第118話「大魔王晩餐会」
「もふっふう!」
「落ち着いて食えリリン。魔王の晩餐を横取りできる奴は、フィートフィルシアには居ない」
「もふもふもふふ……。働いた後のご飯は、いつもの10倍美味しいと思う!!」
ロイとフィートフィルシアを無事?に掌握出来た俺達は、砦の中で豪華な夕食に舌鼓を打っている。
大魔王・無尽灰塵に恫喝……もとい、お願いされたロイは、顔を引きつらせながら「友好の為に晩餐会を開く」と宣言。
平伏していた側近たちに素早く指示を出し、こうしての関係者が一堂に集まって晩餐会を行う事になったのだ。
「レジェリクエ女王陛下に忠誠を!!」
「あらあら嬉しいわねぇ。ちなみにぃ、貴方が捧げてくれる忠誠ってなぁにぃ?」
「ぜひ、私が酒造しているワインをご賞味いただければと!」
「ちょー嬉しぃ!余はお酒が大好きなのぉ」
こっちはこっちで恐喝一歩手前か。
あっちのテーブルではテトラフィーア大臣がカードゲームで一財産を築き上げてるし、ほんと大魔王共は遠慮というものを知らない。
晩餐会は俺達大魔王一派だけでなく、フィートフィルシア領の高官やブルファム王国貴族、名を馳せている冒険者チームなども主席している。
それぞれが自由に楽しんでいるようで、大魔王陛下の演説を聞いて感銘を受けたという人が長蛇の列を作り、さっそく、新しい人生をより良いものにするべく行動を起こしている。
「んー、大魔王陛下の演説は見事だったが、こうも簡単に国を裏切るのはどうなんだろうな?」
「それだけ、ブルファム王国の圧政にうんざりしていた人が多いって事なのかもしれないな」
「ロイ?お前……、生きてたのか……?」
「ユニフ。何でキミは僕を殺したがるんだ?」
別に深い意味なんてないぞ。なんとなくだ。
リリンの頬と腹を休憩させようと思って話しかけたら、後ろからロイが出てきた。
あんだけ転がされたり吊られたりした割には元気そうだし、色んなモノが吹っ切れたようだ。
……あっ、レベルが100も上がってやがる。
「冗談だよ、冗談。別に深い意味なんてないさ」
「まったく、キミのマイペースさは変わらないな」
「もふふ?」
「……。リリンちゃんは随分と変わったな。なんだその頬、シフィーのお腹と勝負ができそうだぞ?」
変わったんじゃなくて、皮を被るのを辞めただけだ。
たぶん、もう二度と普通の食事量に戻らないと思う。
「で、ロイ。挨拶回りは終わったのか?」
「挨拶ってほどでもないさ。僕が魔王に許されたのは、見ていれば分かる事だっただろう?」
晩餐会の主催者たるロイは、参加者から挨拶をされる立場だ。
立食形式のバイキングだから決まった礼節がある訳ではないが、それでも、一声を掛けておくのが貴族の礼義らしい。
なお、うちの腹ペコ大魔王さんは、一番最初にロイへ挨拶を終えている。
開始早々バッファ全開でロイの所に突撃し、「食べて良い!?」っと許可を貰いに行ったのだ。
「ったく、お前が大魔王陛下に盾突いた時はひやっとしたぞ。このままじゃロイはゲロ鳥の餌にされる!!ってな」
「ははは、恐ろしい事を言うのはやめてくれたまえ」
「いや、大魔王陛下ならやりかねないだろ。つーか、何であんな事を言ったんだ?」
「僕の意地……いや、領主としての矜持かな」
恰好を付けなくてもバレてるぞ。
お前の意地のせいで大魔王の不興を買う所だったって、たぶん一生忘れねぇ。
「なぁ、ユニフ。少し二人で話さないか?」
「あん?」
「こんな事になってしまったが、僕はキミと再会するのを楽しみにしていたんだ」
真っ直ぐに俺を見つめながら、ロイは堂々と言い切った。
男二人きりの秘密の会談か。
うん、全く胸がときめかねぇッ!!
……が、まぁ、こういうのもたまにはいいかもな。
リリンもアルカディアさんと大食い競争を始めるみたいだから、俺も暇だしな。
「いいぜ。何処で話をしたいんだ?」
「僕の執務室に行こう。そこなら誰にも邪魔されずに話ができる」
**********
「へぇー、領主だけあって、流石に小奇麗な部屋だな」
「そうだろう?僕もシフィーも綺麗好きだからね」
当たり障りのない会話をしながら、俺はロイの執務室を眺めた。
広さ縦横5m四方程度の中部屋にあるのは、大きな机と来客用のソファーと椅子。
それ以外は壁際にずらりと並べられた本棚があるくらいで、あまり生活感は見られない。
仕事をする部屋として割り切っているんだろう。
ロイは慣れ親しんだ動きで来客用のソファーに向かうと、俺へ座る様に勧めた。
そして自分も向かい側に座り、机の上に伏せられていたティーカップに紅茶を注いて差し出してきた。
「ふぅ、やっと一息付けたな、ロイ」
「まったくだ。あまりの酷さに、本当に死を覚悟したんだぞ?なんだアイツら」
「「……。魔王だッ!」」
俺とロイが声を揃えて魔王だと言い、笑いあった。
お互いに苦労してるな。と意気投合し、垣根の無い友人へと戻っていく。
「にしても、キミは随分と強くなったな。ユニフ」
「まぁな。俺の努力と、リリンの理不尽と、クソタヌキと、英雄全裸親父のせいだな」
「なんだその後半。もしかして、まだキミはタヌキに勝ててないのか!?」
「よくぞ聞いてくれたぜ。あんのクソタヌキは――」
俺がクソタヌキとのカツテナイ因縁を語り出すと、二人だけの部屋は熱気に包まれた。
体験した本人の俺からすれば堪ったもんじゃないが、無関係なロイにしてみればまさに喜劇。
タヌキがロボットに乗るという超展開も受け入れられ、有意義な議論を繰り広げる。
「タヌキ強すぎだろ……。冥王竜よりヤバイじゃないか」
「あぁ。クソタヌキVS大魔王一派で戦ったとしても勝てるかどうか分からん」
「まさにカツテナイな。……って、そんな事を話する為に此処に来た訳じゃないぞ!?」
「ん、違うのか?あの部屋から逃げ出せれば、話題なんて何でもいいだろ?」
「あぁ、一刻も早く魔王から逃げ……って、それも違う!……いや、違くないけど違うんだ」
段々と余裕を取り戻してきたロイはノリが良く、俺のボケにもしっかりとツッコミを入れてくれた。
こんだけ元気になれば大丈夫だろ。
さてと、真面目にロイの話を聞いてやるか。
「なぁ、ユニフ。今日は散々な目にあったが……キミに言っておくべき事がある」
「なんだ?」
「今日は助かった。ありがとう」
たったそれだけの飾られていない言葉を溢して、ロイは俺に頭を下げた。
領主として教育されたにしては簡素であり、建前のようにも聞こえる。
だがそれでも、俺はその言葉が凄く嬉しかった。
「キミの後ろ姿を見たとき本当に安心したんだ。ユニフが助けに来てくれたと知って、折れ掛けていた心をなんとか支える事が出来た。感謝している」
「ま、結局は自作自演なんだけどな」
「その事については思う事が大いにあるが……、それでも、キミは僕にとっての英雄だ。ユニフ、これからも僕と友達でいてくれるか?」
英雄か……。
親父は全裸だし、アプリコットさんはド鬼畜ドエムだったし、ラルラーヴァーは敵だし、英雄にはあんまり良い思い出がねぇな。
でも、初めてできた友人からの賛辞は悪い気がしない。
「良いぜ。ぶっちゃけると俺も愚痴を言える友達が欲しかったんだ。リリンは可愛い上に頼りになるし、正直、今すぐにでも俺のものにしたいが――」
「惚気話か?いいだろう、聞いてやるとも」
「何故かすぐに変身する。布団の上に魔王やらハムスターやらタヌキやらが交互に現れるんだぞ?俺の、心が、休まらねぇッ!!」
「流石は大陸を震撼させた大魔王・無尽灰塵。第4形態まであるとは恐れ入る」
リリンと旅をして感じた事、ちょっと文句を言いたかった事、頑張った事。
昨日食べた学食、体育館をぶっ壊してテロルさんにマジギレされた話、テトラフィーア大臣の盗撮写真など、当たり障りのない愚痴を俺とロイは語り合った。
あぁ、これが男友達って奴か。
雑な話題で盛り上がるのは、リリンと話をするのとはまた違う楽しさがあるな。
「僕も大概に綺麗好きだが、シフィーは潔癖すぎるとこがある。私の靴下やパンツは自分のと一緒に洗濯しないんだ」
「洗濯してくれるだけマシだろ?うちなんか、サチナの所に転送して洗濯させてるからな。気が付いた時は、これで良いのか?って本気で頭を抱えたぜ!」
「どっちもどっちだな」
「あぁ、そうだ……」
「あ、いた!!ユニク発見!!捕獲せよ!!」
「ヴぃぃぃぎるぁあああ!!ひっく!!」
「えっっ。」
「えっっ。」
そんな至福の時間は、超魔王・呑んでリリンが部屋に突撃してくるまで続いた。
って、誰だよリリンとアルカディアさんに酒なんぞ飲ませたやつッ!!
今すぐ責任とって、俺達の代わりにぐるぐるげっげーされろッ!!
皆様こんばんわ、青色の鮫です。
今回の更新でピッタリ600話となりました!
今章はだいぶ長く……というか予定していた戦争編に到達できていませんが、ここで一区切りを付けて9章完結とします。
コメディ色が強かった9章ですが、10章からは真面目な戦闘が増えて作風も変わってくるので丁度いいかなと判断しました。
そんな訳で、本当に箸休め程度に番外編を書いてから次章へと進みます!




