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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第9章「想望の運命掌握」

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第103話「魔王軍、降臨⑫超魔王VS英雄の魔法」

 

「マジかよ……?ランク0を平然と使いやがった……」



 魔王の脊椎尾の先端に金色に輝くキューブが出現し、砲身部分を包み込んでいる。

 覚醒グラムと衝突してなお無傷な所を見る限り、その防御力はハッタリだとは思えない。


原初守護聖界(セラフィムオリジン)

 この魔法はアプリコットさんがリリンに授けた魔法十典範の一つであり、今のリリンの戦闘の軸となっている魔法。

 空間を切り取って断絶させ、あらゆる影響を無効化するこの魔法を突破するには、同じく別次元へ到達できる攻撃をするしかない。


 そんな英雄が常用した防御魔法の亜種をレジィは使ってきた。

 ほんとちゃっかりしてるぜ、大魔王!



「リリン。手応えから察するに、原初守護聖界と同じくらいの強度だ」

「……。」


「ん?おーい、リリンさーん?」

「……ずるい。私のとっておきの魔法なのに真似するなんて……。むぅ。むぅ。むぅぅ!」


「あ、ちょ!?」



 何度も言うが、原初守護聖界はリリンの攻撃の中軸であり、お気に入り魔法の一つだ。

 それが真似されたと思ったリリンは深刻に頬を膨らまし、平均的な不満顔で走り出した。


 天空に駆け上がりながら激しくぶつかり合う、星丈―ルナと魔王の脊椎尾。

 その一撃ごとに星丈ールナに秘められた拡散の力が働き、僅かに原初守護聖牢を削り飛ばしていく。

 それでも装甲には届いておらず、放たれる衝撃音が地上にいる群衆を恐怖のどん底に叩き落とすだけだった。



「あはぁ、こんなに激しくしたら壊れちゃうぅ。ちょっと怒っちゃったのかなぁ?リリン」

「そんなの当たり前。というか、使えるんなら使って欲しかった場面がいくつもある!」


「そうなのぉ。でも、使わずに対処できたじゃない?」

「それは結果論!もっと早く創生魔法の存在を知っていれば、セフィナやラルラーヴァーに後れを取らなくて済んだのにっ!!」



 あぁ、なるほど。

 ランク0の魔法を使えるって事は、リリンと旅をしていた時には既に習得していた可能性が高い訳か。


 レジィのパワーアップイベントは、ローレライさんが国を立つと決めた後の一週間。

 犯神懐疑レーヴァテインを覚醒させ、英雄クラスの実力を手に入れたローレライさんは、一切の手加減をせず持ちうる知識をレジィに詰め込んだはずだ。

 逆に言えば、そのタイミングでしかランク0の魔法に触れる機会はないはずだしな。


 ランク0の魔法を覚えるチャンスを隠されていたと知ったリリンは、鋭い歯を剥き出しにして不満を表している。



「みんな隠し事ばっかり!魔導銃だってくれなかったし、飛行船も隠してた!!すごくズルイと思う!!」

「あなたが隠すのってオヤツだけだものねぇ。ところでみんな(・・・)?」


「ワルトナも隠してたっぽい。すごく凄ーくズルイと思うっ!!」

「あらそぉなのぉ?へぇー」



 バギィィン”!っと甲高い音を響かせ、肉薄していた大魔王共が離れた。

 力任せに星丈―ルナを振るったリリンを魔王の脊椎尾が迎撃し、俺がいる地上へ吹き飛ばしたのだ。


 迫ってくるリリンに向かって跳躍し、惑星重力制御の力でエネルギーを殺して受け止める。

 そして、そのまま空を駆けてレジィが君臨している大空に到達。

 俺の首に手を回しているリリンは平均的を超えちゃったご機嫌ナナメ顔でレジィを睨み付けた。



「むぅ。隠し事が多いなら、それをすべて使わせるまで。覚悟して」

「あらあらあららぁ?隠し通せるから隠し事っていうのよぉ」


「もう手加減しない。私とユニクで転がしてあげる!!」

「くすくすくす……やってごらんなさぁい」



 バチバチと火花を散らす大魔王共の小競り合いを『まるで伝説の終末戦争(ラグナロク)のようだ……。』と、安全地帯に辿りついた群衆共が見守っている。

 コイツらから見たリリンは、たったのニ撃で9万の軍勢を壊滅させた超魔王と真っ向からやり合える人物であり、文字通りの救世主。

 そして、そんな救世主をお姫様抱っこで受け止めた俺も目立っているに違いない。


 なんかレジィの策謀にまんまと乗せられているという危機感しかないが……カッコ悪い所を見せるつもりはない。

 これだけリリンが「ユニクは英雄!」だって言ってくれてるんだ。

 ちょっとは英雄らしい所を見せないとな。



「リリン、俺も本気を出す。……んだが、あんまりハシャギすぎると地上の冒険者に影響がありそうだ。なんとかならないか?」

「分かった。防御魔法を張っておく」



 世界最強の破壊力を持つグラムの攻撃は、広範囲へ影響を及ぼすものが多い。

 可能なかぎりコントロールはするつもりだが、防御魔法が掛っていない生身の人間が居るってだけで不慮の事故を引き起こしかねないのだ。


 これが本当の戦争であり余裕が無いのなら、他人の事は気に掛けなかっただろう。

 だが、妖艶に頬笑んでいる大魔王陛下が計画した茶番劇な以上、無意味な損害は避けるべきだ。



「《五十重奏魔法連クィンクァゲテット× 五十重奏魔法連キュービクル×五十重奏魔法連マジック・第九守護天使》」



 俺の願いどおりに、リリンが第九守護天使を発動させた。

 未だに安全地帯に辿り着けていない者は、リリンの初撃で意識を失い、逃げ遅れた人がほとんどだ。

 そんな人への最低限の保険として防御魔法があればと思い、リリンはそれを汲み取ってくれた。


 ざわめく群衆全てに、自分達が扱ったものより高品質な第九守護天使が掛けられた。

 口々に『なんだ……この第九守護天使は……?』と言葉を溢しつつ、その性能の高さに目を見開いている。


 なお、余った魔法の行き先はゲロ鳥だ。

 あらゆる攻撃が効かないという絶望の固定砲台が爆誕しまくっているが、流石にそこまで面倒をみてられない。



「全員に第九守護天使を掛けた。無いよりはマシ程度だから、直接グラムの攻撃を当ててはダメ」

「了解だぜ、リリン。んで、大魔王を倒せばハッピーエンドだ」



 ……うん、自分で言っといてなんだが、何処がハッピーエンドなんだよ。

 思いっきり大魔王策謀が完了してるバットエンドだろ。ロイ的に考えて。



「ねぇ、もういいかしらぁ?身体がぁ、熱くてぇ、待ちきれないのぉ」

「いい」

「俺もだ。せっかくだし、俺達の実力を為させて貰うぜ!《破壊への恩寵(デストロトン)!》」



 まずは一手目。

 覚醒グラムに秘められた魔法陣を虚空にて解放し、周囲一帯の破壊値数を解析する。


 より破壊に適した形へ進化したグラムによって、どうすれば相手が壊れるのかが手に取る様に分かる。

 そして目に映った魔王シリーズの破壊値数は、雷人王の掌を10発耐える程度の性能だった。



「なるほど、了解」



 俺が得た感覚情報は、第九識天使で繋がっているリリンと共有されている。

 元々似たような事をメナフの大規模個人魔導で経験済みなリリンはすぐに適応し、的格に相手を攻める戦略を組み上げていく。



「いくぞ!大魔王ッ!!」

「ぞくぞくするわねぇ、英雄見習いぃ」



 頬を染めて上気している大魔王陛下が俺を見つめ、芝居じみた動きで両腕を広げた。

 右手には鋭い五枚の剣。

 左手には弱点を見通す盾。

 化物じみたシルエットに僅かにひるむ事もなく、俺はグラムを構えて疾駆する。



「《重力衝撃波(ガル・バースト)ッ!》」



 刀身に溜めたエネルギーを放出しながら、横一文字に薙ぎ払う。

 飛んでいった破壊の衝撃が広範囲に広がる……も穴が穿たれ、レジィの小さい身体が通り抜けて右腕を振り上げた。



「《命じるわぁ。……九万九千、掻き混ぜ、うそぶけ》」



 クルリと空中で身を翻したレジィは、右腕を巨大な剣山へと変化させた。

 振りかざされ乱立している針地獄が、レジィの手の動きに従って弧を描く。

 そして、空を埋め尽くす漆黒の流星雨が俺を穿とうと突き進む。


 だが、問題ない。

 魔王の右腕が得意としている物理的な暴虐への対処方法、それは人間の限界を超えるだけで良い。



「《超重力軌道ガル・システムッ!!》」



 人間には不可能な軌道を無理矢理に実現させ、寸分の隙間から見えた針撃の脆弱性へ剣を通す。

 最短手順・最小動作でなければ、魔王の右腕の動きを上回る事は出来ない。

 だが、それに慣れている俺にしてみれば、訓練と大差ない些事だ。


 俺に向かってきた全ての針撃は失墜し、命令に失敗した魔王の右腕に亀裂が走る。

 レジィが僅かに目を見開いて動きを止め――、そんな隙を見逃す程、うちのご機嫌ナナメ大魔王は優しくない。



「《失楽園を覆う(ディスピアガーデン)》」



 リリンは反射的に後退したレジィの背後に結界魔法を設置し、回避行動を阻害した。

 背中を強打して呻き声を上げたレジィは、苦し紛れに尻尾を振り回し――。



「《守りなさい、魔王の脊椎尾》」

「《空間破壊パスカルブレイクッ!!》」



 レジィの体を覆うべく蠢いた魔王の脊椎尾が、グラムの刀身によって阻まれた。


 空間を破壊してしまえば、そこから先には進み様がない。

 神の定めし摂理に弾き返された魔王の脊椎尾は硬直し、再びレジィを守ろうと動き出すも、俺がその度に邪魔をする。


 停滞した攻防を潜り抜け、リリンがレジィへと肉薄した。

 その刹那、パァン!と弾けたのは、レジィが纏った原初守護聖牢。

 リリンは一瞬だけ星丈―ルナをルーンムーンへと覚醒させ、拡散の能力を強化してレジィの魔法を突き破ったのだ。



「あらぁ?やるわねぇ」

「そんな事を言ってる場合なの?あなたの防御魔法はもうないよ?《主雷撃》」



 超至近距離で放たれたリリンの魔法、それは確実に決まったはずだった。

 これなら戦いの幕が引かれると思ったからこそ、リリンはレジィを傷つけ過ぎない様に中途半端なランクの魔法を使用したのだ。


 勝利を手に入れた時の、ほんの僅かな弛緩。

 発せられた光から腕が伸びリリンの頬に添えられて、初めて魔法を防がれていたと知った。



「ん、なぜ!?あのタイミングなら詠唱は間に合わないはず!!」

「それってぇ、真っ当に詠唱すればの話でしょぉ?」



 そう言ったレジィの周囲には、俺が叩き落としたはずの魔王の針撃が煌めいていた。

 キラキラと輝く半透明な針が、まるで空気に溶け込んでいたとでも言うように現れたのだ。

 なぜ?っと思う俺達を嘲笑うかのように、レジィは唇を釣り上げる。



「私が魔王の右腕に出した命令は、『九万九千個の物体に混ぜ込んで擬態し、魔法を嘯け』ってことぉ。ユニクルフィンに向かって飛んでいったのはフェイクだったのよぉ」

「ちっ、じゃあ俺がしたのは」


「「「「「魔王の右腕で創り出した魔法の射出口、バラ撒くのを手伝ってくれてありがとぉ」」」」」



 存分に嘲笑を含んだ感謝の言葉は俺達の足元……群衆が立つ草原全体から聞こえた。


 レジェが魔王の右腕を駆使して作った針撃は細く、草原で覆い隠されては探すのは困難だ。

 事実上、地上に居る全ての冒険者たちはレジィの魔法陣の上に立っているに等しい。

 生殺与奪を握られた冒険者……だけじゃねぇ、敵に擬態しているセブンジードまで膝から崩れ落ち、涙を流して許しを乞うている。



「それでも、魔法を唱えたそぶりが無かったのはおかしい。なんで?」

「あら、冷静ぇ。まぁ教えてあげるわぁ。パチン」



 優雅な動きでレジィが指を鳴らすと、リリンの魔導服に擬態していた針から音声が再生された。

 それは、あらかじめ録音されていたであろう『原初守護聖牢(セラフィムプリズン)』。

 光の檻に閉じ込められたリリンは、そのまま大地に向かって落ちていく。



「えっ!?」

「こんな感じにぃ、合図をすると魔法をうそぶくようになってるのぉ」


「んっ、この魔法、飛行脚の効果を遮断している!?」

「そうねぇ、だってそれは牢屋だものぉ」



 この大魔王陛下、戦い方が悪質で巧妙すぎる。

 遠隔で魔法を発動させるだけじゃなく、録音した声まで使えるとは恐れ入ったぜ。

 流石は俺やリリンと同じ、英雄謹製の大魔王だな。

 近接戦闘も超得意ッ!!


 俺は落ちていくリリンに追い付いて、グラムを一振り。

 原初守護聖牢の中で脱出後の準備をしていたリリンは奥歯を噛みならし、そのまま星丈―ルナを覚醒させた。



「ふふ、ちょっと使うのが早いんじゃなぁい?」

「そんな事はない。あなたが転がれば済むだけの話!!《五十重奏魔法連クィンクァゲテット× 五十重奏魔法連キュービクル×五十重奏魔法連マジック!》」



 リリンは能力を全開にしたルーンムーンを突きかざし、再び天空を埋め尽くす魔法陣を出現させた。

 って、レジィに勝ちたいがために、無尽灰塵とごちゃまぜになってるだろッ!?



「草原に隠れているというのなら、焼け野原にすればいいっ!!《天蓋導雷針ロードオブライトニングッ!!》」

「あれぇあれぇ?それが正義の味方の言う事かしらぁ?《多重次元詠唱ディメネイションマジック失墜灯ベクターブラック》」



 天を埋め尽くす魔法陣に相対したのは、大地から染み出した十万に届くであろう漆黒の灯火だ。

 まるで本物の地獄と化したかのような、漆黒に染まった大地。

 そこで茫然と立つ冒険者たちは、まるで地獄で裁きの刻を待つ亡者の様で。



「《落ちろ》」

「《堕ちてぇ》」



 大魔法に挟まれた群衆など関係ないとばかりに、天の雷と地の灯火が交錯した。

 噴き乱れる落雷と宵闇が空間を埋め尽くしながら炸裂し合い、お互いを対滅させていく。


 衝突を免れた落雷が大地を突き刺せば、抜け出て来た漆黒が俺やリリンへ迫りくる。

 今更、低ランクの魔法で怪我をするとは思ってない。

 が、一応グラムで処理していると……蹂躙され尽くした地上に立っている者が一人も居なかった。


 うん、全員、腰を抜かしているな。

 とばっちりも良い所じゃねぇか。



「あははぁ、たーのしぃー!」

「でも、楽しいのはここまで」


「あらぁ?」

「私の準備は終わった。ユニクは?」



 訓練を続けて来た俺達は数多くの連携を考案している。

 今から行うのは、その中でも最上位。

 威力だけで言えばランク0に匹敵するとビッチ狐さんに太鼓判を押されたそれは、もう既に全ての準備を終えている。



「もちろんバッチリだ。陰極電流のみを破壊した『電荷』として、グラムの中に蓄えてるぞ」

「ならば見せてあげると良い。文字通りの光となった英雄ユニクの斬撃を!」



 ……今更になって演劇的なノリになったんだけど。

 さては魔法をぶっ放したからすっきりして、どうでも良くなってきたな?この腹ペコ大魔王。



「あははぁ、良いわぁよぉ。この無尽灰塵を撃ち滅ぼせると思うのならぁ、やってごらんなさぁい」



 うわぁー。あっちの大魔王もノリノリじゃねぇか。

 うん、こっちみんな。そんな熱い視線を送ってくるんじゃねぇ。

 やりずらいだろッ!!



「……あー、魔王。覚悟はいいか?」

「何の覚悟かしらぁ?踏みにじった民草の汁で足が汚れるくらいは覚悟してるわよぉ」


「良さそうだな。……真面目に防御しろよ。じゃねぇと痛いじゃすまねぇぞ」

「んん?」



 パチ、パチ、パチパチパチ。っとグラムの刀身が静かに撥ねる。

 それは、刀身に仕込んでいた《悪化する縮退星ディジナレイト・コラプス》から発する音だ。



「……。へぇ」



 何かを察したレジィは頬笑みを解いて、俺に向き合った。

 更に魔王の左腕に尻尾を巻きつけ、左腕全体を原初守護聖牢で覆い尽くす。

 で、その程度の防御でいいのか?


 落雷とは、電気を通さない空気を絶縁破壊しながら突き進む現象であり、陽極から陰極へと流れる。

 リリンが放った天蓋導雷針。それが発した膨大な電流の余波は、グラムの内部に純粋な陽極電流として蓄えられ――そして、それらが進む進路『絶縁破壊された空気』でさえも、俺の意のままに創り出す事が出来る。


 いつしか激しく迸り始めたグラムの刀身に、雷の魔法陣が浮かび上がた。

 リリンが用意した12万5000発の雷撃の余波。

 それらを掻き集めた俺の新しい必殺技は、文字通り光の速さで敵を討つ。


 全く別の形となったが、憧れだった『空を埋め尽くす天撃』を俺は手に入れたのだ。



「《電荷崩壊刃クーロンブレイカー!》」



 ただ無造作に、グラムを上段から振り下ろす。

 そんな子供じみた動作で、世界が簡単に割れるのだ。


 通常の落雷とはまるで違う、光の放出。

 薄く鋭く速く。

 俺が求めた電荷崩壊刃の進路は、突き出されていたレジィの左腕を破壊。

 砕け散った魔王の右腕と脊椎尾の破片が吹き飛び、後方の空に朱色の大輪を咲かせた。



「勝った……のか……?」

「救世主が、英雄を名乗ったあの剣士が、魔王を討ち取ったのか……?」



 左腕を抱いて硬直している大魔王の姿を見て、群衆が静かに声を上げた。

 満身創痍の状態に陥ってなお、自分達の未来だけは続くと信じて疑わない。

 どうか勝ってくれ……という心の叫びが聞こえてきそうなほど、全ての人が真剣に俺達を見上げている。



「……くは、くはは、くはははは!!ちょー痛いぃー、本当にびっくりしたわぁー!!」



 突然に響いた魔王の笑い声。

 それは希望を絶望へと変換する転調曲。

 見上げていた群衆の目は濁り、握りしめた拳は解かれた。

 もう、終わりだ……と、信じた未来が音を立てて崩れてゆく。



「英雄・ユニクルフィン。鈴令の魔導師・リリンサ。貴方達は本当に強いわねぇ。まさか手傷を負わせられるなんて露にも思っていなかったわぁ」

「……えっ、怪我したの?大丈夫?」


「大丈夫よぉ。心配してくれるなんて優しいのねぇ」



 俺達に微笑みかけたレジィは大仰に腕を広げ、空に向かって声を発した。

 その視線の先に居るのは、ホロビノとダベっていた馬車ドラゴン2号だ。



「来なさぁい、プルぅ」



 名前を呼ばれた馬車ドラゴン2号が、空間をヒビ割らせながら羽ばたき舞い降りた。

 そして空に君臨しているレジィを腕に乗せ、ギロリと群衆を睨み付ける。


 ……完全に大魔王のシモベと化しているな。

 つーか、ホロビノよりも従順じゃねぇか。



「感嘆を覚えたフィートフィルシアを独り占めは勿体ないわねぇ。聞きなさい、群衆たち。次に来る時はお友達を紹介してあげる。あなた達にとっては諸悪の根源、魔王レジェリクエと共に私は戻ってくるわぁ」



 あ、ついに巻きに入った。

 やっと終わるのか、この大魔王策謀。



「震わせなさい、体を。奮えはしないわぁ、剣も魔法も。ひとときの安寧の果て、あなた達の希望は絶望へと転化することになる。あはは、あはははは!あーーはははははは!!」



 まさに魔王というべき抜群の演技力でレジェリクエ降臨を示唆し、群衆に恐怖を植え付けた。

 そして、いつの間にか愛称まで付けられている駄犬竜の腕に抱かれ、天窮ゲロ鳥の陰に隠れるように空の彼方へと消えてゆく。


 ……冥王竜プルートを略した結果、出来あがった愛称がプルぅ(引っ張る者)か。

 ネーミングセンスまで大魔王してやがる。



「……次も楽しく遊びましょぉ。リリン」



 更にダメ押しの言葉を残し、レジィは冥王竜と共に次元の裂け目の中へ消えた。

 突然現れた魔王・無尽灰塵。

 その残虐非道な魔法の数々、それを撃退した蒼白の竜魔導師と英雄見習いの噂は大陸を駆け廻る事になるはずだ。


 ……。

 …………。

 ………………全部、茶番だけど。


 あぁ、ホントに酷ぇぇぇ!!


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