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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第9章「想望の運命掌握」

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第105話「英雄と聖女」

「ユニフ……!!リリンちゃん……!!」



 焼け野原を駆け抜けた一陣の馬。

 それに騎乗しているのは、ボッコボコに精神を追い詰められた領主、ロイだ。


 それにしても、すんげぇ顔してんな。

 顔はびしょ濡れで、髪は荒れまくってるし、表情筋はぎこちないと来た。

 ここに来る途中で台風にでも遭遇したのか?



「おう、久しぶりだな、ロイ!元気してたか?」



 絶対元気じゃないだろうけど、あえて軽い感じに声を駆けてみる。

 これで少しでも正気を……もとい、落ち着きを取り戻してほしい。

 なにせ、大魔王陛下の策謀はまだ始まったばかりだ。



「ユニフ、キミは……。キミって奴は……」



 慌てて降りようとして馬から落っこちたロイが力なく立ちあがり、フラフラとゾンビのように歩き出した。

 そして俺の両肩を掴み、重みのある声で呟く。



「こんな絶体絶命の状況に現れたばかりか、たった二人で打開してしまうなんて……」

「まぁ、相手は実質一人だったしな。ゲロ鳥は大量に居たけど」


「それでも相手は強大な魔王なんだ。それなのに、時間稼ぎどころか倒してしまうなんて……。ありがとう、本当にありがとう……」



 やっとの思いで声を絞り出していたロイが、ついに感極まって崩れ落ちた。

 俺の肩に置かれていた手も解け、縋りつく子供みたいな姿勢で泣きべそをかいている。


 そうか、よっぽど大魔王さんが怖かったんだな。

 今回ばかりは、男泣きも見て見ぬふりをしてやるよ。


 ……ところで、俺は男に抱きつかれて喜ぶ趣味はない。離れてくれ。



「すん……。きっ、キミ達には助けられてばかりだな。一体、何回、僕を泣かせれば気が済むんだ……ユニフ」



 ……少なくとも、あと一回は確実に泣く。

 大魔王的に考えて。


 これからが本番だというのに、ロイは既に満身創痍だ。

 こんな調子じゃ、真実を知ったらショック死してタヌキに転生するまである気がする。

 ちょっとフォローでも入れておくか?



「ほらほら、いつまでもへたり込んでんなって、ロイ」

「ユニフ……」


「お前は領主になったんだろ?じゃあ偉そうにしてるべきだろ。なにせ、魔王を撃退した軍の責任者はお前なんだからな!」



 せっかく注目が集まっているんだし、ここはその力を利用させて貰おう。

 俺やリリンと友好的な関係にある事をアピールし、称賛の声をロイに向けさせるのだ。


 そして、近くに居たソクトやシルストークが空気を読み、俺の話に合わせれくれた。

 遠巻きに様子を窺っていた群衆達も「そうだ、領主さんは良くやってくれている!悪いのは魔王だけだ!!」と励ましの言葉が続いていく。


 なお、その魔王はクッキーを缶ごと貪りながら、炊き出しの天幕を眺めている。

 ……どんだけ腹減ってんだよ。それ2缶目だぞ?



「ユニフ……みんな……。はは、不甲斐ない姿ばかりを見せてしまって申し訳ない。これでは領主として若輩も良い所だ」

「聞いたぜ、ロイ。領主になって一ヶ月くらいだってな。それなら、あんまり気負わない方が良いんじゃないか?」


「そうかもしれない。キミを見ているとそんな気がしてくるよ」



 なんか、さりげなく刺々しなかったか?

 俺の聞き間違いって事はないよな?



「……それはどういう意味だ?ん?」

「なぁに、深い意味はない。ただ……毎日10時間以上も勉強に費やしてきた私より、可愛い女の子と二人旅をしている気楽なキミの方が力を付けているのが気になっただけさ」



 ……おい、今なんつった?


 可愛い女の子との気楽な旅だと?

 何処にそんな可愛い女の子がいるんだよ?

 俺の横に居るのは、可愛らしい顔でよだれを垂らしている腹ぺこ大魔王だぞ。

 ちょっと油断すると、すぐ尻尾が生えるし。


 つーか、それ以外にもカツテナイ絶望を経験をしてるからなッ!!

 クソタヌキロボやクソタヌキ戦艦に比べりゃ、冥王竜がメカゲロ鳥を引っ張ってるくらいどうって事ねぇんだよッ!!


 ロイを元気付けようとしたのは俺だが、暴言を吐いていいとまでは言っていない。

 俺が受けた理不尽、お前にも味あわせてやるぜ!!



「ったく、俺の実力を見ただろうに、よくもまぁ軽口が叩けたもんだぜ」

「この程度できなければ領主は務まらないからな。キミは知らないかもしれないが……、指導聖母・悪辣ヴィシャスという凄まじい権力者がいてだな、その人を相手に取引をする事だってあるんだ」



 おう、知ってるぞ。その悪辣聖母。

 というか、ここでワルトの名前が出てくるのな。


 ん、もしかしてフィートフィルシアが冒険者で賑わっているのって……?

 ソクトやシルストークの件も踏まえて、闇が深そうなので触れないでおこう。



「ホントに……。ぐすっ、キミの顔を見ていると魔王に屈しそうになった私が馬鹿みたいだ」

「屈するのはこれからじゃないかしらぁ?」


「えっ。」

「そういう未来があるかもしれないと身構えておきなさいぃ。一領を統べる者でありたいのなら、常にあらゆる選択肢を並べる癖を付けると良いわよぉ」



 ……おい、いつの間にか大魔王陛下が降臨あそばされてるじゃねぇか。

 戻ってくるの早過ぎだろ。


 音もなく現れたレジィはリリンをドーナッツで餌付けしつつ、涙ぐんでいたロイに話しかけている。

 纏っているのはワルトが着ていた物と同格か、それ以上の精錬無垢な法衣装。

 突然現れた認識阻害の仮面を付けたロリ司祭に、流石のロイも困惑している。



「えっと……。キミは?」

「私は聖なる天秤の副リーダー『聖女・レジュメアス』よぉ。リリンと一緒に来た軍医団を管理している立場なのぉ」


「失礼をしてしまったようだ、浅慮で申し訳ない。領主のロイ・フィートフィルシアです。レジュメアス猊下げいか



 さらっと偽名で自己紹介をしやがった大魔王陛下に、ロイが深々と頭を下げた。

 どうやらレジュメアスという名前に聞き覚えがあるらしく、心の底から尊敬しているというのが伝わってくる。


 おーい、いいのかー?そのレジュメアス猊下こそ、諸悪の根源だぞー。

 レジェンダリアの礎になるべく、教頭先生として教鞭を振るっているお姉さんの仇だぞー。いいのかー?



「あらあら、そんなに畏まる事はないわぁ。気安くレジィっ て呼んでねぇ」

「それは……。レジュメアス猊下のお噂はいくつか聞いております。貧困に苦しむ多くの民を救っているというその志に、私の一族は皆、深い感銘を受けておりますよ」



 確かに貧しい民も救っているんだろうが……今、掬おうとしているのはお前の足元だぞ。ロイ。



「レジュメアス猊下の偉業と比べれば、私など……。そのような気さくな呼び方など、この身では余ってしまいますよ」

「お世辞でも嬉しいわぁ。確かに私はシンシアと並び立つ聖女であり、相応の立場に居るわぁ。だからこそ、皆には『レジィ』と呼ばせているのぉ」


「それはなぜでしょうか?」

「敬称など取って付けたアクセサリーでしかなく、価値を見い出すかは人それぞれだからよぉ。真の意味での施政者を知っている私は、畏敬を込められた敬称よりも、心が籠った愛称の方が好きなのぉ」


「敬称はアクセサリー……。なるほど、勉強になります」

「もちろん、そのアクセサリーを好む人も居るから注意が必要ねぇ。それを踏まえて覚えておいてほしいのは、相手が格上だからといって敬わなければならないというルールは無い。相手の本質を見てさえいれば、自然と礼を失しないのよぉ」



 なるほど、確かに一理あるかもしれない。

 だが、認識阻害の仮面を付けている大魔王が言う事じゃねぇだろ。

 本質、隠しまくりじゃねぇか!



「流石は聖女様です。その本質を鑑みればみる程に尊敬の念が絶えません。せめてレジュメアス様とお呼びさせてください」



 で、こっちはこっちで、全然本質を見抜けていねぇ。

 認識阻害が掛かってるからしょうがないと言えば、しょうがないが……。

 ロリ聖女とか、どうみても胡散臭いだろ。



「んー、まぁ及第点ねぇ。でも、すぐ呼び捨てしてくれると思うわぁ」

「ははは、そうなれるように努力します。さて、ユニフだけなら立ち話でもいいかと思いましたが、レジュメアス様までいらっしゃるとなれば、会談の席を設けた方が良いですね」



 コイツ、俺に対する扱いがずいぶんと軽いがなんでだ?

 いや、俺とリリン以外とは一線引いている?

 なるほど、領主ってのも大変みたいだな。



「そうねぇ、リリンも腹ペコの様だしぃ。ほらリリーン、ご飯の時間よぉ~」

「れじもふふぅ!」


「レジィって呼んでねぇ、リリン」

「もふっふ!ぷは!あの天幕の中からいい匂いがしている!!もしかしてレジィが作ったの!?」



 まったく話を聞いてなかったリリンが飯の話題を振られた途端、遠く離れた天幕を指差した。

 うん、匂いとかあんまり感じない。

 どんだけ鋭い嗅覚してるんだよ?

 ここから500mは離れてるんだが。



「お腹が空いてるのかい?それは丁度良かった。ユニフにお願いされてお茶会の支度をしていた所です。お口に合うかどうかは分かりませんが、昼食も用意いたしましょう」

「あら嬉しいわぁ、私もお腹がペコペコなのぉ。……案外、消耗するのねぇ」



 ボソリと呟かれた言葉の意味は俺とリリンにしか分からない。


 わざわざ口に出して言ったって事は、魔王シリーズに予定より多くの魔力を持って行かれたって事だろう。

 リリンもいつもより食い意地が張っているし、レジィも消耗しているっぽい。

 元気なのはゲロ鳥だけ……って、そう言えばゲロ鳥はどうなった?


 

「ぐるぐるぅー、げっげー!」



 気になったので視線を向けてみると、ゲロ鳥は綺麗に整列し、空間に出現している転移ゲートに入って行っていた。

 あんだけ暴れまくってたゲロ鳥を完璧に管理しているとか、ゲロ鳥大臣、マジヤバい。



「ごはん!ごはん!!すぐに行こうユニク!!」

「そうだな。とびっきりの紅茶とか出してくれるんだろ?期待しているぞ、ロイ!!」

「あぁ、もちろんだ。フィートフィルシアの食材は超一流品ばかりだからな!」



 すっかり調子を取り戻したロイは爽やかに笑い、レジィに仰々しく手を差し出した。

 僅かな距離とはいえ、聖女を歩かせる訳にはいかないと思ったんだろう。

 慣れた手つきでレジィを馬の上に座らせ、自分はリードを持って歩き出す。



「ほら、なにをしてるんだ?ユニフ。行くぞ!」



 ……元々こうなるとは思っていけどさ、こうもうっきうきで領地に招かれると罪悪感が半端じゃねぇ。


 さて、どうなる事やら。

 とりあえず、ロイ自慢の超一流の食材は壊滅するとして……、無難な所に落ち着いてくれる事を祈ってるぜ!!


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