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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第9章「想望の運命掌握」

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第96話「魔王軍、降臨⑤戦場に立つもの」

「ゲロ鳥、強ええええええええええッッ!!」



 天空からバラ撒かれたゲロ鳥が、冒険者達を蹂躙している。

 ……もう一度言おう。

 天空からバラ撒かれたゲロ鳥が、リリンの初撃を耐えきった並み以上冒険者を完膚なきまでに蹂躙している。


 投下されたゲロ鳥は華麗に翼を広げ、大空を飛……滑空した。

 ふゅるるるる、と落ちてゆくコメディな光景を見て、爆笑する黙示録鳴王軍。

 リリンの暴虐の時とは違うふんわりとした雰囲気に、俺もちょっとだけ胸を撫で下ろした。


 ……が。



「ゲロ鳥が魔法を吐きやがった……だと……」



 俺と同じ気持ちだったっぽい黙示録鳴王軍は、映し出された光景に絶句。

 喰い入る様に画面を凝視し、良い感じのツッコミを入れている。


 よくよく考えてみれば、この状況を俺は想像する事が出来た。

 戦乱絶叫種は秘密兵器として育てているとサーティーズさんから聞いていたし、レジィは電話機越しに魔法を発動できるとリリンも言っていた。

 そんでもって、侵略大臣はまさかのキングゲロ鳥とくれば、ゲロ鳥が冒険者を蹂躙しても不思議じゃな……いや、無理があるだろ。

 正気を取り戻せ、俺。



「ゲロ鳥が魔法を放つとか規格外にも程がある……というか、どうしてそんな事が出来るんだ?」

「あら?ユニフィン様は陛下の神の因子をご存知ですわよね?」


「おう、知ってるぞ。だから通信機越しに魔法を発動したってのは納得している。俺が気になっているのは……」

「どうやって戦場の情報を把握し、適切なタイミングで魔法を使っているのか、ですわね?」



 テトラフィーア大臣の言うとおり、それができる理由がまったく分からない。

 戦場に投下されたゲロ鳥は2000匹。

 それらが統率もなく暴れ回っているのなら、動きに合わせて魔法なんて使えるはずが無い。


 何か仕掛けがあるんだろうが考えても分からないし、さっさっとテトラフィーア大臣に聞いた方が良さそうだ。

 そして、俺が声を掛けると……テトラフィーア大臣は何やら忙しそうにしていた。



「ん?何してるんだ?手に持ってるのは……液晶端末?」



 テトラフィーア大臣は手に持っている端末に、専用のキーボードを使って何かを入力している。

 後ろから覗いてみると、地図の上に赤い点と青い点、そしてゲロ鳥マークが描かれていた。

 ……遊んでるって訳じゃないよな?



「ゲロ鳥2000匹が発している音響反応を聞き分けて地形データと照合し、戦場を分析してますの」

「……?え?なに?」


「ユニフィン様に分かる様に申し上げますと……、ゲロ鳥が発している音響探知(ソナー)による反響音を私の神の因子『絶対音階テトラコード』を使って処理、タブレットに表示させてます。今、私は音響探知が届く半径3kmの戦場の全てが手に取る様に分かりますわ」

「なんだって?」


「そして、それを第九識天使を用いて陛下達とリンク。そのデータを元に、陛下がゲロ鳥に指示を出していますの」



 ……それでか。さっきからレジィと膝の上のキングゲロ鳥が鳴きまくっているのは。


 ゲロ鳥を投下して以降、レジィは目の前に召喚した複数のマイク端末を器用に切り替えながら鳴きまくっている。

 その鳴き声たるや、どっからどう見てもゲロ鳥女王陛下。

 キングゲロ鳥の威風堂々たる鳴き声も合わさった姿は一軍の将であり、まさに魔獣を指揮する魔王その物だ。


 うん、ゲロ鳥なんぞを使って真っ当に進軍してんじゃねぇ。



「つまり、テトラフィーア大臣は2000匹のゲロ鳥が発している音を聞き分け、情報収拾をしていると?」

「そうですわ。私って、これでも軍の総司令官ですのよ?」


「で、レジィ陛下が神の因子を使ってゲロ鳥に指示を出して、冒険者達をボッコボコにしていると?」

「そうよぉ、ちょーたのしぃー!」



 ……うちの腹ペコ大魔王といい、どうしてこうも好戦的なんだよ。大魔王共。

 つーか、壊滅竜がいちばん大人しいって、名前負けも良い所じゃねぇか。


 それにしても、この連携は凶悪すぎる。

 通常、人間が動物と意思の疎通をするのは難しい。

 駄犬竜やクソタヌキ程に知能が高いのなら話は別だが、どう見てもアホなゲロ鳥を意のままに従えるなんて不可能だ。


 だが、レジィとテトラフィーア大臣の神の因子がそれを可能にした。

 レジィが自分の意思をゲロ鳥に伝え、テトラフィーア大臣が反応を聞き分ける。

 こうして、戦場を爆走する移動砲台が完成したのだ。



「戦場を時速100kmで駆け抜ける砲台とか、なんて酷い絵面なんだ……」

「何を言ってるのぉ?戦争にルールなんてないわぁ。ゲームじゃないのよぉ?」


「ゲームじゃねぇよな。うん、じゃあ楽しまないでくれるか?」

「それとこれとは話が別よぉ!密集隊形いくわよぉ、《ぐるぐるげっげぇー!》」


『『『ぐるぐるげっげー!』』』



 大魔王陛下が目の前のマイクに向かって妖艶に鳴くと、ゲロ鳥共の熱意あふれる返事が返ってきた。

 どうやらゲロ鳥女王陛下に良い所を見て欲しいようで、画面に映し出されていたゲロ鳥共は翼を広げて威嚇のポーズ。

 それを見た冒険者たちが一目散に逃げ出すという、悲しい光景が映し出されている。



「逃がさないわぁ。ゲロ鳥2番大隊ぃ、《三十重奏魔法連トリゲテットマジック・瞬界加速ぅ》」

「ぐるげぇーッ!」



 あ、威嚇していたゲロ鳥共の目付きが変わった。

 一斉に広げていた翼を折り畳み、僅かに前傾姿勢を取る。

 そして、無防備を晒していた冒険者集団の背中に、ゲロ鳥弾丸が突き刺さった。



「うおぉー!一撃で鎧を破壊しやがった。すげぇー。……っておかしいだろッ!?冒険者の第九守護天使はどうしたッ!?」

「戦乱絶叫種のくちばしと爪には、三頭熊の魔法無効化爪を模した模様を付けて有りますの」



 いくらリリンの初撃を受けて耐久力が下がっているとはいえ、纏っているのは第九守護天使。

 そう簡単に破壊できるはずないと思ったが……そんな仕掛けがあったのか。



「そんなんありかよッ!?」

「ありですわ。陛下も言っていましたが、これは戦争。勝った方が正義ですわ!」



 勝てば何でも許される……訳あるかッ!!

 ゲロ鳥に突かれただけで破壊される第九守護天使とか、魔法の価値が揺らぐだろッ!!

 ロイなんか、リリンから第九守護天使の写本を貰って泣いていたんだぞ、嬉しすぎて!!



「あはぁ、テンション上がってきたぁ、ちょっとド派手な魔法行っとくぅ?」

「行かなくて良いぞ。死人が出るから」


「《 十重奏魔法連(デクテットマジックぅ)雷鳴精霊の翼音(サンダーバードぉ)!》」

「行かなくて良いって言ってるだろ!!冒険者、逃げてぇええええ!!」



 どう見ても戦争を楽しんでやがる大魔王が、なんかヤバそうな魔法を唱えやがった。

 周囲の反応を聞く限り、この魔法のランクは8。

 決して、逃げ惑う冒険者を後ろから襲撃する為に使う魔法じゃない。


 俺が心の底から逃げてくれ!と祈っていると、大型モニターに映し出されていたゲロ鳥共が高らかに鳴いて翼を広げ――飛んだ。



「げ、ゲロ鳥が光の翼を生やし、普通に飛んだだとぉ……」

「あはぁ、『雷鳴精霊の翼音』は雷の翼を授ける高位バッファなのぉ。負担が掛るから隊長にしか使えないけどぉ」



 ……ゲロ鳥に隊長がいるのかよ。

 どれだよ。全部同じにしか見えねぇぞ。



「《ぐるぐるぅ(行きなさぁい)ぐるげぇー(銀色を狙ってねぇ)!》」

『『『ゴロゴロげっげー!』』』



 なるほど、鳴き声にも変化あり……と。

 まぁ、鳴き声を聞くまでもない。

 んな馬鹿デカイ雷の翼をバサバサさせてたら、一目瞭然に伝説の存在だし。


 意味不明なサンダーバードゲロ鳥を見た冒険者たちは唖然としている。

 だが、その光輝く翼が雷で出来ていると気が付くと、一目散に逃げ出そうとしーー戦場に雷嵐が吹き荒れた。


 激しい雷鳴が轟き、雨粒の代わりに木端微塵に破壊された装備品が降り注ぐ。

 滞空していたゲロ鳥が翼をはばたかせた刹那、水平に竜巻が発生して冒険者を飲み込んだ。

 そして、その中を光の速さで駆け抜ける、ゲロ鳥。

 逃げ場のない雷の嵐に晒された冒険者など、ひとたまりもな……あれ、生き残ったっぽいな?全裸だけど。



「何でアレで生き残るんだよ?おかしいだろ」

「ゲロ鳥が穿ったのがぁ、鏡銀騎士団だからよぉ」


「あぁ、確かに仕立の良い鎧を着てたな。もう跡形もないけど」

「鏡銀騎士団の鎧は非常に性能が良い一級品。例え破壊されようとも装備者を守り抜くわぁ」



 鎧は破壊されたけど、肉体に受けるはずだったダメージは無効化している?

 そんで、ゲロ鳥の狙いは金属だから、全裸になった人間には興味を示さない。

 結果的に冒険者は生き残るが、あらゆる抵抗手段を根こそぎ奪われたという事になる。


 で、空には冥王竜がいると。

 極悪すぎるぞ、大魔王軍勢ィィィッ!!



「つーか、普通のゲロ鳥ですら化物じみてきたな。冒険者を襲ってレベルもガンガン上がってるし」

「う”ぎるあ!私も負けられないし!」



 アルカディアさんは、何でそんなにゲロ鳥に対抗心を燃やすんだ?

 ……知能レベルが近いのかもしれない。



「で、どうやって収拾を付けるつもりだよ?大魔王陛下?」

「フィートフィルシア兵に偽装させたセブンジード隊を配置済みぃ。戦闘不能になった兵士達は素早く回収されて、余が決めた安全地帯にいるわよぉ」


「安全地帯?ちなみに罠は?」

「あるに決まってるわよぇ。レジェンダリア軍が負けを演じて逃げたのってぇ、罠の上で戦う為だしぃ」



 罠があるなら安全地帯じゃないな。暗黒地帯だ。

 どうやら、フィートフィルシアに負けたフリをして陣地を手放し、今回の戦場に設定したらしい。

 戦場すら掌握されてしまっていたと、ロイが聞いたらどんな顔をするんだろう。



「ま、完膚無きまでに心をへし折ったからぁ、妙な動きはしないでしょぉ。さてとぉ……」



 そう言って、おもむろに大魔王陛下は立ちあがった。

 チラリとテトラフィーア大臣とキングゲロ鳥に視線を飛ばして「後は適当によろしくぅ」っと雑な指示を飛ばす。



「名残惜しいけど、そろそろ終わりにしましょぉ。……余も地上に降りるわぁ、一緒に行きましょぉ。ユニクルフィン?」



 ……。

 …………。

 ………………二体目の大魔王、降臨。



 **********




「ゲロ鳥、強ぇぇぇぇぇ……。なんだよこれぇぇぇぇぇ……」



 空からゲロ鳥が降ってくるという極限状態に陥った事により、ロイは僅かに気力を取り戻した。

 だからこそ、遠くの冒険者達へ視線を送りつつ応援を開始し、あっけなくゲロ鳥に蹂躙されるという地獄を見たのだ。


 ゲロ鳥は速い。

 そんな基礎的な情報など当たり前に知っているロイは、その戦闘力は並みの冒険者程度だと認識していた。


 足が速いからこそ攻撃が当てられずに苦戦を強いられるだけで、数万人が囲んでいる状況なら倒す事は難しくない。

 そんなロイの打算は、ゲロ鳥が魔法を吐いた時点で粉々に砕け散った。



「ゲロ鳥が魔法を吐くなよぉぉ、インチキだろぉぉぉ……」



 ロイの慟哭は正解を射ていた。

 魔法を発しているのはゲロ鳥が付けている首輪であり、実際にインチキである。

 だが、遠く離れたこの場所からでは、それを見抜くのは不可能だった。



「断層を超えられない者はゲロ鳥に蹂躙され……、超えてしまった者は魔王のぶにょんぶにょんの餌食にされる。こ、このままじゃ、誰も生き残れない……」



 再び塔の上で膝を折ったロイが、力なく呟いた。


 ロイは優れた判断ができる指揮官だ。

 たった半年という短い期間で冒険者達の心を掴み防衛戦力としてしまうなど、優秀でなければできるはずがない。

 だからこそロイは、この状況を打開する手段を思いついている。



「は、ははは……。こ、こんな事になるのなら、さっきしっかりと告白しておくべきだったな。最期まで格好悪くてすまない、シフィー」



 だが、ロイはまだ20歳にも満たない青年だ。

 その人生経験は急成長しているものの、まだまだ未熟だと言っていい。

 だからこそ『城門の近くにいる魔王へ降伏し、ロイ自身を捕虜として差し出す』という、戦争の終わらせ方を躊躇してしまった。


 降伏すれば、私は二度と戻って来られないだろう。

 大した実績の無い若造の領主の使い道など、限られているのだから。


 軍を指揮した者としての当たり前の結末を想像し、ロイの脚がすくむ。

 それでも、ロイは折れた膝を奮い立たせて歩みだし、塔下で君臨しているであろう魔王へ視線を向けた。



「聞いてくれ、まお――えっ。」



 ……斬られていた。

 ついさっきまで一方的に冒険者を蹂躙し、ついに数パーティを残すだけになるまで追いつめていた『ぶにょんぶにょんドドゲシャー!』が斬り伏せられていた。



「あ、あぁ……。あぁ、あああああ……!」



 30mもの巨体を瞬く間に細切れにしてゆくのは、真紅の大剣を振りかざす剣士。

 その周囲には、既に3体もの化物の死骸。

 赤い髪が特徴的な剣士は、息が絶え絶えになっている冒険者を庇うように、そこから動かず……そして一方的に化物を斬り捨てた。



「なんだよ……なんだよこれ……。こんな時にキミは……」



 ロイは、その剣士の後ろ姿に見覚えがあった。

 思い出の中にあるより体付きが逞しくなっているが、それでも、初めてできた冒険者の友人を忘れるはずが無い。



「駆け付けてくれたのか……。こんな、こんな絶体絶命な状況でも、キミは迷わずに加勢してくれるというのか……」



 ポタポタと零れる涙を拭い、ロイは塔の手すりを握りしめた。

 同時に、後ろに控えていたカンジャートが部下から伝令を受け取り、声を張り上げて吉報を告げる。



「はっ!歓喜に打ち震えながら奏上いたしますッ!!『英雄見習い』を名乗る一団が我が軍に加勢ッ!!魔王が召喚した化物を一撃で葬りましたッ!!」

「あぁ、知っている……。知っているんだ」


「この者達は、鏡銀騎士団一番隊・副隊長『鈴令の魔導師』が在籍している正規軍であるとの事ッ!俺達は助かったぞ、ロイッ!!」

「あぁ、そうだ。アイツらが来たのなら、きっと、いや、絶対に……!」



 カンジャートからの電令など聞くまでもなかった。

 ロイは分かっているのだ。

 目の前の人物ならば、魔王の軍勢をどうにかしてしまうだろうと。



「まったく、流石は英雄見習いだ。凄過ぎるぞ、キミは。……ユニフッ!!!!」

「ん、そこにいたのか、ロイ!」



 塔の上から身を乗り出したロイの叫び声が戦場に響いた。


 戦闘中の者に話しかけるなど、愚行でしか無い。

 だが、ロイは我慢できなかったのだ。


 突然現れた赤い髪の剣士――ユニクルフィン。

 たった今まで絶望の代名詞ですらあった化物を一方的に破壊してゆく親友へ掛ける言葉を躊躇うなど、ロイには出来ない。



「ユニフ!私は……ッ!!」

「話は後でゆっくりしようぜ、すぐにそっちに行くからさ。あぁ、そうだ。紅茶でも用意して待っててくれ!」


「ははは、変わらないな、キミは。良いだろう!私の秘蔵の茶葉に、とっておきのお茶菓子を添えてやるとも!!」

「そうか、じゃ、ちょっと食前の運動でもして、腹を減らせておかねぇとな!!」

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