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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第10章「真実の無尽灰塵」

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第6話「戦いの開幕②冥界より戻りし王竜」

「先程はふざけた事を言っていたな。人間。……我が真なる力の前にひれ伏し、希望を費やし死ぬが良い」



 希望を費やす冥王竜と澪騎士ゼットゼロが睨みあっている。


 いくら大陸全土を巻き込む大戦争だと言えど、俺達と澪さんの関係は決して悪い物ではなく、何処か緩い空気感すら漂っていた。

 だが、今、俺達の前にあるのは張りつめた空気と、本物の命の取り合いだ。


 澪さんの剣撃により命を散らした冥王竜、その狙いは……新たなる姿への転生だった。


 黒曜と輝く鱗は鎧のように変貌し、厚く、堅く、強靭に進化。

 全長こそ僅かに縮んだものの、腕も足も逞しくなり、人間に近い姿となっている。

 そして……上半身には真紅の宝珠とクリスタルが輝く。

 ここから漏れ出している途方もないエネルギーの波動は、以前の姿とは比べる事すらおこがましい。


 味方である俺ですら戸惑い、畏怖するその姿は、まさに王竜。

 ……もう二度と、駄犬なんて呼べやしねぇ。



「これは……まるで想定外だな。弱体化して蘇るドラゴンですら珍しいのに、強くなって復活するなど聞いた事がない」

「それは当り前の事であろう、小さき人間よ。不可思議竜様の権能・解脱転命の真髄は『適応進化』にあるからだ」


「適応だと?」

「確かに、今の我は、先程の我よりも魔力量が弱体化している。肉体の大部分を解いて再誕させているとはいえ、欠損部位などを魔力で補う必要があるからだ」



 魔力で補っている……?

 なるほど、消し飛んだ部位を作るには、当然、元となる材料が必要になる訳だ。


 おそらくだが、解いて再誕させる際に不足した肉体を補う為に魔力を混ぜ込んで量を増やし、均等に振り分けるんだろう。

 この方法ならば、純粋な魔力100%で再生させた時よりも強い肉体になるのかもしれない。



「だが、真なる転生は望んだ姿へ至る力だ。当然、目の前の敵を殺すのに最適な姿となる。ならば言わずと知れた事だろう」

「真なる転生を目撃した者の大半が、その竜に殺されている……か。厄介な」


「真実を知り得たか?ならば、希望を費やし死ぬが良い」



 冥王竜は鷹揚に頷き、決め台詞を吐いた。

 澪さんのも含めると通算三回目だし、だいぶ飽きてくる。


 そんな馬鹿な事を考えつつ、俺は空間を疾駆した。

 流石にこのまま戦わせるのは不味い。

 冥王竜と違い、澪さんには転生する術など無いのだ。



「ちょっと待て、冥王竜。戦う前に聞いておきたい事がある」

「赤き先駆者よ、邪魔をするな。今の我は昂っている、いくらお前でも殺してしまうやもしれんぞ?」



 そう、それが問題なんだよ。

 俺とリリンで戦えば95%以上の確率で勝利できるとされていた冥王竜の実力が、どんな事になったのか見当がつかない。


 冥王竜が言うように魔力が弱体化している様には……見えない。

 宝珠から噴き出す魔力はむしろ強くなっているし、両腕から発せられている蒼炎も甘く見て良い代物では無さそうだ。

 明らかに強化されている冥王竜、そのカラクリを解き明かしておかないと今後に支障をきたすかもしれない。



「お前があまりにもカッコ良くなっちまったから気になるんだよ。どうしてそうなった?」

「うむ。気になるのなら仕方が無い。教えてやるとしよう」



 ……よし、対話は出来るようだ。

 むしろチョロイ。

 中身はあんまり変わってないな。



「弱体化してると言ったが、全然そんな風には見えないぞ?むしろ強くなり過ぎじゃないか?」

「うむうむ、それはそうであろう。湖を蒸発させて作った湯気と、池を凝固させて作った氷。どちらの方が攻撃力があると思うのだ?」


「湖の方が圧倒的に量が多いが……威力が高いのは氷だろ。湯気をぶつけられてもすり抜けるだけだ」

「そう、真なる転生はそこが違うのだ。そして、我が行った転生はさらにその先を行く。例えるならば鋭く加工された氷柱なのだ」


「なに?」

「この姿は、我が師によって研鑽された転生秘術を元に、入念に考えて構築したものである。その場しのぎの転生などとは比べるまでもあるまいよ」



 ……って事は、そこで視線を背けつつも尻尾を振りまくってる希望を頂く天王竜が黒幕って事だな?


 ……。

 …………。

 …………………こんの、裏切りドラゴンがぁぁぁぁッッッ!!

 何が目的でこんな事しやがったッッ!?



「まったく、そんなに強くなってどうするつもりだよ?強大な敵でもいるのか?」

「タヌキだが?」


「……おぉう」

「現在の天龍嶽は住み付いたタヌキ共の軍勢により壊滅の危機に瀕している。他の惑星竜が行方不明の今、我が竜族を統治する他ないのだ」



 冥王竜が進化した理由、タヌキだった。

 うん、確かにカツテナイタヌキロボと戦うならパワーアップは必須だが……、だったら俺の知らない所で転生しとけ。

 つーか、タヌキは何処に居ても害獣だな。滅びればいいのに。


 そして結局、今になって転生したのは裏切りドラゴンの入れ知恵が原因だろう。

 あっ、さっきのホロビノとの雑談は、仕事を減らしたい冥王竜がドラピエクロを惑星竜へ推薦したいって話か?

 で、諦めさせる代わりに転生する許可を出したと。


 ホント、ロクなことしないな。裏切りドラゴン。



「ちなみに他の惑星竜はどうしたんだ?」

「我と同格だった4匹の王竜達は転生できなくなるまで那由他様に齧られ、天龍嶽から去った。おそらく、どこかで療養しているのであろう」



 やっぱり行方は知らないのか。

 そっちも裏切りドラゴンが暗躍しているぞー、気を付けろー。


 ちなみにその推察は正解だ。

 ミニドラ共は病院で元気に療養している。

 主な薬はロールケーキだ。



「ついでに聞くけど、なんでタヌキの皇種が天龍嶽に居るんだ?親父も居たって話だったよな?」

「……お前が知る必要はない」



 露骨に隠されたが、誰かに口止めされているのか?

 うーん、なんとなくタヌキが起点な気がする。……で、親父が止めに入った?

 温泉郷で出てきやがったから死んでないし、なんだかんだ事態は落ち着いたって事で良いんだよな?



「真なる姿の冥王竜。私からも質問があるんだが良いだろうか?」

「なんだ?小さき人間よ」


「その前に、私の事はミオと呼び捨てで構わない。その姿を見てしまえば畏怖せざるを得ないのだからな」

「ふむ。質問を許すぞ、ミオ」



 あっ、俺達のやりとりを観察していた澪さんが冥王竜の扱い方を覚えた。

 適当に褒めておけば情報をペラペラと喋り出す駄犬だと気が付いたようだ。



「普通の転生と真なる転生。当然難易度が違うんだろう?貴方は不可思議竜の眷皇種だから真なる転生ができるのか?」

「それは違う。眷皇種になる事で力を得るのではなく、優れた才能を持ち、先を見通す理知ある竜が王として君臨できるのだ」


「先を見通す……か。つまり、その真なる転生とやらは事前準備なしには行えず、今のお前はその事前準備を使いきった状態にあるわけだ」

「うぬ?それはそうだが、その言葉は不遜であるぞ。この姿は我が師に構想を伝えた時に「いい感じ」と褒められたほどなのだ。これ以上の状態などないのだから、安心して絶望するが良い」


「そうか?むしろ私は、その言葉を聞いて希望を見い出したぞ。《魔留の取り加護・解放(エンチャントリリース)》」



 王竜に恐れを抱く騎士を演じていた澪さんが、表情を捨てた。

 すっと目を細め、僅かに呼気を整え、そして……纏っていた全身鎧を一斉に脱却させていく。


 現れたのは――、澄んだ蒼色の騎士鎧プレートアーマー

 先程までの無骨な全身鎧とは違って女性的であり、体の動きを邪魔しないだろう。


 そして……、その輝きは、冥王竜の宝珠にも劣っていない。

 発せられている相対する赤と青の光が反発し合い、空を二色に染め上げた。



「尋常ではない魔力だ。何事だ?」

「お前は私の魔力量に興味があるんだったな?秘密を聞かせてくれた代金代わりに教えてやろう」



 視線こそ冥王竜に向けているが、澪さんは俺達に説明しているかのようだ。

 俺の隣に居るリリンも平均的な戦闘態勢で話を聞いている。



「さっきまでの全身鎧は『魔留の取り加護』という、私が発する魔力を鎧の内側に留めることで、どんな攻撃も確実に無効化するという魔道具だ」

「第九守護天使の様なものか」


「純粋な防御性能はこちらの方が良いが、魔力の放出を抑えてしまう欠点がある。そして、内側に着ていたこの鎧は逆に魔力を反射する。そんな相反する二つの鎧、それらの特性を私は融合させていた」

「外側にも内側にも魔力の行き場が無い?そんな状態で魔力を体から出せば……。ほう、面白い」


「合わせ鏡のように鎧の間で無限に反射し続けた魔力は、やがては臨界に達し鎧の内部へと浸透する。私がこの鎧を身に付けて十数年。蓄えた魔力は決して少ない物では無いぞ」



 俺達と戦わないように立ち振る舞っていた澪さんから笑みが消え、大災厄を見る目へと変わっている。

 リリンもそれに気が付いているようで、「澪は覚悟を決めた。ある程度の決着がつくまで、もう止まらない」と呟く。



「リリン、もう止まらないらしいが……澪さんに勝算はあると思うか?」

「……あの鎧になったとしても、まだミオは本気を出していない」



 冥王竜に聞こえないように第九識天使を通して伝えられた解説では、澪さんが出せる剣は最大12本。

 9本の剣しか出していない今は、まだ余力を残している状態だという。


 だが……。



「俺には、澪さんの方が分が悪いように見えるぜ」

「どうして?」


「冥王竜の腕から噴き出している青い炎、アレは魔道具とは相性がすこぶる悪いはずだ」

「……炎色反応。青は確か……」


「あぁ、主に金属が燃える時、炎は青く変化する」



 銅や鉛、錫など、多くの金属は燃える時に青や紫色へと変化する。

 魔道具の主な材料は金属であり、それを直接破壊する手段を手に入れているのならば、冥王竜に死角はない。



「攻撃魔法も防御魔法が無効化できて、魔道具を直接破壊できるようになった。それに、ミオが使った糸も既にもう無い」



 冥王竜の体が漆黒卵に変化する際、食いこんでいた糸を巻き込んでいる。

 リリンの解説では、冥王竜の身体が霧状になった時に糸にも浸透し、魔力で染め上げてコントロールを奪ったという。

 元々がホロビノの体毛だというのなら、ドラゴンの魔力と親和性が高いのも納得だ。



「どっちが勝つか分からないが……。俺達は澪さんの危機に動くって事で良いか?」

「それがいい。澪はもう言っても止まらないし、冥王竜も新しい力に酔いしれている。冷静な私達が見守るのが最善」



 傍観を決めた俺達の視線の先で、澪さんが腰側で剣を構え、冥王竜が拳を突き出した。

 そして、静まり返った空気が揺らめき、剣閃が走る。


 先に仕掛けたのは、澪騎士ゼットゼロ。

 抜刀術と刺突を混ぜた鋭い突き払いが冥王竜の爪によって阻まれ、甲高い金属音を発生させた。


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