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第24話「ウマミタヌキ・蹂躙」

 ウマミタヌキ。我らがナユタ村では、週三回以上は必ず食卓に登場するほどに身近な生物。

 その身をもって俺達村民を楽しませてくれる村の特産物だ。


 しかし、奴らは強い。

 目では追い付けない程の速さから繰り出される怒濤の高速連撃は、新米冒険者などが受ければひとたまりもない。



「そして、また一人。無謀な冒険者が奴に挑み、哀れな犠牲者となってしまった」

「……おい、ユニフ。僕は死んでいないぞ。不吉な事を言うのはやめたまえ」



 あれから俺とタヌキは互いに動かず、睨み合いが続いている。

 お互いに戦略が定まっていないようで、動くに動けないといった感じだな。

 俺としてみれば、コイツは好敵手といっても過言ではない。

 レベルが3000に近くなった今でも、未だに勝利を得られていないしな。



「なぁ、ユニフ。確かに僕は、君が言ったタヌキが強いという話には取り合わなかったさ。だけど、アレはあんまりじゃないか?」

「確かにな。だってあのタヌキ、ロイよりレベルが高いもんな」



 そう、俺達の前に立つ雄々しき獣(ウマミタヌキ)のレベルは1922。普通にロイよりレベルが高い。

 確か、この間のタヌキ(レベル800)は人との戦いを経験済みかもしれないとリリンが言っていた。

 なら間違いなく、このタヌキは人との戦いを経験済みで、しかも、人と戦って生き残っているということになる。


 コイツは間違いなく強い。ただでさえ強いウマミタヌキの中でも最上位に君臨しているのかもしれない。



「ロイ、水で濡れているけど動けるか?」

「問題ない。この手の訓練は嫌と言うほどやったさ。時にはぬるぬるの樹液なんかも掛けられていたんだぞ」



 なんだそれ?意味がわからない。

 一体何の訓練だよ。

 まあ、とりあえず水に濡れても大丈夫らしいから良しとしておこう。

 それじゃまぁ、立てた作戦を実行してみるかね。



「ロイ、バッファは使えるか?」

「いや、僕が使えるのは強歩ステップアップだけだ。少し頼りない」


「なら、とりあえず《地翔脚ラピッドステップ》。これでタヌキの早さに追い付ける筈だ」

「感謝する。それでどうする?」


「ロイは足が速い。なら常にタヌキの後方を取り続けて、隙があれば攻撃をしてくれ。俺は前方でタヌキの足止めをする。挟撃だ!」

「了解。いくぞ!ユニフ!!」



 颯爽と走り出したロイに続き、俺も走り出す。

 眼前のタヌキはこちらの出方を伺うばかりで、茂みの前から動いていない。

 迂回する形で背後へ駆けていくロイをタヌキは見送り、視線を俺に合わせている。


 スッと前傾姿勢になったタヌキ。

 そして、タヌキの足元の大地が爆ぜ、次の瞬間には俺のすぐ目の前まで接近していた。



「ヴィギァァア!」

「うおっ、速い!」



 剣を前に振り抜くのと、タヌキが口を開いたのはほぼ同時だった。

 あろうことかタヌキは、俺のグラムの斬撃を牙で受けとめ、見事に回避して見せたのだ。

 だが、衝撃は殺せなかったようで、いくらか空中で乱回転。しかし、あっという間に地面に降り立ち、俺とは反対方向に走り出す。

 その先にはこちらに向かって来ていたロイがいた。



「なんだとっ!?」

「ヴギルァァ!!」



 完全に意表を付かれたロイは、闇雲に剣を前に突き出すので精一杯だったようだ。

 だが、そんな雑な攻撃はタヌキには通用しない。


 ロイの細身の剣の上で最後の跳躍をしたタヌキは、万全の状況で鋭い牙の並ぶ口を開く。

 そして、あの必殺の牙がロイの頭を穿った。

 


「ロイィィィィィィィッ!!」



 ガキィン。牙がロイの顔に突き立てられた瞬間、甲高い音が響く。

 あぁ、ロイ。お前の事は忘れないよ。


 ……なんてな、俺達はリリンに第九守護天使セラフィム掛けて貰っている。

 タヌキの攻撃なんて全て無効だ。


 そんな事を思い出しながら視線を送ると、そこには恐怖でのたうち回るロイと、ロイの顔に張り付いて何度も噛みつき攻撃を繰り出しているタヌキの姿。


 タヌキは噛みつき攻撃が効いていない事に納得がいかないらしく、幾度となく繰り出していて、その度にロイから「ひぃぃぃぃぃ」と叫びが漏れている。

 すごく怖いよな。知ってるよ。それ。


 ロイがタヌキに蹂躙され始めてから、だいたい30秒。

 だいぶ俺の息も整ってきたし、そろそろ可哀想になってきたので助けに向かおう。

 

 俺はロイの顔にしがみ付いているタヌキに手を伸ばす。

 すると、危険を察知したタヌキがロイから跳び退いて茂みの前に陣取った。

 流石は野生の動物、攻守ともに隙がない。



「おい!大丈夫か?ロイ」

「……僕はこれからはもう、絶対にタヌキを食べない。神に誓ってだ」



 ロイは真剣な表情のまま、空に向かって十字を切った。

 おそらく故郷の風習か何かだろう。

 だけどな、ロイ。その祈りを捧げている神様は結構アレな神様だ。

 多分祈っても、効能はないと思う。



「その気持ちは分かるけどな、とりあえずアイツを倒そうぜ?」

「あぁ、そうだな。アイツを討伐し、勝鬨かちどきを挙げなければなるまい」



 ……いや、勝鬨って。

 あれだろ?確か戦争に勝った時にするやつだろ?

 タヌキ一匹に勝鬨をあげるのはやり過ぎな気がするけどなぁ。

 

 だが、一人で盛り上がっているロイに言っても聞いて貰え無さそうなので、放っておこう。



「だが、ユニフ。タヌキは僕たちを傷つけられない事が分かった。なら勝ちようがある」

「あぁ、アイツの速さも分かったしな。二人掛かりで行くぜ!」



 それからは、一進一退の攻防が続いた。

 タヌキは俺たちが剣を振るう度に器用に避け続けている。

 

 大地や岩、そして俺達の剣先を足場に縦横無尽に空間を駆け抜けながら、隙を突いて腕や首筋を狙いにくるタヌキ。

 だが、それを第九守護天使が阻む。

 そして、お互いに決定打を与えることが出来ない状況も段々にも、終わりが近づいてきたようだ。

 二体一の戦い。

 先にスタミナが切れたのはタヌキの方だった。

 明らかに奴の動きが遅くなってきている。



「おい、ユニフ!奴は疲れてきたようだぞ!」

「そうだな。次、奴が跳躍したら決めに行くぜ!」


「あぁ、分かった!」



 タヌキは諦めることも、逃げることもせず、勇猛果敢に向かってきていた。

 奴の速さなら逃げ出す気になれば簡単だろうに、それをしない。

 よっぽどサンダーボールが痛かったのだろうか。


 そして、訪れる最後の時。

 ロイがわざとらしく体を引き、タヌキを誘う。

 タヌキはまんまとその挑発に引っ掛かった。



「よしっ!ユニフ、頼む!!」



 タヌキは、ロイがわざとらしく差し出した剣に飛び乗った。

 その瞬間を狙い、ロイは剣を立てタヌキを俺の方へ弾き飛ばす。


 奴は今、完全に無防備となった。

 空中では足場がなく、方向の転換をすることも出来ない。

 俺は迫りくるタヌキを見据え、心の内に秘める様々な想いを力としてグラムに注ぐ。



「これで、終わりだ!タヌキィィィッッ!!」

「ヴィァ!?ヴィ……」



 ガキィィィィィィィィン!と響く金属音と、手に帰ってくる確かな衝撃。

 だが、長きに渡る因縁の終焉は訪れていない。



「んな、……リリン?」

「ユニク。このタヌキを捕っては、ダメ」



 俺とタヌキの間に割って入ってきたリリンは、渾身の力を込めたグラムを軽々と弾き飛ばし、タヌキを救った。


 この異常な光景を俺達はおろか、助けられたタヌキまでもが目を見開いて食い入るように見つめている。


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