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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第10章「真実の無尽灰塵」

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第10話「冥獄の王④」

「ここは第四魔法次元層ワールドフォース。ようこそ、おねーさんの世界へ」



 ブラックダイヤモンドで作られたような世界に、カツカツカツ……と音が響く。

 それは秒針が時を刻むような、もしくは、世界に運命が刻まれていくような規則的で冷淡な足音だ。


 宵闇を纏い抜け出てきたのは……、栗色の髪の女剣士。

 装備は軽装で、腰に赤黒い剣を差している。

 まるで新人冒険者の様なその人物、それを見た澪騎士は――、押し潰されそうな心臓を必死に動かし、かろうじて呼吸を繰り返す。



「おまえ……は……」

「お前だなんて不遜だねー。おねーさんを前にしてー」



 おどけた口調で肩を竦めた女剣士は、まさに気立ての良いお姉さんの様に笑った。

 今にも冗談が零れ落ちそうな雰囲気。

 だが、零れ落ちていくのは澪騎士の頬を伝う脂汗だけだ。


 澪騎士は恐怖している。

 先程まで目に宿っていた未来、『圧倒的な力を持つ、抗えぬ者』が目の前に立っているからだ。



「ま、おねーさんは不遜じゃないから名乗ってあげるよ。一応は『王』の御前だしね!」



 ちらっと女剣士が冥王竜に視線を向けると、そこでは黒いトカゲが腰を抜かしていた。

 腹を見せて尻餅を付き、尾が縮こまっているという無様な姿は、王たる者の威厳など微塵も感じられない。

 だが、女剣士はそんな光景に慣れていた。

 特に反応をすること無くスルーして、再び澪騎士へと視線を戻す。



「おねーさんの名前は『ローレライ』。ユルドさんに継ぐ次代の英雄さ」

「ユルドルードの後継者……?弟子という事か?」


「んー、ちょっち違う。おねーさんのお師匠はホーライだからね。ま、ユルドさんには何度か稽古を付けて貰ったけどさ」



 ユルドルードに所縁がある者。

 それはブルファム王国の内情を深く知る澪騎士にとって、特別な意味を持つ。


 英雄ユルドルード、そのルーツがブルファム王国にあるというのは、上位の権力者の中では有名な話だ。

 オールドディーンの名は伏せられているとはいえ、名のある貴族出身だとされており、出奔した理由も家庭内不和が原因だと知れ渡っている。

 要するに、『英雄の起源はブルファム王国である』という威信と、『ユルドルードには気を付けろ』という警告が一纏めにされて出回っているのだ。


 さらに、王族の護衛を受ける事が多い澪騎士は、ユルドルードの父がオールドディーンであると知っている。

 無理やりな王位継承諍いの末の出奔や、ミリアード家に伝えられたユルドルードの妻・イミリシュアの最期なども聞き及んでおり、何らかの報復があってもおかしくないとされていた。


 だからこそ……、『次代の英雄』と聞いた瞬間、表情から色が抜け落ちた。

 自分とはまるで違う、異質にして異常な存在。

 ”本物の次代の英雄”を前にして、澪騎士は手から剣を落とさないようにするので精一杯だ。



「そんな英雄様が、一体何の用だ?」

「用ねぇー、いっぱいあるんだけど……。一番は、おねーさんの可愛い義妹と義弟の晴れ舞台を見に来たって所かな?」


「義妹と義弟だと……?リリン、いや、ユニクルフィンと血縁者って事なのか?」

「違う違う。おねーさんが育てたのはレジィだよ」



 最悪だと、澪騎士は思った。

 それは、まことしやかに噂されていた黒幕の存在が確定したからだ。


 レジェリクエ・レジェンダリア。

 この大陸を混乱へと陥れる、名高き大魔王。

 至高なる知識と凄惨な残虐性を併せ持ち、人と家畜と土地を同価値として扱う施政者。


 そんな彼女がレジェンダリア王家の血縁者を全て惨殺し王位を簒奪したのは、僅か12歳の時だ。

 どれだけ優れた能力を持っていようとも、それを成す為の協力者が必要不可欠であり、その黒幕こそが心無き魔人達の統括者であるというのが通説とされていた。


 だが、澪騎士は心無き魔人達の統括者全員と既知がある。

 だからこそ、黒幕が別にいたという事実は受け入れがたいものだった。



「そうか……、お前がレジェンダリアの黒幕。レジェリクエの『主』か」

「んー?それも違う。レジィはもう一人で自立してる立派な女王だからね」


「なに?」

「勘違いしてるからはっきり言っておくけど、おねーさんはこの戦争には全く関与していない。レジィを育てたのは事実だし、王位継承の件もおねーさんの犯行だけど、女王になると決めたのはレジィ。黒幕がいるなんて一生懸命に頑張ってるレジィに失礼だよ」



 チリリ。っと張りつめた空気に澪騎士は気圧され、冥王竜は地面に穴を掘って隠れようとした。

 そして、地面に突き立てようとして折れた爪に絶望している冥王竜を放置して、二人の会談は続く。



「そんな訳で、おねーさんはレジィの邪魔をするつもりはない。それどころか、戦いに参加するつもりすら無かった訳だ。ただ……」

「ただ?」


「ワクワクしながら妹の晴れ舞台を見に来たおねーさん、なんだこれぇ!?って大困惑!!なにあの鳶色鳥!?あんなん良く作れたねっ!?」

「それは私の方が聞きたい。アレはレジェンダリアの秘術か何かで作ったのでは無いのか?」


「んなわけねーでしょ!?あんなん持ってたら愚王がさっさと世界を制してるよっ!」



 愚王という聞き慣れない言葉も、粛清された王家の誰かだというのは直ぐに予想がついた。

 何らかの因縁があると把握した澪騎士だが、それはどうでもいい事だと断じる。


 最も必要な情報は……、目の前の次代の英雄が敵なのかどうか、だ。



「まったく、驚きの連続でおねーさん我慢できなくなっちゃったよ。だって、こんな面白そうな遊び参加したくなるじゃん?」

「冥王竜がいるのに『遊び』か」


「おねーさんにとってはねー。まぁ、レジィも半分くらいは遊んでると思うよ。あの子は昔っから遊びに敏感だから」

「余裕があるんだな」



 零れた言葉は、澪騎士の本音。

 自覚出来てしまう程に追い詰められていると分かっている澪騎士は僅かに唇を釣り上げている。

 それは――、自嘲の笑みだ。



「だからこうしてレジィに迷惑が掛らないようにして出てきたんだよね。あぁ、この空間も割と真面目に作った第四魔法次元層で、強度的には原初守護聖界に匹敵するからね?後ろで穴掘ろうとしてる竜王ー?」



 チラリとローレライが視線を向けた先では、冥王竜が浄罪の冥獄槍をスコップの代わりに地面に突き立てようとしていた。

 そして、注意された冥王竜は無言で槍を下ろし、ひっそりと存在感を消す。



「迷惑を掛けないだと。戦いに介入しておいて良く言えたものだ」

「いやいや、さっきの戦いは決着がついていたよ。串刺しでお陀仏だね!」


「……それはどっちがだ?」 

「聞かないほうがいいんじゃないかなー、なははははー」



 澪騎士が持つ徹頭尾を刈する凶剣と冥王竜の浄罪の冥獄槍。

 そのエネルギー量は同等であり、拮抗していた。

 だからこそ、勝敗が付く前に別次元に引きずり込まれたのだと澪騎士は思っていたのだ。


 だが最早、どちらかが勝ったのかは問題になりえない。

 澪騎士には分からず、ローレライには分かる事がある。

 その事実だけで、苛まれた劣等感が掻き立てられるのだ。



「そんな訳で、おねーさんはキミらに用がある訳だ。英雄様が直々に会いに来てやったんだぞ。光栄でしょ?」

「……何故、私の前に現れた?ブルファム王都でも一度会っただろう?」


「ユルドさんから英雄の名を引き継ぐ事が決まっている身としては、次代の英雄なんて言われている奴の実力が気になる訳だよ。おねーさんはこれでも慎重派でね、念には念を入れて確認をして……、キミを殺しておく事にしたんだ」



 ぬるりと首筋に張った指の感触を知覚し、澪騎士は震え上がった。

 もしそれが指では無く、抜き身の剣だったのなら?

 言うまでも無い結末を垣間見て、コクリと唾を飲む。



「うむ。どうやら我はお邪魔のようだな。込み入った話は我が居るとしにくいだろうし帰らせて貰おう」



 だからここから出して下さい。お願いします。


 そんな副音声が聞こえて来そうなほどの見事な平服へ、ローレライが向けたのは冷ややかな視線。

 それこそ、澪騎士に向けられた物とはまるで比べ物にならない……、明確な殺意だ。



「ふゅっ……」

「逃がす訳無いだろトカゲ。お前は処刑確定、尻尾の先から輪切りにしてステーキにしてやんよ」


「なっ!?何故なのだ!?我と貴様は初対面であろう!?!?」

「なぁお前、ユニくんを殺すって言ったんだって?ユルドさんから聞いたよ」



 氷柱で滅多刺しにする様な極寒の殺意が冥王竜を襲う。

 この絶望、まさしく英雄……。などと思いながら、ひっそりと助かる道を模索し始めた。



「おねーさんはお前が天龍嶽から出てくるのを待っていた。流石に不可思議竜が居る場所で戦うのは無謀だからね」

「ぬ?不可思議竜様は天龍嶽に居ないが……?土星竜さんか海王竜さんと勘違い――」


「あぁ、天龍嶽では海王竜とか名乗ってるんだっけ?バレバレなのに面倒な性格だね」

「ぬわんだとぉぉ!?」


「で、出てきたと思ったらレジィのペットになっててビックリ。流石レジィ、おねーさんの予想を超える可愛い義妹!」



 恐れを知る海王竜リーグレット・ネプテュス=不可思議竜。

 そんなとんでもない事実を聞かされ、冥王竜の思考は停止した。

 だがそれでも……、いや、思考停止していたからこそ、反射的に文句を口にしてしまう。



「ぬ?我はレジェリクエのペットなのではない。勘違いするな」

「へーそう?じゃあ心置き無く殺せるじゃん」


「あ、間違えたッす!!俺はレジェリクエのペットっす!!美味しい餌で飼われているっす!!」

「そうなん?ちぇ……」



 子供のように唇を尖らせたローレライ、その目に宿る光はまったく色褪せて居ない。

 むしろ子供特有の無邪気な笑顔……、無残に昆虫を引きちぎる様な獰猛な笑みを浮かべている。



「と言う訳で、2対1でいいよ」

「ぬ?」


「大丈夫、大丈夫。キミらはレジィとユニくんのお気に入りっぽいからね。殺すけれども、死せなはしないさ。にゃははははー」



 ローレライが腰に下げていた剣、それは神殺しの一つ『犯神懐疑・レーヴァテイン』。

 そっとそれに触れて、瞬く間に鞘から剣を引き抜いた。

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