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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第10章「真実の無尽灰塵」

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第11話「冥獄の王⑤」

「私を殺す……か。わざわざやる程の価値が自分にあるとは思えないがな」



 澪騎士の瞳に映るローレライの姿は、抗う事を許さない天使のようにも、抗う気力さえ抱かせない悪魔のようにも見えている。

 それほど、体から立ち上る実力に圧倒的な差があるのだ。


 ガチガチと歯が鳴り出しそうになるのを必死にこらえながら、澪騎士は剣を構えた。

 向かい合った二人の間はたったの3mほどしかない。

 それは、瞬きの間に胸が突き破られ、心臓が抉り出される距離だ。



「価値があるかどうかは関係ないね。おねーさんがやりたい事を達成する為に、澪騎士を殺しておく必要がある。それで充分じゃん?」

「とても議論とは呼べない暴論だな。だが、せめて私は自分の死に納得したい。もっと詳しく聞かせてくれないか?」



 澪騎士は恐れを掻き消しながら、ローレライに問うた。

 その反動か、手に握っている徹頭尾を刈する凶剣に力が籠る。

 そして……、張り詰める空気と沈黙、それを切り捨てるようにローレライが語り出す。



「レジィの晴れ舞台を見るのも含め、おねーさんはいくつかの目的が有ってブルファム王国に来た。そしてそれらは大きな目標を達成する為の下準備でしかない」

「下準備……、戦争以上の目標があるのか?」


「レジィ以外の99%側の人間同士の戦争には興味が無い。おねーさんが攻略しようとしているのは……、この剣に封印されている『血王蟲・カツボウゼイ』。コイツを倒す為に、おねーさんはもっと強くならないといけないんだ」



 澪騎士にとって、『血王蟲・カツボウゼイ』という名に意味は無い。

 聞き覚えの無い存在が封印されているんだな?程度のものであり、せいぜいが『化物だろう』と想像できるくらいだ。


 だが、ローレライが強くなりたいと言っている事の意味を鑑みて、一気に顔色が悪くなる。

 それは、目の前に居る化物が戦っても勝てない存在が居るという意味だからだ。



「馬鹿な、それほどまでの力ですら及ばない存在が居るのか……?」

「いるね、今のままじゃカツボウゼイに勝てない。流石はお師匠が匙を投げた怪物だ」


「つっ!?」

「良いかい、澪騎士ミオ・ロゥピリオド。おねーさんはまだ最上位じゃない。人類という括りにしたって英雄ユルドルードには遠く及ばず、大聖母ノウィンもかなり怪しい。お師匠のホーライ?ありゃ妖怪だから別枠ね」



 英雄ユルドルード、大聖母ノウィン、初代英雄ホーライ。

 そのどれもが澪騎士には深い関わりが無い歴史に名を刻んだ偉人。

 つらつらと並べられた名を聞いても、澪騎士はその実力を図りえない。

 それでも、自分と生きる世界が違うというのだけは分かった。



「要するに、おねーさんはレベル上げがしたい訳だ。で、この大陸を離れることにしたってわけ」

「……大陸を離れる……だと……?」


「実は、世界はこの大陸だけじゃない。で、そっちはガチでやベーのがいっぱい居るわけさ。なにせ、人間主体の国家じゃなくて皇種が地域を統治してるらしいんだよね」

「皇種か。私が知るのは白銀比やアマタノだが……、アレらよりも強いのが居ると?」


「さぁ?ただ、ユルドさんはそっちでレベル上げをしてるし、おねーさんも試しに行ってみようってこと。……で、この大陸でやり残したことを片付けようと思ったわけだ」



 話の次元が違う……、そんな陳腐な感想を抱いた澪騎士は、ただ瞳を揺るがせるしかできない。

 皇種を狩ってレベル上げがしたいなど、人間が考えて良い範疇を超えているのだ。



「おねーさんがやり残したことは……、この大陸にいる1%側、その上位、超越者の実力を確かめておくこと。ちなみに、キミらは物のついで、しいていうなら準備体操って所かな」

「準備体操……か。戦いにすらならないとは、我ながら滑稽だな」



 くっくっくと声を漏らし、澪騎士は笑い出した。

 その風貌はまさしく滑稽。

 それを見た誰しもが眉をひそめる光景であり、だが、ローレライは仕方がなさそうに笑みを返して見つめている。



「なぁ……。私は見逃してくれないか?」

「なんでかな?」


「何でもかんでもないさ。私だって死ぬのは怖い。それに聞いた所、私はそこのトカゲ程は恨まれていないようだし、実力差もハッキリしている。殺した所で意味がないとは思わないか?」



 淡々と平坦に語られたのは、澪騎士の本心からの言葉だった。


 死んだところで意味が無い。

 戦った所で勝てる訳が無い。


 そんな、諦めと失意が入り混じった懇願は無様であり、次代の英雄と呼ばれた騎士の姿は何処にもない。

 それに思う所が有ったローレライは、目を細めて口を開く。



「あーあ、正直がっかり。キミはダメだね、それじゃ1%側には来れない」

「なんだと?」


「興醒めだって言ったんだよ」



 ふっとローレライの姿がぶれて、空気が軋んだ。

 カツン。っと小さな小さな靴音が響き、そして――。


 レーヴァテインと徹頭尾を刈する凶剣が交差する。



「おっと、中々やるじゃん」

「くうっ、重い、がッ!!!」



 バギィンっと弾け飛んだのは、無様な命乞いをした澪騎士……、ではない。

 楽しげに笑うローレライだ。



「良い反応だね。ちょっち見直したかも」

「それは良かった。せめて一矢報いたいと私も思っていた所だ」



 再び交差する二本の漆黒の剣。

 今度の攻防を仕掛けたのは澪騎士だ。


 澪騎士がローレライに対抗出来ている理由、それはこの瞬間が澪騎士の人生で最高のパフォーマンスを発揮しているからだ。


 冥王竜との戦い中に掛けた様々なバッファ、また、冥王竜が纏っている様々なアンチバッファによって、徹頭尾を狩りする凶剣に膨大な魔力が注がれ続けていた。

 神殺しシリーズと千海山シリーズは、神の情報端末(アカシックレコード)というエネルギーが搭載されているかどうかの違いしかない。

 もともとの武器としての性能差は無く、膨大なエネルギーを徹頭尾を狩りする凶剣が蓄え終えた今、戦いの趨勢を決めるのは使用者の技能となったのだ。



「《三代剣舞・滅刻》」

「剣の型としては綺麗なもんだ。だけど……心ここにあらずは感心しないね」



 澪騎士が使用しているのは、剣皇国ジャフリートに伝わる奥義。

『扱いざるもの、人界を超えん』とされている、過去の超越者が生み出した剣撃だ。


 一度の抜刀で岩を数十枚に斬り卸したとされるその剣は、達人などと言う言葉では表せられないほどに鋭い。

 だからこそ、剣が打ち合う度に手に帰ってくる感触が『何もない』などというのはおかしい事だ。


 布で出来た剣の玩具をぶつけ合っているかのような、静かな攻防。

 一切の音が発しない剣撃に、澪騎士の顔が曇っていく。



「なんだこれは……?剣を重ねて音がしないなどありえない」

「犯神懐疑・レーヴァテイン。神をも騙す虚実の剣に常識が通用する訳無いよね」



 児戯の様な攻防、だが一手を間違えれば容易に首が飛ぶだろう。

 それを理解している澪騎士の思考は揺らぎ、リスクのある手段を淘汰してしまっている。

 そして、型に嵌りきった澪騎士の真っ当な剣筋、そんなもの、ローレライにとってはまさしく児戯でしか無い。


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