第75話「大魔王学院・四時間目補習、校庭に君臨する大魔王」
「むぅ……。あんな訓練用の魔法を覚醒グラムで斬るなんて、ちょっとズルイと思う!」
俺に抱き止められた大魔王様が、頬を膨らませて抗議をしている。
確かに、最終兵器を授業で使うのはどうなんだ?思わなくもないが……。
そもそも、人食いぶにょんぶにょんドドゲシャーがダメなんだよッ!?
このまま放っておいたら、レジェンダリアの最高戦力を食い散らかす所だったんだぞ!?
大魔王陛下に怒られるだろ、確実に!!
「そう膨れるなって。ほら、校庭を見てくれ」
「……あ。物凄くボロボロ。ユニク、ちょっと暴れ過ぎだと思う!」
「やったのは俺じゃねぇぞッ!現実から目をそむけんな!」
俺が指差した校庭を見た腹ペコ仮面大魔王さんは、かなり気まずそうに視線を逸らしやがった。
気が付かなかったフリをしても無駄だぞ。
どうせどっかからククラス教頭が見てるだろうしな。
当然、俺は出来るだけ校庭に被害を出さないように立ち回ったつもりだ。
……が、そもそも参戦した時には既に爆心地と化していたんだから、どうしようもねぇ。
目的を遂行し大魔王さんを捕獲した今、蹂躪された校庭に用はない。
俺は整列しているクラスメイトの方へと歩いて行き……ざわついていた生徒を纏めているイースクリムに声をかけられた。
「よぉ、ユニクルフィン」
「イースクリムか。ほら、ちゃんと3匹とも倒せただろ。ちょっと困った事になったけどな!」
「あぁ、確かに言う通りになったな。お前……お前……」
「ん?」
「お前……。お前……、強ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッ!?!?」
「えっ!?」
「なんだあの動きッ!?なんだその剣の威力ッ!?ものすっごい炎や光を喰らって何で平気なんだよッ!?!?」
あ、ヤベッ!
『何事もなく普通に振る舞って誤魔化そう作戦』が失敗した!!
って、そりゃそうだろッ!!
どこの世界に、国のトップ軍人が一対一で倒せないバケモンを3対も相手取って平然と勝ってくる体験入学生がいるんだよッ!?!?
「なんなのお前ッ!?明らかに剣がどうこうのってレベルじゃねぇだろ!!お前、ホントに、人間かッッ!?」
「一応人間だぞ。ちょっと強いけど」
「アレのどこら辺がちょっと!?危険動物図鑑にお前の名前が載ってても納得するぞ!!」
……納、得、す、ん、な、!
クソタヌキと同じ扱いとか、考えただけでイラっとくる。
それ以前に、人間なのに危険動物図鑑に載るとか、全裸英雄並みの不名誉だろ!
だが、戦闘の一部始終を見ていた生徒達はイースクリムと同じ気持ちらしく、心を一つにして首を縦に振っている。
確かに、一般人から見れば俺は強いと思うが……そこまで言う程か?
大魔王さんと戦闘訓練をする時なんか、もっとすんごい事になるんだが?
「確かに派手だが、これくらいどうってことないだろ?本気で訓練する時はもっと爆発とかするぞ?」
「すげぇ爆発だっただろ!ぶにょんぶにょんドドギャーン!って!」
「んー。あんなもんじゃないんだよなぁ。レーザー兵器が出てからが本番だし」
「レーザー兵器って、なにそのファンタジーッ!?」
「おい、ユニクルフィン。今回ばかりはイースクリムが正しいと、貴族の私も思うぞ」
……あ。バルバロア、生きてやがったのか。
全然見かけないから、ひっそりとぶにょんぶにょんドドゲシャー!されたんじゃないかと心配していたぜ!
「お前らが同意見なんて珍しいな。触手鮫に襲われなかったのがそんなに不満か?」
「そんなわけあるかっ!!あんな太さの触手に掘られたら取り返しがつかなくなるだろう!!」
そうだな。さっきの触手の太さは1mくらいあったし、ちょっと尻は厳しいかな。
あ、下世話な話を聞いて、リリンの機嫌がどんどん悪化し始めた。
このままだと、触手よりヤバい魔王様のレーザー兵器ドリル尻尾で掘られるぞッ!!
「それでなんだあの動きは?とてもじゃないがランク3の平民の動きとは思えん」
「いろいろ事情があってな。って、そういえば、俺がイースクリムの剣を斬ったのは見てないんだっけ?」
「なに?剣ってまさか、ソドムゴモラか?」
「そのまさかだな。気持ちいいくらいに一刀両断してやったぜ!」
迷剣クソタヌキを斬った事を伝えると、バルバロアの目が見開かれた。
名前こそパチモンだったとはいえ、剣皇様とやらが賞品にした剣だ。
性能はかなり高かったらしく、バルバロアもその事を熟知していたらしい。
「ありえん……いずれは手に入れようと思っていた程の名剣だったんだぞ……?」
「おい、今の言葉は聞き捨てならねぇぞ。貴族馬鹿」
「平民のお前よりも貴族の私が持っていた方が剣も喜ぶだろう、イースクリム。そんな事より、ユニクルフィン達の異常な強さはなんなんだ?」
「……まだ気が付かないんだな」
「……?ユニクルフィンもそうだが、私はリリンサも異常だと思っている!」
「「「あっ。」」」
事の成り行きを見守っていた俺とリリンとセブンジードが、同時に声をあげた。
……流石は貴族馬鹿。
リリンが仮面を付けている意味を全く理解していないらしい。
今までリリンは素顔を晒していたのに、バルワンさんが来た瞬間に仮面を被った。
それはどうみても顔見知りだということであり、名前を呼んでしまえば当然バレる。
つーかそんな事、セブンジードやカルーアさんとのやりとりを見ていれば容易に想像できるはずだろ?
実際、生徒の大半は「あっ……」って顔をしているし、サーティーズさんに至っては「はわわわわまおう……」って呟いているしな。
って、コイツ、授業の大半は意識を失ってたっけ?
ホント運のない奴だ。
「リリンサ。お前は冒険者だと言っていたな。依頼中にセブンジード様と出会ったと。だが、明らかに普通の冒険者の領分を越えている!なんだこれは?答えろ、リリンサ!!」
「……三回も名前を呼ぶとか。後で転がす、絶対に」
このバルバロア、リリンの地雷を踏むのが上手過ぎる!
しかも、余計な事を口走ったせいで、セブンジードが巻き添えを喰らったというオマケ付き。
事態を静観していたバルワンさんは、リリンとセブンジードが以前に出会っていると聞いた瞬間、一切の躊躇なくセブンジードの腹を殴った。
バルワンさんは無言だったが「おい、聞いてないぞ?この野郎!!」って感じだろう。たぶん。
そしてぐったりしたセブンジードを引きずりながら、のっしのっし……とこっちに歩いてくる。
「これはバルワン軍団将殿!私は明日より軍属いたしますバルバロアと申しま――」
「退け。邪魔だ」
有無を言わせぬ覇気を叩きつけ、バルワンはバルバロアを追い払った。
憧れの軍人に邪魔だと言われ、しょんぼりしながら離れていくバルバロア。
しかも、サーティーズさんに話しかけたら適当にあしらわれた。
すまん、俺達はお前が秘蔵していた写真帳を見ちまったんだ。
同じ男として、可愛い女性に興味を持つのは仕方ないとは思うが……学校にあんなもんを持ってくるんじゃねぇ。
「お顔を拝見させて頂いても宜しいでしょうか?リリンサ様」
「むぅ……。はい」
真剣な表情のバルワンさんの問いかけに、思わずリリンも頷いて認識阻害の仮面を外した。
そして交差している視線の角度が、見る見るうちに変わって行く。
バルワンさんは持っていたセブンジードを地面に投げ捨てると、自分も膝を折って跪いた。
真っ直ぐに立つリリンと、その前で配下の礼を取るバルワンとセブンジード。
あ、なるほど。
魔王様の前に四天王が跪いてる図か。分かり易いぜ!
「ずっと……ご帰還されるのを心待ちにしておりました。総指揮官・リリンサ様」
放たれた確定的な一言に、バルバロアが目玉を見開いて驚いた。
「んな……。リリンサが総指揮官殿だと……?ば、馬鹿な……っ」と膝から崩れ落ちるという、物凄く良いリアクションをしている。
そして、それを冷めた目で見ている他の生徒。
こっちはむしろ、バルバロアが気づいていなかった事に驚いているようだ。
……バルバロアのクラスでのポジションがどんどん低くなってくな。可哀そうに。
「むぅ、まだ言っちゃダメだったのに」
「そうなのですか?」
「レジェに隠しててって言われてる。正体を隠したまま学校に行って生徒を鍛えて欲しいと」
ここまで暴露されて諦めたリリンは開き直りつつも、ほんのちょっとだけ頬を膨らませた。
それに対し、バルワンさんは申し訳なさそうに頭を垂れ、鋭い横眼をセブンジードに向けている。
後で八つ当たりされそうだな。頑張って生き残ってくれ。
「私はリリンサ様にお会いしたら、ご帰還なされた事やブルファムに対する切り札を手に入れた事など、数多くの慶事を祝いたく思っておりました」
「ん?」
「……ですが、この不甲斐なさに述べるべき言葉が見つかりません。リリンサ様の不在を良い事に、怠けていた自分が恥ずかしい限りです」
バルワンさんは心の底から悔しそうな声を漏らし、頭を下げ続けている。
そして、それを横目で「何を言ってんだコイツ」って目で見ているセブンジード。
恐らくだが、その視線は、バルワンさんが積み重ねてきた努力を知っているからなんだろう。
バルワンさんの戦いは見事だった。
英雄基礎訓練を終えたとはいえ、まだまだグラムの性能に頼った戦い方をしている俺と違い、バルワンさんは精錬された技術で戦っていた。
だからこそ、俺がまったく同じ装備を使って戦った場合、勝敗がどちらに傾くか分からない。
ここはちょっとフォローに入るべきだな。
「そう言うなって。リリンの原初守護聖界を破ったのは本当に見事だったぜ」
「ユニクの言うとおり。さっきも褒めたけどバルワンは凄い。こんな部下がいるなんて、とても誇らしいと思っている!」
「リリンサ様、本当にあなたには敵いません……」
あれ。リリンに褒められたバルワンさんの目が滲んでいるんだけど。
あ、なるほど。
さてはこのおっさん、既に心無き魔人達の小悪魔に調教済みなんだな?
というか、関所に居たロリコンやカンゼさん、ジルバシラスさんなどなど、出会った強キャラの大体が調教済み。
……流石は大魔王国。
国民すべてが悪魔崇拝者。
「ところで、リリンサ様。こちらの男性は一体どちら様でしょうか?心無き魔人達の統括者であると名乗っておりましたが……」
「ユニクは私のパートナー」
「パートナー?それは任務を遂行する為にレジェリクエ女王陛下が定めた相棒という事ですか……?」
「まったく違う!ユニクは私の……人生のパートナー!つまり恋人で、近いうちに旦那様になる人!!」
「……。なん……、だとぉ……」
大魔王リリンの無慈悲な一撃!!
クリティカルヒットッ!!
バルワン・ホースは息絶えた!
「な、ななんですとぉ……」
「ユニクは神様の信託によって定められた私の恋人。私はずっと、ユニクに出会う為に旅をしていた!」
あっ、バルワン・ホースが起き上がりこちらを見ている!
って、歯を食いしばり過ぎて口から血が出てるんだけど。
なんだこの人、すげぇ怖い。
「穢れなき我らの総指揮官が……恋人を作っているなどと……」
「リリンサ様だって女なんだから恋人ぐらい作るだろ、こじらせオヤジ」
セブンジードさんが、すげぇ辛辣な言葉を撃ち込みやがった。
まさに背後から撃たれたバルワンさんが、信じたくないと震えている。
これ、収拾を付けないと戦争に響くよな?
「まぁ、そういうことだ。そこら辺の話は後で詳しく教えてやるから今は納得してくれないか?」
「ぐぬぅ……キサマの強さは理解している。だが……」
「落ち着いてくれよ、バルワンさん。あんた英雄ユルドルードに憧れてたでしょ?」
お?なんかセブンジードが仲裁に入ってくれるっぽい。
だが、親父の名前が出ると不安しか無いんだが?
「それがどうした?」
「そのパッとしないユニクルフィンですがね、ユルドルードの実子なんだそうですわ」
「なんだとッ!?本当かッ!!」
……誠に遺憾ながら、俺は英雄全裸おパンツユルユル親父の息子です。
ダメだッ!威厳がまるで見当たらねぇ!!
「あぁ、そうだぞ。このグラムも親父が使っていたものだしな」
「なんと……我らが総指揮官は英雄の息子を婿に迎えていたと……?」
何で俺が婿なんだよッ!?
……と思ったが、婿に入ればタヌキっぽい『ラウンドラクーン』から逃れられるのか。
前向きに検討してもいいかもな!
「どうやら失礼を重ねてしまったようだ。申し訳ない。終末の鈴の音・軍団将のバルワンだ。気軽に呼び捨てにしてくれて構わない」
「そうか?じゃあ俺の事も呼び捨てで良いぜ!」
俺はユニクルフィンだ。よろしくな!
そう付け加えて俺達は熱い握手を交わした。
で、なんだよバルバロア。羨ましそうな顔しやがって。
俺との握手なんかより、総指揮官の蹴りの方がレアリティが高いと思うぞ!
「所でさ、バルワンのレベルってリリンよりも高いよな?どうしたらそんなに上がるんだ?」
「うむ、それは単純に生きた年月の差だろうな。私もリリンサ様も、お互いに特殊な環境に身を置いている。ならば、長く生きている私の方がレベルが高いのは当然だろう?」
なるほど、レベルとはすなわち経験値。
二人共がノンストップでレベルが上がり続けているのなら、長く生きている方がレベルが高くなるのは当たり前か。
って、あれ?
それだと、同じ経験をしていく俺とリリンのレベル差って埋まらないんじゃ……?
やべぇ。俺だけが得意な分野を見つけないと、リリンに追い付けねぇぞ!?
「バルワン、セブンジード。それにみんな。ちょっと聞いて欲しい!」
追い付く為の特技としてぐるぐるげっげー!を極めようか悩んでいると、突然リリンが声を張った。
鈴の音の様な声は良く響き、一気に視線がリリンへと集まってゆく。
「もうバレてしまったから白状する。私はレジェンダリア軍・終末の鈴の音の総指揮官であり、レジェの同胞『心無き魔人達の統括者』の無尽灰塵!」
「はわわわ……そ、総指揮官様ですってぇ……」
「そうじゃないかと思ってはいたが……。ほんと、正体隠し過ぎだろ」
「馬鹿な……リリンサは平民じゃない……?あんなに凶暴なのに……?」
「あーあ。ついにバレちゃたでありますねー」
「あら?ナインアリアは知ってたの?」
「自分から暴露したって事で良いんだよな?俺は陛下に怒られないよな?」
「陛下に怒られるかどうかは分からないが、お前が黙秘していた事は軍会議で議題にあげるぞ」
自分の口からも正体を暴露したのは、リリンなりの謝罪なんだろう。
一通りの反応を楽し……眺めたリリンは、平均的な頬笑みでゆっくりと語り出す。
しょうがないから俺も横に居てやるか。
「私達がこの学院に来た理由は、ブルファムとの戦争の前に少しでも兵士の実力を底上げるする為だった。かなり苛烈な事をしたのも、明日から戦場に向かうナインアリア小隊を鍛える為にしたこと。でも、ちょっとやり過ぎたと思う!ごめん!!」
そう言って、リリンはしっかりと頭を下げた。
戦争というものは、お互いの命の奪い合い。
だからこそ今日の授業は、生徒に実力不足を経験させる事で、自尊心と自惚れを少しでも取り除けたらと思ってやった事だ。
だが、明日戦場に行かない生徒にとっては過剰すぎたのも事実なのだ。
俺もリリン同様頭を下げ、被害をこうむった生徒に心からの謝罪をする。
本日は誠に……ぶにょんぶにょんドドゲシャー!させてしまい、申し訳ありませんでした!
……これは口に出さない方が良いな。ギャグにしかならねぇ。
「いやいや、謝る必要はないよな?」
「ないでしょ。だって総指揮官の稽古だよ?おとーさんに自慢できるもん」
「だな。むしろ後悔しかねぇ。一時間目に個人指導して貰うんだった」
「ホントだよ。なぁ、リリンサさん。もう一回、個人指導して貰えないか!?」
俺の懸念とは裏腹に、生徒達は随分と逞しい反応を示した。
それぞれが口々にリリンとの個人指導を望み、目をキラキラさせている。
うん、避けられるよりか全然いいけど……、あんまりリリンを煽てると調子に乗って大魔王化するぞ?
「むぅ!そんなのもちろん良い!!5時間目と6時間目を使ってじっくり教えてあげる!!」
2時間の大魔王調教コース、オーダー頂きましたッ!!
……大丈夫か?後悔すんなよ?
生徒から頼られたリリンは嬉しげに頷いて、「任せて。陸の上にある大船に乗ったつもりでいると良い!」とか言っている。
そして生徒の方も首をかしげつつ、よろしくお願いします!と嬉しげだ。
よしっ!なんとか体験入学が続けられそうだぜ!!
「うむ、羨ましい限りだが……セブンジード。私達は軍会議だ」
「でしょうねー。第九守護天使の上の防御魔法に、合成魔法。果てにゃランク0やら魔法十典範やら……俺じゃ説明できん。カルーア、お前も会議に出席な」
「えっ!?その会議って高位の軍務会議……2等級以上しか出席できないんじゃ」
「特例だ、カルーア分隊長。夕方から行われる会議にはテトラフィーア大臣も出席なされる。その時にお前の査定を見直すように進言しよう」
「上手くやれば、この国の魔法研究の第一人者になれるかもだぜ?リリンサ様に教わった事をしっかり纏めておけよ!」
「そんな急に。ふん!やってや……やりますわよ!」
そう言えば、バルワンはセブンジードを探しに来たんだったな。
この3人は流石に規律を重視する軍人だけあって、やる事が決まった後の動きは早かった。
カルーアさんは、ちゃっかり撮影していた映像を魔法研究員たちと一緒に解析し、会議までにある程度の論理を確立させるらしい。
といっても、リリンが教えた魔法知識を検証するだけで精いっぱい。
分からない事があったら連絡して欲しいとリリンが隷属手帳でメッセージを送っていたら、抱きつく程に喜んでいた。
バルワンさんは職員室に事情を説明しに行くそうだ。
校庭大破したからな。ぜひ、上手く説明して欲しい。
そしてセブンジードは……。
「全員整列!!意味不明だがこれは授業だ、ケジメを付けろ。……気を付け!総指揮官殿に向かって、敬礼ッッ!!」
「「「「「ありがとうございました!」」」」」
流石は国中に名前を轟かせたチャラ男。
こういう切り替えは凄く上手いらしく、びしっとした敬礼をリリンに向けている。
それを受けたリリンはちょっと気恥ずかしそうにしながら……なにやら封筒を取り出した。
「セブンジード、あげる。20枚入ってるから有効に使うと良い」
「はい?なんですこれ?」
「頑張ったご褒美。ちゃんとメイも誘うこと!」
「メイ……?ってもしや!?!?」
リリンから封筒を渡されたセブンジードは、速攻で封を開けて中を確認した。
そこに入っていたのは、色んな種類の旅館の宿泊チケット。
ビッチなキツネさんが住み付いてる極鈴の湯は勿論、温泉郷にある全ての旅館がセットになった特別な奴だ!
「まっじかよ……無理やり入手するなら、一泊100万エドロは掛るって言われてるんだぞ……!?」
「えっ、そんな事になってるの?」
「それが、そんなチケットが俺の手にこんなに……いやっほぉーい!!転がされた甲斐があったぜ!!」
突然降って湧いた幸運に、セブンジードが歓喜の雄叫びをあげた。
温泉チケットを貰ったのが滅茶苦茶嬉しいらしく、どっからどう見てもチャラ男になりきって小躍りしている。
喜んで貰えて何よりだな。
俺的には是非、ツンだけ殺意メイドを混浴に誘ってみて欲しい。
ツンだけさんなら絶対に水着を着てくるだろうが、100分の1の確率でピンクな展開が起こるから諦めてはいけないぜ!
あっ、時々出没するという噂のビッチ狐には注意だ!!
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「セブンジード。お前の指揮下にある諜報部隊兵を選抜し、最高のパフォーマンスを発揮できるようにしておけ」
「当然やりますよ。つーか、俺はバルワンさんよりも一足先に情報を手に入れたんでね。チームはすでに頭の中に出来上がっていますとも」
バルワンとセブンジードは肩を並べて歩き、王城に造られた会議室へと向かっている。
リリンサ達から別れた後、二人はシャワーで汗を流すなどして直ぐに身支度を済ませた。
そして、会議室に先入りをして、情報の擦り合わせを行うつもりでいるのだ。
「それにしても、リリンサ様の妹がブルファムに捕らえられているとは……許せん」
「そこん所も含めて情報の確認を済ませるべきですね。メイを呼んでありますんで打ち合わせをしましょう」
リリンサが「メイとジルバシラスには先に声を掛けた」と言った事を覚えていたセブンジードは、より正確な情報を得る為にメイを会議室に呼んでいた。
本来ならばセブンジードの命令など聞く必要はないが、メイ本人がこれを承諾。
そこには『人の恋路で遊ぼう』という大魔王達の陰謀が隠されている事など、セブンジードは思ってもいない。
「所でお前、なんでリリンサ様が学園にいると知ったのにすぐ連絡を寄越さなかった?探せと命令しただろう?」
「そりゃ、前に会った時よりも、随分と弱々しく見えたからですね」
会議室までまだ距離があると思ったバルワンは、僅かに感情を浮かばせながらセブンジードに問い掛けた。
堅物で知られているバルワンも、「魔弾のチャラ男」には心を許している。
「はっ、私もお前も転がされたではないか。どう考えてもパワーアップしていたぞ。リリンサ様は」
「内面の話ですよ。一挙手一投足が自信に満ち溢れてやがったのに、今じゃ揺らぎまくって子猫みたいになっちまっててさぁ。これはなんかあるなと思って様子を見てりゃ、案の定、とんでもねぇ情報が出てくるわ出てくるわ」
「確かに驚く情報ばかりだったが……私たちの総指揮官はそんなに弱々しくはないだろう」
「かー。これだから草むしりが趣味の木偶の坊は。いいですか、リリンサ様だって女の子なんですよ」
「ふむ?」
「表面上は鋼鉄の上にダイヤモンドをコーティングしたような奴ですがね、それでも女の子なんです。悲しみや不安、焦りや動揺がないわけじゃない」
セブンジードは雰囲気を真面目なものに切り替えると、低めの声で呟いた。
廊下には他に誰も居ないが、大声で話す話でもないと静かに語り出す。
「リリンサ様は、ありゃ、色んな重圧に押し潰されないように無理を重ねてますね。俺の経験上、そういうのはかなーり良くない」
「だからお前はリリンサ様の遊びに付き合ってやったと?」
「正解!俺はチャラ男なんでね、困ってる女の子は放っておけないでしょ」
「……呆れた奴だ。女遊びも程々にしておけ」
「分かってますって。メイに刺されない程度にしておきますよ!」
軽い口調で言いながらも、セブンジードの表情はまったく緩んでいない。
それは、確固たる軍人のそれ。
歴戦の軍人が、戦地で敵を見据えた時の表情だ。
「昨日の侵略会議、リリンサ様の横には立たせないと陛下に言われたんでしょ?」
「……退室したお前が何故知っている?」
「これでも諜報部隊の軍団長なんでね。割りと耳は良い方なんですよ。テトラフィーア様程じゃありませんけど」
不意に話題を切り変えたセブンジードは、胸ポケットにしまってある封筒を思い浮かべて僅かに頬笑んだ。
信頼している上官の願いを叶える為に、セブンジードは自分の意思と瞳に敵を穿つ弾丸を込めてゆく。
「あんな風に動揺している女の子はね、好きな事を、好きなように、好きなだけやらせてあげた方がいいんです。そんで、ケツ持ちをすんのが男の甲斐性ってもんでしょ」
「本当に言葉がチャラいな、お前は。……だが、その覚悟は評価する」
「バルワンさん、この戦争……勝たせますよ。我らの総指揮官に完全なる勝利を捧げましょう」
「無論だ。その為に我々がいるのだから」




