状況は好ましい物ではない。



「テトラ。セブンジードとの通信が途絶えた時の情報を、もう一度教えてくれるかしら」

「分かりましたわ。ですが……セブンジード隊の通信が途絶えた時は丁度、帝王枢機と鬼ごっこをしていた時でして……。正直、しっかり聞いている余裕はありませんでしたわ」



 申し訳なさそうに頭を垂れるテトラフィーアだが、その責任は自分にあるとレジェリクエは思っている。

 セフィナと戦闘を始める前には既に、セブンジードは交戦状態に入っていた。

 ならばこそ、その戦闘の決着がつくまで時間稼ぎをするべきだったと、レジェリクエは密かに奥歯を噛みしめる。



「セブンジードが交戦した敵は8名の小隊規模。リーダーはシルバーフォックス社の部長だと報告が有りましたわ」

「営業職の男ねぇ。彼自身も、それなりに高い戦闘力を持っているって噂だったはず」


「ですが、セブンジードの敵じゃありませんわ。事実、順当に勝利できそうだと報告が上がっています」

「余もそう思うわ。だからこそ、より強力な戦力『社長』の関与を疑ってるわけ」



 レジェリクエは、ゆっくりと立ち上がり深い森の奥を見つめた。

 手に持っているのは現在地を示す魔道具。

 その画面には、レジェリクエ達に高速で向かって来ている影が映し出されている。



「余は確定確率確立で敵の戦力を図る場合の試金石としてセブンジードを用いている。余の配下の中の一般人(常識枠)で一番強いからね」

「ホント強かで良い男ですわね。……女遊びをしなければの話ですが。早くメイと結婚して身を固めて欲しいですわー」


「セブンジードとシルバーフォックス社長が戦った場合の勝率は、僅か8%ぉ。こちらもかなり絶望的ぃ」

「ですから、セブンジードにナインアリアを付けたんですわ。彼女の戦闘力はセブンジードに匹敵しますわよ」


「そうね、今回編成した『セブンジード隊15名』 VS 『シルバーフォックス社の総力』で測定し直した場合の勝率は85%。まず負けないという結果になったわ」

「だからこそ、シルバーフォックス社以外の加勢があったと結論づけたんですわよね?」



 レジェリクエ達がワルトナを疑ったのは、負けるはずの無いセブンジードが負けたからだ。

 確定確率確立はレジェリクエが知らない要因すらも考慮し、確率を導き出す。

 だからこそ、シルバーフォックス社の総力とした場合、その時点で参加できるシルバーフォックス社員すべてと戦ったと仮定されるのだ。


 だが……、もしも、その大前提が歪んでしまっているとしたら?


 ワルトナが関与を否定し、逆に、シルバーフォックス社がブルファム王国最強という裏付けを得てしまった。

 ならばこそ加勢に意味など無く、シルバーフォックス社単体でセブンジード隊を下した事になる。


 そして、レジェリクエは一つの可能性に行きついた。



「これは……裏切られた?いや、騙されていたのね」

「裏切り、ですの?」


「もしも、シルバーフォックス社の社長自らがセブンジード隊に潜伏していた場合、社長はこちら側の戦力として集計され確率を導き出すわ。それでは全く意味が無い」

「なっ!?ありえませんわよ!!私と陛下の神の因子を掻い潜り、騙し切ったというんですの!?」



 当然ながら、セブンジード隊の全員がレジェリクエとテトラフィーアの面談を終えている。

 嘘を聞き分けるテトラフィーアがいる以上、その調査は絶対に揺るがないはずなのだ。


 だが、レジェリクエは全てを察したような表情で、首を縦に振って肯定した。

 最も信頼を置いていた神の因子の情報の齟齬。

 あり得ないはずの状況に、思わずテトラフィーアは息を飲む。



「私の絶対音階を騙せるんですの……?そんな事って……?」

「どうやったのかは後で考えましょう。今は……」



 がさっ、っと遠くの木の枝がざわめいた直後、凄まじいスピードで黒い物体が飛来した。

 ズドン。っと大地を舞い上がらせてレジェリクエの前に降り立った男は、一見してふくよかな体格。

 だが、その両腕に隆起した筋肉を見れば、鍛え抜かれた肉体なのは明らかだ。


 その男は僅かに息を整えてから立ち上がって歩み出し、そして、レジェリクエの前で片膝を付く。



「流石ね。一番乗りよぉ……、グオ」

「ふぉふぉふぉ。有事の際に動けぬデブなど、九等級奴隷(家畜)以下ですぞ」


「筋張ってて美味しく無さそぉ」

「それにしても……、御無事で何よりでございます、陛下。真紅の巨人に撃墜された時は肝が冷えましたぞ」


「余も肝が冷えたから、お互い様って事でぇ。さて……グオ、力を貸しくれるかしら?」



 見据えるは、遥か彼方に居る敵。

 レジェンダリア国が包括する純粋な戦力のトップ3がここに集い、崩壊した戦略を一から組み直していく。



 **********



「あぁ、まだ名前を聞いていなかったな。調書を書かなくちゃならねぇから教えてくれ。ついでに『情状的酌量の余地あり』とでも書いといてやるぞ」


 

 天穹空母が撃墜されるほんの少し前、組み敷いた指揮官の男の後頭部に銃口を突き付けながら、セブンジードが問いかけた。


 大地に押し倒されている8人は、全てがシルバーフォックス社の制服を着た男であり、レベルの平均も5万を超えている。

 だが、指揮官を取り押さえているセブンジードを含め、レジェンダリア兵はまったくの無傷だ。


 会敵してから戦闘を終えるまで、シルバーフォクス社の社員達は何もさせて貰えなかった。

 剣を交える事も、魔法を発動する事も。

 いや、その前準備……、武器を抜く動作や、呪文の詠唱でさえ、まともに行えなかった。


 セブンジードが銃を抜いた刹那、前衛と思わしき社員6名の膝が砕けた。

 激しく跳弾を繰り返す弾丸に膝裏を撃ち抜かれてバランスを崩し、身体が大地に落ちた時には既に、両肩も同様の状態となった。

 さらに、意図的に対象から外された魔導師の男は、弾丸と共に駆けたナインアリアに抱かれており、既に意識を手放している。


 唯一攻撃の回避に成功した指揮官の男は、たった一手で壊滅した同僚を見据えた後でセブンジード達を視認して見開き――、その後も抵抗を続けるも、小さな戦果すら上げられなかった。



「お前にも立場ってもんがあるよな?『シーグリン』。俺だってそうだよ、ちくしょうな姫やら女王やらに扱き使われてクタクタだ。早く仕事を終わらせて飲みにいきてぇ」

「……。」


「俺は養う家族とか別にいねぇし、お前の矜持とかも良く分からん。だが、結局は命あってのもんだってのは変わらねぇだろ。……もう一度聞く。シルバーフォックス社の内情を喋れ。さもなくばソイツとその家族を殺す」



 セブンジードが指差したのは、シーグリン同様にシルバーフォックス社の営業を行うとして顔が知れている男だ。


 シルバーフォックス社の情報を集めていたセブンジードは、表立って行動している社員の経歴や家族構成など、あらかたの情報を手に入れている。

 それなのにあえて問いを発したのは『捕虜として従順になるのなら、身の保証をしてやる』という意思表示だ。


 既にテトラフィーア大臣を通じて『手段を問わず、情報を引き出しなさい』と命令されている以上、捕らえた8名の追及を緩める事は許されない。

 だが、自発的に喋るのなら拷問の必要など無くなるのだ。



「言っとくがな、俺は男を殺して喜ぶ趣味なんてねぇぞ。むしろ、お前なんか放置して混浴へ全力ダッシュしたいと思っている」

「……。」


「が、そんな事をすれば天国に行く前に天に召されちまう訳だ。うちの大魔王はおっかねぇからな。なぁ、レジェンダリアに乗り換えるってのはどうだ?金なら出すぜ」

「……我ら、シルバーフォックス社」


「話が分かるじゃねぇか」

「社訓その一、『まずは挨拶、ハッキリと。語らず落ちるは信用なり』」


「……なに?」



 苦汁を噛みしめながら口を開いたシーグリンが言い出したのは、シルバーフォックス社の社訓というズレた情報だ。

 だが、ズレていようとも、情報には変わりない。

 そこにどのような意図があるのかも含め、セブンジードは様子を窺っている。



「……その十三、『追及するは、己の恥のみ。仲間を売らず、裏切らず』

「そういう事か。いい度胸だな」



 一から始まった社訓の唱和を聞いていたセブンジードの額に、青筋が走った。

 シーグリンがあえて社訓を唱えている理由、そこに当て付けを読み取ったのだ。



「サーティーズ、俺の荷物から短剣を取り出してダグワズに渡せ。アイツの指を落す」

「はわわわわ……っ!」



 新兵であるサーティーズとバルバロアの役割は、指揮官と遊撃役のセブンジードとナインアリアの荷物持ちだ。

 一応は間者であったバルバロアよりも適任として、サーティーズがセブンジードの鞄を持っている。



「はわわわわ……っ!はわ、はわわわわ……っ!!」



 新兵になった直後にも関わらず戦場に出て、敵の主力部隊と交戦する。

 それは、つい昨日まで学生であった者が体感するにしては刺激が強すぎる現実だ。


 青ざめたサーティーズは震える手で、奪われても問題が無い程度の装備品が入ったカバンを漁るも……、目的の短剣が取り出される様子は無い。



「はわ、はわわ……、はわわわわ……!!」

「おい、何をしている!まだ戦闘が終わった訳じゃねぇぞッ、気を抜くなッッ!!」



 1秒の遅延が、大きく戦況を狂わせる事がある。

 ましてや、脅しを掛けている敵に部下の掌握が済んでいない姿を見せるなど、拷問という心理戦に影響を及ぼしかねない失態だ。


 それを見ていたバルバロアは自らのバックから短剣を取り出し、サーティーズに近寄っていく。

 そして、落ち着いた雰囲気のバルバロアが短剣を差し出そうとして――。



「はわわわわ……!!」

「気持ちは分かるが、少し落ち着け。サティ」


「はわわわわ……、はわわわわ……、はわわわわ……」

「……サティ?」


「はわわわわ……はわわわわわわわ。はわわわわ……。はわわわわわわわ、はわわわわわわわ……………………、はぁ~~あ。」



 間の抜けたサーティーズの溜め息が、深緑に木霊した。

 そして、思わず眉をしかめたバルバロアなどに目もくれず、サーティーズは持っていた荷物を投げ捨てる。



「何のつもりだ?サーティーズ」

「溜め息くらい吐きたくなりますよ。それに、自分で言ったんじゃないですか、戦闘は終わっていないと。まぁ、貴方達くらいなら、両手が塞がってても何とかなりますけど」


「なに?」

「シルバーフォックス社・社訓、その二十九。『業務存続不能に陥った場合、ただちに上司に報告せよ。焦らず、惑わず、諦めず』」



 サーティーズはシーグリンの声に合わせて社訓を唱和しながら、悠然とセブンジードの横を通り過ぎた。

 その腕の中には、組み伏せられていたシーグリンが抱えられている。



「業務不履行ですね。報告しなさい、シーグリンさん」

「私の実力不足が招いた失態です、申し訳ありません……、社長」


「後で始末書を書いて貰いますからね。おっと、その前に……労災扱いで病院に行かないと」



 一瞬の邂逅を終えると、サーティーズの横には8名の社員が並んでいた。

 それぞれが負傷した社員は、誰ひとりとして立っていない。

 それでも、全ての視線が唯一立っている『社長』へと向けられている。



「シルバーフォックス社・社訓、その三十。『頑張れるだけ頑張ったら、あとは社長()に任せなさい。みんなで利益を分けましょう』」

「……てめぇ。敵か、サーティーズ」


「はい、そうですよ。改めまして、私がシルバーフォックス社の代表取締役社長、サーティーズです。以後、お見知りおきを」



 にこりと薄い笑みを浮かべ、サーティーズは礼儀正しく一礼した。

 いつの間にかシルバーフォックス社の制服を身に纏い、得体の知れない不気味さを撒き散らしている。



「手品が得意なようだな。戯楼鳴鳥で仕込まれたのか?」

「そんなものと一緒にしないでください」


「じゃあなんだ?」

「そうですね、あえていうなら……これは人間には過ぎた力ですよ。《時の遊郭》」


「なっっ……!?」



 受付嬢の様に前で腕を組んでいるサーティーズ、その周囲に光が蠢いた。


 ふぁさふぁさと振り乱されるは、黄金色の八尾。

 その透き通る金毛は、数千年の時を生きた偉大なる皇種から授かった――、神が授けし権能だ。



「この尾に宿っているのは、母様から受け継いだ『時を支配する力』です」

「時間を支配する……だとッ!?」


「……偉大なる狐の皇、極色万変・白銀比。その名を聞いた事はありませんか?」



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