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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第10章「真実の無尽灰塵」

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第25話「天穹の覇者④」

「えい!えい!ふふん!!おっきな鳥さん、いつでもかかって来てください!!」



 忌々しげに空を飛ぶ天穹空母の軌道の収束点、そこで真深紅の魔導巨人が素振りをしている。


 世界最強・十の神殺しの一つ。神域浸食・ルインズワイズ。

 レジェリクエとテトラフィーアは平たい刃が先端に付いた細長い形状から、斧刃槍ハルバードだと判断していた。

 だがそれは既に過去の姿となり、六十四枚の刃で構成された球体状の鈍器へ成り果てている。


 それを眺めたテトラフィーアは――、金切り声を発した。



「陛下ッ!!何なんですのアレはッ!?」

「メイス、言うならば棍棒ねぇ。鬼に金棒って奴よぉ。赤いし」


「赤鬼の方が遥かにマシですわよ!?つーか、何で棍棒なんですの!?!?せめてもっと近未来武器にするのが道理では無くて!?せっかくのロボットですのよ!?!?」

「テトラ。アホの子に常識を求めた時点で負けなの。諦めなさい」


「むきぃぃ!理不尽ですわ!!アホの子ですわぁぁぁぁぁ!!」



 常に冷戦沈着なテトラフィーア大臣が取り乱している。

 それ程までに事態は深刻なのか。っと周囲の搭乗員達は逆に冷静になった。


 最も、テトラフィーア達はワザと声を荒げている。

 子供を泣きやませる為には、他の泣いている子供を見せればいいように、先立って錯乱した様子を見せる事で大恐慌を防いでいるのだ。


 そして、此処からは純粋なテトラフィーアの疑問。

 しっかりと『アホの子』と名指しで呼んで目標を指差し、ちょっと高めな声でレジェリクエに話しかけた。



「で、陛下。あれでは近づけませんわよ。アホの子に打ち落とされるとか、絶対に嫌ですわ」

「余だっていやよぉ。という事でぇ《声紋鍵盤魔法連オルガノンマジック螺旋火山弾スパイラルバレット》」



 操縦桿に搭載されたマイクを通して伝えられた声が、両翼に纏う金属プレートに共鳴していく。


 音階を伴って翼全体に広がっていく音の羅列は、対応している魔法プレートに魔力を通す。

 そうして、256枚の螺旋火山弾のプレートに光が宿り、天穹空母の軌道に沿って射出されたのだ。


 1秒間に22個、約12秒間の猛烈な射撃が亜音速でアップルルーンへ迫る。

 棍棒で撃ち落とすなどという動作では対応不可能、一定数はアップルカットシールドで防ぐだろう。と目算し――、


 256回の棍棒から発せられた破砕音と共に、その目算は砕け散った。



「……。これはダメですわね。近づけば一溜りもなく挽肉にされますわ……」

「つくね団子ねぇ。タレは何が良いかしら?」


「乙女の涙とかどうですの?塩辛いですわよ」

「焼き鳥には合わないと思うわぁ」



 最早、どう取り繕えば搭乗員の大恐慌を防げるのかと疑問を抱き、答えが思いつかなかったので雑に誤魔化した。

 それほど、二人が置かれている状況は良くないのだ。



「冗談を言っている場合ではありませんわね。戦闘開始から180秒経過。私達の心拍数が150を超えてます」

「遠距離攻撃は盾で防がれ、接近戦は不利。奇襲にも対応され、逃げられる可能性もない、か。流石リリンの妹ねぇ」


「戦闘可能時間、残り約800秒。勝ち目はありますの?」

「相手は『言葉が通じる』アホの子。なら、こちらが勝利条件を設定する事は可能よねぇ」



 一定距離を開けて飛ぶように指示を出し、レジェリクエはマイクに唇を向けた。

 そしてニヤリと笑い、楽しげな声色で語り出す。



「セフィナ、貴方の事はリリンサから聞いているわぁ」

「えっ!?おねーちゃんはなんて言ってましたか!?」


「私の可愛いセフィナの得意な遊びは鬼ごっこ。私はいつも簡単に捕まえられてしまう!!……よぉ!」



 だって、私が隠れるとすぐ泣くから。そんな言葉を消去した告白は、セフィナの頬を緩ませるのに十分な効果を発揮した。

 大好きなおねーちゃんに勝てた数少ない遊び。

 その自慢の思い出を掘り起こし、アップルルーンは見るからに胸を張っている。



「ねぇ、セフィナ。私と遊んでくれないかしら?」

「遊びですか?」


「そう、『鬼ごっこの達人・すっごいセフィナ』と遊びたいのぉ。余を捕まえてごらん?」

「うん、いいよ!」



 よし、これで少なくとも撃墜される可能性は減少した。とレジェリクエ達は胸を撫で下ろした。

 自主的に捕まえると言っているだけでは無く、姉の名前を出して遊びを強要すれば、多少は身の安全を確保出来ると判断したのだ。


 なお、二人が良く知っているアホの子姉は、鳶色鳥を捕獲しろと言ったのにも関わらず爆殺した事が少なくない。

 心無き魔人達の統括者時代、研究の為に2~3匹捕獲しようとして、ホロビノの腹が膨れるだけの結果に終わった事すらあったのだ。


 ぶるり。っとした悪寒を無視し、レジェリクエは更に設定を推し進める。

 まともに戦っても勝ち目はない。

 なら、勝ち目を創り出すのが、施政者の役割だ。



「ルールはそうねぇ。先に相手に触れた方が勝ち。魔法での接触は無効。でどうかしら?」

「自分の手で触れば勝ち?なにで触っても良いの?」



 魔法を使わない空中格闘戦。

 セフィナから見た提案は非常にシンプルであり、至極簡単なものだった。

 だが、そこには当然、策謀が張り巡らせられている。


 短時間での決着を望むレジェリクエ達にとって、最も回避するべくは戦闘の膠着状態だ。

 極論、セフィナが機動力を駆使して時間稼ぎをすれば、先に魔力切れでこちらが潰れるのは必定。

 どんな不利があるにせよ、レジェリクエは攻めざるを得ない状況だったのだ。


 だが、言葉巧みに戦況をコントロールし、セフィナから攻めさせる事に成功した。

 なら後は、数百の罠を仕掛け、絡め取るだけとなる。



「手じゃなくても良いわよぉ。ただし、防御魔法とバッファ以外を纏った状態での接触は無効になるわ。簡単に言うと、おっきな鳥さんは翼に炎と風の攻撃魔法を纏っているから、翼での接触は無効。こんな感じねぇ」

「じゃあ、ルインズワイズに魔法を纏わせないで叩けば勝ちだね。分かった、それで良いよ!」



 レジェリクエが設定した条件は、武器であっても触れれば負けというものだ。

 当然、一撃での破壊力を目の当たりにしてるルインズワイズも判定内としたのには、相応の理由がある。


 明らかな危険物を更に強化した状態で使われれば、事故死の確率が急上昇する。

 なら、ただの刃物として扱わせた方がマシだと判断したのだ。



「これで最低限の準備は済んだわぁ。あとは……」

「ただ、逃げ回れば良いんですわよね?」


「そうよぉ。余が準備を終えて指示を出すまで、全力で逃げなさい」

簡単シンプルで良いですわね。ちょっと飛ばしますから、気を付けてくださいまし!」



 それぞれの神の因子によって、レジェリクエとテトラフィーアは周囲3kmの世界を観測し、掌握している。

 更に、テトラフィーアの絶対音感による完全位置把握と空気の流動による未来予測によって、アップルルーンの挙動の一部を予知しているのだ。


 アップルルーンは、空気の爆縮で得た推進力によって飛行していると、テトラフィーアは気が付いている。

 目算した重量と放出される空気から推察される運動エネルギーに差異がある為、重力を軽減する何かがある事も見抜いており、それらは既に搭乗員によって演算が行われていた。



「演算結果、奏上します!!アップルルーンの初速は――、」

「あら。思ってたよりも……、遅いですわね!」



 報告を聞いたテトラフィーアは、その結果から逆算し、ギリギリ捕まらない速度を導き出した。

 そして、天穹空母に両翼をはためかせて、竜巻を生成。

 大気に発生させている磁力によって機体を前に撃ち出し、竜巻の中を駆け抜ける熱波に乗って空に舞い上がる。



「よっし!鬼ごっこに勝って、おねーちゃんに褒めて貰うぞ!行くよ、ゴモラ!!」



 すっかり当初の目的を忘れかけているセフィナだが、その頭の上にはカツテナイ頭脳を持つゴモラがいる。

 その類稀なる知識と観察眼が見つめているもの、それは天空に隠されている複数の魔導規律陣だ。


 レジェンダリア王家に代々伝わる、大規模儀式魔法『魔法次元乗・四番目の世界へ』。

 それを模倣し脳内で編み上げた魔法陣構想を、レジェリクエは『支配声域』を使用し、翼から発している音階の羅列を使って空間へ直接刻んでいる。

 その光景は、不可視にて不認知。

 レジェリクエが張っている罠はその意思によって発動するものであり、その中をアップルルーンが通り抜けても反応を示す事は無いのだ。


 だが、ゴモラには魔法陣が見えているし、それが何を意味しているのかも理解している。

 そして、あえて何もしていない。

 それをセフィナに教える事も、教えずに秘密裏に消去する事もしない。


 なぜなら、今、セフィナが自分の力だけで勝つべく、一生懸命に頑張っているからだ。



「結構速いね!なら……、アップルルーン、脚部ブースター二段階目解放!重力軽減、5%オフ!……速度2割増しだよ!!」



 セフィナは大好きなゴモラが貸してくれた、物凄くカッコイイアップルルーンの操縦を楽しんでいる。

 なら、自分が手を出すのは良くない事だとゴモラは判断した。


 そこにあるのは……、自分が手を出さずとも、セフィナとアップルルーンならば切り抜けられるという絶対的な自信。

 数千年の時を知るゴモラの判断は、時に、世界を支配する大聖母よりも優れている。



「そちらもやりますわね!なら、こういう動きはいかがですの!」

「わわっ!!」



 テトラフィーアは巨大な機体を回転させ、その翼に纏う炎と風を周囲に撒き散らした。

 吹き荒れる火災旋風。

 それを律儀に回避し、開けてしまった距離を見つめ、セフィナはもう一度行くよ!と笑う。


 再び肉薄する機体。

 それを待っていたのように、レジェリクエは最後の戦いの口火を切った。



「設置完了よ。あと一仕事だけお願いできるかしら?テトラ」

「任せてくださいまし!」


「なら……、機体を反転。全力でアップルルーンに突っ込みなさい!」

「はぁっ!?……いいですわ、やりますわ!!だから陛下、ここにいる全員へ特別手当を期待してますわよ!!」



 操縦桿を目一杯に引き戻して宙返りをし、両の翼に纏う炎の魔法を解除。

 そして、テトラフィーアが知る限りの風魔法を唱えて加速し、一直線にアップルルーンへ向かっていく。



「テトラがここまで頑張ってくれたんだものぉ。余も本気を見せるわぁ」

「陛下……?」


「《大規模個人魔導(パーソナルソーサリィ)自動仕掛けの運命塔パーぺチュアル・ディスティニー》」



 操縦桿を握りしめ、レジェリクエは世界へ囁いた。

 数多に設置した魔導規律陣という名の、運命。

 そのスイッチを入れたのだ。


 カチリ。っと針が時を刻み始めた様に、天空に刻まれた130の魔導規律陣が駆動を開始。

 ゆらりと幽幻に塗れて顕現し、そこかしこで世界を斬り刻む音が聞こえ始める。


 大地から見上げた者の瞳に映る、複雑に円が重なり合った光景。

 それはまるで――、精密緻密な機械仕掛けの腕時計のようだ。



「うわわっ!?アップルカットシールドっ!!」



 高音を伴ってアップルカットシールドに連鎖炸裂するのは、束ねられた雷光槍の群れ。

 何処からともなく鳴り響く音階によって規則性を与えられたそれらの炸裂音は、開幕のオープニングの役割を十分に発揮する。



「今度は左!そして上!!」



 左にも同様にアップルカットシールドを展開し、上から迫りくる絶火の槍をアップルルーンの拳で撃ち抜く。

 そして、爆発四散させた余波をものともせず突き進んでくるは、魔法陣より生み出された鋼鉄の巨魁。

 圧倒的質量の衝突、それらをルインズメイスで叩き割り、アップルルーンは空へと駆けた。


 精巧に作られた機械式時計がそうであるように、これらの攻撃は全てレジェリクエの計算によって齎された――、運命機構。

 雷光槍が防がれたのも、絶火の槍が撃ち抜かれたのも、鋼鉄の巨魁が叩き割られたのも、すべてが計算された予定調和だ。


 アップルルーンを中心とし、迎撃される事さえも織り込み済みで計算されたそれらは、最小だと確定された未来確率の確立。

 レジェリクエ達の勝利という、最も低い確率……並行世界パラレルワールドへ至る為の手順だ。



「下、上、右……、あっ、左方向に、ゴモラ・ミサイル!!」



 灼熱の大輪が空間に発生した大樹を焼こうとも、次に吹きすさぶ吹雪には影響しえない。

 全てが一動一殺。

 セフィナは仕組まれた攻撃に対し、全て一撃で処理してゆくも……、だからこそ、同時に起こる事象には対応できない。


 レジェリクエの計算通り、88手目でセフィナに焦りの色が浮かび上がった。



「足が!?」



 ルインズメイスで砕いた氷塊の隙間から視認した右足、それは既に泥にまみれ、空気を吐き出していたブースターからは代わりに白煙が漏れ出ている。

 瞬間、セフィナは機体の装甲温度を上昇させて泥を燃焼気化。

 されど……、今度は左腕が炎に包まれる。



「なになに!?何が起こってるの!?」



 セフィナは天才だ。

 天才ゆえに直感で行動し、長く思考をすること無く戦いを終えてきた。

 だからこそ、その思考には……、予期せぬ出来事に対応しうる柔軟さが欠如している。



「知らないでしょぉ?失敗する事が前提で行われる攻撃を。見たこと無いでしょう?最適解からほど遠い無駄な一撃を」

「今のなに!?なんで、防いだはずだったのにっ!?えっ、あっ、待って、対応しきれな――っ!!」


「戦略も、運命も、どちらも同じもの。あらかじめ決めた事象(場所)へ収束するの。今の余たちみたいにねぇ」



 セフィナは、雁字搦めに縛られていく。


 その思考に柔軟性が有ったのなら、例えばアップルルーンの足を捨てる事で緊急離脱を成し得ただろう。

 だが、アップルルーンを借りているという思考が、姉に逃げたなんて思われたくないという意地が、セフィナを雁字搦めに縛り上げているのだ。


 迎撃以外の選択肢を削ぎ落された、アップルルーン。

 右手はルインズメイスを振るっており、左手は迫る魔法を防ぎ、右足は炸裂した炎から離脱していて、左足は絡み付いた弦を引きちぎっている。


 身を守る盾は遥か後方……では、その胸を守るのは?


 アップルルーンの胸部の真正面、そこに出現した転移魔法陣が生み出すのは、鋼銀色に輝く(くちばし)

 最高速度で迫って来ていた天穹空母、その先端が空間の壁を付き抜け、アップルルーンの右側を――、削ぎ落す。



「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「ヴィギルンッ!?」



 その悲鳴は、セフィナだけのものでは無かった。

 天穹空母の搭乗員の過半数も同様の悲鳴を上げており、幾名かは意識を失った程の衝撃を艦内に響かせている。


 だが、それでも。

 それを補って余りある戦果を得たのだと、右半身を失ったアップルルーンが物語っていた。



「つっ……陛下……、お怪我はありませんの?」

「無いわぁ。怪我をしたのはあっちだもの」


「……!?これは、ふふ、やりましたわね」



 バチバチと内部機械機構が紫電を発しているアップルルーンは、至る所から白煙を噴き出し、辛うじて空にあるような状態だ。

 一方、天穹空母も無傷では無い。


 衝撃によって機首が吹き飛んだ姿は、見事な七面鳥の丸焼き。

 原初守護聖籠を纏わせた巨体の衝突は、お互いの防御機能を対滅させた。

 その結果、銀色の横断幕の半数が衝突の際の熱によって燃え上がり、墨になった布と焦げたプレートがバラバラと世界に散っていく。



「うぅ~~。痛ぁぁ~~」



 子供らしい高い声での苦情、それを聞いたレジェリクエは安堵の息を吐いた。

 捕獲対象を誤って殺しましたなど、アホの子以下の失策。

 誰も死なせない事をパーフェクトゲームと称したレジェリクエは、その勝利宣言をするべく、セフィナへ語りかける。



「余の勝ちよ、セフィナ。ねぇ、改めて誘うわぁ。余の所に遊びにいらっしゃい。おねーちゃん達と一緒にお菓子を食べましょう?」

「……まだ、負けて無いもん」


「いいえ、余の天穹空母のくちばしがアップルルーンを穿ったのは事実。そこは認めないとダメよぉ」

「認めないもん!だって、だって……!!」



 良くある話だと、レジェリクエは思っている。

 勝負に負けた子供が負けてないと言い張る。そんな物、女王たる自分にすらある経験だ。


 なら、まずは優しく話を聞こう。ゆっくりと時間を掛けて。

 もう戦いは終わったのだからと、そう思ったレジェリクエの目は……見開かれた。



「まさか、テトラ、逃げ――、」

「だって、ぶつけられたのは私の偽物だもん!!《逆行する時間と約束(タイムパラドクス)歪曲する真実の虚偽(フォールストゥルー)!》」



 馬鹿な……、と見開かれたレジェリクエの瞳孔、それに映ったのは、全ての嘘が正されていく光景だった。


 今までの戦い、その全てが……、『虚偽』。

 テトラフィーアの全力を賭した高速軌道も、レジェリクエが全力で編み込んだ魔導規律陣も、機体損壊を厭わない決死の突撃も……、全て、偽られた大前提(・・・・・・・)の上に成り立っていた。


 右半身を失い、壊れ、崩れ、滅んでいくアップルルーン。

 その横には……、今だ光沢を放つ、無傷のアップルルーンが君臨していて。


 振り上げられたルインズワイズ、その先端はメイスでは無い。

 鋭く尖った、鋼鉄の斧刃槍だ。



「……ワルトナ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ"ッッッ!!」

「私のっ!勝ちだよっっ!!」



 レジェリクエの獣の様な咆哮を無視して、セフィナはルインズワイズを叩き付けた。


 ガァン!ッと先端が埋まるほどに強く叩きつけられた衝撃によって、天穹空母の腹部に巨大な亀裂が奔る。

 そして、そのまま遠心力に従い振り回された天穹空母は砕け、翼を失い――、決定的な敗北を刻み込まれた。



「おっきな鳥さん、捕まえました!!」



 満面の笑みでVサインをするセフィナ。

 天穹空母を無残に櫛刺しにしているという、主人ワルトナが見たら確実に絶叫するであろう酷い光景も……、地上から見上げていた者からすれば違うものだ。


 ブルファム王国歴・562年。

 レジェンダリア魔王軍が召喚した冥王竜は、突如として現れた『神』自らの手により討伐。

 王国有史以来、初めて発生した『奇跡』に……、ブルファム王国こそ神によって守られている『神国』なのだと、多くの国民の魂に刻まれた。



 そして――。



「……我の宝船、滅多刺しなのだが?」



 にゅっと空間から頭を出した黒いトカゲは、ただただ、茫然としていた。


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