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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第9章「想望の運命掌握」

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第86話「開口する思惑」

 

「ほら、ニセタヌキ。約束した報酬の『アップルコンフィチュール・フィユタージュ~黄金リンゴのサクサクパイ~』だよ」

「ヴィィィィギルゥゥゥゥン!!」

「よかったね!ゴモラ!!」



 ワルトナが差し出した箱から迸っている食欲をそそる香りに、世界の深淵に潜むモノ……ゴモラが歓喜の咆哮を上げた。


 つい先日、人間の街をウロウロしていたゴモラは、超有名菓子店のショウウィンドウの前でランク0の魔法に匹敵する衝撃を受けた。

 そこには、この世界の7割を手中に収めたゴモラを以てしてでも筆舌しがたい……とっても良い匂いのアップルパイが堂々と聳え立っていたのだ。


 一目で心を奪われ、口からヨダレが滝のように湧き出て止まらない。

 ……だが、タヌキであるゴモラは、このアップルパイを入手する手段を持ち合せていなかった。


 別にゴモラは、人化が苦手だという訳ではない。

 だが、ソドム同様、むやみに人化するのを好ましく思っておらず、ついでにお金も持っていなかった。

 だからこそ、ゴモラは店の名前をガン見して覚え、起死回生のチャンスを待つ事にしたのだ。


 世界の頂きに座す大聖母の腹心たるゴモラは、時々やってくる情報収拾依頼の報酬としてこのアップルパイを欲し、そしてまんまと手に入れた。



「にしても、マ~~~ジで便利だなー、ニセタヌキ。こんな簡単に情報が手に入るなんてさ」

「だな。取らぬ世界の皮算用をするにゃ欠かせねぇ」



 ここは荘厳に飾り付けられたブルファム王国の貴賓室。

 ワルトナ、メナファス、セフィナが寛いでいるこの部屋では、ゴモラが習得してきた情報の上映会が行われていた。


『ワルトナ。ゴモラへ情報収集の依頼を出す際は、人間同様、報酬を提示して契約を結べば良いのです。報酬を奮発すれば、この世界の情報で手に入らないものなど、そうそうありません』


 大聖母ノウィンからそう聞かされたワルトナは、物は試しだと言わんばかりにゴモラへ契約を持ちかけた。

 その契約内容は『レジェンダリア国内にいるリリンサへ接触した不審人物の監視』であり、その対価は『ゴモラが望んだ菓子を週一で入手すること』。

 そうして、見るからに怪しい不審人物『バルバロア』の動向はゴモラによって監視・記録され、ワルトナへ報告されていたのだ。



「で、メナファス。リリンがどんどん魔王になってくんだけど?」

「尻尾の次は角か。翼が生えりゃ完全体だな」


「んで、レジェが巣立ちさせたっていう『ゲロ鳥』って何だと思う?」

「間違いなく秘密兵器って奴だろ。ゲロ鳥ロボとかじゃねーの?」


「そんなん出てきたら爆笑するねぇ、んでもってブルファムは爆死するねぇ」

「はっ、同意見だぜ!」


「……。」

「……。」


「……カミナの奴、何か仕込んだと思う?」

「絶対やっただろうな。あんな生き生きしてる顔、オレは初めて見たぞ?」



 二人揃って思い浮かべているのは、人類を裏切ってタヌキの軍門に下った友人の顔だ。


 色んな意味で顔の広いこの二人ですら、『カミナ・ガンデは人類を救う』と思っていた。

 だがもはや、人類を救うどころか天敵になってしまった……と、ワルトナは帝王機を笑顔で弄繰り回すカミナを見て本気で思っている。



「さてと、レジェの進軍は明日に決定したし、僕らも策謀の時間と行きますかね」

「ん?オレもか」


「違う違う、セフィナを連れていくって話さ。セフィナー?僕のお仕事を手伝っておくれー」

「もふふぅ!?」


「もう食ってんのかよ。はえーな」



 報酬のアップルパイを貰ったゴモラは光速の壁を突き破って箱を開封し、中からアップルパイを取り出した。

 そして、セフィナに声を掛けて一緒に舌鼓を打っていたのだ。


 膨らんでいる頬が縮むのを待ってリンゴジュースを差し出したワルトナは、ふはー!と一息ついたセフィナへ優しく微笑みかけた。



「セフィナ、そろそろ敵に動きがありそうだ。こっちも準備をしに行くよ」

「あ、はい!私に出来る事なら何でもします!!」


「よしそれじゃあ、僕以外に『何でもする』って言うの禁止で!」

「えぇっ!?えっと……はい!分かりました!!」



 絶対に良く分かっていないであろう笑顔で、セフィナはワルトナに頬笑んだ。

 それを見たワルトナも表面上で頬笑みを向け、内心で「やれやれ」と悪態を吐く。


 まったく、セフィナ程の可愛さで何でもするなんて言った日にゃ、どんな事させられるか分かったもんじゃない。

 後で、ゴモラに身辺警護の依頼を追加しておこう。



「ということで、セフィナは今から僕と一緒に来て貰う。あぁ、難しい事は無いから安心していいよ」

「そうなんですか?」


「そうだよー。難しい話をしている僕の横で座っているだけの簡単なお仕事さ。あ、お茶菓子があったら食べてて良いからね」

「わーい!ゴモラも一緒に行こ!」



 僕的には来て欲しくないんだが……。

 ワルトナはつい口にしそうになったが、セフィナとゴモラはワンセットだと無理やりに納得。

 善と策謀は急げとばかりに立ちあがり、一人と一匹を連れ立って歩き出した。



「ということで、メナファスは自由時間って事で」

「へいへい。適当に街をぶらついて友達と遊んでくる(・・・・・・・・)ぜ」



 メナファスが言った『友達と遊んでくる』とは、『孤児院を襲撃した闇の組織の壊滅』だ。

 リリンサよりも早く温泉郷を出た二人は、サブミッションである『メナファスにちょっかいを掛けた愚か者』の撃滅に時間を割いている。

 その理由は至極単純。

 ワルトナの調査により、裏に立っているのが指導聖母・悪性のグループだと判明したからだ。



「じゃ、行こうかセフィナ。お姫様に会いにね」

「えっ!?お姫様ですかっ!?!?」



 **********



「ふわーー!すっごい綺麗な廊下ですね!」

「ここはブルファム王城でも限られた人物しか入れない、秘密の花園ってやつだからね」


「お花畑ですか!?あっ、確かに絨毯がお花の模様です!」

「キミの笑顔もお花畑みたいに可愛らしいねぇ、ついでに中身もお花畑だねぇ」



 気さくに軽口を叩きながら、ワルトナ達はブルファム王城の上層階へとやってきた。

 根城にしている中層階と違い、ここには王族や侯爵以上の大貴族と、その側近の近衛兵しか立ち入る事は許されない。

 当然、貴族位や王族でないワルトナは正規の手段で入る事は出来ないはずなのだ。


 だが、ワルトナは戦時下である状況と『大牧師・ラルラーヴァー』の肩書きを前面に押し出し、力技で入場許可をもぎ取ったのだ。



「おっと、着いたようだ。ここの中にブルファム王国の姫と大臣であるオールドディーン卿がいらっしゃる。失礼の無いようにね」

「はい、元気よく挨拶します!」


「マナー的に優れているとは言えないが……ま、そういうのは後で教えるとしよう」



「この天災級アホの子の教育なんてしていたら、その間に国が滅びる。」と計算で弾き出したワルトナは、セフィナに宮廷マナーを教えるのを諦めた。

 それでも、その内テーブルマナーくらいは教えるかと思っているあたり、セフィナの情操教育には余念が無い。

 なお、テーブルマナーの覚えが良いのは姉で実証済みだ。



「ここはオールドディーン卿の執務室である。何用であるか?」

「僕の名は大牧師・ラルラーヴァー。オールドディーン卿に呼ばれてきたんだが、中にいらっしゃるかい?」



 認識阻害の仮面を被っているワルトナは、抑揚のない声色で部屋の前に立っている近衛兵へ話しかけた。

 低い身長こそ誤魔化せないが、その他の情報はシャットアウトされている。

 仕立の良い魔導服を着ている事も相まってか、それ以上の問い掛けはなく、すぐに室内へ入るように促された。



「やぁ、ご機嫌麗しゅう、オールドディーン卿。アルファフォート姫」

「ご機嫌麗しゅうございます。ラルラーヴァー様」



 室内の静まり返った雰囲気を掻き消してしまうように、椅子に座っていた御目麗しい姫は華やかな頬笑みを浮かべた。

『キラキラ光る金髪がまるでお人形様のようだねぇ。』と感想を心の中で呟いたワルトナは、早速本題に入るべく歩みを進めて近づいてゆく。

 だが、辿り着く前にアルファフォートの前に座していた尊老な男が、訝しげに口を開いた。



「はっっ、敵国の兵が攻めてくるのに機嫌が良い奴など居るものか」

「ごもっともだ。だが、こと今日に関しては機嫌を良くして貰わなくちゃ困る。なにせ朗報を持って来たからね」


「顔すら見せんお前ら指導聖母の言う事など、微塵も信用できんな」

「それもごもっとも。だから僕の持ってる手札の中でも、一番に誠意があるこの子を紹介するんじゃないか。セフィナ」



『名前を呼ぶまで僕の2歩後ろをついておいで。』と指示されているセフィナはびくっと肩を揺らしながらも、打ち合わせ通りの行動に出た。

 慌てないように細心の注意を払って歩き出したセフィナは、緊張のあまり転びそうになりつつ、ワルトナの横に並び立つ。

 そして、ぎこちない動きで一礼し、声高らかに自分の名前を告げた。



「セフィナ・リンサベルです!今日からお姫様の護衛をする為にやって来ました!!」



 ここに向かう途中、セフィナは『ワルトナさんのお手伝い』の内容を聞かされている。

 それは今回限りのものではなく……。明日から戦時下に置かれるブルファム王国の姫を護衛する事だ。



「未成年ではないか。何かの冗談か?」

「いやいや本気も本気さ。彼女以上の適任は居ないと思うねぇ」


「理由を言わねば分からぬぞ」

「彼女はねぇ……、大聖母・ノウィン様の実の娘だよ。これで分かるかな?」



 核心をついたワルトナの言葉に、オールドディーンどころか、向かい側に座っているアルファフォートも目を見開いた。

 その言葉の中に含まれていた『大聖母の娘』という真意に気が付いたからだ。



 ……なるほど。この娘本人が護衛なのではなく、この娘を陰から守る存在を姫の護衛にするという事か。

 ましてや、戦争を仕掛け人の一人たる大聖母の娘の護衛ともなれば、一兵卒など話にならない実力を持っていると。



「ほう。それは確かに一考に値するであろうな。《サモンウエポン=ペア・アームチェア》」

「話が早くて助かるね。さっ、セフィナ。お茶会の時間だよ」



 ワルトナが用意していた『正解』の一つに辿りついたオールドディーン卿は、自身が望む安寧の為に手堅い策を打った。

 自分達が座っていた物と同じ高級椅子を召喚し、テーブルを挟んだ対面側に設置。

 そこへ座る様に促されたワルトナとセフィナは、それぞれに礼を尽くしながら椅子に身を預けた。


 ……なお、セフィナの足元にいるタヌキを見たオールドディーンは困惑し、アルファフォートは密かに目を輝かせている。



「さ、お互いの為になる話をしようじゃないか。オールドディーン卿、アルファフォート姫」



 話し合いの場は整ったとばかりに、ワルトナが口火を切った。

 それぞれ独自のルートから情報を仕入れ、迫りくる大魔王を退けようと相談をしていたオールドディーン達も頷き、秘密会談が幕を開ける。



「あの……私、お茶を入れますね!!」



 そしてセフィナも空回りし始め、それをゴモラが楽しげに見つめている。

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