表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第9章「想望の運命掌握」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

572/1332

第90話「大魔王式典④希望が見い出した荷車馬」

「お。お。おおおおおおお……」



 冥王竜と奇妙な護衛達を目の当たりにした群衆から、語学能力が失われた。


 うん、これはしょうがない。

 大魔王陛下、万歳ーッ!って驚喜乱舞していたら、いつの間にかメカゲロ鳥が空を飛んでいた。

 ……からの、人類絶望レベルの伝説のドラゴン降臨。

 こんな超展開を受け止められる奴は、もれなく全員、神経の太さが大魔王クラスだ。



「うむ、人間がウジャウジャいるではないか。一匹二匹なら潰してやろうと思うが、こうもいると逆に背筋がゾワっとするものだな。ぐはは!」



 人間をアリの群れみたいに言ってんじゃねぇよ、黒トカゲッ!!

 つーか、背筋がゾワっとしてんのは人間(俺ら)の方だッ!!

 見ろ、お前が余計な事を言ったせいで、群衆が大混乱に陥っているじゃねぇかッ!!


 このポンコツ黒トカゲの見た目と強さは本物だ。

 大災厄などと揶揄されており、ブルファム王国との因縁もあるっぽい。

 そんな化物が『人間を潰す』とか言い出すとか、戦えない群衆からしたらたまったもんじゃない。


 お?錯乱したバルバロアが持っていた旗をマントのように背負い、空間から剣を引き抜いて一歩前に出た。

 恐らく、サーティーズさんを守ろうとしているんだろう。

 その心意気は評価したいが……お前じゃ無理だ。大人しくしてろ。


 そして、その後ろではサーティーズさんが物言わぬ雰囲気で空を眺めている。

 恐怖が振り切れすぎたせいか、逆に隠れた強キャラ感が出ちゃってるぞ?

 錯乱しているバルバロアがやられても、サーティーズさんは生き残るだろう。


 ……所で、ナインアリアさんどこ行った?



「リリン、どうする?このままじゃ群衆が混乱して怪我人が出そうだ」

「レジェが何の考えも無しに冥王竜を呼ぶとは思えない。それに私の軍も動き出している」


「お、流石はこの国最強部隊。一糸乱れぬ精錬された動きで……。ちょっと待て。あれ、逃げ出してないか?」



 きっちり正方形に並んでいた軍人約1000名が、一斉に走り出した。

 それはまさに、蜘蛛の子を散らしたかのような見事な疾走。

 全ての隊員が別々の方向に走り出し、あっという間に群衆の中に紛れて消えてゆく。


 うん、まぁ、これもしょうがない。

 もし冥王竜が暴れ出したら最前線で戦わなくちゃならない訳だし、さっさと逃げた方が賢いのは明白だ。


 ……なお、個人的にその選択肢は間違いだと思う。

 冥王竜よりも怖い総指揮官大魔王が、平均を超えちゃったジト目で睨んでいる。



「信じられない。バルワン達はどんな教育をしているの?」

「真っ当に育てておりますわよ。今も任務を真摯に取り組んでますし」



 俺達の後ろから登壇してきたテトラフィーア大臣は全く取り乱していない。

 それどころか、何処か愉快そうな雰囲気すら纏わせている。



「真摯に取り組んでる?どこら辺がそうなの?逃げたようにしか見えない」

「なら、逃げだした人を指で差してくださいまし」


「ん。……ん?あれ……?」

「見当たらないですわよね?」



 逃げだした人が見当たらないだと?


 そんな馬鹿なと思って俺も探してみるが……、うん、マジで何処にもいない。

 あ、ナインアリアさんは居た。

 どうやらセブンジードに助けを求めに来たらしいが声を掛けられず、近くをウロウロしている。


 で、そのセブンジードは……複数の通信機から伸びたケーブルがヘッドホンに繋がれ、目には厳ついゴーグルを装着している。

 そして、右手に持っていた通話機で何かの指示を飛ばしていた。



「ん。逃げた訳ではない……?」

「逃げておりませんわ。むしろ追いかけてますのよ」


「追いかけてる……?誰を?」

「もちろん、この国に仇を成す間者をですわ!」



 逃げた間者を追いかけている……だと?


 俺の疑念が確信に変わる前に、混沌としていた群衆の方で動きがあった。

 大体の国民はレジィ陛下の言葉を信じて静観している。

 ……が、脇目も降らすに逃げ出している奴もチラチラと出始めているのだ。


 そして、そういう奴等が向かった先には軍服を着た武装集団が待ち構えており、あっという間もなく逃亡者を鹵獲。

 有無を言わさずセブンジードが居る本陣へ連行してゆく。



「セブンジードに率いさせていたのは諜報特殊部隊『命脈消音サプレッサー』を中心としたものですわ。認識阻害を使いこなし、決して姿を見せずに始末する。敵国からは『見えない死神』なんて呼ばれてますのよ」

「おい、一体何を始末しやがった?」


「それにしても、まだ20人も間者が残ってましたのね。大収穫ですわー」

「……って事は、間者をおびき出す為に、あえて冥王竜を派手に召還して騒ぎを起こしたのか?」


「そうなりますわね。陛下を含めた全戦力を投入する以上、防衛戦力が低下する国内の懸念は取り除いておくべきですもの」

「ホントもう、策謀が大規模過ぎて付いて行けねぇ!」



 冥王竜すら囮に使うとか、すげぇ事を考えるもんだな、大魔王ッ!!

 んでもって、ついでに荷車馬の代わりをやらせようとか、間違いなく大陸一図太い神経してやがるッ!!



「ですが、冥王竜を呼ぶというのは私とグオ大臣しか知らされていない極秘事項。当然、苦情はあってしかるべきですわね」


「無論だと言わせて貰おう、テトラフィーア大臣」

「こればっかりは俺っちも同意だ。流石にあれはイケねぇよなぁ?」

「そうだとも。我ら三軍将とて、事前準備も無しに特定個別脅威と遭い見えたくはない」



 テトラフィーア大臣が登壇してすぐ、三方向から凄まじい速度でバルコニーに突入してきた人物が居た。


 『群衆』『王宮』『メカゲロ鳥』の中に潜伏し、不測の事態に備えていたらしい3人のレベルは全員9万台前半。

 バルワンと肩を並べているし、この人達が終末の鈴の音の軍団将なのだろう。



「ワザと騒ぎを起こすとは聞いていたが、あんなバケモンを呼ぶんなら一言欲しかったんだがねぇ?」

「サンジェルマ。どうして教えて貰えなかったのか、その理由に心当たりはありますの?」


「どうしてもこうしても、陛下や大臣の気分でしょ?俺たちゃ蚊帳の外って事ですかねぇ?」



 随分と猫背が酷い痩せぎすの男が前に出て、テトラフィーア大臣に苦言を呈している。

 ぱっと見た感じはショボイ盗賊……と思わせておいて、間違いなく剣の達人だろうな。

 さりげない足運びに、一切の無駄が無い。



「否定はしませんわ。なぜなら、あなた達が本気で戦っても冥王竜の抑止力たり得ないですもの」

「他人の過小評価は、謙遜って言わねぇんだが?」

「やめろサンジェルマ。我にはテトラフィーア大臣の方が正しい様にも思える」



 仲裁に入ったのは、厚手のローブを何枚も重ね着している背の高い男だ。

 この人も見るからに理屈っぽい雑魚魔導師……と思わせといて、間違いなく優れた魔導師だろう。

 右手に持っている魔導杖から、平均的にテンションが上がってきたリリン並みの魔力が零れ出ている。



「冥王竜と聞いて我は直ぐに認識拡張の結界を張った。だが、直ぐに破壊されてしまったのだ」

「お前の結界を?」


「それも視線すら向けず、ホロビノと会話をしている片手間に、だ」



 そんな事してやがったのか、冥王竜。

 忘れかけていたが、この黒トカゲに魔法は効かない。

 正確には、魔法の効果時間を物凄く加速して無効化させる訳だが……どっちにしろ、冥王竜と戦う時は生身の肉体で挑む事になる。


 改めて思うが、冥王竜、強過ぎだろ。

 こんな化け物によく勝てたな、昔の俺。



「一つ聞かせて貰おうか、テトラフィーア大臣。我らですら勝てぬ冥王竜が暴れ出したら、どうするつもりだったのだ?」

「あの神の因子(アーティファクト)を持つ陛下が失敗するとは思えませんわね。ですが、あえて答えるならば……ユニフィン様がどうにかしてくれますわー!」



 こんのゲロ鳥大臣、俺にブン投げてきやがったッ!!


 レジェンダリア軍最強戦力よりも俺の方が強いって言うとか、普通に止めて欲しんだがッ!?

 ほら見ろ、冥王竜に向いていた警戒が俺の方に来ちゃっただろ!!



「舐める訳じゃありませんがね?とてもそんな風には見えん」

「冥王竜は魔法の効果時間を加速させ、無効化する。ランク9以下の攻撃魔法は全て効果発動直後に消滅し、必然的に高位魔道具を使った戦いを強要される」


「総指揮官?随分詳しそうですが、そりゃどういう……?」

「私とユニクは冥王竜と戦い、一度敗北している。その強さは私が保証する」


「総指揮官が負けたですってぇ!?」

「心配いらない、今なら余裕で勝てるから。なお、ユニクが本気を出したら冥王竜なんて一瞬で木端微塵になる!」


「一瞬で木端微塵だとぉ!?!?」



 ……木端微塵になりそうなのは俺のメンタルの方だぞ、リリン。

 つーか大魔王ども、俺を褒めるフリして無茶ぶりを仕掛けてくるのやめろ。


 サンジェルマとトウトデンから不審な目で見られていると、俺の強さを知っているバルワンが仲裁に入ってくれた。

 ぶにょんぶにょんドドゲシャーの件を説明し、強引に納得させている。



「ま、それも無意味な話でしたわね。ほら、陛下が冥王竜を即落ちさせましたわよ」

「……は?」



 そう言えば大魔王陛下を見かけない……と思って探すと、天空で駄犬竜を撫で回しながら冥王竜との謁見に興じていた。


 なんていうかこう……ものすっごい金持ちなマダムが、自宅で愛犬と戯れながら商談している……みたいな?

 とにかく、見ているだけで凄い安心感がある。

 そのせいか、混乱していた群衆が大魔王陛下と黒トカゲを崇拝し、無言で祈りを捧げ始めた。


 ……なんだこの光景、大魔王以上の何かでも生み出すつもりか?



「黒くて艶々なその鱗、すごぉぉっくカッコイイわぁ」

「うむ、見る目があるではないか。我の鱗はカッコイイ、それが愚かな人間には分からんのだ」


「翼も尻尾も艶々ぁ。ねぇ、触ってみても良いかしらぁ?」

「良い。特別に許可してやろう」


「あはぁ、すべすべぇ」



 ……完全に駄犬2号と化しているんだが?

 しっかり運命掌握されてるな、あのポンコツ黒トカゲ。

 荷車馬コース、待ったなし。



「人間。聞く所によると、お前は我が師と同盟を結んでおるようだな?我を呼んだのも理由があるのであろう?」

「あるわぁ。ホロビノにお友達を紹介してってお願いしたら、とっておきスペシャルな子を連れてくるってぇ。だから余は、とってもワクワクしながら待ってたのぉ」


「うむうむ。我はとっておきスペシャルであるからして、安易に呼び出せるドラゴンではない。相応の依頼なのであろうな?」



 荷車馬の代わりをやってくれ。

 そして、大魔王陛下の行脚として、未来永劫、馬車馬のごとく働いてくれ。


 ……断られる気しかしねぇんだが?



「リリン、いくら黒トカゲがポンコツでも説得は無理じゃないか?プライド高そうだし」

「たぶん大丈夫。レジェには二つ目の神の因子『支配声域ドミニチュアリー』がある」


「なんか変なの出て来た……」

「レジェの声は特別製。レジェが本気で発した声は魔法のような特殊効果を及ぼし、聞いた相手の意識を都合が良い様に書き換えてしまう!」


「なんだそのナチュラル洗脳魔法ッ!?」



 確定確率確立ですら意味不明だったのに、さらに特殊能力が追加されやがったッ!?


 というか、どう考えても極悪すぎる能力なんだけど。

 声を聞かせた相手の意識を書き換えるって、最強すぎる。


 最早、戦争をやる意味すら見つからない。

 ブルファム国王を洗脳すれば、それで全て終わるだろ。



「声だけで洗脳は強過ぎるぞ、大魔王陛下……」

「ユニフィン様、リリンサ様の説明だと少し語弊が生まれてますわ。陛下の支配声域の真価は『自らの意図の100%を相手に伝える』ことですの」



 そう言えば、俺も大魔王陛下と喋っている内に洗脳されかけたなぁ……と思い出していると、テトラフィーア大臣から訂正が入った。

 どうやら、直接的な洗脳能力ではないらしい?



「どんな人間が発した言葉であれ、相手に影響を及ぼすものですわ。ですが、相手との友好度や通信機を使用するなどの通話条件によって、その影響は増減しますわよね?」

「そうだろうな。その場の雰囲気……例えば、飯を食いながらだと友好的に話を進められるし」


「陛下の声は、そういう条件を全て無効化し、真っ白な状態で言葉を伝えますの。まるで神の福音の様に」



 つまり、大魔王陛下の声は、神の言葉の様に無意識の奥深くに入り込むと。


 ……。

 …………。

 ………………ついに魔神になりやがった。



「ちなみに、レジェが通信機越しに魔法を発動させられるのも支配声域のおかげ」

「なるほど。通信機越しという条件を無効化して、その場で発せられた肉声だと誤認させてる訳か」



 そう言えばあったなぁ、そんな話。


 それにしても、ここまでヤバい特殊能力持ちなら、わざわざ俺達と一緒に行かなくても良いと思うんだが?

 ……と思ったが、同行する理由は明確だった。


 100%愉快犯だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ