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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第10章「真実の無尽灰塵」

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第29話「大魔王反省会④」

「あるわ。余が知っているのは……、神を騙し、移ろう姿は世界の具現化と等しいと謳われた進化と疑心の魔剣。犯神懐疑・レーヴァテイン。……レジェンダリアの王位継承に必要な国宝よ」



 切り捨てるようなレジェリクエの告白に、ワルトナは息を飲んだ。

 それ程までに、レジェリクエの口から犯神懐疑レーヴァテインの名が出る事は予想外だったのだ。



 大聖母専用の書室への出入りを許された僕が最初に手に取った本は、神殺しが記された文献だ。


 ユニが持つ『神壊戦刃・グラム』

 僕が持っている『神栄虚空・シェキナ』

 セフィナが持つ『神魔杖罰・メルクリウス』


 ソドムが持つ『神敗途絶・エクスカリバー 』

 ゴモラが持つ『神域浸食・ルインズワイズ』

 エルドラドが持つ『神縛不動・ヴァジュラ』


 リリンが持つ『星丈・ルーンムーン』

 ユルドルードが持つ『神愛聖剣・黒煌』


 僕が知っている6本の神殺しに加え、神殺しの根源たる星丈―ルーンムーンと、世界の終焉を成す神愛聖剣・黒煌。

 これら全ての能力を把握し、やがては超える為に僕は情報を欲した。

 そして……、簡単に世界を壊しうる力を宿していると、最も警戒していたのが犯神懐疑レーヴァテインだ。



「……とんでもない名前が出てきたね。レジェ、何故隠していた?」

「貴方が自分の出自を語らないように、レーヴァテインは余の起源に触れる魔剣。おいそれと語れないでしょぉ」



 言外に情報開示を求めたワルトナに対し、レジェリクエは妖艶な嘲笑を返した。

 貴方と同じ事をしていただけだと余裕すら浮かべ、ワルトナを見やっている。



「レーヴァテインがどういう代物なのかも把握しているようだね。……降参、僕の負けだ。対価を支払うから、どういう事なのか教えてくれないかな?」

「三つ、無条件で余のお願いを聞くこと。できるかしら?」


「ぐぅの音もでないねぇ。ちなみに、鳴いたらお願いの数が減ったりしな――」

「アホの子三姉妹のデビューシングルは『ぐるげぇ!ゲロ鳥くん』が良いかしらぁ?」


「……禁止ワードはタヌキとゲロ鳥で。それらが含まれていないお願いを三つ叶えようじゃないか」



 ワルトナは冗談を混ぜ込んだ話術で情報を引き出そうとするも、それを逆手に取られて致命傷を負った。

「こんの大魔王陛下ならマジでやりかねない」と戦慄し、厳しい条件になる事が確定する危険ワードを除外しつつ速攻で譲歩する。



「そうね、まずは一つ。ワルトナの出自を話すこと。これにはユニクルフィンやリリンサ、ユルドルードやテトラフィーアがどう絡んでくるのかも含まれるわ」

「まぁ妥当な所だよねぇ。その内、話さなくちゃならない事だし」


「ニつ。英雄ローレライに関するあらゆる情報を寄越しなさい。これは恒久的に続く契約とするわ」

「……なるほど。そう来たか」



 本来ならば、レジェリクエの過去=ワルトナの過去で釣り合いが取れる。

 だが、ワルトナは余分にお願いを聞く事で、セフィナが起こした失態の補填をしようとしているのだ。


 時価総額で数千億エドロを下る事は無い、天穹空母の建造費。

 そして、数年かけた軍事戦略が破綻した事への詫び。

 それらは金額に表す事が出来ない程の資産の消失であり、どれだけの法外な請求をされるのかと身構えていたワルトナは――、勝機を見い出した。



「三つ――、」

「その前にちょっと良いかい?」


「何かしら?余の言葉を遮る程の事だと良いのだけれどぉ?」

「なんて事は無いさ。僕のお宝を自慢しようと思ってねぇ」



 そう言ったワルトナの顔には喜色が浮かび、ニヤニヤと悪い笑みすら浮かべている。

 その酷い面構えを見て、レジェリクエは失策だったと気が付いた。

『英雄ローレライに関するあらゆる情報(・・)』では無く、『ローレライが関与しているあらゆる実証(・・)』とするべきだったのだ。



「これはノウィン様から買い取ったもので僕個人の資産だ。二番目のお願いによって此処に記された情報を言葉として語る義務はある。けれど、物証そのものを譲り渡す義理は無いよねぇ。《サモンウエポン=ユニアルバム》」



 ワルトナが召喚したのは一冊の分厚い写真帳だ。

 幾つもの防御魔法が重ね掛けされているその表紙には丁寧な字で『ユニの成長記録』と書かれており、その内容を察する事が出来た。



「ほら、よーく撮れてるだろう?小さい頃のユニと……、自称・ユニのおねーさん。レラさんだよー」



 ワルトナが自信たっぷりに開いたアルバムの一ページ目、そこには笑顔でVサインをしているユニクルフィンと、ユニクルフィンと手を繋いで頬笑んでいるローレライの姿が映っている。

 そして、それを見たレジェリクエの反応は……、驚愕で目を見開いた後、今までの全てを赦すという満面の聖母の頬笑みを浮かべた。



「ワルトナぁ……。この写真帳を余にくれるなら、今までの失敗をぜーんぶ赦してあげるわぁ。ついでに、アホの子妹に感謝状を進呈するわぁ」

「私も!私も欲しいですわ!!」

「いやいや、言っただろう?このアルバムは僕のお宝だって。……コピーで良いかな?」


「いいわよぉ!!」

「私も!!」

「これでお願いは三つだね。あっそうそう。もちろんこうなると思って用意してあるよ!」



 ワルトナは軽快な声で準備済みだと答えながら、追加でユニアルバムを取り出した。

 そして、その言葉には嘘が含まれているとテトラフィーアは気が付いている。

 そのユニアルバムはリリンサを懐柔する為に準備していたものであり、レジェリクエに渡すつもりは無かったものなのだ。


 だが、それで満足するならとワルトナは進んで差し出した。

 10冊もある複製品でご機嫌取りができるなら安い物だと、上機嫌に鼻を鳴らしている。



「ロゥ姉様……。あぁ、尊い……。尊すぎるわぁ、ロゥ姉様……。ロゥ姉様、ロゥ姉様ぁぁぁ」



 一ページ一ページじっくり検分するようにアルバムをめくりながら、レジェリクエは身悶えている。

 さらに、横ではテトラフィーアの熱い吐息が零れ、結果的に非常にいかがわしい空間が生み出された。


 ねぇ、今、戦争中だよねぇ?

 こんな事してて良いのかな?セブンジードとか助けに行かなくて良いのかな?


 とワルトナは思っている。



「あはぁ……。ロウ姉様の成長が見られるなんてぇ……。ずっと友達でいましょうね、ワルトナ」

「そうだね!っという事で、そろそろ情報の擦り合わせをして会談をお終いにしよう。そろそろセフィナが王宮に着く頃だし」



 レジェリクエの反応を鑑みて、ワルトナは何が起こったのかの見当を付けている。

 だが、情報共有を疎かにしたが故のアホの子襲来であり、ここで意思の齟齬を解消しておかなければ、致命的な事態に発展すると判断した。



「本当はユニとあの子に対する熱い思いをじっくりと語りたいんだけどねぇ。時間が無いから要点をまとめたダイジェスト版でお送りするよ。それでもかなーり時間が必要だ、なにせ僕が今か語るのは正真正銘の英雄譚だからさ」



 まずは自分が情報の開示をすると、ワルトナが過去を語りだした。


 深い森で蟲に襲われユニクルフィンと『あの子』に助けられたことから始まり、ユルドルード達の旅、クソタヌキやラグナガルムとの出会い、蟲量大数との決戦と『あの子』の結末。

 自分が覚えている限りの情報に、後からノウィンに教えて貰った情報を織り交ぜて話し終えたワルトナは、ふう。と小さく息を吐く。



「僕の人生を掛けた目標、それは、あの子やユニと共に生きていく事だ。その為にリリンとセフィナを導いて、やっと此処まで来たんだ」

「まさに神をも畏れぬ禁忌ね。でも……、余は好きよ。とてもね」


「あの子を取り戻した後、最終的に僕らは蟲量大数と戦う事になるだろう。だが、以前のユルドおじさん達ですら蟲量大数には勝てなかった。グラム、メルクリウス、黒煌、ルーンムーン。世界最高峰の4本を以てして、まるで歯が立たなかったと聞いているんだ」

「だから、それ以上の戦力を手に入れる為にセフィナを育て、自らもシェキナやラグナガルムを手に入れた。来るべき戦いに勝つ為にって事ねぇ。こっちに来なさい、ワルトナ。褒めてあげるわ」



 レジェリクエは不躾にワルトナを手招き、頬笑みを浮かべた。

 速攻で「今度は何を企んでいるのかな?」と警戒したワルトナは、何が起こっても良い様に身構え――、ゴシゴシと無遠慮に頭を撫でつけられて驚愕する。



「良い子ねぇ。とても頑張ったわねぇ。ワルトナ」

「わぷ!……レジェが実力を隠していた事は知ってたけど、今の動きは予想外だ。僕とユニを除いた心無き魔人達の統括者の中じゃ一番強いだろ」


「余は施政者だからねぇ。国王自らが戦うのは違うでしょ。だけど、それももう止めるわ。ロゥ姉様がレジェンダリアに帰還するのなら、国王の席にはロゥ姉様が座るのだから」



 そうして、今度はレジェリクエが出自を語り始め、ローレライが如何にして国を出る事になったのかまでを話し終えた。

 そこにホーライが関与していた事を知ったワルトナは驚きつつ、栄誉を含んだ眼差しをレジェリクエへ向ける。



「キミも大概に波乱万丈な人生だね。尊敬するよ」

「どういたしましてぇ。ねぇ、後でじっくりお話ししたいわ。今度は温かい暖炉のある談話室で、お茶とクッキーでも用意してね」


「その時はリリンやユニ、セフィナも呼びたいねぇ。テトラフィーア、キミも来るかい?」

「もちろんですわ!」



 これでお互いに大きな隠し事は無くなったと、ワルトナは笑った。

 その意図を汲み取り、レジェリクエも笑みを返す。



 そう、本当によく頑張ったわね、ワルトナ。

 周りの人間全てに嘘を付き、自分すら偽ってまで努力を重ね、貴方はとても大きな成果を出した。

 なら、後は幸せになるだけだもの、余も応援するわ。



「――で、ローレライの関与を知らない僕は、シルバーフォックス社あたりがレーヴァテインを使って澪騎士を誘拐したんだと思って、調べに出たってわけさ」

「悲しい事故だったわね。防ぎようが無いもの」


「しょうがないんだろうけど……、僕はまたしても地雷を踏んだのか。ホント、自分の運の無さが嫌になるねぇ」

「ちなみに、ロゥ姉様の関与の可能性はどのくらいあると見積もっているのかしら?」


「割と高い確率だと思っていい。僕は神殺しの関与を疑い、所在が不明なレーヴァテインかもしれないと当たりを付けた。そして、確証を得る為に大書院に戻って資料を探していた訳だ」

「なるほど。調べた情報と一致したって訳ね。……そう、ロゥ姉様が見ていたのね。余の無様な戦いを」



 レジェリクエが天穹空母に戦いを挑んだ理由で、テトラフィーアに語っていないものがある。

 それは、ローレライの関与を疑い、高い戦果を上げようとしたというものだ。


 そして……、施政者にあるまじき行いした結果、大敗を喫するという大失敗に終わった。

 こんな姿を見せてしまった以上、もう一回たりとも負けは許されないと、レジェリクエの瞳に光が灯る。



「もう、なりふり構っていられないわ。敵対者は片っ端から全力で潰しましょう」

「結構な事だが、見られたのが確定していない事をお忘れなく。レジェやユニ話じゃ、英雄ローレライは割とノリが良くて好戦的なんだろ?案外、澪騎士と冥王竜相手に戦ってたかもよ?」


「ロゥ姉様が本気を出したら、あんな小物トカゲ1秒で全滅よぉ」

「それもそっか。僕だって5秒も掛らないだろうし」



 緩い口調の雑談めいた言葉の応酬も、その内容は世界戦争への決意だ。

 お互いに浮かべている笑みにはブラフと策謀が含まれており、それぞれ違う道を見据えている。



「さて、レジェ達はこれからどうするんだい?」

「シルバーフォックス社の社長を倒しに行くわ。セブンジードを失うのは惜しいものぉ」


「あぁ、利益第一主義のシルバーフォックス社は、無意味な殺生をしない。セブンジード隊が生き残ってる可能性は十分あるからね」



 レジェリクエがセブンジードを失っても焦っていない理由、それは既にセブンジードの未来が確定しているからだ。


 シルバーフォックス社は、捕えた敵を殺害するなどの私怨による報復を行わない。

 もちろん、戦闘中に敵を殺す事はある。

 だが、返り討ちにして生き残った敵は、改めて危害を加えずに鹵獲して人質とし、法外な身代金を要求するのだ。


 そして、その取引に応じれば、捕らえられていた者は全員残らず生きて帰ってくる。

 返された者たちは当たり前に無傷であり……、ごく稀に、患っていた古傷が完治していたという報告すらある。



「敵はシルバーフォックスだと僕が言ったのは単純な話でさ、セブンジード隊を倒せそうなのはソレしかいないって事なんだ」

「ワルトナはシルバーフォックス社について、どのくらいの情報を持っているのぉ?」


「レジェと大差ないよ。僕が知っているのは一般的なシルバーフォックス社の噂話程度。まぁ、しいてあげるならシルバーフォックス社の飼い主は指導聖母・悪才だって事くらいかな」

「なら、悪才の情報は欲しいわね。なんなら、今度は余がお願いを聞いてあげるわよぉ?」


「んー、残念だが『あえて何も語らない』が答えだね。なにせ……悪才って僕の師匠なんだ。僕の暗躍スキルはアイツから学んだものであり、情報管理を徹底して行っている。僕が知っている悪才に関する情報も意味が歪曲したブラフばっかりだよ」

「そう。……タヌキは化けてないわよね?」


「絶対ない。悪才が好きなのは金で、食べ物を金稼ぎのツールだとしか思ってないから」

「そう。タヌキじゃないならそれでいいわぁ」



 ワルトナの言葉は、シルバーフォックス社も悪才も『利益第一主義者』という共通点があると示唆している。

 指導聖母という立場を考慮すれば悪才が上なのは間違いなく、シルバーフォックス社を管理しているのが妥当だと言っているのだ。



「あぁ、知ってると思うけど、捕らえられた捕虜はシルバーフォックス社に関する記憶を抹消されている。一つだけ残してね」

「その記憶とは、次にシルバーフォックス社と会敵した場合、『人格をまるごと消去される』という強迫観念だって話よね?」


「そうそう、事実上の廃人にされるという脅しが脳内に刻みこまれた兵士は、決してシルバーフォックス社に関わろうとしなくなるって訳だ。もし、セブンジードを取り返したらカミナに診て貰おう。今のタヌキ・カミナは僕らの知ってる彼女じゃないから解決してくれるかもよ」



 芝居がかったやりとりはレジェリクエに向けたものではない。

 横で話を聞いているテトラフィーアへ向けたものだ。


 シルバーフォックス社には二度と関与できないという恐怖によって、セブンジードは軍人以外の道へ進み、テトラフィーアやメイの元から去ってしまう可能性がある。

 それを気に掛けているテトラフィーアを安心させる為、ワルトナは一縷の望みを言った。

 そして、その言葉に嘘はないと聞き分けたテトラフィーアは安心し、乱れていた呼吸を元に戻していく。



「それにしても、社長直々に乗り込んでくるなんて、いい度胸してるわよねぇ。テトラ、しっかりケジメを付けさせるわよ」

「勿論ですわ。私達を謀った罪は重いですわよ」

「なるほど、大体の当たりは付いてるのか。なら、僕は僕にしか成せない事をしないとね」



 レジェリクエ達の表情に勝機を見たワルトナは、破綻した戦略の修正へ奔走する事にした。

 天穹空母の代わりに帝王枢機を中心に添え、一撃で戦争を終わらせる切り札とするのだ。



「じゃあ、僕はアホの子の尻ぬぐいと行こうかねぇ。あんなもんを出しちゃったからには最大限に利用する。帝王枢機の噂を広めてブルファム王国の守護神として確立させておこう。……で」

「大魔王・無尽灰塵(リリン)と一騎討ちさせる訳ねぇ。どっちが勝ったとしても、結局、余達の掌の上ぇ。後見人として余が立つかワルトナが立つかの違いしかない」


「そーゆーこと。どっちにしろロイが王位継承者になる訳で、結末は同じものさ。くっくっく、陛下も悪だねぇ」

「ふふふ、牧師様ほどじゃないわよぉ」



 墨汁の様な笑みを浮かべ、ワルトナとレジェリクエは笑い合った。

 何処からどう見ても大魔王なその姿に、思わずテトラフィーアがポツリと呟く。



「あえて言いますわね。……どっちも悪で真っ黒ですわー!!」




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