第9章幕間「リリンサの手記9」
10の月、15の日。
パパ達と訓練に明け暮れていた日。
ワルトナが攫われて、セフィナと仲直りした!
ユニクやパパ、偽物のユルドルードとの訓練も一段落してきた朝、仕掛けていたアップルパイトラップにゴモラが引っかかった。
ソドムは「アップルパイを用意しておけば、そのうち出てくるだろ」と言っていた。
捕まえるまで一ヶ月以上も掛ったけど、その期間は私のデザートが一品増えていたので問題ない。
美味しそうに私のアップルパイを食べているゴモラの隙を突き、聖母守護天使で捕獲。
英雄のパパ達も太鼓判を押したこの防御魔法なら、絶対に逃がさない。
そう思っていたら、普通に逃げられた。
というか、ゴモラも聖母守護天使を使って相殺防御し、平然と出入りしていた。
流石はゴモラ。
防御魔法が張り巡らせてあったパパの書斎を隠れ家にしていただけの事はある。
そんなゴモラが持って来たのは、セフィナからの手紙。
その内容は驚くべきもので、ラルラーヴァーを調査していたワルトナを捕まえたというものだった。
それを知った時、私は一瞬で頭に血が上ったけど、ユニクに「ワザとじゃないか?」って言われて気が付いた。
これは敵の懐に潜り込んで戦略を破綻させるという、ワルトナが得意な手口だ。
ちょっと安心しつつ、レジェと合流する事を話し合い、ワルトナに電話してみたら?というアドバイスを貰って実行。
すると、電話に出たのはセフィナだった。
セフィナは私が怒ってしまったのを気にしていたようで、甘えるような声で謝ってきた。
昔懐かしいやり取りに、思わず頬が緩んでしまう。
きっと今の頬なら、クッキー缶5箱は余裕で入る思う。
セフィナとしばらく談笑した後、ワルトナの安否を確認しようとして失敗。
でも、仲直りはちゃんとできたから良しとする!
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10の月、16の日。
見知らぬホテルの部屋。
昨日の深夜、ユニクとえっちな事をした!
レジェンダリアについた私達を出迎えるため、早速レジェが出てきた。
早過ぎるから帰って。って言ったのに居座られて、ユニクが洗脳されかけた。
本当に帰って欲しい。というか、むしろ私達が帰りたい。
レジェは罪滅ぼしと言わんばかりに、デートコースを差し出した。
どうせ碌でもないと思いつつも、一応確認してみると……意外な事にちゃんとしたデートコース。
美味しくて安い優良店の情報が目白押しで、ついつい無尽灰塵の名で公認店に指定。
そうしてデートを楽しみつつ……、レジェの実家『戯楼鳴鳥』へ泊まりに行った。
ここは言うまでもなく、えっちな事をするお店。
ユニクも知っていたようで、引き攣った笑顔が可愛い。このままパクっと食べてしまいたい。
久しぶりに会ったスイレンは花魁になっていて、たぶん一番偉くなっていた。
そのまま思い出を語りつつ、ユニクを掌握するプランを考え始めた時、なんか随分と楽しい気分になってきた。
葡萄ジュースだと思って私が飲んでいたのは、とっても良いお酒だったらしい。
気分がふわふわして、ユニクが2割増しにカッコ良く見えた。
我慢できずに、尻尾で縛ってしまえばどうとでもなると思ってユニクと空き地へ飛び出し……、そこでえっちなことをした。……はず。
私達の父親であるパパは、当然、えっちな事を知っている。
だから訓練中に、「どうすればユニクと結ばれるの?」とか、「えっちな事を誘うにはどうしたらいいの?」って聞いてみた。
だから、その時に笑顔でパパが語ってくれたように、魔王の脊椎尾でユニクをシバき倒した。
女性から男性に刺激を与えることが『えっちなこと』であり、ユルドルードから訓練を受けているユニクは並大抵の刺激では満足できないらしい。
「魔王の脊椎尾を振り抜いてあげるといいでしょう。パパも、ママが振り抜く鞭が最高のご褒美だったのですよ」
って言っていたし、これでユニクは私の虜になったはず!
*
……って油断してたら、思わぬ伏兵が現れてしまった。
まさかの4人目のユニクラブカード保持者は、テトラだった。
テトラと私は親友といってもいい。
心無き魔人達の統括者の正規メンバーじゃないとはいえ、テトラは私達と一緒に国を取った仲だ。
普通の友人の中では間違いなく一番親密であり、気兼ねなく話せる間柄でもある。
そう思っていたのに、二人とも想い人がユニクだという、致命的な行き違いをしていたらしい。
確かに、私もテトラも、想い人の名を口にしない様にしていた。
ワルトナに『恋焦がれている乙女同士が相手を教え合うと、想いが実らなくなる』という伝承を教えられ、意図的に教えない様にしていたのだ。
うん。結果的にその通りだったと思う。
流石、ワルトナ!
そして、私が文句を言いたいのは、私達の想いを知っていたレジェが黙っていたということ。
もし、もっと早く教えてくれたらテトラと協力してユニク捜索が出来たし、ミナチルと会った直後に話を聞きに行けた。
随分と遠回りしてしまった気がするので、後でレジェには損害賠償を請求したい。
テトラはユニクに恋をしていると言いつつ、私とも敵対するつもりが無いっぽかった。
でも、油断させて策謀に嵌めるのが得意なのは事実だし、念の為、私は敵意を剥き出しにして威嚇してみた。
そして、テトラと勝負をする事になり、私が勝った。
これでユニクは私のもの。
今夜からは、もっと激しくえっちなことをしていきたい。
*
さらに今日は、驚くべき事があった。
今まで詳細が伏せられていたレジェの過去、そこに英雄ホーライとローレライさんが関わっていると知った。
幼かったレジェと共に過ごし、親しみを込めて『ロゥ姉様』と呼ぶ人が英雄だったなんてビックリだし、ホーライと出会っていたのも、なおさらビックリ。
なんでも、レジェ自身がホーライだと知らなかったらしい。
後でホーライの店でローレライさんと会話した内容を教えてあげよう。
もちろん、その対価として美味しいご飯を請求する!
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10の月、17の日。
久しぶりに学校に行った!
レジェが戦争の準備をする間、私とユニクは学校に行く事にした。
なんでも、ユニクが私に贈ってくれたプレゼント『絢爛詠歌の導き』はブルファム王国との戦争に勝利できるという、とてつもない至宝だったらしい。
魔王の首冠を担保にして貸し出すと、早速、生き生きとしたレジェが作戦の調整を始めた。
勧められた学校には、ナインアリアが在籍している。
生徒だと思ったけど、上級クラスの副担任もやっていて、しっかり学校に馴染んでいるようで一安心。
セフィナと通う為に下見をしつつ、大人しく授業を受けているとセブンジードが出てきた。
2等級奴隷になって調子に乗っていたので、新しく作った魔法を使って転がしておいた。
この『終海の龍異形』、かなり使い勝手が良い。
ベースに水害の王を使っているだけあって持続性が高く、破壊されない限り、数時間は保持していると思われる。
さらにパパに教わった魔法のカスタマイズを混ぜ込みやすく、戦場で敵兵に嫌がらせをするのに最適。
明日の戦争では積極的に使用してデータを集めたい。
ナインアリア、セブンジード、さらにバルワンとカルーア。
私の正体を知った者の戦闘力は、かなり高かった。
正直、パパとの訓練前の私がバルワンと一騎打ちをしたらどうなるか分からない。
魔王シリーズを使わないと厳しいのは確実。
それと、なにげにサーティーズがかなり良い動きをしていた。
終海の龍異形に最後まで食べられなかったし、って、そういえば、一撃も攻撃を受けていない気がする。
将来はレジェンダリアの軍団将として、バルワンやセブンジード、ナインアリアと肩を並べるかも?
あと、テトラをユニクの第2婦人にすることにした。
これはレジェ対策だけど、テトラと一緒にいるのは嫌ではない。
むしろ協力して、二人でえっちな事をしようと思う!!
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10の月、18の日。
フィートフィルシアを攻略して、ロイを手に入れた。
そしたら、シフィーが妊婦さんになっていた!!
レジェの作戦どおりにフィートフィルシアを襲撃して、無事に掌握出来た。
事前に知らされた作戦は『私一人で9万人の冒険者をブチ転がし、あとはレジェに任せる』という、特に考える必要の無い簡単なもの。
パパとの訓練を終え、魔王の脊椎尾と首冠を手に入れた私はとても強くなっている。
正直、セフィナとワルラーヴァー以外は相手にならないと思っているし、事実、全く苦労せずに9万人の冒険者をブチ転がせた。
これではあまりにもあっけなさ過ぎるので、適度に運動になりそうな冒険者を探していたらシルストーク達を見つけた。
みんなレベルが並みの冒険者を超えており、動きにも迷いが無い。
同じランクの冒険者と比べても強いのは明らかだし、ちょっと興味が湧いたので遊んでみる事にした。
シルストーク達はワルトナの魔道具で武装し、ひょっとするとバルワン達に匹敵する実力者となっていた。
予想外の成長ぶりに思わず感心していると、本当に意外な事に、稚魚が魔法十典範の一つ『原罪主審聖界』を使ってきた。
この魔法は、パパが気を付けなさいと警告していたものの一つ。
アンチバッファの源流たるこの魔法は、まともに食らってしまうと成す術もなく敗北する。
魔法が完成する前に、こちらからも魔法十典範をぶつけて相殺しなさいを教えられていなければ、足元を掬われてしまう所だった。
稚魚やシルストークを念入りに転がし、レジェの策謀に付きあった後、ロイと再会を果たした。
何も知らないロイは朗らかに笑っている……かと思いきや、すでに泣きじゃくった後っぽい。
たぶん、冥王竜が怖かったんだと思う。
ロイに真実を教えて慰めたり、転がしたり泣かせたりして心をへし折っていると、シフィーが出てきた。
驚くべき事に、シフィーは妊婦さんになっていた。ロイの。
……まさか先を越されるとは思っていなかった。
むぅ、むぅ、ずるい。
私のえっちな事は少しズレているって、テトラに教えて貰ったばかりなのに。
そんな事を考えながらクッキーを摘まんでいると、シフィーもレジェの仕込みだったと判明した。
策謀と暗躍に慣れている私ですら、流石にどうかと思う。
ロイは天日干しされたゴボウスティックみたいに枯れ果てているのに、シフィーは嬉しそうな顔で艶やか。
いくらなんでも可哀そうだし、ロイの味方をしようと思ってタイミングを探っていると、ユニクが必死に慰めていた。
ロイの事はユニクに任せ、こっそりシフィーに事情聴取を開始。
そしたらシフィーは『想い人の為に、私は一生を捧げたんですよ』と。
シフィーは、レジェに忠誠を誓っているけど、ロイの事もちゃんと好きらしい。
さらに、こういうのを喜ぶ男性もいると言っていた。
「殿方を喜ばせる刺激は鞭だけじゃありませんよ。言葉責めだけでも十分に逝かせられます」って、結果をお腹に宿しているシフィーの言葉は重みが違うと思う。
私も参考にしたい!
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「ふぅ……。これでよし」
「あら?何を書いていましたの?」
晩餐会を終えたリリンサ達は、いつもと同じようにユニクルフィンと一緒に客室へ向かおうとした。
だが、それを引き止めたのはテトラフィーアだ。
今夜は私と二人だけで作戦会議をしましょうと切り出し、ぷち魔王会談を行うべく女子部屋に引っ込んだのだ。
「ん、日記を書いてた。テトラも大丈夫?髪を乾かしてあげよっか?」
「お気使いありがとうございますわ。今日はメイも居ませんし、お言葉に甘えても宜しくて?」
基本的にテトラフィーアの側にはメイが仕えており、身の回りの世話を仕事としている。
だが、今夜はレジェリクエ女王の命令により、セブンジードと共にブルファム王都へ偵察を行っており、留守なのだ。
羽根を伸ばすチャンスですわー!と浮かれながら浴室に向かったテトラフィーア的には、濡れた髪のままで友人と語り合うのも良いかと思っていた。
だが、ユニクルフィンの髪を乾かすのが日課になっているリリンサが気を回し、こうして、仲の良い友人の触れ合いが始まる。
「明日からのは本腰を入れてセフィナを奪還する。そして、悪い幼虫ワルラーヴァーを叩き潰す!」
「ラルラーヴァーは良いですが、私の髪は叩き潰さないでくださいまし?」
「あ、ごめん。テトラ、ブルファム王国にはユルドルードとパパの実家があるんだったよね?できることなら会ってみたいかも?」
「興味が出てきたんですの?」
「ノーブルホークって名前のお茶が美味しかった。もし、私の祖父が作ったのなら会ってみたい」
「なら会うべきですわね。アプリコット様の父上はブルファムの給仕長ですもの」
「ん、じゃあ宮廷料理長ってことなの!?むぅぅ!!」
「あら?給仕長だと嫌なんですの?」
「違う、その逆。私の祖父が美味しい料理を作れるなんて知っていたら、頻繁に会いに行ったのにってこと!」
「なるほど、陛下がこの情報を絶対に漏らすなと言った意味が良く分かりましたわー」
テトラフィーアの髪を乾かし終えたリリンサは、僅かに頬を膨らましながら向かい側の椅子に座った。
そして流れるような動きでお菓子や夜食を召喚し、満面の笑みを浮かべる。
「今夜はユニクがいない。なら、我慢しなくて良いと思う!!」
「二人だけの祝勝会ですもの。ぱーと楽しい女子会にしたいですわ」
二人は笑顔を交差させながら、好きなお菓子を手に取った。
レジェンダリア国自慢のお菓子に添えられているのは、それぞれの目線で見た『ユニクルフィン』への憧れ。
レジェリクエに飲まされたお酒が程良い後押しとなり、二人は久方ぶりの友好を確かめ合った。




