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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第10章「真実の無尽灰塵」

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第12話「冥獄の王⑥」

「こんな静かな剣撃、我は知らぬ。まるで空すら飛べぬ幼竜のじゃれ合いではないか。しかりて……うむ、不用意に手を出せば、我は輪切りにされるであろうな」



 澪騎士とローレライの戦いを見ながら、冥王竜は己が置かれている状況を考察していた。


 自身と同等の力を持つ澪騎士、ミオ。

 それを圧倒している謎の剣士、ローレライ。


 それぞれの剣士としての実力は、冥王竜が過去に出会った者の中でも最上位。

 一切の抵抗を許されず一方的に暴行されたユルドルードとの戦いを除けば、赤き先駆者との死闘以来の強き人間だ。



「だが、真の問題はあの剣であろう。ミオが持つ剣も嫌な感じがしたが、あのローレライが持つ剣の方が数段ヤバイ気がする。というか、あれは……?」



 冥王竜の脳裏に浮かんでいるのは幼き頃の自分が見上げた、誉れ高き黒土竜の王の姿。

 非力とされる黒土竜でありながら不可思議竜の側近に抜擢された、一族の誉れを背負った英傑の翼だ。


 冥王竜は思い出す。

 希望を戴く天王竜と双璧を成し『白と黒』などと呼ばれた王が語った、竜の結末を。


「この世界には、不可思議竜様の権能さえ超越する魔剣が有る。それを持ち出されれば、いかな高位竜とて無事では済まん」


 それは、不可思議竜の権能『解脱転命』を封印する剣。

 神を騙し、移ろう姿は世界の具現化と等しいと謳われた、『進化』と『疑心』の魔剣だ。



「もし……もしも、あれが魔剣であるのならば、我の命はここまでやも知れぬ。あの剣に斬られれば竜は転生できないのだから」



 冥王竜は虚ろな目で必死に願う。

 どうか我の予測が当たっていませんように、と。



「にゃはははは!いいねいいね、楽しくなってきたよ!」

「くっ!こちらは必死なんだがなッ!」



 凄まじい速度で剣が重なり合う毎に、音の代わりに漆黒が舞う。

 墨の付いた筆同士をぶつけ合っているかのように撒き散らされた漆黒は、付着した場所の物質ごと大気に溶け込んで消え、僅かなクレーターへと姿を変える。

 二人の剣士はお互いに無傷のまま、周囲に戦いの痕跡ばかりが刻まれていく。


 徹頭尾を刈する凶剣に蓄えられたエネルギーは満ち、万全の状態だ。

 続々と流れ込むエネルギーを惜しみなく消費し、澪騎士は力任せに剣を叩きつける。

 そして、それをローレライは悠々と受け流し、余裕すら浮かべて煽りを返した。



「にゃっはは!いい線いってる。キミが壊れてるのが残念で仕方ないね!」

「壊れているだとッ!?ふざけるのも大概にッ……!」


「いやいや、壊れているさ。揺さぶられた感情によって意志がままならず、己に失望し、おねーさんを畏怖し、リリンサに嫉妬した。違うかな?」

「なっ、違うッ!!私は――、」


「虚勢を張っても無駄だよ。おねーさんは外での戦いをずっと見ていた。さっきから冥王竜を見逃すと言ったり、殺すと言ったり、戦いを避けようとしたり、煽ってみたり。まったくもって忙しいね」

「……《六代剣舞・日昇ッ!》」


「ほいっと。それに、冥王竜が出現したと聞いたのに、すぐにフィートフィルシアに駆け付けなかったよね」

「それは命令があったからだ。仕方が無かっ――、っ!」


「命令があった?仕方が無い?命令と仲間の命を天秤にかけて、命令を取ったんでしょ」

「リリンが関与しているのなら人命は守られるッ!!」


「いいや、それは違うと分かっていたはずだ。リリンサがいようがいまいが、レジィは邪魔者を排除する。レジェンダリアが起こす戦争は確かに戦死者が少ない。が、全く出ていない訳ではない。すでに積み上がった死体の山はあるし、キミはそれを見ただろう?」



 澪騎士の全てを見透かすように、ローレライは嘲けて笑う。

 その言葉には剣が添えられ、心身ともに澪騎士を消耗させていった。


 澪騎士の顔に苦渋の表情が染みつき、重ねる剣の鋭さが鈍っていく。

 身を隠す遮蔽物すらないこの空間で澪騎士を最後に殺すのは……自責の心なのかもしれない。



「キミはフィートフィルシアに行かなかった。躊躇ったんだ、もし私が負ければブルファム王国が窮地に陥る、命令もある。などと理由を付けて部下を見殺しにしようとした。それは……冥王竜が怖かったからだ」

「黙ってくれ」


「だが、ギリギリの所で踏みとどまって戦う事を決意し、だからこそキミは冥王竜に固執している。失った自尊心を取り戻す為だけに戦場に戻り、そして、成長したリリンサを見つけ困惑した」

「黙れッ!!」



 沈黙していた剣撃、それに初めて音が発生した。

 澪騎士は、徹頭尾を刈する凶剣に溜めたエネルギーを発し、怒りに任せて周囲の空間ごと有爆させたのだ。

 だが、ローレライが振りかざした剣撃によって相殺され、意味を成し得ない。



「お前に何が分かるというのだッ!!」

「行動経歴を調べさせて貰ったよ。いい感じに人格が壊れるようにコントロールされてたからキミだけが悪い訳じゃないけど……、それでもお粗末と言う他ないものだった」


「それらは所詮、他人から見た私だッ!私の中の激情、焦り、不安、何一つとしてそれらには書かれてなどいないッ!!お前に分かるはずがないんだッ!!」

「分かるさ。おねーさんは遥か遠く昔に、今のキミを通り過ぎたんだから」



 炸裂光が増していく剣撃に、ローレライは楽しそうに答えた。

 どんな角度、どんな姿勢、どんな構え。

 澪騎士がどれだけ工夫を凝らそうとも、ローレライはその剣撃を真っ向から切り崩して否定する。


 そこにあるのは、圧倒的な技量差。

 武器の性能など関係ない、剣士として完成された強さが澪騎士の目には映っている。



「うんうん、やっぱり戦闘系の神の因子持ちは動きが違うね。特にキミは……、『剣士』『騎士』『武士』『兵士』、剣系の因子ばっかり四重か。ここまで偏るなんて珍しい」

「何の、話だッ!!」


「キミには神が祝福した剣の才能があるって話だよ」



 カァン!っと甲高い音を響かせ、澪騎士の右腕が剣ごと突き上げられた。

 今までの無効化されていた様な感覚とは違う本来の剣撃に息を呑み、すぐに立て直そうとローレライの剣を目で捉える。


 刹那、澪騎士の腹に刺さったのはローレライの蹴りだ。

 がふっ、っと強制的に息を吐かされ、爆発したように体が後方へと吹き飛ばされて、地面に叩きつけられる。



「剣士が……、蹴るな……」

「暗器を使う奴に言われたくないね。にゃははははー」



 腹に鈍痛を感じ、澪騎士はここまでかと唇を噛む。

 徹頭尾を刈する凶剣の効果により、戦闘中はお互いに傷を癒す事が出来ない。

 蹴られた直後に起こる最大の痛みが延々と続くのだから、戦闘を続行するのは難しい。


 そして、能力を解除すれば、そこに残るのはお互いが持つ剣の圧倒的な性能差。

 技術で劣る澪騎士が戦闘を行えていたのは、武器だけでも同格だったが故の事だ。



「私に才能がある……だと?なら、この無様な姿はなんだ?どうして私は立つ事が出来ない?」

「人間の才能、それって何によって優劣が決まると思う?」


「優劣……?そうだな、どれだけ多くの才能を持っているか、その使用法や掛け合わせとか、どうだ?」

「60点!それは重要なものであるけれど、才能自体にも優劣があるんだよね。神の因子(アーティファクト)には、階級とランクがある」



神の因子(アーティファクト)

 それは全能たる唯一神の力を細分化した、人間にだけに与えられし祝福。

 始原の皇種にまったく対抗できないと知った人間『ノワル』が、神に願った奇跡だ。



「神の因子、それ自体はありふれたもので、名の知れた冒険者なんか大体持っているね」

「その程度の認識くらいはある。私も剣の才能はあるんじゃないかと自負していたが、これではな」


「そう、剣士だの武士だの、ごく一般にありふれた神の因子はそこまで強力じゃない。だが、中にはあるんだよ、神が求める『世絶の神の因子レア・アーティファクト』がね」



 神が求める才能……か。

 そんなものがあるのなら……、と澪騎士は力の入らない拳を握った。

 澪騎士には無くて、ローレライには有るもの。

 漠然としていた劣等感の正体を今更になって突き付けられたとて、意味が無い。


 神の因子。それは神が与えし奇跡。

 どれだけ人間が願えど、後天的に手に入るものではない。



「創生神話、いやこの場合は終焉神話なんだけど、神の降臨については知ってるかな?」

「あいにく、私は神を信奉していない」


「神は世界を滅ぼそうと思った時に肉体を創造して宿り、おねーさん達と同じ次元に降臨する。そうして、世界終焉を行使する訳だね。その時に創造する肉体ってのは、その時代に現存している最も優秀な神の因子を持つ人間の肉体の完全コピーである訳だ」

「何の為にそんな事を?」


「最後のチャンスさ。神を殺して止める事ができれば世界終焉は行使されない。その為に造られたのがおねーさんの『神殺し』で、キミの剣はその試作機。神が行う終焉を止める為にあるものだ」

「なるほど……、どうりで勝てる気がしないはずだ。この剣を元にその剣が作られたのなら、上位互換で当たり前だからな」


「で、神は肉体を創造する時に『世絶の神の因子』をより多く持つ肉体を選ぶ」

「そうか。お前にはそれが有って、私にはそれが無い。そんな話だろう?」



 忌々しい自慢話か、と澪騎士は唾を吐き捨てたくなった。

 揺らぐ思考は人格すら歪めさせ、真っ当な騎士道を目指していた過去の澪騎士の面影はない。



「そう。おねーさんは『世絶の神の因子』を持ってる。というか、現時点で神が選ぶ肉体はおねーさんな訳だから、当然だね」

「なん……、だと……っ?」


「数百個も神の因子を持ってると、人類最高の潜在能力値になれるらしいよ。ちなみに、数だけならおねーさんよりも多い人はいる。おねーさんの凄い所は、マイナス補正の神の因子が一つもない事。それに加え……、世界を見渡す『絶対視束アルゴリュート』。この眼はあらゆる才能を見い出せる神の眼なのだよ」



 薄く光る瞳の中、瞳孔の奥深くの魔法陣に見つめられ、澪騎士の背筋が凍りつく。

 まるで神に睥睨されているかのような威圧感に、まともに頭を上げる事すらできない。



「おねーさんが最近見かけた世絶の神の因子。『確定確立確率パラレルエンド』 『支配声域(ドミニチュアリー)』 『完全音階テトラコード』 『魔導感知ヴァリアブレーション』 『物質主上アイテムマイスター』……、確かにどれも強力で、容易に世界の支配者たりえる能力だ。だが、リリンサもユニくんも、これらを持っていない」

「なに……?」


「特にリリンサ。あの子の場合は色んな付加価値が付きまくっているけど、本人自体はいたって普通の神の因子しか持ってない」

「あれで普通だと……?」


「結局、キミは何かと理由を付けて逃げ回っているだけの臆病者。そんなのが次代の英雄?笑わせてくれるね」



 澪騎士は話の筋が見えなくなってきている。


 始めは、圧倒的な力を見せつけ、自分を嘲笑する為の情報開示だと思った。

 だが、小馬鹿にしながらも諭すような物言いに違和感を覚え始めているのだ。


 なにか、なにか……、私の知らない光明が有るのかもしれない。

 眩しい光を放つ妹弟子リリンサに追い付く為の手段がそこにはあると、澪騎士は僅かに顔を上げた。



「どうすればいいのだ……?」



 縋りつく懇願の声は細々しく、弱者のそれと等しい。

 それに対し、ローレライが浮かべているのは変わらない嘲笑の笑顔だ。



「自分で考えないと答えは出ないんじゃない?」

「私は馬鹿なんだ。あまり頭を使うのが得意ではなく、思いついた事をすぐに行動に移す。正直、考えるのが苦手だ」


「じゃあ答えは出てるじゃん。やりたい事をやりたいだけ、やりたい時にやればいい。馬鹿みたいに考えずにさ」

「それが出来たら苦労は……」


「別にいいじゃん、やったってさ。誰かに文句を言われる?文句を言ってくる奴は文句を言いたいから言ってる訳で、要するにやりたい事をやってる訳だ」

「それは……そうだが」


「言っておくけど、『澪騎士・ゼットゼロ』の今までの人生、他人に責任を押しつけた上での偽善。それさえも、過去のお前がやりたいと願った事だ」



 今までの人生も、全て自分が選んだ結果。

 そのローレライの言葉には、確かな重みがある。

 これから先の未来を見据えて行動を起こし、戦闘に介入してきたローレライの姿は澪騎士には眩しすぎる光だ。


 他人の為などと取り繕ろうとも、結局、自分の人生は自分の為にしか使えないというのなら。


 澪騎士の腹からは相変わらず、鈍痛が響いている。

 それでも、立ち上がれるくらいには身体が軽くなっていた。



「そうか、全部、私が選んだ事なんだな」

「そうだよ。今までも、これからも」


「なぁ、腹が痛いから逃げるってのは、カッコ悪いとは思わないか?」

「思うね!特におねーさん達みたいな、うら若き乙女が口にしちゃいけないやつでしょ!」


「だよな。なら……、私はまだ戦っていたい」



 立ち上がり、徹頭尾を狩りする凶剣を構え、澪騎士は笑った。


 後の事などどうでもいい。そんなもの、後になって考えればいい事だ。

 今はただ……、戦いを楽しみたい。

 自分の持ちうる最高、それを試してみたいんだ。



「おっと、良い面構えだね。そんなキミにプレゼントをあげよう《虚実反転》」

「これは……、腹の痛みが消えただと?回復は出来ないはずだが……?」


「回復じゃなくて取り消しだからね。そりゃ無効化されないでしょ。あぁ、そうそう。おねーさんがキミを殺したかった理由を言って無かったね!《洗脳簒奪ヒュプノジャック誉れ高き賛美(フラワーブレイン)》」

「くあっ!」


「おねーさんは、『次代の英雄に最も近しい(99%側の最高峰)騎士』と殺し合いをして、自分(1%側)との差を確かめておきたかった。指導聖母にちょっかいを掛けられて、クタクタに疲れてるキミなんてお呼びじゃないんだよね」



 不意に掛けられた魔法、それは人間の精神と倫理を壊す洗脳魔法。

 その者とって大切な価値観を書き換え、消滅し、装飾するそれは――、ローレライの願った未来を呼び起こす。

 こうして、大前提が整えられたのだ。



「無駄に絡められた規律しがらみ、全部忘れて楽になりな。それで、おねーさんを楽しませておくれ」

「……なら人数は多い方がいいだろう?おい、トカゲ。お前は私とタッグだ、こっちに来い」



 あっ、ヤバいっす。

 冥王竜は逃げ場を求めて視線を彷徨わせ――、叩きつけられた二種類の殺意によって希望を費やし、死を覚悟して尻尾を巻いた。


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