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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第9章「想望の運命掌握」

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第91話「大魔王式典⑤出立の軍歌斉唱」

「それで、我に頼みたいという崇高にして究極なる願いとは何なのだ?」

「ふふ、それはねぇ……!」



 すっかり運命掌握された黒トカゲが、大魔王陛下のお願いに耳を傾けた。

 無駄に高かった『竜族の誇り』とやらは、どこへやら。

 オヤツ欲しさに飼い主にすり寄る駄犬のごとく、大魔王陛下に頭を寄せている。


 よし、そのまま大人しく荷車馬になってくれ。

 取り押さえるのは面倒だから、絶対に暴れたりするんじゃねぇぞ!!



「あのゲロ鳥船を引っ張って欲しいのぉ。ちょっと遠くのブルファム王国までぇ」

「……今、なんと言ったのだ?」


「あの船を引っ張ってぇ、余達をブルファム王国まで連れてって欲しいのぉ。馬みたいにぃ」

「……。今、なんと、言ったのだ?」



 大魔王陛下の宣告!

 冥王竜は困惑しているッ!!


 って、そりゃそうだろ!?

 この黒トカゲは、一応は『竜王』と名のつくドラゴンであり、それなりに偉いっぽい。

 同じく王の名を冠するクソタヌキ程で無いにせよ、自然界の中で上位格なのは間違いない。


 で、そんな竜王に『馬になれ』とお願いする大魔王。

 ……ブルファム王国の前に、ドラゴンの国と戦争になっても不思議じゃない。



「馬になれ……だと?この高貴にして厳格なる我に、馬の代わりをしろと……?」

「そうなのぉ!この世界で一番すごぉいお馬さんになれると思うわぁ!」



 すごぉぉい、お馬さん?

 すごぉぉい、お馬鹿さんの間違いだな。



「どぉかしらぁ?損はさせないわよぉ」

「ふ、ふ……。ふざけるなぁあああ!!」



 あ、やべ。トカゲがキレた。

 グラムを覚醒させておこう。


 俺が手の中の覚醒グラムに魔力を注いでいると、リリンも星丈―ルナを構えつつ尻尾を生やした。

 お互いに視線を交わして立てた戦略は、リリンの魔法で牽制し、俺が特攻。

 黒トカゲの初動を封殺した後、大魔王尻尾レーザーでトドメを差す。


 そんな打ち合わせをしていると、大魔王陛下が俺達に向かって静かに手を挙げた。

 どうやら、まだ手を出さない方が良いらしい。



「我を、我をなんだと思っておるのだッ!?我は黒土竜一族を統べる王なのだぞ!?どこぞの野良とは違うのだぞ!?!?」

「ホロビノ」

「きゅあ」


「それを豆粒ほどの人間の馬になれだと!?低能な人間風情がよくも高貴な我を愚弄してくれたなッ!!相応の分をわきまえ、希望を費やし死ぬが良――」

「黙らせなさい」

「きゅあら!《天王の輪(ウラヌス・インパクト)》」


「ほぎゃ~~っ!」



 ……冥王竜、駄犬に敗北。


 大魔王陛下の従順なペットと化しているホロビノは冥王竜の目の前に転移し、鼻の穴に向かって必殺技を叩きこんだ。

 ホロビノ5mに対し、冥王竜のサイズは20m超。

 本来ならば戦いにならないと思われるが……。


 ホロビノの攻撃、クリティカルヒット!

 冥王竜は涙目で逃げだしたッ!!



「な、なにするっすか!?いくら我が師で――」

「きゅあらーん?きゅあらぁ?」


「ひぃ!?鱗ッ!?削ぎ落ッ!?」

「きゅあららら、ぐろー」


「ひぃぃぃぃ!!全部はダメぇぇ!!」



 流石は大魔王陛下の従順なペット。

 自然体で弟子を恫喝してやがる。


 冥王竜とホロビノの力の差は絶対的なようで、一切の抵抗が出来ずに大人しくなった。

 そして、しぶしぶ大魔王陛下の前に戻る。



「人間よ、フザケた事というものではない。我は竜を統べる王なのだ。馬の代わりは出来ぬ」

「あらそうなのぉ?残念ねぇ」


「残念だと?残念ではなく無念の間違いではないのか?本来ならばお前は我に殺されるのだぞ?」

「いやいや、残念であってるわよぉ。だって、貴方が真の竜王となる日が遠退くんだものぉ」


「……なんだと?」



 うん、マジで意味が分からん。

 何で馬の代わりをすると、真の竜王になるんだよ?



「余が貴方に引いて欲しいと言っているのは、竜族を繁栄させる宝船ぇ。それを使って、真の竜王として君臨するのはどうかしらと言っているのよぉ」

「真の竜王……?」


「ちょっと聞きたいんだけどぉ、貴方が住んでいる天龍嶽って、深刻な食糧難に陥っているわよねぇ?」

「な、なぜそれを知っている!?」


「豊かな食があるのならぁ、ドラモドキを求めて住処から出てくる必要は無いものぉ」



 あぁ、なるほど。

 大魔王陛下は、俺達が冥王竜と遭遇した話の詳細をワルトから聞いているのか。


 あの時は色々と暗躍があったが、冥王竜がやってきた理由は『ドラピエクロが美味そうな餌場を見つけた』からだった。

 要するに、ドラピエクロから横取りしようとしていた訳だが……確かに、天龍嶽に豊富な餌場があるのなら、わざわざ出てくる必要はない。



「う、うむ……確かに天龍嶽は食糧難なのだ……。今は心身ともに怪我を負った若竜が多くてな……、森に行くことを極端に嫌がるのだ」

「ちなみに、何で嫌がるのぉ?」


「森にはタヌキが居るのだ。タヌキ、タヌキが……ぐわぁぁーー!!」

「タヌキぃ?」


「くそぉ!ただでさえ食料が少ないというのに、あんのド鬼畜共は我が物顔で森を喰い荒し……。そのせいで我が責められるのだぞ!?こんな、こんな不条理は、もう嫌なのだぁぁぁぁ!!」



 お前もタヌキに怯えてんのかよッ!?

 って、そう言えば、カミジャナイタヌキが天龍嶽にいたって話だったっけ?

 ちなみに親父も居たらしいが……何で居たのか、聞くの忘れた。



「そうなのぉ、タヌキが怖いのねぇ。よしよし」

「矮小な人間の分際で気高き竜王たる我を慰め、心から心配してくれるなど……。くっ、良い奴ではないか……」



 あ、また即落ちした。

 ポンコツ黒トカゲがチョロすぎる。


 大魔王陛下の特殊能力『支配声域』は、自らの意思の100%を相手に伝えるという。

 相手が激情に刈られて憤っていたとしても無効化し、次の瞬間には穏やかに対等な立場で対話できる。

 そして、大魔王陛下は万全の状態で心理掌握術を仕掛けにいくのだ。



「そんなあなたに朗報ぉ。余と取引をしないかしらぁ?」

「取引だと?」


「余はこれからこの大陸を統べる女王となるわぁ。その暁には、偉大なる竜王たる貴殿、希望を頂く冥王竜様と物々交換協定を結びたいと思っている」

「……物々交換?人間と取引した事など無いが……。それはどんな協定なのだ?」



 で、コロッと騙される訳だ。

 なんか、洗脳魔法よりも性質が悪い気がしてきたぞ?



「凄ごぉぉくシンプルで分かり易い協定よぉ。余が育てている畜産と鉱石を交換して欲しいのぉ」

「畜産だと?……肉か?肉なのか?」


「お肉よぉ!『身倒牛ミノタウロス』、『豪華鳥コカトリス』、『豚火燃ブヒーモス』の三大高級肉や、『連鎖猪チェインボア』、『三頭熊ベアトリス』、『鳶色鳥とびいろどり』などの贅沢肉。その他にもぉ、『ドラモドキ』や『破滅鹿ディアーボロス』、『邪禍兎ジャッカロップ』なんかも仕入れられると思うわぁ!」

「……なんと、美味な肉ばかりではないか。と、ところで、魚は……?我は魚が好きなのだが、水産物は無いのか……?」



 そんな偉そうな図体の癖に、魚が大好物ッ!?

 つーか、ドラゴンは肉食獣の代表例だろッ!!

 肉を喰え、肉!!



「あるわよぉ!お魚って言うとぉ、『蔵揚げ烏賊(クラーケン)』にぃ、『大味ナマズ』、『雷光ヌルヌス』にぃ、『檸檬魚れもら』なんかも美味しいわよねぇ?」

「ヌルヌス!!あの超絶美味いウナギがこの大陸で食えるというのか!?!?」


「私の友達が生息地を見つけてねぇ。稚魚を捕獲して養殖しているのぉ」



 おい、ちょっと待て。その生息地に心当たりがあるんだが!?


 俺の故郷に冥王竜が遊びに来るとか、マジでやめてほしい。

 というか村長もそうだが、謎レーザーを吐きだすウナギなんぞ養殖するんじゃねぇ。

 ブルファムの次は海底王国でも攻め滅ぼす気か?



「なるほど、それを我が独占できるという事だな?」

「えー、それじゃ勿体ないわよぉ」


「うむ?」

「貴方は偉大なる王なんだからぁ、巨万の竜の上に君臨するべきでしょぉ。飢餓に苦しむ一般ドラゴンにぃ、貴方が至高の贅沢品を分け与えたらぁ、どうなるかしらぁ?」


「そ、それは……もしや、我の評判がウナギ登りになるのか?」

「なっちゃうわねぇ、ウナギだしぃ。しかもそれは、取り繕っただけの薄っぺらい信頼ではないわぁ。『冥王竜さんは俺達の希望!』って言われる日々、貴方の時代が来ちゃうのよぉ!」


「わ、我の時代?ならばもう、我は……『天王竜の威光(希望)を費やす迷惑竜』などと野次を飛ばされなくなる……?」



 悲報。冥王竜、ドラゴンからも馬鹿にされまくってた。


 つーか、『希望を費やす冥王竜(ディスペア・プルート)』って蔑称だったのか。

 意味を知ってしまうと物凄く不憫すぎて、悲しさが込み上げてくるぜ!


 ここはもう、大魔王陛下の甘言に乗って『希望を届ける迷走竜ディスエント・パシーリ』として頑張ってほしい。



「どうすればいいのだ?どうすれば、我は美味なる餌を得て、毎日偉そうに出来るのだ!?」

「簡単よぉ。余が求めた鉱石を持って来てくれればぁ、その重さと同じ畜産と交換してあげるわぁ」



 この大魔王陛下、黒トカゲを掌握するだけじゃ飽き足らず、天龍嶽のドラゴンを丸ごと手駒に引き込もうとしてやがる。


 ドラゴンだって生物である以上、食の魅力(美味い飯で釣る)は強力な交渉札の一枚だ。

 なにせ、うちの凶暴なご機嫌ナナメ大魔王さんですら大人しくなるくらいだし、ドラゴンにだって効くはず。


 なお、一度、大魔王陛下の管理に依存してしまえば抜け出せず、未来永劫、絞り取られる事になる。



「で、できれば生肉が良いのだが!生きている肉を頂けると、なお良いのだが!!」

「そういうことならぁ、放牧している畜産を自分で捕まえるのはどぉ?美味しそうなのを選べるって素晴らしくないかしらぁ?」


「えっ、いいのか!?牧場から牛を持ち去るとトラブルになるからと、竜族の掟で禁じられているのだぞ!?」



 へぇー、そんな掟があるんだな。

 人間として見れば大変にありがたい訳だが、そのせいで大魔王陛下に付け込まれた考えると素直に喜べない。



「勝手に持ってっちゃダメよぉ。でも、余が指定した人間がそれに同行するのなら、なーんにも問題ないわぁ」

「身倒牛は高級肉なのだぞ!?我の様な高位竜でも、なかなか口に出来ないのだぞ!?」



 なるほど。肉を喰えないから魚好きになった訳か。


 身近にある湖で、漁業監督をする冥王竜。

 たまの休日には、自ら釣り竿を手に取ってウナギ釣りを満喫する冥王竜。


 コイツの私生活を知れば知る程、悲しさと親近感が湧いてくる。



「なーんにも問題ないわぁ。余が指定した鉱石と同じ重さのお肉と交換しましょぉ」

「石って結構重いのだが!?我の方が得し過ぎじゃないか!?いいのか!?」


「もちろんよぉ!余が持ちかけた契約だものぉ、少しの損には目をつぶるわぁ」



 冥王竜の言うとおり、肉よりも石の方が圧倒的に重い。

 1m四方の石ですら約2.5トンもあり、身倒牛3頭と交換できる事になる。


 ……で、大魔王陛下がダイヤモンドを指定した場合はどうするつもりだ?

 1m四方のダイヤモンド原石とか、この世界に存在する気がしないんだが?


 ちなみに、この話を近くで聞いている駄犬竜は、契約の意味を理解して死んだような眼をしている。

 詐欺だと知ってるのに教えてやらないとか、やっぱりお前は裏切りドラゴンだな、ホロビノ。



「でもぉ、それは余がこの大陸の覇者になれたらの話なのぉ。そうなるには、偉大なる冥王竜様が放つ、最強にして至高なる威光が必要なのぉ」

「偉大なる我が放つ、最強にして至高なる威光だと……?ふっ、どうすればいいのだ?」


「余をブルファム王国に連れて行って欲しいのぉ。余はあの船に乗ってるから、それを引っ張ってくれないかしらぁ?」

「そんな事で良いのか?うむ、契約を結んでやるとしよう」



 壮大な前振りの末、話が一周して戻ってきた。

 そして、大魔王陛下の言葉に騙された迷走竜の立場は一転し、ウッキウキな雰囲気で握手と指きりを交わし、あろう事か契約書に指印まで押してしまっている。


 ……駄犬竜2号、爆誕。



「契約成立ぅ。連帯保証者はホロビノよぉ」

「きゅあら!?」


「大丈夫よぉ。冥王竜が契約を守っている限り、ホロビノが困ることなんて、なぁーんにもないわぁ」



 それはつまり、黒トカゲが裏切ったらホロビノを困らせるって事だよな?


 ホロビノ!

 自分の為にも、迷走竜をしっかりコントロールしてくれッ!!



「じゃあ、早速お願いねぇ」

「うむ、これから向かうのか?よかろう。……ゲンジツ、あの船を引くのだ」



 おい、部下にやらせようとすんじゃねぇ。

 話を振られた鎧武者が、露骨に嫌そうな顔してるぞ。



「仰セノママニ、御意ニテ縄引ク。……訳ニハ、イカヌ」

「なに?」


「コノ体、冥王竜ノ行ク末ヲ照ラス。……炎ニ縄ハ、掛ケラレナイ。現実ハ無情ナリ」

「……。」



 鎧武者、ぐう正論を吐きやがったッ!

 しかも、言葉に棘がある様な気がするぞ!?さりげなく呼び捨てだったしな!



「ならばカイコンよ。お前ならば触手で船を――」

「荷車馬ノ代ワリスレバ、我以外ハ不用ナリ。……不用トサレル冥王竜。次ニ来ルノハ、悔恨ノ涙」


「……。」



 そう言われ、新緑で出来たハーネスが差し出された。

 だいぶ用意が良いじゃねぇか、球根。

 俺達と戦った時に試金石呼ばわりされたの、随分と根に持っているようだな。


 というか、この黒トカゲ、側近にすら舐められてる……。

 自業自得とはいえ不憫過ぎるし、戦争が終わったら、腹いっぱい肉を食わせてやろう。

 ……大魔王陛下の金で。



「我が引くのか……。ぐぬぬ……、真なる王になる為の試練と思えば……」

「余の隷属臣民たちよ、ここに盟約は交わされたわぁ!この時を以て、最上位竜が住まう『天龍嶽』は隷属連邦に加入。余はついに、種族を超えた同盟を持つ女王となったのよぉ!」



 大魔王陛下が、希望を費やす冥王竜を従えた。

 それは、この国の民にとって……いや、全世界の人類にとって激震となるだろう。


 巨万の群衆が見守る中、冥王竜の身体に特大のハーネスが取り付けられていく。

 衝撃的すぎて事態について行けていなかった群衆達も、現実を帯びてくる冥王馬車を想像し……特大の喝采を上げた。



「うぉぉぉぉ、俺達の女王様が竜王を従えた!!」

「これで二匹目だ!右大臣・ゲロ鳥ッ!!左大臣・冥王竜ッ!!」

「凄過ぎるだろこんなん!!知ってるか、冥王竜って不安定機構の支部長が30人集まっても勝てないらしいぞ!?」


「まっじかよ!?それを飼いならすったぁ、流石は俺達の女王様だぜ!!」

「俺も飼われてぇぇ!!」

「バッカね、あんたじゃゲロ鳥大臣の世話係がやっとでしょ!」


「ともかく……、大魔王陛下、万歳ッ!!」

「「「大魔王陛下、万歳ッッ!!」」」


「大魔王陛下、万歳ッ!!」

「「「大魔王陛下、万歳ーーッッッ!!!」」」



 どよめいた群衆がそれぞれの思いを、考えつくままに叫んでいる。

 だが、それら全ては大魔王陛下への称賛だ。


 まぁ、取った手段が『恫喝の末、洗脳』とか、この上なく酷いが……それでも、冥王竜を従えた事実は揺るぎない。

 大地を割らんばかりの祝福の声を受けた大魔王陛下は、偽りのない歓喜の感情を浮かべて頬笑んだ。



「さぁ、隷属臣民よ、余に忠誠を誓う奴隷たちよ……、謳いなさい、栄華を!歌いなさい、未来を!!」



 高らかに発せられた大魔王陛下の言葉の真意が、群衆全てに伝わった。

 その言葉の意味を瞬時に理解し、それぞれが隷属手帳を取り出し何かの操作をしている。



「ユニフィン様、リリンサ様、こちらが歌詞カードになりますわ」



 なんだあれ?と思って眺めていると、テトラフィーア大臣が掌サイズのカードを差し出してきた。

 それをリリンと一緒に受け取り、書いてある文字に視線を落とす。



「なになに?レジェンダリア国・軍歌……だと?」

「ん、これがそうなんだ」



 群衆が隷属手帳を操作しているのは、内蔵された軍歌の歌詞カードを表示する為だったらしい。

 そして、操作が不慣れな俺達を見越していたテトラフィーア大臣は、あらかじめ印刷されたカードを用意してくれたようだ。


 そして、俺が歌詞カードを眺めて絶句していると、いつの間にか伴奏が始まっていた。

 流れてくる音程は、この大陸最強の軍のイメージからかけ離れた朗らかな音程で。


 思わず鳴きたくなるのを堪えつつ、俺も音楽に合わせて口を開いた。





『慈しむ姿のかの鳥は~~ 

 螺旋を描いて空を飛ぶ~~』



『そんな夢見て丘に立ち~~ 

 ついばむ草は美味しいな~~』


『あぁ、ぐるげ~ぐるげ~~

 ぐるぐるげっげ~ぐるぐるげ~~!』



 ……。

 …………。

 ………………おい、これの何処が軍歌だよッ!?!?

 何処をどう聞いても、ゲロ鳥讃美歌だろうがッ!!!!



「テトラフィーア大臣。な、ん、だ、こ、れ、は、?」

「軍歌ですわねー」


「あえて言おう。どこがッ!?!?」

「あら、ちょっと捻くれてますが、ちゃんと軍歌してますわよ。ちなみに、歌詞に込められた本当の意味はこうですの」




『慈しむ姿のかの鳥は~~』

 ↓

《慈愛に満ちた女王陛下こそ》


『螺旋を描いて空を飛ぶ~~』

 ↓

《陰謀渦巻く大陸を支配するに相応しい》



『そんな夢見て丘に立ち~~』

 ↓

《それを成す為、我らは軍を率いて丘に立ち》


『ついばむ草は美味しいな~~』

 ↓

《滅ぼした民草から、あらゆるモノを巻き上げる》



『あぁ、ぐるげ~ぐるげ~~』

 ↓

《ただひたすらに、泣き喚け》


『ぐるぐるげっげ~、ぐるぐるげ~~!』

 ↓

《お前達に出来る抵抗など、それしかないのだから》



「……と、大変に相応しい内容となっておりますわー」

「すうぅげぇええええ……、ひっでぇええええ!!」



 確かにど真ん中ストレートに軍歌だが、なんでゲロ鳥讃美歌に擬態させやがったッッ!?


 さっき以上の衝撃に、思わず伴奏に合わせて鳴きそうになる。

 それをぐっと堪えていると……あっ、ヤバい。

 軍歌には2番と3番がある。



『優しき心のかの鳥は~

 鳴いた友に駆け寄った~』


『さらに大きな群れを成し~

 過ぎ去る草原、何も無し~』


『あぁ~、ぐるげ~ぐるぐるげ~

 ぐるぐるげっげ~、ぐるぐるげ~!』



『偉大な思考のかの鳥は~

 ついに空を手に入れた~』


『見渡す世界に想い馳せ~

 ついばむ草は恋の味~』


『あぁ~ぐるげ~ぐるぐるげ~』

 ぐるぐるげっげ~、ぐるぐるげ~~!!』



 ……うん、やっぱりゲロ鳥讃美歌だな。


 だが、意味を深く考えると、もう酷い。

 何が酷いって、最終的に滅ぼされた国の民がベッドに引きこまれて、大魔王陛下に食べられてしまっている。

 色んな意味で酷い。



「ユニク、これで式典は全て終わった。まずはフィートフィルシアを本気でぐるぐるげっげーする!」

「……おう、ロイがいるから、お手柔らかにやろうな」



 平均を超えている魔王顔で微笑んだリリンへ笑みを返しつつ、柔らかそうな唇にクッキーをねじ込む。

 そして、これから向かう侵略地で平和に暮らしているであろう友人に想いを馳せた。


 どうやら準備は整っちまったようだぜ、ロイ。

 大変に申し訳ないが、ちょっと派手なゲロ鳥飛行船に乗ってそっちに行くから待っててくれ。


 ま、お前だってあれから訓練を積んだだろうし、三頭熊くらいは倒せるようになってるだろ?

 ちょっと予定外に冥王ドラゴンを連れていく事になったけど、クソタヌキに比べれば、クマもドラゴンも誤差みたいなもんさ。


 ……だからな、ロイ。


 覚悟しろッッ!!


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