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第18話「自己紹介」

「はい、では無事に同伴者も決まったことですし、冒険者試験を開始したいと思います。今回の任務はブレイクスネイクの討伐、目標討伐数は6体となります。異存はありませんか?」

「僕に異存は無い」

「私も無いですね」

「……俺も無い」



 あぁ、やっと本題の冒険者試験が始まるのか。長かったぜ。


 俺としては正直、ウマミタヌキを狩りに行きたかった。

 奴との因縁を払拭したいと思ったのもそうだが、ロイもシフィーも明らかに素人だしな。


 俺も村の外に出て10日ほどだから言えた義理じゃないけど、野生の動物は恐ろしい。

 目に見え無いくらいの速さで森を駆け抜けて飛び掛ってくるタヌキを前に、ロイもシフィーも成す術が有るとは思えない。

 もしこのままタヌキの怖さを知らないまま冒険者になったら、間違いなく大惨事だ。


 ちなみに、タヌキはドラゴンの弁当にされていた様に、タヌキは自然界では明らかな弱者だ。

 ここは自然の摂理に従い、タヌキ狩りがベストだろうとも思っている。


 だが、俺達には、理不尽系少女リリンがついている。

 リリンが同伴するのならば、タヌキ以上のスパルタ教育は確定的な訳で。

 それに、怖い思いをするのもロイとシフィーだし、本人達が望むのならと承諾しておく。



「了承いたしました。こちらが今回の任務の証書となります。達成条件をクリア次第、証書と物証、今回であればブレイクスネイクそのものを此処に持ってきて下さい。そうすれば、冒険者としての資格を発行いたします」


「分かった。僕としても早く冒険者になりたいのでね、すぐにクリアしてみせるよ」

「わたしもですっ!お師匠様に怒られてしまいますから」

「そうだな!さくっと討伐して来ようぜ」



 ロイもシフィーも、ここぞとばかりに意気込みを入れて、気合い十分といった様子だ。

 そんなに上手く行くとは思えないんだが、意気込みを折りに行くのも忍びない。

 俺も合わせて意気込みを入れ、逸るロイに急かされて任務に赴こうとする。



「あ、それとリリン様!同伴者の方は防御魔法以外の魔法を禁止していますので、ご注意ください」

「禁止……?どうしてもダメ?索敵魔法も使用禁止?」


「我々としては、それを望みません。しかし、この試験に違反をしたとしても罰則などはございません。ですが、楽やズルをして得た経験は冒険者にとって、毒と同意義となります。失敗し、死する瞬間に『あの時に』と後悔する冒険者に育てたくないのなら、自身の力だけで試験に挑ませる事をお勧めします」

「なるほど。忠告ありがとう、アーベル。言われなければ、さっさとブレイクスネイクを根絶やしにして持ってくる所だった」


「根絶やし?…………あはは、本当に忠告して良かったと思いました。いろんな意味で」

「流石に冗談。それじゃ、言ってくる」


「お気を付けて行ってらっしゃいませ。無事に達成できる事を祈っています」

「分かった。アーベルも自分達の体をお大事に!」


「えっ、ありがとね!リリンちゃん!!」



 そう言って頬笑んだリリンの視線は、アーベルさんの膨らんでいるお腹へ向いている。

 そうか、顔見知りだったのか。

 よし、サクッと合格して、良い所を見せてやるぜ!!



 **********


「初任務だ。気合い入れていくぞ!」

「おー!」

「おー!」



 リリンとアーベルさんが挨拶を交わした後、俺達はさっそくブレイクスネイク狩りに向かった。

 早く行こうと急かすロイを先頭にして、町から東に位置する山に向かう。

 そして、道を進みながら、自己紹介や得意な魔法などの必要情報を交換しておく。



「自己紹介は僕からするとしよう。僕の名前は、ロイ・フィートフィルシア。少し名の知れた騎士の家系に生まれ、実家を継ぐ条件としてランク2の冒険者になって来いと言われてね。今に至るわけだ」

「へぇ、騎士の家系なのか。じゃあ剣が主体とした戦法なんだな?」


「もちろんさ、ユニフ。僕から剣を取り上げたら何も残らないくらいだよ!!」



 ……何も残らないのか。

 じゃあ、剣が折れたらどうするつもりなんだよ。

 いや、そんなのは決まっているな。タヌキに噛みつかれてバットエンドだ。


 さて、次はシフィーの自己紹介の番だな。



「私の名前はシフィー・キャンドルです。お師匠様に魔法の才能が有るから、冒険者になって経験を積んできなさいって言われて困り果ててしまいまして、そんな時にロイくんに出会って試験を受けることになりました。ふつつか者ですが、宜しくお願いします!」

「へぇ、シフィーは魔法の才能が有るのか?いいなぁ、俺なんて攻撃魔法がさっぱりでさ」


「そうなんですか?リリン様が大魔導師様なので、ユニフくんも魔法が使えると思ってました」

「それがさ、魔法適性を調べたら火や水や地といった属性魔法の適性が低くて、なんとか風だけ50点って所だったんだよ」


「50点ですか?つまり、呪文の長さを半分に出来たって事ですよね?それって、結構良い方だと思いますよ」

「そうなのか?詠唱破棄が出来ないと才能が無いのかと思ってた」


「とんでもないです!初めっから詠唱破棄が出来る人なんて、そんな人いませんよ。大体、単語一つ減らせれば僥倖、それ以上は才能ある人しか出来ないって言われています」



 単語一つ減らせれば僥倖、だと……?

 リリンの口ぶりだと、詠唱破棄出来て当たり前みたいな感じだったけど。



「そうだぞユニフ!僕なんて光魔法と防御魔法以外は0点だったんだ!点数が付いただけマシなんだぞ」

「……そうだったのか。だってリリンがなぁ……」



 俺のボヤキに二人揃ってリリンを見つめた。

 その視線はリリンに対して期待を込めたもので、リリンもなんの視線か分っているっぽい。



「私は、虚無と星以外は満点だった」

「きゃー!!聞きました?ロイくん!リリン様ほとんど満点だったって!」

「あぁ、間違いなく聞いたぞ。僕の実家お抱えの魔導師ですらそれ程の人はいなかった。そんな魔導師様に出会えたなんて、僕らは幸運だぞ!シフィー」



 シフィーの問いかけにロイがはしゃいでいる。

 本当に前向きな奴らだ、果たしていつまでこのテンションでいられるかな。


 少なくとも、俺が出会ってからのリリンは自重している感じがまったくしない。

 普通の人の価値観がどんなもんのか分らないが、恐らく俺と大差ないだろう。

 ショックで倒れたりしないと良いんだけど。



「さて、俺の自己紹介の番だな、俺の名前はユニクルフィン。16歳でここから南にあるナユタ村出身だ」

「よし、分った。もういいぞ、ユニフ」


「え?」

「はい。ありがとうございます、ユニフくん。次、リリン様の自己紹介に行きましょう!」


「ちょっと待て。なんか投げやりな気がするんだが?」

「何を言っていいるんだユニフ。僕らはもう打ち解けているじゃないか。お互い名前も呼び捨てで呼んでいるし、このくらいでいいだろう?」

「そうですよ!では、リリン様自己紹介をどうぞ!」



 ……コイツら、明らかに俺に興味がなさそうにしやがって。

 そりゃあ確かにリリンに比べたら俺なんて大したことないけどな、どうせだったらもっと仲良くなりたいんだよ!

 まあいい、ロイもシフィーも自分の愚かさを呪うがいい!

 その理不尽系雷撃少女に自己紹介を求めてしまったことになぁ!!



「私も自己紹介?いいけど、二人ともそんなに畏まらないで欲しい。私は16歳。きっと二人よりも年下で、敬われると歯痒くなってしまう」

「確かに僕らは19歳で年上ですが、知恵ある大魔道師様には敬うべきかと」

「そうですよ、本当なら私なんて言葉を話すことすら許されないんですから」


「じゃあ、しない。仲良くしてくれない人に自己紹介なんてしない」

「「あ、……。」」


「もう一度だけ、私からお願いしたい。敬語なんて使わないで欲しい」

「僕は配慮が足りなかったな。ごめん、リリンちゃん」

「ごめんね、リリンちゃん。許してくれる?」


「……許す、許すけど……。」



 リリンが困ったように俺を見上げてくる。

 仲良くなりたいから敬語を使ってほしくないと言ったものの、ちゃん付けで呼ばれるとは思ってなかったらしい。



「仲良くなれそうで良かったな、リリンちゃん!ってうおっ!!危ねぇ!」



 ちょっとリリンを弄ってみたら杖が飛んできた。かなりギリギリで回避し、リリンに謝罪をする。

 むぅ、とちょっとだけ頬を膨らませながらも、リリンの自己紹介が始まった。



「私の名前は、リリンサ・リンサベル。ランク4の魔導師で不安定機構(アンバランス)ではブランに所属。ここいら近辺では主に『蒼白の竜魔道師』、または『鈴令の魔導師』として活動している」

「……えっ、鈴令……?」



 声を漏らしたのはシフィーだった。

 先ほどまでとは比べ物にならない驚き様に、俺もロイも足が止まる。

 そして、わなわなと肩を震わせたシフィーは、言葉を選ぶようにして口を開いた。



「……リリンちゃんが、鈴令の魔導師なんですか?あはは、こんな所で出会っちゃうなんて……」



 呟くシフィーに怪訝そうな表情のロイ。

 ほらさっそくだな。


 シフィーには鈴令の魔導師という肩書きに思う所が有るらしい。


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