第17話「同伴者」
「ユニフ!彼女はいったい何者なんだ?まるで見えない速さだったが、何かをしたのか?」
「え、ええ。教えて下さいよ!ランク4なんですよ彼女が使ってた魔法!!連発なんておかしいじゃないですか!」
「いや、何て言うかな、リリンに常識は通用しない?」
静まり返った室内で、ロイとシフィーが騒いでいる。
あまりにも実力差がある為に、リリンが何をしたのか分からななったっぽい。
面倒なので適当に答えておくと、平均的に欲求不満なリリンが近寄ってきた。
「……ユニクまで何を言う。冒険者たちの世界ではこれが常識。あなた達も練習をすれば、いずれ出来るようになれる。はず?」
「と、本人は言っているがな。出来るかはしらん」
「出来ると思うか?僕には良く分からないが、たぶん出来ないと思うんだが」
「出来るわけないでしょう。ほら見てください、周りの人も首を横に振ってます」
シフィーに促されるままに周囲を見渡すと、冒険者達が一斉に首を横に振っていた。
この瞬間、理解した。
どうやら俺が今まで感じていた劣等感は必要のないものだったらしい。
ついでとばかりに各々のレベルを確認すると、さらに良く状況を理解出来た。
目につく冒険者達のレベルの殆どは1万未満で、ちらほら1万後半が混じる程度。レベル2万代の冒険者なんて、おっさんの他二人しかいなかった。
もちろん3万以上は見当たらない。
そして、俺は悟った。いや、理解していたんだが改めて理解した。
……。
…………。
………………リリンはおかしい。
「アーベル。騒ぎを起こしたことは謝罪する。ごめんなさい」
「いえ、正直なところハンズさんの根は良い人なのですが、少し行き過ぎた所がありました。これで少し態度に変化が出ると良いのですが」
「ならばもう少し、ヤッとく?」
「いえ、やめましょう。死んでしまいます」
なんだか少し残念そうなリリンをよそに、シフィーがロイに今の魔法が如何に凄いのかを説明している。
その説明は俺も聞きたい所だが、リリンから目を離すとまた何かしでかしそうなので会話に入れなかった。
だが、途切れ途切れに聞こえてくる言葉は、「普通の魔道師3人がかりで掛けるバッファを一人でやった」とか、「最後の魔法はランク4までの魔法辞典には載ってない」とかヤバそうな言葉がちらほら混ざっていて、聞いていたロイの顔色がみるみる青褪めていく。
「なぁ、ユニフ。彼女が規格外なのはシフィーに聞いてよーく分かった。それで、彼女はキミとどういう関係なんだ?」
「教えてください!ユニフくん!」
とうとうシフィーまで俺をユニフと呼び始めた。
あぁ、これはもう諦めるしかなさそうだ。
しっかし、俺とリリンの関係か。
ぶっちゃけ未だに神託とか理解していないし、他人にホイホイ喋ってしまっても良いもんなのか?
これはリリンに任せた方が良さそうだな。
俺は説明をよろしくという意味を込めてリリンに視線を送る。
どうやらリリンも理解したようだ。
「私はユニクの守護者にして保護者。さらに、師匠でもあり従者でもある」
「良く分からないな」
「良く分からないですね」
「噛み砕いて言えば、人生のパートナーであるということ!」
「……良く分からないが、羨ましいという事だけは分った」
「……ですね。ユニフくん、羨ましいです。リア充は光魔法で爆発して欲しいです」
「いや待ってくれ!俺とリリンはそんな関係じゃないんだ、信じてくれ!」
それから俺は必死にロイとシフィーへ、これまでの説明をした。
俺のレベルの話に触れると二人とも眉を潜めていたが、なんとか信じてくれたようだ。
そして、大体の説明が終わった所で、俺はふと気付いた。
冒険者試験が全く進んでねぇ。
「あの、リリン様、そろそろ彼らの冒険者試験を始めたいのですが。良いでしょうか?」
「……そうだった。もともとあの冒険者があまりに貧弱だったので私が異議を申し立てたのが始まり。でも、彼はあの通り伸びてしまっている。アーベル。代わりの冒険者はいる?」
「えぇと、聞いてみますね。すみませーん!!この場に冒険者試験の同伴者を希望なされる人はいらっしゃいませんかー?いませんかー?いるわけないですよねー?……リリン様、代わりの冒険者はいません」
「そう。ならば仕方がない。私が同伴をしよう!」
事も無さげにリリンが同伴者を申し出た。
なんとなくだが、リリンはこれを狙っていたんじゃないだろうか。そんな気がする。
というか、この状況で志願者なんて出るわけないだろ。
それはどう見ても命知らずな無謀。
冒険者は危険を犯さない、逃げの一択だとリリンも言っていたしな。
だが、俺は良いとしても、ロイとシフィーはトンデモナイことになったと思ってるだろうな。
可哀そう……ん?
「なんと!キミが同伴してくれるのかい?とても嬉しいです!僕はロイだ、よろしくお願いします」
「私の名前はシフィー・キャンドルです。魔導師をやってます。よろしくお願いいたします!」
「私は、リリンサ・リンサベル。年齢も近いのだし、そんなに畏まらなくてもいい。よろしく」
……いつの間にか打ち解けてやがる。
そして、熱い握手を交わしている。ていうか、シフィー。握手の仕方を知ってるじゃねぇか。
すっかり取り残されてしまった俺は、慌ててその中に入って行った。