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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第10章「真実の無尽灰塵」

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第8話「冥獄の王②」

「なんだこの、異常な疲労は……?」



 傾く身体を取り繕い、澪騎士は冥王竜から距離を取った。

 苛烈に攻めていた攻撃を中断せざるを得ないほど、本能的な危機を感じ取ったからだ。


 澪騎士は、戦いの中で息を切らすような愚かな真似をしない。

 それは死に直結しているものであり、当然、そうならない為にあらゆる手段を講じて己を鍛え上げてもいる。

 だからこそ、久しく感じていない疲労に直面し、僅かな困惑を見せたのだ。



「これは我が新たに手に入れた力、『星刻の加速パーシャルダイムシフト』である」



 冥王竜の胸に輝いている宝珠は輝きを増し、周囲を夕焼け空の様に染め上げている。

 それに手を翳して意識を向けた澪騎士は、ちっ、っと小さく舌打ちをして抱いた考えをまとめ上げた。



 この体の感覚、これは確かに疲労だ。

 鎧を開放し『幻想の共演者』を発動しているとはいえ、これ程消耗が速いのは明らかにおかしい。


 だが、私が着ている鎧はアンチバファを反射する能力を持つ以上、この疲労は私の肉体自身が発しているものだ。

 短時間の戦闘での疲労。

 異常な速さで減っていく魔力。

 その答えは……。



「空間に時間を加速するバッファを掛けたのか」

「ほう?」


「それも、周囲一帯の時間の流れを加速するという大規模なものだな。しかも、それはお前に近づけば近づくほど速くなる。違うか?」

「ふむ、なおさら小賢しい。そこまで言い当てられると語れなくなるではないか」



 戦闘相手に能力を語ろうとするな。駄竜。

 澪騎士はツッコミを飲み込み、ついでに苦しそうな息を吐いて相手の自尊心をくすぐった。



「ミオ。一つ、希望を費やす材料をくれてやろう」

「まだ何かあるのか?」


「我は竜で、お前は人間。その差は顕著であるぞ」

「それは肉体的な意味か?」


「そうである。『星刻の加速パーシャルダイムシフト』は、我に近づけば近づくほど時間の流れが加速する。そしてそれは……体が弱く、寿命が短い人間には致命毒となるのだ」



 人間が生きられる時間は、どんなに引き延ばしても100年程度が限界だ。

 それは神が定めし『成長限界』という理であり、それを超える為には超越者になるしかない。


 どんな生物であれ、大なり小なりの成長限界『寿命』が存在する。

 だが、全ての生物種に備わっているはずのその理をドラゴンは持っていない。

 不可思議竜の持つ『命の権能』により、全てのドラゴンには寿命が存在しないのだ。

 そして、冥王竜が欲した『星刻の加速パーシャルダイムシフト』は、その特性を絶対的優位に置き換える為の能力だった。



「生物はいずれ死ぬ。待っていれば死ぬのだから、それを後押ししてやれば必勝であろう?」

「理には叶っているな。だが、体感した感じは通常の30倍って所で、私を老衰で殺すのに730日ぐらいは掛る。気の長い事だ」


「そうではない。時間はもっと直接的にお前の体を蝕み殺す」

「……?なるほど」


「そうだ。先程の攻防で起こった指先からの出血。それが鈍痛を発している頃であろう?」



 澪騎士が剣を握っている右の人差し指。

 マメが潰れて出来た裂傷が化膿し、痛みを発している。

 いくら防御魔法があろうとも、肉体の防衛本能が作った傷は防げない。

 そんな、戦いの妨げにならないはずの小さな傷、それが短時間で苦痛に感じるほどの痛みを発するなど、澪騎士の常識では考えられない。



「人間は脆い。小さな傷が原因で命を落としてしまう程にな」

「時間を加速し、怪我の症状を悪化させたか。人類どころか、生物にとって害悪でしか無いな」



 星刻の加速パーシャルダイムシフト、その真価は『時間経過による悪化』だ。


 怪我を負い、処置していない状態で時間が加速すれば傷口は化膿し、腐り、やがては崩れ落ちる事になる。

 通常ならば戦闘が終わった後で処置すれば問題が無いだろう。

 だが、通常の30倍の時間加速……、30分の戦いが15時間の経過を引き起こすのなら、手遅れとなるのは当たり前の事だ。



「不用意に近づけば自爆。なら……《轟け、放雷なる光撃を。雷槌の戦人公(トール・ミョルニル)》」



 不意打ちと言うよりも不可逆というべき、戦いの流れ。

 近接戦が行えないならと放ったランク9の魔法が、真っ直ぐに冥王竜に向かって飛んでいく。


 だが、冥王竜はその魔法を避けすらしなかった。

 これこそが不可逆であるというように、魔法が直撃した冥王竜の顔面は……、無傷だ。



星魔の加速(スイング・バイ)、我が元々所持していた魔法への干渉能力も健在だ。効果時間が決まっている魔法など効かぬ」

「遠距離攻撃は出来ず、近づけば自爆する。しかも、鱗に攻撃すれば武器を浸食されるから手順が必要になり、せっかく作った活路も既に塞がっているか。大災厄の名にふさわしい事この上ない」



 澪騎士が向けた視線が捉えたのは、腕を捥ぐ為に削いだ鱗が再生し光沢を放っている光景だ。


 冥王竜に近づけば近づくほど時間が加速するのなら、冥王竜自身が受ける影響はどれ程なのか。

 そこに考えが至った時には既に傷は完治しており、忌々しいと唾を吐くしかできなかった。



「遠くからの攻撃は出来ず、不用意に近づく事も出来ず、一撃で殺す事も出来ず、時間を掛けて攻略する事も出来ない。無い無いずくしだな?ミオよ」

「……。」


「理解したか?お前に希望など無いのだ。我は最強になったのだからな。ぬぅーははは!」



 高笑いをする冥王竜を放置し、澪騎士は思考の海に浸っている。

 僅かに引っ掛かった違和感、そこに希望があると思ったからだ。



 冥王竜には攻撃魔法が効かない。

 試しにランク9の魔法をぶつけてみたが、掻き消された。

 前から使用していた『星魔の加速』は盤石な運用をするだろう。

 なら、まだ慣れていない『星刻の加速』の方を攻略すればいい。


 どんな些細な傷であったとしても、それを放置すれば致命傷となる。

 化膿、破傷風、感染症、幻肢痛……未治療の怪我や傷が引き起こす影響など、それこそ計り知れないものだ。


 だが、時間とは必ずしも悪い影響を及ぼすものではない。

 適切な処置を行えば傷は完治する。

 他にも、修練によって体を強くするにも、鎧に魔力を溜め込むにも、時間という一律で絶対的な節理が邪魔をしていた。


 それが、簡易的にでも取り除かれているのだとしたら……?

 私は、この戦闘の中で無限に強くなれるのではないか?



「やってみる価値はあるな」

「ぬん?何をやるというのだ?」


「なに、単純な話さ。お前が戦いの中で死んで強くなるのだとしたら、私は戦いの中で死なずに強くなればいい」

「戯言を。我は王なる竜なのだぞ?人間が二度も三度も勝てる訳が無い。ましてや、我の命を殺し尽くすなどと……」


「歴史上に名を馳せた竜。そのいずれも人に屈して首を捧げた。お前がどれだけ強くなろうとも、始めから変わっていないんだよ。大前提が」

「何の話だ?」


「冥王竜、お前はこれ以上強くなれない。一度殺しさえすれば、お前はもう弱体化する一方だ。だが、私は魔力がある限り強くなっていく」

「二度は無いと言ったはずだ」


「そうだ。本来、命のやりとりに二度など無い。そして――、」



 澪騎士の金色の瞳に朱色が混じり、纏っていた魔力が一気に減った。

 そして、その現象を冥王竜は知っている。

 それは、ランク0の魔法の兆候。更に付け加えるのなら……、


 全ての魔法の根源、魔法十典範オムニバスのものだ。



「ぬぅ!?」

「私は、命のやりとりで負けた事が一度もないぞ、冥王竜。《天道を割く武人王(イザナギノミコト)》」



 余裕を振りかざし、遊びに興じていた冥王竜から笑みが消えた。

 それと同時、金色のオーラが澪騎士を包む。


天道を割く武人王(イザナギノミコト)

 魔力が続く限り、身体能力を数十倍に引き上げるランク0の創生魔法。

 魔法十典範『開闢を生みし武人王(オムニバス・イザナギ)』から派生した魔法であり、通常のバッファには無い回復魔法としての特性、栄養素の代わりに魔力を使用して新陳代謝を高める効果も持つ。


 澪騎士が求めた作戦、それは冥王竜の力を利用した消耗戦だ。

 魔法によって高めた治癒力を星刻の加速によって更に高め、尋常ではない速度で破壊と再生を繰り返すそれは、人間の限界を超えた劇的な進化をもたらす。

 肉体が強くなる為のプロセス――、延々と続く筋肉や魔力の超回復を以てして、澪騎士は冥王竜を超えようとしているのだ。



「ぬぬぬ……。」

「おっと、随分と悔しそうな顔をしているな?何か不都合でもあったか?」


「ない。そんなもの、死ぬ運命のお前には関係無かろうッ!!」



 澪騎士に訪れた予定外の吉兆。

 冥王竜が重圧を掛けて引き起こしていた魔力消費のペースが遅くなっている。

 そして、冥王竜の顔から察し、天道を割く武人王(イザナギノミコト)には干渉できない事を理解した。


 冥王竜が焦っている理由、それはランク0の魔法には干渉できないからである。

 魔法の効果時間を1000倍に引き上げる星魔の加速の原理は、魔法として上位に存在している虚無魔法での上書きだ。

 最上位たる根源に近しいランク0、それも、魔法十典範から直接派生した魔法に干渉できるはずが無い。


 だからこそ、外野から愉快そうに事態を眺めている師匠の事など忘れ、冥王竜は本気になった。

 両腕から噴き出す炎を爆裂させて纏い、爪と殺意を剥き出しにして叫ぶ。



「我が拳に宿れ、核熱の炎ッ!!」



 冥王竜が持つ必殺の形態。

 それは虚無の属性を燃やす事で粒子化し、己が拳に空間を破壊する力を備える事だ。


 轟々と燃える青い炎。

 煌々と光輝く赤い宝珠。

 周囲に紫色の暗黒が満ちていき、それに向かって澪騎士が歩み出す。



「《長剣ロング》《大剣クレイモア》」



 刀身が最も長い二種の剣に変化させ、澪騎士は駆け抜けた。

 天道を割く武人王、それによって引き上げられた身体能力を駆使し、一気に距離を詰めたのだ。


 それは、雷鳴のごとき剣撃だった。

 力任せに振るわれた故に空気を置き去りにする、本物の雷の様に枝分かれした剣筋。

 虚無の属性が宿る炎や鱗など無視するかのような激しい初撃は、確かなダメージを冥王竜へ与えた。



「なにッ!?何故、武器が壊れぬ!?」

「私はお前ほど馬鹿では無い。手の内を語るはずがないだろう」



 澪騎士が持っている剣、それは確かに長剣と大剣だ。

 だが、それに宿してある能力、それはそれぞれのものだけでは無い。


 壱の刃・長剣……『切断』

 弐の刃・大剣……『巨大化』

 参の刃・両剣……『強固』

 肆の刃・曲剣……『回避不能』

 伍の刃・突剣……『一点集中』      

 陸の刃・波剣……『魔法付与』

 漆の刃・短剣……『半減』

 捌の刃・闘剣……『一撃必殺』

 玖の刃・鉈剣……『転向』



 それらの能力を複数掛け合わせたオリジナルの魔法剣こそ、澪騎士の真骨頂。

 振るわれている長剣と大剣にはそれぞれの能力に加え、転向と半減と一点集中の能力が付与されている。

 冥王竜の拳に纏う核熱の炎、それを半減によって対処可能なまでに減少させ、転向で受け流したのだ。


 そして、澪騎士は大剣の能力で刀身を伸縮させて間合いを調整し、体に受ける影響が最も良い距離を探った。

 一転集中させた切断の能力で鱗を削いで回復力にも当たりを付け、高速で戦略を組み立てていく。



「小癪なッ!!《龍の一撃(インパクト)!》」

「《鉈剣(ククリ)》《曲剣(フランベルジュ)》」



 竜と戦い慣れている澪騎士にとって、攻撃の予兆を読み取る事など造作もない。

 振り上げた拳を叩きつける前に迎撃の手段を整え対処するのは、基本中の基本だ。


 力無く受け流された冥王竜の拳には、3本の突剣が刺さっている。

 その中に秘められている能力は『巨大化』。

 澪騎士が振り下ろした両剣がそれらを打ち抜くと同時に効果を発揮し、冥王竜の腕を内側から破壊した。



「くっ!剣を焼き尽くせ《核熱の炎》」

「《三対・闘剣(ダガー)》」



 巨大な杭状だった突剣を小さな闘剣へと変化させ、放たれた炎の威力を利用して空間へ弾き飛ばす。

 澪騎士は、虚無属性の炎から抜け出た事により再び管理下に置かれた剣を手に取り、波剣と短剣にして構え直した。



「ふぅ、だいぶ負荷がきつい。腹が減る」

「腹が減っただと?ふざけおって!!」


「いやいや、一大事だよ。飯を食わなければ死んでしまうだろ。今日はドラゴン団子鍋だな」

「きさまっ……!」



 剣筋を、身のこなしを、会話でさえも。

 澪騎士は一挙一動に全身全霊を注いでいる。

 強大な冥王竜に打ち勝つために、持ちうる技術をすべて使って希望を見い出そうとしているのだ。


 澪騎士が立てた作戦、それは確かに理屈の上では成し得る事だ。

 冥王竜と戦い続けられれば、肉体的にも技術的にも進化するだろう。

 天道を割く武人王を纏い、冥王竜の能力によって時間が加速しているこの状況なら、体力と魔力、その両方が回復するのも早い。


 だが、それは澪騎士が優位に立っていればの話だ。

 深い傷を負えば即、致命傷へと至る。

 魔力と体力を回復するのは冥王竜も同様。


 もともとの身体能力が劣っている以上、長い時間を掛けなければ澪騎士は追い付けない。

 先の見えない綱渡りの様な戦い。

 それでも、澪騎士は悟られないために笑みを絶やさずに語る。



「楽しいな、冥王竜。こんな戦い生まれて初めてだぞ」

「何故倒れぬ?それだけの動き、体が付いてこれるはずがないのだ!?」


「確かに私の身体は壊れていくが、回復すれば問題ない。お前の能力は便利だな、冥王竜」

「なんだと!?まさか、我のーーッ!」


「……緩めたな。それが私が求めた希望だ」



 お前の能力を利用している。

 そんな事を真正面から言われた冥王竜は動揺し、僅かに能力の行使を緩めてしまった。


 一つ、冥王竜が把握して無かった誤算がある。


 それは星刻の加速によって、澪騎士の身体感覚に狂いが生じていたという事だ。

 体が大きい冥王竜ではさほど気にならない差ではあったが、時間が加速すると魔力行使に影響を及ぼす。

 それにより、剣への魔力供給が乱れ、六重以上の能力付与が制限されていたのだ。



「《十二追奏葬送デュオデクテット・デミス》」



 澪騎士が新たに出現させた三本の剣。

壊剣ブレイカー』『刺剣カタール 』『幸剣クリス』。


 それぞれ、『破壊』『貫通』『回復』の能力を備えたそれらと出現させていた九本の剣。

 それら全てを束ねる事によって発揮される、たった二十秒間の『全能の剣舞』こそが、澪騎士として持ちうる最高の攻撃だ。



「いくぞ」

「ぬっ……!?」



 爪が叩き折られ、冥王竜が声を漏らした。

 なぜ!?と思う暇もなく、皮膚を割かれた痛みが襲う。

 今度は鈍通だ。内側から響く痛みは、骨を傷つけられたのか。


 ここで初めて、冥王竜は危機を理解した。



「人間風情が!調子に乗るナァァ!!《冥王の一撃(プルートインパクト)ッッ!!》」



 昂った感情を隠しもせずに奮われた冥王竜の必殺の拳が、空間を穿つ。

 薄氷を叩き割ったかのように漆黒の魔法次元が露出し、爆心地に存在していた物質は塵となって次元の彼方の屑となる。


 そんな結果が起こらず、冥王竜は困惑の悲鳴を上げた。



「なぜだっ!?何が起こっ……!?」



 澪騎士に解説されるまでもなく、冥王竜の眼は原因を捉えていた。

 自らの腕に突き刺さっている五本の剣。

 それは、拳の進路に剣が割り込んできたのを無視して殴ったが故の弊害だった。



「お前の拳から放たれた衝撃、それを半減の半減の半減の半減の半減、3%の威力になる様に軽減させた」

「なっ!」


「トカゲに数学は難しい話だな。お前はただ、敗北を噛みしめていればいい。《十二代剣舞・国冥こくみょう》」



 空間で停止させられている冥王竜の右腕、それらが解き帰されてゆく。

 澪騎士は織られた反物を糸に戻していくかのように、爪や鱗、纏う炎でさえも斬り裂いて、世界の中へ還元しているのだ。


 12本の魔剣、天道を割く武人王(イザナギノミコト)、冥王竜の時間加速。

 それらによって高められてはいるものの、それは澪騎士の技があってこそ。

 痛みが神経を伝わるよりも速く斬り裂くその剣技は、英雄と呼ばれる人種に近しい物なのかもしれない。


 そうした数秒の攻防の幕引き。

 それは冥王竜の腕の爆散だった。



「うがぁああッッ!!」

「腕を自切したか。まさにトカゲだな」


「はぁ……はぁ……。くそう」



 冥王竜は魔力を乗せた咆哮を放ち、肘から先を吹き飛ばした。

 さらに、叩きつけた圧力の余波を回避させ、澪騎士と距離を取る。

 そんな目論見は成功し、鋭い眼光がギラリと輝く。



「強いぞ、ミオ。人間としてならば、我が知る誰よりもだ」

「リリンやユニクルフィンは?と聞きたいところだが……。まぁいい、どうせ回復の為の時間稼ぎだろう?」


「……。これだけは見せるなと、我が師から言われた技がある」

「なに?」


「レジェリクエが反旗を翻す事は無かろうが、その子孫、そのまた子孫と代を重ねていけば、矛が向く可能性があるという。我が師も裏切りによって幼竜まで落とされた事があると言い、奥の手を隠しておくように仰られたのだ」



 澪騎士は何の話だ?と思うも、そんな邪念を抱かせる事こそが狙いだと判断した。


 まずはもう片方の腕を捥ぐ、そうすれば何らかの動きがあるはず。

 それを見て逃げるもよし、和平交渉するもよし。


 戦いの決着を見た澪騎士は駆け出した。

 もう一度、全ての剣を同調させ、同じ結果を繰り返す為に。



「御託は良い、とりあえず死んでおけ」

「誇ってよいぞ、ミオ。この技……、否、『武器』は強き者と同じ土俵で戦う為に創り出した物だ。《浄罪の冥獄槍(プルガートリウム)》」



 冥王竜の失った腕の先、そこに真っ白な宝珠が出現した。

 そして、右腕は瞬時に再生し、更に全長15mほどもある光の撃槍が生み出される。

 青く輝く光と炎の槍、それは澪騎士の知るランク9の魔法にも似ているものだ。


 だが、そんな付け焼き刃の武器など斬ってしまえばいいと、澪騎士は駆け抜けた。

 そして先程と同様、12本の剣の内、5本が槍の進路を妨害し――されど、呆気なく破壊されたのは剣の方だった。



「なっ!?」

「半減の半減の半減の半減の半減だったか?そこまで減退させても、剣の耐久力が足りなかったようだな」



 結果を突きつけられ、残った剣も3本と4本に分けられて破壊された。

 辛うじて鉈剣の効果で逸らさせたが故に澪騎士は無傷。

 だが、武器を失い、魔力も尽きかけている。


 それは、誰に目にも明らかな――、絶望。



「浄罪の冥獄槍、これは我が得意な虚無の性質の他に、我が師から授かりし光の結晶を軸にして作ったものだ。強さの桁がまるで違うぞ」

「竜の結晶……?お前の宝珠みたいなものか」


「我にこれを抜かせた以上、希望も慈悲もない。貴様は殺す」

「確かに、私に希望は残されていないようだ。認めよう」



 降参だ。とでも言うように砕けた剣の柄を捨てて両手を挙げた澪騎士は、間合いを確認した。

 自分と冥王竜、そして……今にも動き出しそうなリリンサとユニクルフィンの位置を把握する。



「ふむ、ならすぐに楽にしてやろう。希望を費やし死ぬが良い」

「……だが、お前の未来永劫を塗り潰す、果てなき絶望なら持っている」


「なに?」

「《サモンウエポン=徹頭尾を刈する凶剣(デュラハダルク)》」


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