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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第9章「想望の運命掌握」

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第97話「魔王軍、降臨⑥魔王の遊戯」

「ぶにょんぶにょんドドゲシャーッ!」


「シル、右後方から二体接近!防ぐから、回避せずに斬り伏せて!」

「了解、煙火の剣ッ!」



 ユニクルフィンとロイが再会を果たす少し前、塔の下で激戦を繰り広げている者たちがいた。


 リリンサが穿った断層を渡りきった冒険者を待っていたのは、ぶにょんぶにょんと蠢く絶望『終海の龍異形スキュラ・オブ・カリュブディス』。

 天空から降り注いだ全長30mを超える化物15体を見た冒険者達は茫然自失となり、次々に餌食にされてゆく。

 だが、500名を超える熟練の冒険者の中に、この化物の動きに対応できるパーティーがいた。


 その二つのパーティー名は……『轟く韋駄天いだてん』と『氷連花ノウザンクロス』だ。



「《 十重奏魔法連(デクテットマジック)幽玄の衝盾(クリアフィルム)!》」

「くらえ!《熱波両断ヒートスラッシュ!》」



 薄緑色の髪の少女『エメリーフ』が10枚もの防御魔法を重ねて触手の進路を阻み、炎を纏う銅色の剣をもつ少年『シルストーク』が『窮地』を『勝機』へと書き換えた。

 シルストークが振り切った剣に追従するように熱波が駆け抜け、押し留めていた触手を破壊。

 近くにあった触手10本がボタボタと地面に落ちてゆく。


 そうして、冒険者チーム『氷連花』が得意とするカウンター戦法により、終海の龍異形の触手が合計30本近く斬り落とされた。

 だが、一向に勢いが衰えない触手の群れに、シルストークが苦言を溢す。



「ち!斬っても斬ってもきりがねぇぞ」

「シル、いったん後退するか?」


「ダメだブルート、コイツから離れても別の個体に狙われる。確実に一匹ずつ始末して行くぞ!」



 迫りくる触手の波に対応する為に、リーダーのシルストークはあえて接近戦を選択した。

 敵対しているのは30mを超える化物。

 だからこそ、その懐に飛び込んでしまえば、別の個体から狙われにくいと思ったのだ。



「こうなったらアレ行くぞ、ブルート!」

「分かった。《二十重奏魔法連ヴィゲテットマジック・氷結杭!》」


「「ぶっ飛べぇ!《蒸気爆フロギストンッ!》」」



 群れを成して迫っていた触手を見据え、大人しそうな優男『ブルート』が手を翳した。

 そして、手袋に刻まれていた魔法陣を起動し、仕込んでいた魔法を発動。

 高速で放たれた20本の氷結杭が触手の口を縫い止めるように突き刺さり、それめがけてシルストークが炎を纏った剣を振り抜く。


 刹那、熱によって融解した氷結杭が周囲に充満し、剣が発している炎に脅威的な指向性を与える。

 水蒸気爆発と呼ばれる現象により、残っていた氷結杭の破片が飛散。

 周囲一帯の触手の表面を抉り飛ばした。



「……むぅ?」



 ん、なかなか良い動き。

 レベルも全員が5万を超えているし、ここに居る群衆の中では間違いなくトップクラス。

 だけど……?


 なんか、見覚えある気がする?と魔王リリンサは終海の龍異形の上で首をかしげた。

 勢いに任せて12万の魔法を連発したリリンサは、ほんの僅かに疲労を感じている。

 だからこそ、終海の龍異形を出して冒険者の口減らしをしつつ休憩していたわけだが……思いのほか動きが良い冒険者に興味を示し観察していたのだ。


 そして、生き残ったパーティーの中心人物たるシルストークが持つ剣に近視感を感じ……。

 あ。っと答えに行きついて、ゆっくりと立ち上がった。



「よし、今のでだいぶ数が減らせたぞ!あと半ぶ――」

「シルッ!上よッ!!」



 今までの触手の動きから上への警戒を怠っていたシルストークは、エメリーフの声を聞いて瞬時に行動した。

 大地を強く蹴り、真後ろへの水平移動。

 バッファによって強化された身体能力の他に、持っている魔法剣『侵攻なる四葉(インヴェイジョン)』の機能一つ『風砂ふうさの剣』による補佐を行った結果、一時的に音速に近い動きが可能となる。


 だが、その程度の動きでは、リリンサは欺けない。

 シルストークへ天空から強襲をしかけたリリンサの狙いは――彼らの今の実力(・・・・)を確かめる事。

 その手始めとして、シルストークが首から下げていた連鎖猪の角飾りを奪い取っている。



「つっ!魔王ッ!!」

「……この首飾り、パーティー全員が付けてるんだね。何か意味があるの?」



 シルストークの前に軽やかに降り立ったリリンサは、認識阻害の仮面を付けている。

 だからこそ素顔は見えず、シルストーク達はレジェンダリアの魔王としてしか認識できない。



「それは、俺達の恩人がくれた角を加工して作ったもんだ。初心を忘れない為に身に付けてる」

「シル、なに正直に喋ってるのよ!?」



 エメリーフが会話を遮るも、逆にシルストークが手を翳して諌めた。

 シルストークが予期せぬ魔王との対峙に脂汗を滲ませながらも素直に答えたのは、何らか確証があった訳ではない。

 ただ、そうした方が良い気がしただけだ。



「そう、それはとても大事なこと。一定以上の強さを手に入れたが為に、己と敵の実力差を見極められなくなる雑魚冒険者も多い」

「はっ、痛み入るぜ。まさに実感してると返す言葉もない」


「でも、あなたは私との実力差に気が付き、あまつさえ魔王シリーズの恐怖装置の波動を受けても『逃げない』という最善の手段を取っている。これはとても凄いこと」

「そりゃどうも。まぁ、俺達はガキの頃に圧倒的な理不尽に遭遇して酷い目にあってるんでな。少しばかり鈍いんだわ」



 ちょっとだけ棘のある言い方に、リリンサは僅かに頬を膨らませた。

 シルストークが言った『圧倒的な理不尽』に心当たりがあったからだ。


 シルストーク、エメリーフ、ブルート。

 この3人は、二人旅をしていたリリンサとワルトナに出会っている。

『英雄の子孫がいる』という情報を確かめる為に立ち寄った街で暗劇部員同士のいざこざに巻き込まれ、一緒にドラゴン退治をした仲なのだ。


 その時のシルストーク達はレベルが2000程度の駆け出しの新人冒険者だった。

 そして、孤児院のシスターを救う為に冒険者となった彼らの志と、美味しいドライフルーツに感銘を受けたリリンサが同行を申し出て……一晩の内に、その支部最強クラスの冒険者へ駆け上がる事になったのである。



「むぅ。ずっと前に経験したのなら、それは所詮、子供時代の戯れだったということ。理不尽などではないと思う!」

「そうかなぁ……?軽く人生がひっくり返るレベルの衝撃だったんだが?」


「それはあなたが慕っていた人が稚魚だったせい!」

「……なんだって?」



『稚魚』というその言い回しに、シルストークは思う事があった。

 懐かしい思い出の中にいる恩人が使った言葉からだ。



 目の前の魔王は仮面で素顔を隠している。

 ついでに化物じみた武装を纏い、挙句の果てに尻尾まで生えているな。



 ……流石に違うだろ。と、シルストークは思考を打ち切った。



「なにを呆けているの?」

「何でもないさ。で、稚魚がどうしたって?」


「……。要するに、本当の理不尽というものはこういう事!《魔王の脊椎尾(デモンテール)!》」



 稚魚という言葉を返され、口が滑っていたと気が付いたリリンサは、誤魔化す為に魔王の脊椎尾を唸らせた。

 ギュイィィィン!と回転する魔王の脊椎尾をさらにギュンギュン振り回す姿は、まさに圧倒的理不尽。


 思い出の中の恩人は50mを超えるドラゴンをぶっ飛ばしはしたが、流石に尻尾は生えて無かったと、シルストークの疑惑は砕けて消えた。



「ちょっと遊んであげる。本気でかかって来ると良い」


「言われなくてもっ!エメリ、ブルート、後の事は考えるな!全力を出し切るぞ!!」

「分かったわ!」

「僕もだ!」



 乱回転する魔王の脊椎尾が旋風を纏い始めた頃、シルストーク達も全ての準備を終えていた。

 と言っても、その準備とは『心構え』だけだ。


 フィートフィルシア軍の指揮者たるハイルライトの言葉を聞いていた彼らは、澪騎士ゼットゼロが到着するまでの時間稼ぎに徹していた。

 危険な賭けをせず、怪我を負わない立ち振る舞いはシルストーク達を窮地から遠ざける。

 ……が、裏を返せば、危険な賭けをすれば終海の龍異形を早期に討伐できる実力を彼らは持っているのだ。


 だが、魔王相手にそんな悠長な事は言っていられないと、3人は隠していた切り札を惜しげもなく使う事にした。

 まず斬り込んだのはシルストーク。

 四つの機能を切り替えて戦う魔剣『侵攻なる四葉』の二つの機能を掛けあわせ、火災旋風を巻き起こす。



「コレでも喰らっとけ!《極火清勝(ごっかせいしょう)》」

「ん、良い熱量。並みの武器なら触れただけで溶けてしまう。だけど《魔王の右腕。5本の指で、握って、潰せ》」



 リリンサが無造作に振るった右腕が巨大化し、赤い棒を掴むかの如く握り潰した。

 まるで幼児が魚肉ソーセージを握ったかのような呆気ない反撃によって、強制停止された熱量が行き場を失い吹き荒れる。


 そしてそれは、エメリーフが求めていたものだ。



「《多層魔法連・激突する白い竜巻(ダウンバースト)氷山空母アイスシップ悔悟の氷剣山(ペニテンテ)》」



 リリンサを中心として発生した強烈な下降気流が、周囲の熱量を絡め留める。

 そして、それに向かい数百本の氷の槍が次々に突き刺さっては有爆。

 その全ての破壊エネルギーは内部に囚われたリリンサへと向かい――、



「良い連携。これは終末の鈴音の一般兵では手こずると思う!」



 リリンサは当たり前のように無傷だ。

 振り回された魔王の脊椎尾。その先端が纏っている『原初守護聖界』が、すべてのエネルギーを絡め取って無効化したからだ。


 仰々しく蠢いた魔王の脊椎尾の中に身を隠しているリリンサは、その隙間からエメリーフの姿を目視で捉えた。

 そろそろ反撃……と目に光を宿し、その目にシルストークとブルートが映っていない事に気が付く。



「ん!」

「《電光石火の剣(ボルテージ)!》」

「《魔打拳法(マジックアーツ)払魔の祈祷(セラフィム・ブロウ)!》」



 リリンサの死角となっていた左右から、シルストークとブルートが閃光となって駆け寄った。


 エメリーフが行った氷の魔法を使った有爆攻撃でさえも、二人がバッファの重ね掛けをする時間を稼ぐ為の囮。

 あの程度で仕留められると思っていない彼らは、前衛二人が持つ最高の攻撃手段を万全の状態で叩きこむ以外に勝利はないと、目線だけで通じあったのだ。


 リリンサを守護している魔王の脊椎尾。その隙間にシルストークの剣が差し込まれた。

 同時に、ブルートの第九守護天使を纏っている拳も、リリンサの眼前まで迫っている。


 いくつもの思考を重ねて生み出した、ほんの小さな……勝機。

 後は振り抜くだけだと、シルストークとブルート、そしてリリンサも思った。



「私にこれを使わせるとは、お見事。《魔王の示威(デモンスペル)永滅精霊破壊エーテルダウンハイド》」



 シルストークが剣を差し込めたのも、ブルートの拳が眼前に迫っているのも、全てはリリンサが敷いた……布石。


 ワザと緩慢な動きをさせていた魔王の脊椎尾が目覚め、その外装を逆立出せた。

 亀裂から覗いているのは、数百門は下らない魔法の射出口。

 それら一つ一つが無差別に発射した光が、リリンサ以外の周囲一帯を透過。

 そこに含まれていた『魔法物質』を全て壊滅させた。


 これは魔王シリーズが持つ『自律行動』『解析』『支援』『絶対防御』『増幅』『循環』を掛け合わせた、リリンサが編みだしたラルラーヴァーへの対抗手段の一つ。

 魔王の脊椎尾の『絶対防御』を軸に他の機能を使って拡張、魔法を無効化するエネルギー弾として射出したのだ。



「ちくしょう……強ぇ……。」



 纏っていた防御魔法が壊された事により、シルストークとブルートは地面に叩きつけられ、倒れ伏している。

 リリンサの周囲にはエメリーフが放った魔法の余波が残っていた。

 そして、それすらも破壊され完全に自然現象と化した暴風が、無抵抗なシルストーク達を直撃したのである。



「一人一人の動きも良い。連携もバッチリ。装備品も充実している。良いチームになったね」

「だが、魔王には勝てなかった。俺達もまだまだだな」


「ん、これ以上を目指すなら、何をすればいいと思う?」

「そんなの決まってるだろ、このまま魔王にリベンジだ!」



 震える脚で立ちあがったシルストークの目には光が灯っている。

 それは敵前逃亡をしたくないという自尊心も多分に含まれているが、まったくの見栄という訳でもない。

 近くで戦っていた冒険者チームが終海の龍異形を無力化し、こっちに走って来ているのが見えたからだ。


 そのチームは、シルストーク達『氷連花』完全上位互換。

 英雄の子孫を謳われた冒険者『ソクト・コントラースト』が率いる『轟く韋駄天』だ。



「……あ。稚魚も来た」



 そしてリリンサは、平均的な魔王顔で微笑んだ。


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