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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第10章「真実の無尽灰塵」

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第21話「アホの子・襲来」

特級観察対象セフィナが現れたそうね。状況報告をしなさい」



 管制室に入るなり声を張ったレジェリクエの視線は、特大のモニターへ向いている。

 映し出されているのは、御目麗しく着飾った姫達。

 そして、中心に立っているのは黒い髪の魔導師と、ピンク色の星マークが輝くタヌキだ。



「ご報告を奏上いたします、ブルファム王城東塔・屋上に女性11名とタヌキ1匹が出現。先頭を歩く魔導師の少女は特級観察対象のセフィナ、足下にいるのが大陸滅亡級脅威カンタナント・カタフス・ゴモラだと断定しました」

「それと後ろに居るのは……、ブルファム姫ご一行様ねぇ」


「今のところ、セフィナ、ゴモラ共に大きな動きはありません。我らが天窮空母を指差して楽しそうにはしゃいでいる程度です!」

「そう。ご好評頂いてるみたいでぇ、とーっても嬉しいわぁ」



 レジェリクエはまるで予定通りとでも言うように、当たり障りの無い事を言って話を流した。


 実際、先程まで行っていたのはセフィナ襲来を予想したが故の会議であり、これは予定調和と言えなくもない。

 だが……、その表情の中には張り詰めた感情が隠れている。



「陛下、セフィナが出て来ましたわね。これもラルラーヴァーの仕掛けですの?」

「絶対に違うわぁ。セフィナを奪還すると余達は宣言しているのだから、わざわざ居場所を教える意味はないものぉ」



 対外的にはラルラーヴァーの内情を知らないレジェリクエは、素知らぬふりをしている。

 だが、隠していた緊張が表情の中に垣間見え、そして、それに続いてテトラフィーアにも緊張が走った。



「陛下、セフィナに動きがありましたわ」

「何かを召還しようとしてるわねぇ。細長い形状……、神魔杖罰・メルクリウスかしら?」



 神魔杖罰・メルクリウス。

 第9の神殺しであるそれは、魔法次元そのものと語られた『魔法と魔術の杖』だ。


 圧倒的魔法技術を持つリリンサを完封しかけたそれは、レジェリクエが最も警戒している魔道具のひとつ。

 崇拝する『姉』が持つ犯神懐疑・レーヴァテインと同等の性能を持つ、容易に大国を滅ぼしうる超兵器だ。


 だが、「やっぱり、仕掛けてきたわねぇ」と息を飲んでいたレジェリクエは、形作られていく魔道具に違和感を覚えた。

 そして、その形状を見て困惑する事になる。



「……。」

「……。」


「陛下、あれは……、斧ですわよね?」

「そうねぇ、斧ねぇ。それも、斧刃槍ハルバードと呼ばれるものねぇ」



 自信ありげな満足顔でセフィナが召喚した魔道具、それは……真深紅が眩しい斧刃槍ハルバード

 速攻で予測を裏切る超展開に口の端を引きつらせたテトラフィーアは、思わず疑問の声を口にした。



「陛下に聞くのは間違っていると存じてますが……、なぜ、この位置関係で斧ですの?届かないですわよ」

「あらぁ、こんな簡単な理由が分からないのぉ。……あの子がアホの子だからよぉー」



 女王たる尊大な態度でアホの子と言い切ったレジェリクエも、内心では冷や汗をかいている。


 東塔と天穹空母の位置関係は、直線距離にして5kmほどもある。

 正直に言って、この局面で斧を召喚する意味がレジェリクエにも分からないのだ。



「遠距離攻撃魔法の為に杖を召還するならともかく、斧を出す意味が分かりませんわ。あえて言うまでもないですが、斧刃槍は歩兵が白兵戦をする為の武器ですわよ」

「まぁ、そうよねぇ。……総員、第一級戦闘厳戒体制。防御機構を最大出力で展開しなさい」


「陛下!?原初守護聖牢セラフィム・ケージを使うんですの!?」

「使うわぁ。だって相手はアホの子。いきなり天窮空母を丸焼きにしてもおかしくないものぉ」


「この距離で、なおかつこの巨体ですのよ?それは流石にないと思いますわ!」



 全長500mもある天穹空母をまるごと覆い尽くす魔法など、人間には不可能だとテトラフィーアの常識は語っている。

 だが、レジェリクエはそれを認めようとしない。

 結局、女王の勅命という形で天穹空母の防御機構は展開され、内部で第九守護聖牢の準備が進んでいく。



「原初守護聖牢は陛下の切り札の一つ。そんな物を使うとは……扱いが完全に特殊個別脅威ですわねー」

「その程度で良いのなら楽なんだけどねぇ。リリンが言ってたわぁ。『セフィナはまるで小さな怪獣のよう!泣いてしまったら手が付けられない!!』てねぇ」


「……大体の家庭がそうなのでは?」

「テトラ、常識を捨てなさい。あそこに居るのはラルラーヴァーの部下でもなければ、皇宝の魔導師・セフィナでもない。生やした尻尾を嬉々として自慢してくるアホの子の妹でぇ、要するに怪獣よぉ。見てなさい、たぶん羽が生えるわぁ」


「何ですのその自信!?陛下の中で何かが確定してますわ!」



 ツッコミを入れたテトラフィーアだが、言われた通りに警戒し、セフィナの観察を始めた。

 その結果……、何処からどう見ても13歳の可愛らしい女の子にしか見えず、一人で頭を抱えている。



 確かに、強力な魔道具を召喚しているのは間違いないですし、なんなら足元に居るタヌキが化物だというのも知ってますわ。

 だが、セフィナの何も苦労をして無さそうな無邪気な顔を見てしまうと、どうしても危機感が薄れてしまいますわねー。



「もしや……。なんとなく流していましたが、陛下はリリン様に思うところがあるんですの?私、そのアホの子の家族を目指しているんですが」

「テトラ、ふざけている場合じゃないのよぉ。場合によっては緊急離脱による撤退も選択肢にある程なのだから」


「それは、アホの子の家族になるのは危険だから撤退しろという暗喩じゃないですわよね?私、ユニフィン様に尽くすと決意表明したばかりなのですけど」

「違うわよ。余は割と真面目に……っ!?身構えなさい、テトラフィーアッ!!」



 巨大モニターを凝視しているレジェリクエは驚嘆して席を立ち、セフィナが発生させた複数の魔導規律陣を一身に見つめ、そして……。



 **********



「セフィナ。緊急事態が発生したみたいだ。ちょっと出かけてくるよ」



 セフィナと天穹空母が会敵を果たす30分前、僅かに焦りを含んだ声が室内に響く。


 冥王竜と澪騎士の戦いを密かに撮影していたワルトナは、ブルファム姫達を集めて上映会を開いていた。

 これは、レジェンダリアの戦力を認識させる為と、人類の希望たる澪騎士ゼットゼロの敗北を見せる為。

 要するに、この上映会でレジェンダリアの脅威を見せつけ、有効な戦力を所持しているラルラーヴァーへの『反意』を根絶させようとしていたのだ。


 だが、自体は思わぬ方向に進み、冥王竜と澪騎士が共に行方不明となってしまった。

 暗躍をして戦わせたと言えど、ワルトナは顔見知りの二名が本当に殺し合うのを望んでいない。

 だからこそ、さっさと介入して矛を収めさせようと席を立ったのだ。



「何処に行くんですか?」

「行方不明になった澪騎士を探してくるだけさ。僕はあの人に世話になった事が有ってねぇ」


「えっ、そうだったんですか!?」

「そうそう。だから大人しくしててね。……ラグナ」



 パチン!っと指を鳴らすと同時に影から黒銀の獣が飛び出し、ワルトナの前に降り立った。

 威風堂々としている態度の中に隠れた、畏怖。

 セフィナの足元に居る絶対上位者に視線を向けないようにしているラグナガルムは地に腹を付け、ワルトナが背中に乗るのを受け入れた。



「すぐに戻ってくるから、くれぐれも大人しくしてるんだ。できるね?」

「はい、分かりました!私のお仕事は姫様の護衛です!!」


「よろしい。じゃ、ちょっと行ってくるよ」



 ワルトナが優しい手つきでラグナガルムの首輪に手を添えると同時、黒い閃光が室内を駆けて窓から飛び出した。

 そのまま東の上空へと疾駆したラグナガルムの上で、ワルトナは状況の整理を始めている。



 黒トカゲたちが消えた空間、あれはちょっと変だったねぇ。

 明らかに人為的に作られた形跡が有ったし、ただの事故じゃないはずだ。

 ……慎重に行くとしよう。カミタヌキの時みたいに自爆したくないし。


 ワルトナとラグナガルムは空間を探りながら天空を駆け、ブルファム王城から遠く離れた地へと向かっていく。



「ワルラーヴァーさんの恩人さんかぁ。無事に見つかると良いよね、ゴモラ!」

「ヴィギルーン!」



 声高らかに返事をしたゴモラだが、セフィナの願いが難しい事を知っている。

 割れた空間から僅かに感じた神殺しの波動。

 それも、熟練した使用者の気配を感じたゴモラは、密かに分身体へ調査を命じた。



「あの……、セフィナさん……」

「はい、何ですか、アルフ姫様?」


「セフィナさんは冥王竜が恐ろしく無いのですか……?あのような熾烈な戦いを見ても平然と……」



 事態の深刻性を全く理解してなさそうなセフィナの顔色を窺いながら、アルファフォートが問い掛けた。


 つい先ほどまで繰り広げられていたのは、ブルファム王国軍の総力を結集させても介入できないであろう極限の戦い。

 それをホームビデオでも見ているかのようにはしゃぎながら見ていたセフィナに……アルファフォート姫の常識は絶句している。



「えっと、すごくカッコイイと思います!」

「カッコイイ……?あの恐ろしき竜王が……?」


「はい、だって青い炎は凄いんです!!せっし数千万ど?とかいうんです。ねーゴモラ!」



 ゴモラの解説を聞きながら冥王竜達の戦いを見ていたセフィナは、純粋に凄いと思っている。


 星魔法が得意なセフィナにとって虚無魔法を使う冥王竜は、自分よりも未来を歩く先駆者。

 ゴモラと「どうやったら倒せるかなー」と相談し冥王竜の強さを知ったが故に、憧れすら抱いているのだ。



「それにしても……、あの冥王竜をおねーちゃんとラルラーヴァーさんは倒したんだよね?いいなー、私も一緒にやりたかったなー」



 セフィナにとってワルトナは尊敬している聖母であり、母の同僚という認識もある。

 だからこそ、頑張って敬語を使うようにしているし、できるかぎり我儘を言わないようにもしているのだ。


 だが、尊敬するべきワルトナは出掛け、部屋の中にいるのは歳が近い姫達ばかり。

 しかも、護衛任務を始めてすぐに友達になっている為、ほんの少しだけ気持ちが緩んでしまっている。



「セフィナ、ちょっと良いかな」

「はい?えっと……メルテッサさん!」



 メルテッサと呼ばれた薄紫色の髪の少女は、ブルファム第六姫とされている(・・・・・)

 正妻や側室から生まれた他の姫とは違い、メルテッサは王に仕えていたメイドが生んだ子だからだ。


 女児ばかりの出産が続き疲弊したブルファム王は荒れ、手当たり次第にメイドに手を出した時期があった。

 さらに、そのメイドの実家は下級貴族であり、その上、メルテッサは助産医師に未熟児だと身立てられている。


 だからこそ、メルテッサは不安定機構が管理している孤児院に預けられ育った過去を持つ。

 そんな彼女は、紫紺色の瞳を興味深そうにセフィナに向け、にこやかに笑った。



「さっきの映像に映っていた魔王リリンサ。彼女はセフィナのお姉ちゃんなんだよね?」

「はい、そうです!!すっごい自慢のおねーちゃんです!!」


「それならさ……。何で会いに行かないのかな?」



 深い深い笑みで語られた、耳触りの良い誘惑。

 それは……セフィナにとって何よりも優先したい目標であり、ワルトナからたっぷりと叱られた禁忌でもある。



「それはその……。まだ会っちゃダメなんです。私はおねーちゃんを吃驚させてばかりだから、ラルラーヴァーさんが機会を作ってくれるまで我慢なんです」

「そうなんだ。ぼくは会っちゃっても良いと思うけどなぁー」



 深い深い深淵色の笑みを溢し、メルテッサはセフィナの前で手を振った。

 それは何気ない仕草であり、決まった意味を持っていない。

 だが……、合わさっていた手が離れていく光景を見て、セフィナは少しだけ不安になる。



「ねぇ、セフィナ。一つ、お願いがあるんだ」

「お願いですか?」


「ぼくはあの天穹空母が怖くて怖くて堪らない。だから、どうにかして欲しいなって」

「えっと……、あんまり変な事をしないでってラルラーヴァーさんに言われてて」


「セフィナ、怖がりなぼくを助けて欲しい。とても困ってるんだ」



 セフィナの実力を確かめたい、それはメルテッサの心からの願いだ。


 どんな手段を弄しても捉える事どころか、まともに会話する事すらできなかった。

 だからこそメルテッサ――、指導聖母・悪性はラルラーヴァーに見つかる危険を冒してまで此処にいる。



「えっと、怖いんですか?」

「そうだよ、みんな怖がってる。見てご覧、アルファフォート姉さんもヴェルサラスクもシャトーガンマも、みーんな怖くて震えてるよ」



 言われるがままにセフィナは周囲へ視線を回し、それぞれの表情を窺った。

 そして、その目に止まったのは姫達の涙。

 恐怖に身を強張らせている、か弱き姫達の姿だ。



「どうすれば、みんなが怖がらなくて済みますか?」

「あの天穹空母を地上に落して欲しいんだ。もちろん、おねーさんと会えないのなら戦う必要はない。ただ、出来るだけ大きな魔法を撃ち込んで欲しい」


「それをすれば、みんな笑顔になりますか?」

「うん。きっと大丈夫」



 セフィナとて、ワルトナの言い付けを破るのは悪い事だと思っている。

 だが、自分が怒られたとしても、みんなが笑顔になるのならばそれで良いと思ってしまったのだ。


 そんな間違わされた判断は突き進み、セフィナは行動に移した。

 姫達を連れて東塔の屋上に行き、そして、天穹空母を指差して僅かに頬を緩める。



「それはそうと、あの大きな鳥さんって、すごく可愛いですよね?」

「……そうかなぁ?」


「はい!私が前に捕まえたのはもっと小さいのだったんですけど、それもとっても可愛かったです!」



 とりあえず、冒険者としてゲロ鳥狩りをしていた事は確定……、っと。

 そんな事を心の中で呟いたメルテッサは、足早にセフィナをまくし立てる。

 そして、セフィナはどうやって天穹空母まで辿りつこうかと考え始め――、


 足元に居た大陸滅亡級脅威ゴモラが高らかに声を上げた。



「ヴィギルル―ン!」

「えっっ!?貸してくれるの!?!?」


「ヴィーギルアップル!!ギルギルーーン!」

「やったぁ!!ゴモラ大好き!!」



「……えっ、何事かな?」



 突然タヌキと会話をし始めたセフィナを見たメルテッサは事態に着いていけず、困惑している。

 そして……、『とりあえず、なんかいい方向に進んでいるっぽいからいいや。』と無理やり納得してセフィナに視線を向けた。



「メルテッサさん、じゃあ行ってきますね!!」

「……行くってどこに?」


「近くで見れば可愛いと思います!だから、おっきな鳥さんを捕まえて来ます!!《サモンウエポン=神域浸食・ルインズワイズ!!》」



 無邪気に唱えられたそれは……『予兆と自滅を呼ぶ』とされた、第四の神殺しの召還呪文。

 真深紅が眩しい斧刃槍こそ、神の理を超えし者の階級『京』を得ている、正真正銘の害獣・ゴモラの持つ神機。


 その………………………………、起動鍵だ。



「《来て!=ゴモラの帝王枢機カイゼルリヴァーズ!!》」



 はるか天空で展開開闢するは、九つの巨大な魔導規律陣。

 天真爛漫に輝くルインズワイズを軍旗のように振りかざし、セフィナは……カツテナキ機神を呼び起こす。



「いくよっ!『アップルルーン=ゴモラ』!!」










挿絵(By みてみん)

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