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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第9章「想望の運命掌握」

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第115話「王朝崩壊へのプロローグ① 全滅と集結」

「そんな……、早過ぎる……」



 フィートフィルシア領と草原を隔てる砦の内側、領主による集会が頻繁に行われている広場。

 そこにいる全ての人間が、視線を上へと向けている。


 数万の視線が集まり捉えるものは、本来ならば、フィートフィルシア領を始めとしたブルファム王国に属する領地の旗がはためく屋上だ。

 だが、そんな穏やかな日常を表す光景は、這いずる漆黒に塗り潰されてしまった。


 鷹揚に並んだ旗を飲み込み、掻き混ぜ、押し潰すは……数千本の触手の群れ。

 熟練冒険者が守護しているはずの草原側から這い登ってきたそれら……、全長30mを超える強大な化物がフィートフィルシア砦の屋上で蠢き、狂声を奏でているのだ。


 その化物は、9万もの冒険者が集まり討伐出来た数はたったの1匹という、超状の異業。

 それらが15体も並んだとあっては、僅かに垣間見えた希望と安寧など泡沫よりも儚く消えるだろう。

 冒険者同士での情報の精査と伝達が済んだ今、かの暴虐がいかに理不尽な存在なのかが知れ渡っているのだから。



「あ、あぁ……、なんという事だ……。英雄の子孫も、そのパーティーも、全員全滅してやがる……」



 埒外の化物の額には、青白い顔の冒険者たちが列挙されていた。

 それらは伝説上の化物とのごとく、レジェンダリア軍を押しとどめる戦力たりえないとされた冒険者の目から光を奪い去る。


 あぁ、こんな事があるのかと。

 あぁ、こんな理不尽があるのかと。


 異形へ注がれる視線が、ただただ、揺れている。



「私とレジェンダリアに弓を引いた愚かな人たち、ごきげんよう。ひと時の安寧は満喫できた?」



 天より鈴と響く声が、冒険者達の揺らぐ瞳を刺し殺した。


『ひとときの安寧の果て、あなた達の希望は絶望へと転化することになる』


 魔王より宣言された言葉を、群衆達は忘れていない。

 だがそれでも、たったの4時間程度で再臨するなど、誰ひとりとして思っていなかった事だった。


 遥か天空に君臨している、小さな黒点。

 それを見てはいけないと本能で理解しつつも、抗えない恐怖に晒された群衆の視線は強制されている。


 魔王・無尽灰塵、再臨。


 やがて、無尽灰塵が紡いだ言葉を肯定する様に、雷鳴が轟き曇天が割れた。

 真っ青な快晴にて聳え立つのは、灼赤と深緑の巨竜と暗褐色のゲロ鳥。

 そして、その巨体を以てして青空を覆い隠してしまった化物を先導しながら、無尽灰塵は笑顔を溢した。



「私は約束を果たす為に戻ってきた。ふふ……、さぁ、紹介してあげる。私の偉大なる同胞、心無き魔人達の統括者をね」



 無尽灰塵が仮面越しの視線を空へと向けて手を翳すと、6色の光が降り注いだ。

 まるで舞台じみたカラフルな演出に対比するは、これから何が起こるのかを理解した冒険者の色褪せた瞳。


 無尽灰塵を取り囲んだ6つの光源の中から、漆黒を纏う集団が姿を現した。

 中央に降臨した素顔を晒している魔王が一人。

 さらに、無尽灰塵を含めた5人と1匹が仮面を被って並び立つという異常な光景に、冒険者達が揃って息を飲んだ。



「はじめましてぇ、愚かにもレジェンダリアに抗えると夢想にふけった人草たち。余がレジェンダリア国王・運命掌握・レジェリクエよぉ」



 その言葉を正しく受け取れた者は、大半が頭を傾けただろう。

「あんな子供が、魔王レジェリクエなのか……?」と。


 そして、その疑問の答えを知っている銃を背負った集団が、僅かに頭を縦に振った。

「あれこそが、魔王レジェリクエ。この大陸の民すべての人生を掌握せんとする、最も業深き大魔王なのだ」と。



「無尽灰塵のお招きにあやかりぃ、余達はここに集結したわぁ。これこそが至上。心無き魔人達の統括者全員を前にして抗えるというのなら、どうぞ抗ってみせなさい」



 悠然と優雅が溢れ出ているレジェリクエは、優しげな声で語りかけた。

 いつでも剣を抜いていいのだと。

 いつでも魔法を唱えて良いのだと。


 だがそれでも、群衆達は動こうとしなかった。

 ……いや、動ける訳が無いのだ。

 抗う意思と実力を持つ者達は、もう既に終海の龍異形に取り込まれているのだから。



「あらぁ、随分と静かなのねぇ。王たる余の問い掛けに沈黙を返すなんて、永遠の静寂が欲しいのかしらぁ?」



 言外に込められた意味は『語るべき言葉が無いのなら、そのまま静かに死になさい』だ。


 足元の塵を踏みにじるがごとく言い捨てられた言葉に群衆は眉をひそめ、そして、口々に騒ぎだす。

 希望と絶望、光と闇が入り混じっている混沌を、魂の限りに叫ぶしかない。



「誰でもいい、英雄の息子を呼んでくれッ!!」

「聖女様もだッ!!聖女レジュメアス様と聖女リリンサ様、ユニクルフィンの三人なら、あるいは……!」



 悲観の中に入り混じっている声は、この状況を打破するための道標だった。


 聖女・レジュメアス

 聖女に仕える魔導師・リリンサ。

 英雄の息子・ユニクルフィン。


 この三人なら魔王にも打ち勝ってくれるはずだと、懇願や悲鳴に似た叫びが木霊する。



「あら、素敵な合唱ねぇ。うんうん、いいわぁ、すごくいい。……でも、余は希望を謳った讃美歌よりも、絶望を纏う鎮魂歌の方が好きなのぉ」



 その言葉を合図にし、レジェリクエの左右に並び立つ無尽灰塵と漆黒のコートを着た男が仮面に手を掛けた。

 そして、止め具を外された仮面が外れて虚空を舞い、隠されていた素顔を群衆に晒した。



「……え」



 声を発したというより、気管支から空気が漏れ出たと表現した方が正しいかもしれない。

 だが、それほどに小さな悲鳴でも、残っていた希望をズタズタに引き裂くには十分だった。



「そんな……。あの噂こそが真実だったというのか……」



 ブルファム王国から流れてきた情報。

『リリンサとユニクルフィンこそが心無き魔人達の統括者である』という信じ難き暴論を、フィートフィルシアの民は信じる事が出来なかった。

 もしかしたら、心のどこかでは『可能性はある』と冷静に判断した部分があったのかもしれない。

 だがそれを認めてしまえば、レジェンダリアに抗うと決めた心が粉々に砕け散ってしまうのだ。



 群衆は絶望する。

 抗えぬ化物を切り裂いた希望、それが闇に染まっていたと知ったから。


 群衆は絶望する。

 もう助けは来ないのだと、抗う手段はないのだと理解したから。


 群衆は絶望する。

 最後に残った自分自身が持っている細い剣、それでは、魔王どころか触手の一本すら切り裂けないと分かっているから。


 そして群衆は落涙し、最も親しい人へ、心の中で別れを告げた。




 後の世にて語られる事になる、ブルファム王国歴の最終節。

 500年もの長きに渡り大陸を支配してきたブルファム王朝崩壊のプロローグは、7体の魔王の降臨から始まった。



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