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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第9章「想望の運命掌握」

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第94話「魔王軍、降臨③絶望の産声」

「なんだよこれ……。なんだよ……。こんなの、圧倒的すぎるじゃないか……」



 最前線の紛争地帯と成り果てた砦の上で、ロイは膝から崩れ落ちた。

 幾度となく繰り返して来た小競り合いとは何もかもが違う光景を目の当たりにして、ついに心が折れたのだ。


 ロイが領主に任命されて以降、レジェンダリア国とは2度、大きな衝突が行われている。


 一度目は、レジェンダリア兵20万の軍勢が押し寄せた大規模侵攻。

 各地から冒険者が集い始めていたとはいえ、まだまだ戦力に不安があったフィートフィルシア領は籠城戦を選択。

 1週間の時間稼ぎに成功し、澪騎士ゼットゼロが率いる鏡銀騎士団の1番隊の参戦により事なきを得た。


 そして2度目は、陣地を形成しようとしているレジェンダリア軍へ、集結した冒険者が逆侵攻をしかけた。

 これは、血気盛んな一部の過激派冒険者が中心となり行ったものであったが、結果的にレジェンダリア兵は全て退却。

 事実上、フィートフィルシア領の勝利とされている。



「これがレジェンダリアの本気だというのか……?こんな、こんな……たった一人の魔王が戦場に出ただけで、9万の冒険者が成す術なく……?」



 ロイは這いずりながら塔の上から身を乗り出し、視線を下へ向けた。

 そして目に映るのは、全長数kmはあろうかという巨大な断層。

 まさに大災害の後だとでも言うように、大地には幅15m程の亀裂が穿たれ、生き残った者の大半が、仲間が倒れ伏す爆心地(死地)に閉じ込められている。


 だが、最も酷いのは砦がある側。

 それはまさに……地獄絵図だ。


 15mもの距離を軽々と飛び越える能力を持つ冒険者達が、リリンサが生み出した正体不明なる混沌『ぶにょんぶにょんドドゲシャー!』に喰われていく。

 剣を握り、斬り掛り、触手を穿つも……頭から丸齧り。

 杖を構え、魔法を放ち、触手を燃やすも……頭から丸飲み。


 ランク4を超える超一流の冒険者達であっても、全長が30mを超え、数百本の触手を持ち、異常な耐久力を備え、複数体で連携を仕掛けてくる化物には成す術が無い。

 ましてやそれが15体もいるとなれば、この世の終わりとでもいうべき地獄と化すのは当たり前なのだ。



「あ、あぁ……夢なら覚めてくれ。さもなくば、いっそのこと私も戦場に……」



 ロイは冒険者になる事を諦めている。

 一度外の世界を見たことで意識に変化が訪れ、意固地になっていた矜持を捨てる事が出来た。

 そして、自分が両親から教わってきた内政を以てして、魔王レジェリクエと戦おうと決めたのだ。


 それでも、ロイは新人試験の時に出会った師匠と友人への感謝を忘れていない。

 たとえ別々の道を歩もうと、胸に宿す志しは同じだと信じ、ロイは自らを『戦雷の騎士長プラズムマスターナイツ』と名乗った。

 これは、師匠たるリリンサが「雷光槍を極めれば、戦雷の騎士長として名を馳せる事が出来るはず!」と付けた肩書きだ。


 圧倒的理不尽を振りかざし三頭熊を爆裂させた、師匠というべきリリンサ。

 圧倒的理不尽に追い詰められた三頭熊に一緒に立ち向かった、親友というべきユニクルフィン。


 ロイは窮地に陥る度に二人の顔を思い出し、気持ちを奮い立たせていたのだ。



「はは……そもそもだ。そもそも、最初の初撃が意味不明すぎる。あんな雷光槍を使える魔王に立ち向かうなど……」



 戦雷の騎士長・ロイは、この肩書を名乗り始めて以降、名に恥じぬ戦いができるようにと鏡銀騎士団に稽古を付けて貰っていた。

 その中でロイは、雷光槍の扱いに関して相当の自信と自負を手に入れている。


「何でもありの殺し合いならばともかく、真っ当な試合であれば、お前に勝てる者はそうそう居ないだろう」


 手合せした澪騎士ゼットゼロから世辞を貰う程に、ロイの戦闘力は高い。

 だが、12万5000本の雷光槍が降り注いた戦慄の光景を見てしまえば、自信も自負も粉微塵に破壊されてしまうのだ。



「はは、もう既に魔王は戦ってすらいない。意味不明なぶにょんぶにょんの上に座って呑気に観戦して……あ、また誰か食われた。ちくしょう……」



 ロイはこの光景に耐えきれず、水滴が滲む地面へ爪を立てた。

 白く引っ掻いた後が煉瓦に付くも、ヒリヒリとした悔しさが返ってくるだけ。

 そして、延々と続く無力感の中、ロイはシフィーへの告白を思い出し……。



「あぁ、シフィー。こんな事になるのなら、私は――」

「はっ!絶望しながら奏上いたしますッ!!」


「……カンジャート。キミは私のモノローグすら邪魔するのか」

「んな事してる場合ではありませんよ!!大変なこの状況にッ!!」


「大変だと?これ以上、大変な事なんてあるものか……」



 今更、何が起ころうが絶対に驚かないと、ロイは達観した気持ちで振り返る。

 すると、そこにいるカンジャートは空を見上げ、顔を真っ赤にして錯乱していた。

 それほどまでか……?と僅かに眉をしかめつつ、ロイは力なく問い掛ける。



「それで、何が起こったというのだ?つらすぎて戦場を見ていられない私に教えてくれ」

「冥王竜がッ!!めいおーりゅーーがぁぁあああ!」


「……そう言えば居たな、そんな奴」



 達観してしまったロイは、冥王竜の名を聞いてもすぐに反応が出来なかった。

 だが、数秒の後に動き出した思考が、冥王竜が大災厄と呼ばれている事実を思い出させる。


 ついに来たか。終わりの時が。

 不甲斐ない領主ですまないと、ロイは数百万の民に心の中で謝罪した。



「冥王竜が動き出したか。だとすると、歴史書に記載された『核熱の炎』でも発動させたのか?」

「違いますッ!!めめめ、冥王竜が!冥王竜がッ!!」


「……冥王竜が?」

「ゲロ鳥を出産しましたッ!!」


「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………もう一度、言ってくれ」

「天空にそびえ立っている冥王竜がッッ!数千羽規模のッ!ゲロ鳥を出産しましたァァッッ!!」


「…………。なにぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいッッッ!?」




 **********



「あはぁ、リリン強すぎぃ!ちょーウケるぅぅ!!」



 ご機嫌最悪・超魔王ヤンデリリンが暴れ狂う映像を見て、大魔王陛下が満面の笑顔を溢した。


 ゲロ鳥船の食堂で総指揮官帰還パーティーを続けながらフィートフィルシアに乗り込んだ俺達は、大魔王陛下の指示により、リリンの戦闘を見学する事になった。

「あなた達の総指揮官の実力、とくと目に焼き付けなさぁい」と巨大メインモニターにリリンを写した映像が流され、その他、ゲロ鳥船管制室が捉えた地上の映像も同時に上映。

 そうして、終末の鈴の音、改め、『黙示録鳴王軍アポカリプス・グルゲー』が、リリンの実力を目の当たりにし――。


 全員、目が点になってるな。

 おーい?生きてるかーー?



「……陛下。皆を代表して、一つ申し上げても宜しいでしょうか?」

「なぁにテトラぁ?遠慮しないで言ってみてぇ」


「では。……なんなんですのこれはッ!?!?フィートフィルシア兵が木端微塵に壊滅してますわよッ!?!?」



 流石は優秀と名高いテトラフィーア大臣。

 至極まともなツッコミだぜ!


 尻尾が生えた後のリリンが繰り出す暴虐は、慣れている俺でさえ心の底から『ねーわー』っと思っている。


 まさに魔王のごとき、数十万の魔法の群れ。

 あんなもん回避不能どころの騒ぎじゃねぇ。

 グラム覚醒状態の俺が全力で避けても喰らう時があるんだから、一般人では絶望的だろう。


 だが、それはまだいい。

 問題は、その後に嬉々として撃ちやがった大魔王尻尾レーザーだよ。

 ……なぁ、リリン。

 アレの何処が絶対防御(イージス)ッ!?

 絶対に防御不能な光線カツテナイ・クソタヌキレーザーだろうがッ!!



「答えてくださいまし、陛下!!こんな戦闘力、先日見たビデオにはございませんでしたわッ!!」

「ないわよねぇ。尻尾が生えたのって闘技場の後だって話だしぃ」


「くぅ!確かに尻尾が生えたとは聞きましたが……、あんな超兵器だと陛下は知っていたんですの!?」

「余の実家の裏でリリンと戦ったゲロ鳥怪人が居てねぇ。後で、映像を見せてあげるから許してぇ」


「そんな物で釣られませんわよ!?」

「そうなのぉ?ユニクルフィンがリリンに剥かれて半裸になるのにぃ?」


「その件は、後でじっくりお伺いしますわ!」



 伺わなくて良いんだよッ!!

 自分の写真は不死鳥で葬ったんだから、俺の闇もそっとしておいてくれッ!!



「レジィ、んなもん見せないでくれ。この戦争で初めての犠牲者が俺の自尊心になる」

「あら、余はパーフェクトゲームを目指しているのよぉ。犠牲は許さないわぁ」


「犠牲を出させないという心意気は大いに評価するが……、こんの大魔王、ゲームって言いやがったッ!」

「余がまともに戦争をする気だったら、お友達のロイが10回は死んでるわねぇ」



 おい、10回は流石にやり過ぎだ。

 5回くらいで勘弁してやってくれ。


 って、こんな漫才をしてる場合じゃねぇだろ!!

 今は戦争中だぞ!?



「まぁ、それは置いといてリリンの強さだけどぉ。……ねぇ、トウトデン、サンジェルマ、バルワン。リリンの戦闘を見てどう思ったぁ?」



 華麗に俺達の苦情をスルーしやがった大魔王陛下は、絶句していた三軍将達に笑顔を向けた。

 まるでイタズラに成功したいじめっ子の様な大魔王陛下とは裏腹に、三軍将全員が青褪めている。



「これ程までとは……まったく思っておりませんでした。まさか、学園での一幕が遊んでいただけなどと」

「マジかよ?が、感想ですねぇ。俺ら皆そう思ってると思いますぜ」

「不覚。我はあまりにも不覚でありました。レジェリクエ陛下やテトラフィーア大臣に鼻で笑われても仕方が無い」



 リリンが12万の雷光槍を出現させた瞬間、ここにいる全員が一斉に絶句した。

 とりわけ、最前列で観賞していた三軍将の驚愕は凄まじく、バルワンが持っていたコップが握り潰されて粉々に砕け散っている。


 この3人のレベルはリリンよりも高い。

 それは年の功だとバルワンは言っていたが、それでも、リリンに比肩するという自信はあったはず。

 で、そんな自尊心は12万の雷光槍でハチの巣にされ、大魔王尻尾レーザーで粉々に破壊されたわけだ。

 うーん、大魔王。



「余は、あなた達の実力ではリリンの側仕えに不十分だと断じ、テトラは冥王竜の抑止力足り得ないと通告した。それを聞いて悔しかったかしらぁ?」

「はい、愚かにも」


「でも、それが現実。余の配下で冥王竜と真っ当に戦える個人戦力は、リリン、ホロビノ、そしてユニクルフィン」

「彼も総指揮官様と同等の戦闘力だと?」


「そうよ。余の神の因子で調べた結果、リリンが冥王竜と戦って勝てる確率は85%。そして、二人で連携をした場合は97%の確率で勝利できる」

「彼は12%分の勝率に貢献できると?」


「いいえ、それは違う。余の経験上、確定確率確立が95%以上を示す事はレアケース。天変地異級のイレギュラーでも無い限り、リリンとユニクルフィンが絶対に勝つわ」

「優勢だった状況が必勝に変わる……。それほどの実力を彼が持っているのですね」



 確かに俺とリリンが個人戦をした場合、俺が勝つ方が多い。

 というのも、リリンは一撃で戦況を覆すようなド派手な攻撃を好んで使用する為に、たまに隙が生まれる事がある。

 で、俺のグラムは絶対破壊を宿しており、攻撃が通れば必勝だ。



「なお、冥王竜へ余とテトラの二人掛かりで挑んだ時の勝率は88%。僅かにリリンよりも高いわねぇ」

「それは……。失礼だと存じておりますが、話を盛っているのでは?」


「言うじゃなぁい。まぁ、余もテトラも矢面に立たないし、戦えないと思われてても不思議じゃないわねぇ」

「たび重なる失言をお許しください。それでは、陛下達は私達三軍将よりもお強いと?」


「余を姫扱いしてくれるのねぇ、嬉しいわぁ。でも、それは本当に不敬。あなた達程度が1%側を知る余を超えている?格の違いをわきまえなさい」



 それだけ言うと、レジィは芝居がかった動きで持っていた扇子をパチンと閉じる。

 そして次の瞬間には、三軍将の首に茨が巻き付いていた。



「リリンが英雄アプリコットから得た魔法知識、それに近い魔法論理を余とテトラは既に習得済みよ。これは最上級秘匿事項だから隠していたけれど」

「……まじかよ、身近にどんだけ化物が潜んでや」

「サンジェルマッ!いい加減にしろ!!」



 つい化物って言ってしまったサンジェルマにバルワンが怒号を飛ばした。

 まぁ、俺も完全に同意だが……。


 うん、俺の側室になったらしいゲロ鳥大魔王がニコニコしてるのが物凄く怖い。

 というか超魔王級が二人とか、絶対に尻に敷かれる運命だろ。俺。



「そして、余達の様な化物はブルファム王国側にも居る。ラルラーヴァーは勿論のこと、純粋にブルファムが有している戦力の中にも化物がいると余は見積もっているわぁ」

「そのような者が……?」


「分かり易いのは澪騎士ゼットゼロかしらねぇ?あの人は冥王竜と戦っても普通に勝つわよぉ」

「次代の英雄に最も近しいとされる人物ですか」


「そしてタヌキィ」



 おい、話に劇物を混ぜ込むんじゃねぇよ。

 タヌキが出てくるとコメディーにしかならねぇぞ。



「トウトデン、サンジェルマ、バルワン。あなた達の仕事は、これら敵の超戦力に対応している余達を抜きにして戦争に勝つ事。できるかしらぁ?」

「お望みのままに、陛下に勝利を捧げましょう」


「ならば、今はこの局面を考察し最善を尽くす為のプランを立案しなさい。期待してるわ」



 バルワン達に激励の言葉を掛けた大魔王陛下は、再び映し出されている映像に視線を向けた。

 そこではリリンが暴れ狂って……ないな。

 ぶにょんぶにょんドドゲシャーの上でクッキーを喰いながら休憩してやがる。

 どんだけ余裕があるんだよ、この腹ペコ大魔王。



「あはぁ、リリンが分断したあっち側はまさに地獄に相応しい光景ねぇ。でもその代わりにこっち側が立て直りつつあるわぁ」

「ですわね。一度は気絶したとはいえ、そこは屈強な冒険者。復活も早いですわ」


「ならばこそ、余達の出番よねぇ。テトラ、秘密兵器の準備は出来ているかしらぁ?」

「もちろんですわ」



 ……大魔王共が、地獄に落とされた冒険者に追い打ちを仕掛けようとしていらっしゃる。

 何処まで無慈悲なんだよ。この外道大魔王共。



「なぁ、秘密兵器って何だ?まさか空から大規模殲滅魔法を撃つんじゃねぇだろうな?」

「しないわぁ。もっと楽しく絶望する奴だから安心してぇ」



 安心できる要素が一つもねぇんだが?

 つーか、『できない』じゃなくて『しない』なのな。



「で、何をするつもりだ?」

「ゲロ鳥、投下ぁ」


「……。投、下、す、ん、な、ッ!!」



 超巨大ゲロ鳥が普通のサイズのゲロ鳥を投下する。

 ……確かに絶望するかもな。意味不明すぎて。



「いや、よく分からないんだが?ゲロ鳥を投下して何になるんだよ。というか飛べねぇだろ!」

「学院に居たでしょぉ?戦乱絶叫種バーサークゲルゲー。この船にはあの子達が2000匹ほど積んであるわぁ」


「あの凶暴な奴かッ!!」

「確かに飛べないけど、滑空ぐらいは出来るのぉ。で、地上に降り立った後で残党兵を蹂躙。大混乱間違い無しぃ!」


「……混乱はするよな。間違いなく。だけどさ、ランク4以上の冒険者なら余裕で対応できるだろ?数だって10倍近いんだぞ?」



 冒険者の8割が気絶しているとはいえ、まだ残っている冒険者は2万人近い。

 いくらゲロ鳥が凶暴だと言えど、戦いにならないと思うんだが?



「ま、見ててぇ。余とテトラと2000のゲロ鳥が10倍の冒険者を突き滅ぼす。とっても愉快な光景をねぇ」




 ……。

 …………。

 ………………せめて人間の兵を使って欲しい。

 ゲロ鳥に滅ぼされるなんて、ロイが可哀そうだ。


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