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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第9章「想望の運命掌握」

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第117話「王朝崩壊へのプロローグ③ 奴隷と忠誠」

「ならば言わせていただこう。私は――――、無条件でレジェンダリアの軍門に下るべきではないと思っている」



 ちょっと待て、ロイッ!!

 自分が置かれてる状況を分かってんのかッ!?

 お前は今、冥王竜が持ってる鎖で雁字搦めに縛られて、5人と1匹の魔王様の前に吊るされてるんだぞッ!?



「……。へぇ、そうなのぉ。それはフィートフィルシア領主としての言葉かしらぁ?」

「そうだ。民の生活と命を預かる者として、魔王の奴隷になるなどあり得ない」



 ……あ、これダメそう。

 大魔王陛下の吐息が、絶対零度の冷気を帯びてる……。


 散々転がされたロイは、どうやら頭がおかしくなってしまったようだ。

 大魔王陛下の計画では、思惑に頷いておけば処刑は取り止めとなり、ロイも領地もハッピーエンド。

 これからブルファム王国でひと悶着あるだろうが、とりあえずロイと領地の生存が確定する。


 ……というこの局面で、よりにもよって反旗を翻しやがった。

 なぁ、それが領主としてのお前の答えなのか、ロイ?

 確かに、噴火したマグマを煮詰めて濾過して、さらに油をぶっかけて爆発炎上させたかのような思いがあるのは理解できるが、領地と俺を巻き込むんじゃねぇ。

 大魔王共の八つ当たりがこっちに来たらどうするつもりだッ!!



「なるほどぉ。フィートフィルシアは領民の血が一滴残らず蒸発するまで、抗い続けるって事でいいのかしらぁ?」



 ひぃぃぃ!

 この大魔王陛下なら、マジで一滴すら残さずに焦土にしそうッ!!

 早く謝れ、ロイィィッ!!



「違う。それでは以前と何も変わらない」

「何が言いたいのぉ?」


「レジェンダリアの軍門に下るのは、ブルファム王国の歪な支配経済と何ら変わらないと言っているんだ。そんなものは、貴方が目指している民主主義と掛け離れているのではないか?」



 ……えっ、なにこのロイ。

 俺が知ってるロイと全然違う……。


 目の前にぶら下がっているロイは、処刑一歩手前の哀れなゲロ鳥ではない。

 多くの民の事を想う、領主たる姿だ。

 どうやら何か思惑があるらしく、堂々とした態度で大魔王陛下を見つめている。


 そして、ロイの言葉を聞いた大魔王陛下は笑みを溢した。

 その口元は変わらず吊りあがっているものの、瞳の中には好奇心が宿っている。

 リリンが始めて見る食べ物を発見した時と同じだ。



「国民総奴隷などという言葉にすっかり騙されていたが……、貴方は国民の幸せを第一に願う、優しき王だ」

「何故そう思ったのぉ?聞かせてほしいわぁ」


「フィートフィルシアは何度もレジェンダリア軍と衝突している。だが、思い返せば、いつも戦端を開いたのは私だった」



 ロイは語りだした。


 20万のレジェンダリア兵から優位を勝ち取ろうと、無視するべき小競り合いを動機にして先制攻撃を仕掛けたこと。

 血気盛んな冒険者を諌める事もなく、その流れと勢いを利用して戦いを激化させ、レジェンダリア軍を撤退させたこと。

 それ以外にも、他領から聞き及んでいる戦いの始まり方などを語り、そのどれもがレジェンダリア軍が先制攻撃をしたのではないと言って締めくくった。



「これだけの戦力を保持していながらも貴方は先に手を出す事せず、実力を隠して策を弄した。それは、無意味な犠牲者を増やさないようにしていたからではないか?」

「手に入れた国の国民は余の奴隷であり資産。無意味に散らす意味はないわぁ」


「あぁ、そうだ。『国の為に死ね』と言いながら民を使い捨てるのが常識のこの大陸で、貴方だけは『余の為に生きろ』と言う。それは一見して利己主義の様に見えるが……本質は違う」

「何が違うのかしら?」


「レジェリクエ女王、貴方は自分を『運命』に置き換えて語る。全ての人間は『運命の奴隷』であり平等なのだと言っている」



 ロイは、大魔王陛下が抱いている思いや策謀をほとんど知らないはずだ。

 さっきの会談では深い話をする時間なんてなかったし、情報が漏れているのなら、そもそも転がされたりしない。


 だからこそ、ロイが大魔王陛下の思惑を的中させた事に俺達は驚いている。

 大魔王達が驚愕の目線でロイを見ているのと同様に、気が付けば、地上から見上げている群衆もロイへ視線を注いでいた。



「フィートフィルシア領は戦争で敗れた。だからこんな事を言える立場にないというのは分かっている。だがそれでも私は言わなければならない」

「語ってごらんなさい、ロイ・フィートフィルシア」


「フィートフィルシア領はレジェンダリア国の支配下に入るべきではない。その思想に賛同する者として、友好を築くべきなのだッ!!」



 確かに、ロイが語った論理は滅茶苦茶だ。

 優位に立っている時は相手の事を省みず、負けそうになったら仲間に入れてくれと言うのは、誰が聞いたって虫が良すぎる話しだろう。


 だが、レジェリクエ女王陛下は笑っている。

 俺が見る限りでは不快感など無く、それはまるで本物の聖女の様な――。



「言いたい事はそれだけぇ?」

「えっ。」



 あっ、違った。

 精巧に造られた聖女の皮を被った大魔王だ。



「その程度の事をドヤ顔で語るだけなのかと聞いているのぉ」

「えっと、その……。」


「強制的な支配と、自主的な友好。貴方が言うには差があるのでしょうけれど、一体何が違うのかしら?その友好を捧げられたとして、レジェンダリアはどんな利益を得る事が出来るのぉ?」

「えっと……それは……」


「中途半端ねぇ。施政者として理想を語る事は良い事よぉ。だけど、それを成す為の実力も根回しもまるで足りていない。貴方は領主として処する価値すらない未熟者よぉ」

「ぐるげぇ……」


「だけれど、ここまで蹂躙されてなお、より良い未来を手に入れようとした。だからこそ余は、この言葉を貴方達、フィートフィルシアに贈りましょう」



 クルリと体を返し、女王の顔に戻った大魔王陛下が群衆へと向き直った。

 そして、これから発せられるであろう自分達の運命に、一同が息を飲む。



「民草よ、聞きなさい」


「人は何かに依存しなければ生きられない。家族、友人、恋人、国、宗教、趣味。必ず誰しもが持っているものであり、そして、自分で選ぶべきもの」


「それらは誰かに押しつけられるものではなく、選定の為のルールも無い。何を選んでも良いし、いくつ選んでも良い。自分で選び取ったものであるのなら、なんだっていい」


「強大な力を持っている余ですら、貴方達の前に並ぶ選択肢の一つでしか無い。レジェンダリア、ブルファム、フランベルジュ、この大陸にはいくつもの国があり、そこで生きている者に差なんてない。貴方と同じ……『人』だからだ」


「人民よ、選びなさい。無数に広がる未来から、自分の人生を勝ち取りなさい」



 大魔王陛下の声が静かに響き渡り、俺の心の奥深くに浸透した。


 自分の人生は、自分で決めて良いのだと。

 家族、仕事、国ですら、望んだものを手に入れて良いのだと、レジェリクエ女王陛下は語った。

 その純粋な福音は、凝り固まっていた群衆の心を解きほぐし――。



「間もなく、余はこの大陸の頂点に立つ。だからこそ、大陸を統べる者として宣言しましょう」


「人間は運命の奴隷。貴方が人間だと名乗り続ける限り、同格たる人間に支配される事など無い」



 水を打ったように静まり返った群衆は、唾どころか息を飲むのすら忘れているようだ。


 ここに集まっているのは、冒険者として成功した人ばかりだ。

 だがそれでも、報われなかった仲間の結末や、故郷に残してきた家族の事を思い浮かべない訳がない。


 自由に生きて良い。


 簡潔に言ってしまえばこんなにも短い事を、俺を含めた誰しもが知らなかった。

 レジェリクエ女王陛下に言われて初めて知ったかのように、その言葉を噛みしめている。



「……レジェリクエ女王陛下に、忠誠を」



 ポツリと群衆の中から声が上がった。


 今まで憎むべき大魔王へ向けていたのとは違う感情が込められた瞳は、国王レジェリクエへと向けられてる。

 その中でも、ポツリと呟いた銃を背負っている男・セブンジードは複雑な瞳で見てるな。

 何してんだ?あいつら?って顔に書いてあるが、それは俺のセリフだぞ。



「レジェリクエ女王陛下に忠誠を」

 ・

 ・

 ・

「レジェリクエ女王陛下に忠誠を」

「レジェリクエ女王陛下に忠誠を!」

「レジェリクエ女王陛下にッ!忠誠をッ!!」



 次第に大きくなっていく歓声は全て、大魔王陛下へ忠誠を誓うものだった。

 そして、声を発しているのは群衆だけではない。

 俺達の真下……ぶにょんぶにょんに取り込まれた人たちは特に必死に忠誠を誓っている。


 あ、英雄の子孫パーティー発見。

 全員が涙を流しながら「リリンサ様とワルトナ様に忠誠をぉぉぉ!だから助けてぇぇぇッッ!!」って、怯え方が半端じゃない。



「レジェ、これで終わり?」

「終わりよぉ。フィートフィルシア民は無限に並べられた選択肢の中からレジェンダリアと余を選び取った。この忠誠は少なくとも3年は続くわねぇ」


「これだけ大掛かりな事をして3年なの?」

「それ以降は、ロイ・フィートフィルシア・ブルファムの手腕によるわぁ」


「そっか。ロイ、頑張ってほしいと思う!」



 リリンが平均的な笑顔をロイに向け、フィートフィルシア領攻略は完了した。

 さぁ、次はいよいよ、本番。

 セフィナとラルラーヴァ―だッ!!


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