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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第10章「真実の無尽灰塵」

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第10章プロローグ②「神が黙した質問」

 

「……セフィナ?全く聞いた事がありませんわね、誰ですの?」



 たった半日で大領地を征服せしめたレジェンダリアよりも恐ろしいと切り出した悪性に対し、悪質は疑問の声をあげた。

 まるで聞き覚えが無い名前『セフィナ』に、しっかりと覚えがある『リンサベル』。

 良からぬ予感がしたからこそ、話を円滑に進める為に道化の役割を買って出たのだ。



「セフィナは、最近になってブルファム姫達の離宮塔に出入りする様になった護衛で、13歳前後の女の子だ」

「まるでガキじゃありませんの。そんなのが護衛とは、オールドディーンまでボケ始めているのでは?」


「そうだったら楽でいいんだけどねぇ。……結論から言うよ。このセフィナはラルラーヴァーの仕込みで間違いない」

未熟な幼虫(ラルヴァ)の仲間か。それだけで捻り潰したくなりますわね」



 言い捨てるように暴言を吐き、悪質は忌々しそうに唇を結ぶ。

 ラルラーヴァーの指導聖母時代より幾度となく小競り合いをしてきた二人は、まさに犬猿の仲と評されるほどの関係なのだ。


 フォスディア家の武力を使用して自らが動く悪質は、あの手この手で裏側に潜り込み、一切自分の手を汚すことなく利権だけ攫って行く悪辣が大嫌いだ。

 利益を悪辣に奪われた事など数知れず。

 中には、始めから悪質にやらせて利益だけを奪おうと計画し、悪辣が依頼主をコントロールしていたケースなど、その策謀は多岐に渡る。

 もともとの性格が噛み合わない上に、そんな騙し合いを続けていれば仲が悪くなるのも当然だろう。


 そして……、悪辣はラルラーヴァーへと進化して指導聖母の上位者となり、その立場さえも脅かし始めた。

 当然、ラルラーヴァーが関わっている少女がいると聞いてしまえば、悪質が大人しくできる訳が無い。



「ラルヴァの仕込みという事は、心無き魔人達の統括者ということですの?それが東の離宮塔に侵入しているのは忌々しき事態ですわ」

「いや、心無き魔人達の統括者じゃないらしい」


「どういうことですの?」

「セフィナはね……、あろうことか大聖母ノウィン様の実子だと自称しているんだ」


「はぁ!?ありえませんわ!!」



 悪逆を除いたここに居る指導聖母達は、それぞれの観点から大聖母ノウィンへ一目置いている。

 そこには様々な理由があれど、誰ひとりとして大聖母ノウィンを軽視することはなく、忠誠を誓っているのだ。

 そんな自分達の主が子持ちの人妻だと急に言われても、常識的に受け入れられないだろう。


 そして、大聖母ノウィンの事を誰よりも詳しく知っている神は「あ、面白い展開になってきた。録音しとこ」と、密かにクリスタルを握り込んだ。



「ノウィン様に子供がいる訳ありません。 あの方は敬虔な神官であり大聖母なんですのよ。子供どころか、清らかな身体のまま一生独身ですわ」

「完全に同意。人妻どころか家事とかやってる所を想像できないでしょ。そんなの見たら、魔王共だって逃げ出すだろうね。当然、僕も逃げる」

「私めもそう思います。ノウィン様が旦那や子供に食事を作る?はは、御冗談を」

「肉団子なら作れんじゃないか?虚無魔法で」


「あっははー、すごい言いたい放題。これを聞けただけでも会議に出た甲斐があるってもんだね!」



 一体何の冗談だと鼻で洗い飛ばして笑い合った後、それぞれが周囲を見渡し……、言いようのない寒気に体を震わせた。

 今のはなんだ?と思いながらも、何故そんな事を悪性が言いだしたのかという話題へ切り替わっていく。



「だがな悪性。実は私もセフィナがノウィン様の実子だという噂を手に入れている。少なくとも東の隔離塔で広まっているのは確かだ」

「私めも、似たような事を聞きました。調べるに値しない雑事だと思いましたが……」



 悪才と悪徳はセフィナの話を知っていたと提示。

 意見交換をした方がいいという雰囲気を感じ、鋭い視線が悪性へと集まっていく。



「そう、悪質の言うとおり、ノウィン様に子供なんている訳が無い。……と僕も思ったけど、もしかしたらと思って一応調べたんだ」

「全くの徒労、という口ぶりじゃ無さそうですわね?」


「徒労で終わってくれた方が良かったと思っているよ。これがセフィナに関して、ぼく直々に調べた調書だ。見たまえ」



 悪性は高らかに指を鳴らし、席についている全員の前に調書を出現させた。

 そして、全員が眉をしかめる。



 セフィナ・リンサベル。

 年齢  13歳。

 好きな物『おねーちゃんとゴモラ』

 嫌いな物『悪いゆーにぃ と とっても悪い心無き魔人達の統括者』


 将来の夢『神託を達成して、おねーちゃんと一緒に暮らす!』

 得意な事『いっぱいの魔法 ご飯を食べること』

 苦手な事『さんすう』



「これはまた杜撰な調書だな。雑すぎる上に、意味も分からない。ゴモラとは何だ?」

「神託……。唯一神アルタマンユ様を信仰しているのですね。素晴らしい」

「さんすうと平仮名で書いてある辺り、嫌悪感が滲み出てますわ。こんな落書きを見せるなんて、貴方らしくありませんわよ。悪性」



 各々が調書を手に取り呟いた感想は辛口なものであり、自分達のまとめ役へ向けて良い物ではない。

 だが、あえてそれを誘発させたとでもいうような態度で、悪性は力なく肩を竦めているだけだ。

 そうして語らずに、調書の異質性が伝播した頃合いを見計らい、話の本題に入る。



「そう、その調書に書かれている事は、セフィナ自信が姫や侍従やメイドに言った事であり、本人から聞き出した事じゃない」

「手温いですわよ」


「分かってる。だが、セフィナにはどんな手段を使っても近づく事さえできないんだ。まるでそこに一方通行の壁がある様にね」

「近づけない?貴方がですか?」


「そうだ。尾行をしていると、いつの間にか影武者と手を繋いで歩いている。路地に追い詰めると忽然と消える。話し掛けようとしたら声が出ない。拉致しようと走り出したら躓いて転ぶ。などなど、信じられない事ばかり起こる」

「なんですの?軽くホラーですわ」



 悪性は無条件で他の指導聖母を従えている訳ではない。

 指導聖母同士の戦い『強襲戦争ラグナレイド』を行い、力でねじ伏せ従えているのだ。


 だからこそ策謀や諜報の実力は保障されており、指導聖母の中で実質的なトップと言っていい。

 そんな悪性がまったく調べる事が出来ない存在、セフィナ。

 場合によっては、心無き魔人達の統括者よりも最優先で対処しなければならないと思ったからこそ、悪性は話題にあげたのだ。



「悪才、キミはセフィナに関する情報を持っていると言ったね。話してくれ」

「私が聞いたのはキミと同じく、大聖母ノウィンの娘なのだという話。その他、タヌキを飼っているという話や、食堂に5時間も入り浸ったなど。古い情報だと、森でゲロ鳥狩りをしていたという目撃情報もある。……肝心のレベルや戦闘力などについては悪性同様、まったく掴めていない」


「……悪徳、キミは直接的な被害を受けたんだったか?」

「唯一神アルタマンユ様を信仰しない愚かな商人を盗賊に襲わせておりました。不安定機構・支部とも癒着し、討伐者を差し向けない様にしていたのですが……。セフィナを名乗る子供が依頼を受理し、捕縛されてしまったようです」


「戦闘力……いや、戦い方や使用した魔法などの情報は?」

「いえ、全滅してしまっている為、手に入りませんでした」


「二つの目撃情報を擦り合わせて新たに手に入った情報は、どうやら冒険者をしていたらしい?というだけ。こんな風に、何かしらの行動を起こしたという話は聞くが、結果やプロセスが手に入らない。僕らと同じ指導聖母に匹敵する隠遁能力をセフィナは持っている」



 静かに成り行きを眺めている神は、その隠遁能力を発揮しているのがタヌキだと知っている。

 だが、あえて何も言わない。

 理由はいたってシンプル、「黙っていた方が面白いから」だ。



「僕が本気で調べても情報が手に入らない以上、ラルラーヴァーが関わっているのは確実だ。問題は、セフィナはどういう立ち位置なのかって事さ」

「立ち位置も何も……ラルヴァ、戦略破綻が連れてきた子ならば敵でしょうに」


「だが、セフィナは心無き魔人達の統括者を敵視している」

「嘘なのでは?」


「可能性はあるね。では、無尽灰塵がフィートフィルシアで言った言葉を思い出して欲しい」

「言葉?そういえば……」


「『私はセフィナを奪還する』『私のセフィナをよくも傷つけたな』此処だけ切りって聞くと、無尽灰塵からセフィナを攫ってきたように聞こえないか?」



 投げかけられた疑問を吟味するように、会議室に沈黙が走る。

 それぞれが全く異なる価値観を領分とし、セフィナの存在について考察を終え――、一番に口を開いたのは悪質だった。



「セフィナは心無き魔人達の統括者を嫌っている反面、心無き魔人達の統括者のリーダーからは好かれている?そして、リーダーの中ではセフィナはブルファム王国に捕らわれている事になっているのに、実際は侵略破綻によって連れて来られた?」

「話の筋が通らない。さらに、気になる事があるだろう?」


「悪性が調べた情報の中に、姉が大好きとありますわね。なら、リリンサとセフィナは姉妹ですの?」

「そうなのかもしれない。だがそうなると、今度は、無尽灰塵がノウィン様の娘ということになってしまう」


「無いですわ。もしそうなら、無尽灰塵……鈴令の魔導師の年齢は16歳ですから、ノウィン様って結構お歳が……。ここから先は言えませんわー」



 なぜか室温が5度くらい下がったような寒気を全員が感じ、その話題は打ち切られた。

 なんとなく命の危機を脱したかのような雰囲気が残りつつ、残りの問題も浮き彫りにしていく。



「嫌いな物に心無き魔人達の統括者を挙げているのも変だろう。リリンサの事を姉だと仮定するのなら、姉の正体を知らないって事になるぞ」

「他にも神託を貰っているらしいですが……。私めも、もちろん出しておりません。なら、ラルラーヴァーか悪喰が出したという事ですか?」

「ちなみに、この悪いゆーにぃとは?良いゆーにぃもいるんですの?」


「と、このようにセフィナについては考えれば考えるだけ謎が増える。こんなのを管理しているラルラーヴァーを見直してしまったくらいだが……ちなみに悪逆。セフィナについて知っている事はあるか?」



 ぎらり。と鋭い視線を向け、悪性は悪逆に視線を向けた。

 確実に何かを知っている悪逆から情報を得る。

 それこそが悪性の目的だった。


 一方、タヌキに辿りつかないようじゃ答えはまだ遠いねーと思いながら傍観していた神は、唐突に振られた話題にどう答えるべきかと悩んだ。

 セフィナはノウィンの娘だよ。と言ってしまうのは簡単でも、まったく面白くない。

 どうにかもうひと捻り出来ないものかと考え、やがて、神の様な態度で荘厳に答えた。



「知っているかという質問には、YES。だが、ここから先は黙秘だ」

「どんな対価を支払っても?」


「もちろん。ノウィンに怒られてしまうからね」

「ほぅ?」


「だって君ら、ニコニコ笑ってるノウィンに『経産婦かもしれないと疑ったので、みんなで議論を交わしてました』って面と向かって言えるかい?」

「「「いいや。絶対無理」」」



 結局、セフィナは要観察対象として細心の注意を払いつつも、放置する事になった。

それからは当たり障りのない情報交換をしつつ、会議を終える。


 こんな指導聖母らしからぬグダグダな雑談をしてしまった理由、それはきっと、魔王共の暴虐を見せつけられ、精神が疲弊していたからに違いない。

セフィナはアホの子でも、それを守護するゴモラが超絶優秀。

神が言っていたとおり、セフィナの情報を手に入れる為には、ゴモラへの供物アップルパイが必要不可欠なのです。



ということで、プロローグもこれで終了。

次から本篇に入ります!


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