表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/1327

第23話「ヘビの切り方」

「堅っっった。いい加減にしろよ、このヘビ!、堅すぎだろ!!」

「見てくれ、ユニフ。僕の愛剣が刃こぼれしてしまったよ……」



 あれから俺達は、横たわる蛇に向かって剣を振り降ろし続けるも、大苦戦。

 リリンに細切れにしてみてと言われ実行に移してみたものの、鱗に阻まれて刃が通らないのだ。


 ガキン!ガキン!と叩きつけている内に何とか切れたが、細切れには程遠い。

 結局、1時間以上も剣を振り続け、3回ぶつ切りに出来ただけだった。

 そして、どうやらシフィーも苦戦しているようだ。



「く、次行きますぅ《ファイアボール!!》」

「あ。ユニク、そっちに行った。気をつけて」



 うおぅ!危ねぇ!!

 シフィーの放った魔法が飛んでくるのはこれで3回目だ。

 あちらはあちらで、鱗に魔法を弾かれてしまっているらしい。


 どうやら魔法の当たる角度が悪いと反射してしまうようで、あちこちに飛び火している。

 ちなみにさっきは森に燃え移りそうになり、リリンが慌てて消火していた。



「ユニフ、どうやら僕達のやり方じゃダメなようだ」

「どうすっかな。確かリリンは「剣は流れを断ち切るように振るといい」って言っていたんだが……」


「ん?リリンちゃんは剣も振れるのか?」

「本人いわく、達人や英雄には程遠いらしいけどな。おーいリリン!ちょっとコツを教えてくれないか?」

「ん、分かった。そっちに行く」



 リリンを呼んだ瞬間、電光石火なスピードで瞬く間にこっちに来た。

 そういえばおっさんと戦ったときにバッファ掛けていたっけな。

 その速さに驚いたロイも段々とリリン耐性が出来てきたらしく、ぐっと言葉を飲み込んでいる。



「このヘビが堅くて上手に斬れなくてさ。ちょっとお手本見せてくれないか?」

「ん。承知した。《サモンウエポン=殲刀一閃・桜華》。はい。スパッと」

「「え、早っ!なんだ今のッ!?」」



 いや待って、早過ぎんだろッ!?


 俺とロイが20分掛けてやっと切れるのに、リリンは平然と雑に刀を振って蛇を真っ二つにした。

 いくらなんでもこれは我慢ならない。

 俺もロイも尽かさず突っ込みを入れた。



「いや、なんだ今のスピード。リリンちゃん、魔法を使ったのか?」

「使って無い……よな?見ろよロイ、この綺麗な断面。普通に美味そうな色してるぞ」

「私は鱗の流れに沿って刃を通しただけ。切断面の外側を見て欲しい。私は鱗を切っていない」



 鱗を切っていないって、どういうことだ?

 俺とロイが覗き込んでみると、ヘビの表面の鱗が剥がれ落ちていた。

 どうやったか分からないが、理屈は分かる。リリンは堅い鱗を避けてヘビの肉だけを切ったらしい。

 ちなみに切断面は綺麗に輪切りされ、ささくれなどは一つもない。

 そのまま焼いたら高級ステーキだな。



「なるほど、鱗を避けるのか。それでどうやるんだ?」

「鱗は通常、頭から尾に向かって重なり合うようになっていて、真上からの衝撃は触れあう別の鱗に分散してしまう。なので、鱗を持つ動物を切る場合は流れに逆らうように、この場合は尾側から頭側へ刃を入れると切れやすい」



 リリンが説明しながらヘビの胴に刃を当てて、ゆっくりと引き切った。

 決して早いとは言えない動作でも、いとも簡単にヘビが切断される。

 へぇ、理屈を知っていると出来るもんなんだな。



「すごい、すごいぞ!リリンちゃん!言うようにやったら簡単に切れる!」

「どれどれ、おお!確かに手ごたえが違うな」



 俺も言われるがままにグラムを当ててみると、スパンッと気持ちの良い感覚が帰って来た。

 あれほど苦労していたヘビが簡単に切れる。うん、これちょっと楽しい。



「ユニク、ロイ。この鱗を避ける太刀筋は、爬虫類系やドラゴン系を討伐するのに非常に有効。この際だから、その感覚を手に馴染ませておいて」

「あぁ、分かった。ロイ、どっちがうまく切れるか勝負しようぜ!」

「望むところだ、ユニフ。騎士歴10年の僕の剣裁きを披露してあげよう」



 ロイはそれだけ言うと、キリッとしたキメ顔で笑った。

 さっきまで俺と同レベルだったのにもう自信に満ち溢れている。

 その元気さに驚きつつ、俺もグラムを振りあげた。



 **********



「これくらいか?ロイ」

「あぁ、これなら細切れと言ってもいいんじゃないか?」



 蛇の胴体に刃を入れる所が無くなってきた。これなら細切れと言っていいはずだ。

 だいぶ鱗を避ける感覚も掴めてきて、最後の方は勢いを付けて切っても単に切れるようになった。

 上達するのって、凄く楽しい。


 さて、この後はどうするのだろうか?



「おーいリリン、こっちは終わったぞ……って炎上してる!?」



 リリンに成果を確認して貰おうと振り向いたら、ヘビが炎上していた。

 いきなりの事だったので少々困惑したが、どうやらあちらもリリンがアドバイスをしたらしく、魔法攻撃が通りやすくなったようだ。


 ほんのり香ばしい匂いをさせながら、燃えるヘビをうっとりとした目で見つめるシフィー。

 遠巻きに見ると完全に危ない人だな。



「ユニク達も終わった?では、その命を有効に使わせて貰ったヘビに感謝をしつつ弔おう。《終息へ向かう炎(クロージファイア)》」



 リリンから放たれた青白い炎は、横たわるヘビをあっという間に包み込んだ。

 未だ昼過ぎで明るいというのに、幻想的に燃え上がるヘビに手を合わせつつ、感謝の気持ちを祈る。


 ありがとう。ヘビ。お前で学んだ剣技で必ずや試験に合格してみせるからな。

 少しの黙祷を捧げて弔いをした後で火を消した俺達は、次の目標を聞く為にリリンに向き直った。



「それじゃ、リリン。次はどうする?」

「ん。時間が中途半端なので新しい事はしない。このまま川上に向かって散策しながらブレイクスネイクを探そう」


「分かった。あっちに進めばいいんだな?」

「よし、先陣は僕が切ろうじゃないか。おい、シフィー行くぞ!」

「あ、は、はい!待って下さい」



 自分の荷物からノートを取り出して何かのメモを取っていたシフィーをロイが急かした。

 こうして再び、俺達は散策を始め……ん?



「なぁ、ユニフ。あの茂み、ガサガサいってるよな?」

「いってるな」


「何がいると思う?」

「さぁ?分からないけど、たぶん動物的ななんかだろ?」



 川上に向かって、さぁ移動だ!と意気込みを新たに、進むこと1メートル。

 ぶっちゃけほとんど移動していないのに、近くの茂みが音を立て始めてしまった。

 索敵とかあったもんじゃない。

 

 だが無視するわけにもいかず、とりあえず俺とロイは剣を構えた。

 リリンは茂みに気付いているものの、傍観の姿勢。

 シフィーはノートを鞄に仕舞っているため、まだ気付いていない。



「どうする?ユニフ。またヘビが出てきたら僕だけじゃどうしようもないぞ?」

「んーまずは確認が先だな。あの茂みにサンダーボールを打ち込んで様子を見ようぜ?」


「承知した」



 俺とロイで戦略の方向性を定め、役割分担を決めた。

 まずは先制攻撃で茂みから追い出し、二人で剣撃を仕掛ける。

 

 先ほどの練習で鱗が有っても剣でダメージを与えられるようになったし、此処は是非、ブレイクスネイクが出てきて欲しいところだな。

 感覚を忘れない内に実践で試しておきたい。



「いくぜ。《サンダーボール!》」



 俺の放ったサンダーボールは真っ直ぐに茂みに進み、着弾。

 その光景を後ろから眺めていたリリンから「グッジョブ」との声がかかる。

 此処までは上出来らしい。


 そして、茂みは大きく揺れ出し、一匹の生物が飛び出してきた。


 

「ヴィギぃ!」



 ん!こいつはウマミタヌキッ!!

 この茶色い毛皮のモフモフ感は間違えようもない。

 憎たらしい俺の宿敵。ウマミタヌキだッッ!!


 俺の前に凛々しく悠然と立つコイツは、今まで見たタヌキの中でも一番立派な体格だ。

 こちらを見て揺るぎなく立つ姿は、森の王者的な雰囲気すら纏っている……気がする。


 ここは慎重に行こう。まずはレベルの確認からだ。

 そう思ってレベル目視を起動させようとした時、横からロイの声が聞こえた。



「なんだタヌキか、驚いたじゃないか。ユニフ、ここは僕に任せてくれ。こいつを捕まえて昼食にしよう」

「あ、待ッ……、ロイ!!」


 

 完全にタヌキを舐めてるロイが薄ら笑い、突撃を仕掛ける為に走り出した。

 って、やべぇ!!待ってくれロイッ!お前じゃソイツには勝てない!!


 ちょ、何でそんなに走るのが速いんだよ!?

 やめろ、やめてくれぇ、あ、あ、……あぁ……。



「ふっ、さらばだ。タヌキ!」

「……ヴィギルハァン?」



 そして、ロイの姿は消えた。

 具体的に言うと、颯爽と走り抜けたロイがタヌキに向かって剣を振り下ろした。

 だが、タヌキはその剣筋をすべて見切っていたのだ。


 ロイの剣が岩を打ち付ける悲しい音が響いた瞬間、タヌキが瞬く間に横に回り込んだ。

 そして躊躇なくロイのわき腹を蹴りつけ、バランスを崩した所に追加で怒濤の連続攻撃を見舞ったのだ。

 

 あぁ、見るも無残なタヌキ連撃が、ロイを襲っている。

 胸、肩、頭に数十発を叩きこみ、大跳躍からのとどめの蹴りを入れ、川の中までロイを吹き飛ばせば決着の時。


 勝者たるウマミタヌキは悠然と立ち、こちらの様子を窺っている。

 おそらく、俺の背後にいる理不尽系雷撃少女の出方を見ているのだろう。

 ロイを瞬殺しておいてまったく油断しないとは、このタヌキ、強い。 



「ごっほごほ……、なにが、何が起こったんだ……?」



 あ、ロイ生きてたのか。

 川の中でゴホゴホ言っているが、特に外傷はなさそうだな。

 放っておこう。



「さてと……、三度目のタヌキ戦か。今度こそ、勝つ!!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ