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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第9章「想望の運命掌握」

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第73話「大魔王学院、四時間目補習・校庭に響くぶにょんぶにょんドドゲシャー!」

「ちっくしょぉぉぉぉお!やるよッ!やってやるよッ!!もう……俺がどうなっても知らねぇからなぁあああッッ!!」

「そこは相手の心配をする所よね?自分の心配してどうするのよ」



 自暴自棄に陥ってライフルを振り回しているセブンジードへ、名実ともに外野に居るカルーアが罵声を飛ばした。

 見掛け上は好奇心半分、憐れみ半分といった態度を作っているものの、実際は総指揮官の戦いを見学できる事への興奮を隠せていない。


 そして、割と勤勉な性格のカルーアは生贄に捧げられた上官など微塵も顧みず、魔法研究日誌を取り出した。

 だが、悠長に構えていられるのもここまでだ。



「うるっせぇ!お前も参戦するに決まってんだろ、カルーア!!」

「えっ、ちょ、こっちに振らないでくれる!?」


「どう思います!?バルワンさん!」

「当たり前の事を聞くな。カルーア分隊長、ただちに装備を整え参戦せよ」

「えぇ!?ちょ……セブンジード、後で覚えてなさいよっ!」



 今まで生徒の中に紛れていたカルーアの存在が、セブンジードとの問答により露見。

 それにより、当然だという態度で命令が下される事になる。


 カルーアの階級は『分隊長』

 セブンジードの階級は『軍団長』

 バルワンの階級は『軍団将』

 そして、嬉々として終海の龍異形を従えているリリンサの階級は『総指揮官』


 最も階級が低いカルーアに、命令を覆す権利はない。

 バルワンはカルーアが動き出したのを確認し、セブンジードへ声をかけた。



「これで後衛が二人、かたや前衛は私一人。もう一人欲しい所だが……ぬん!」

「それは贅沢ですって。こんな所に都合よく条件にあう奴がいる訳ないでしょ!《魔弾・雷光槍!》」


「ナインアリアはどうした?この学院に居るだろう?……ぬぬん!」



 異様な強度を誇る触手鮫の突撃をいなしながら、バルワンは頭の中で戦略を組み立てている。


『THE・脳筋』などと密かに言われているバルワンだが、軍団将としての采配は非常に優れたものであり、作戦開始直後に敵兵を攻め滅ぼしてしまう事も少なくない。

 三人いる軍団将の中で最も攻撃的な指揮を好むのが、この男の特徴なのだ。



「健常な生徒にナインアリアを呼んで来させろ。彼女が参戦した後、ただちに攻勢に転ずる……むん!」

「お知らせがあります。バルワン・ホース軍団将殿。《魔弾・雷光槍!》」


「なんだ?」

「アイツは喰われたッッ!!もう居ねぇぇぇッッ!!」


「なんだとッ!?!?」



 セブンジードが誘導する様に向けた視線の先には、終海の龍異形の頭部がある。

 そして、そこには取り込まれたナインアリア達が、顔面蒼白で「ぶらんぶらん、きぃーやぁー!」と振り回されていた。



「ナインアリアが負けたというのかッ!!」

「10秒も保ちませんでしたよ。……言っときますけど、あんたが教えてた『才能満ちた悪道(マガツ・アスラ)』を使った結果ですからね、アレ!」


「信じられん。ナインアリアはお前よりも近接戦が得意だろう?」

「あぁそうだよ!俺は後衛職だからね!?だからバルワンさんが一刻も早く前に出て、俺が下がる隙を作って欲しいんですがね!?」



 戦闘に巻き込まれたセブンジードは、自分が得意とする間合いで戦えていない。


 当たり前の事だが、狙撃手とは身の安全が保障された位置から攻撃を行うのが仕事。

 迫りくるぶにょんぶにょんドドゲシャー!にゼロ距離射撃をするのは専門外なのだ。


 だからこそ、この状況は悪ノリを押しつけたリリンサと、それを可能にするセブンジードの器用さが奇跡的に噛み合った絶妙なバランスの上に成り立っている。



「ん、二人とも喋ってるとは余裕がありそう。だから、ちょっと本気で攻めようと思う《悔悟の氷剣山(ペニテンテ)!》」

「構えろ、セブンジード!」

「何か寒くなってきた!?……もう温泉なんて贅沢は言わねぇ!自宅の風呂で、ゆっくりしたいッッ!!」



 同じ事の繰り返しに飽き始めていたリリンサは、バルワンとセブンジードが楽しげに話しているのを見て頬を膨らませた。

 そして、惰性で動かしていた触手鮫の一本一本に明確な敵意と悪意を上乗せして、大ぶりに振り払う。


 その上乗せされた敵意と悪意とは……触手鮫の身体を覆い尽くした氷の棘『悔悟の氷剣山(ペニテンテ)』。

 これに生身が触れれば、肉が凍てつき削ぎ落される。



「ほら、早く前に出て肉壁になってくださいよ!狙いが付けられないでしょうが!」

「こんな状況で無ければ一発殴ってるとこだが……。冗談を言っている場合でもなかろう。抜刀するッ!」



 ただでさえ堅い触手鮫に、明確な殺意が上乗せされた。

 それを認知したバルワンは、一考の余地もなく自身の腰についているポシェットの中に両手を差し込む。

 そして、抜き出された両腕が迫っていた触手鮫の氷皮を切り裂いた。


 バルワンの太く逞しい指が握っているのは、輪を繋げて作られたナックルダスター(メリケンサック)

 さらに、端部からは15cm程のダガーナイフが伸び、拳が握っている部分には弾丸の射出機能まで備わっている。


 これは、軍団将たるバルワンのみが持つ専用兵装『撃退(アヤムル)追放(ヤグルシュ)』。

 殴打武器、ダガーナイフ、短銃の三機構を備えた、『アパッチ・ナックルダスター』と呼ばれる特殊武器だ。



「ん、やっと本気になった。楽しみ!」

「この期に及んで楽しみだと?ならば、期待には答えてやらねばなるまい。《大規模個人魔導パーソナルソーサリィ最果ての戦争(アーマゲドン)》」



 近接格闘家として研鑽を積んできたバルワンは、もともとはフランベルジュ国に仕えていた兵士だ。

 だが、心無き魔人達の統括者のリーダーを名乗る少女と一騎打ちの末に敗北し、自分を見つめ直す事になった。


 その時から続く数多の試行錯誤の末に辿りついた極地こそ、この『大規模個人魔導パーソナルソーサリィ最果ての戦争(アーマゲドン)』。

 あらゆる身体強化と防御魔法を集約し鋭利化させるこの魔法は、近代化された武器を人の限界を超えた速度で振るう事を可能にし、選ばれた人類しかたどり着けない戦闘へ導く。


 バルワンは跳躍する。

 魔法の効果により、事前に発動していた身体強化を両足に集約。

『飛行脚』の効果も発動させて立体機動を可能とし、すれ違いざまに触手鮫を細切れに切り裂いた。



「あ、これはすごい。原初守護聖界が突破されてしまった」



 未だに玉座に君臨しながら、リリンサは驚きの声をあげた。

 バルワンが切り裂いた触手鮫の中に、原初守護聖界を纏っているものが混じっていたからだ。


 原初守護聖界はランク0であり、当然、リリンサは突破されないであろう強度で発動している。

 それなのに簡単に切り裂かれてしまったのは、バルワンの卓越した戦闘技術があればこそだった。


 バルワンが両腕に嵌めたアパッチ・ナックルダスターには、第九堕落天使弾が装填されている。

 だが、この弾丸を漠然と使用しても、原初守護聖界を破壊する事は不可能だ。


 だからこそ、バルワンは……まず、ダガーナイフの先端1mmに第九守護天使を集約し、魔法強度を引き上げた状態で突き刺した。

 そして穿たれる、ほんの0.5mmにも至らない僅かな亀裂。

 更にそこへ第九堕落天使弾を撃ち込む事で亀裂を拡張させ、仕上げとして金属で武装した拳を放つ。


 こうして、バルワンの流れる様な三連撃が触手鮫を覆っていた原初守護聖界をことごとく破壊。

 触手本来の強度に戻ってしまえば、振るわれたダガーナイフを防げるはずもない。



「《最上位魔弾ハイパーバレット荼毘に臥す火之迦具土(ヒノカグツチ)》」



 そして、そんな好機を『魔弾のセブン』が見逃すはずがなかった。


 解体された触手鮫の断面には、当然、原初守護聖界が掛けられていない。

 それはセブンジードにとって、阻まれる可能性のない『ただの的』だ。


 本来の狙撃手としての役割を取り戻したセブンジードは、自身が持ちうる最高の長距離狙撃銃『ベルゼの針撃』を召喚していた。

 この魔導銃はレジェンダリアが所有している最高技術の結晶であり、はるか遠方15km先から獲物を撃ち抜き殺したとされる”邪悪”をモチーフにして名付けられたスナイパーライフルだ。


 このベルゼの針撃には、弾丸が砲身内部を進んでいく際に魔法陣が刻み込まれるという特殊機構が備わっている。

 これにより、ランク9の魔法であっても詠唱を必要とせず、ただ魔法を打ち出すよりも格段に威力と持続性が高い射撃が可能となるのだ。


 着弾炸裂した炎によって熱が内部を伝播し、隣接していた触手鮫が激しく火を吹く。

 たった一発の弾丸によって、30を超える触手鮫が炭となって消えた。



「なるほど、これがセブンジードの本来の火力。結構凄い!じゃあ、これ――」

「悪いけど、何もさせないわ《時を忘れる樹精霊ピリオッド・ドリュアデス》」



 バルワンが切り開き、セブンジードが滅却する。

 たった二人の軍人によって、数百以上も存在していた触手鮫が瞬く間に絶滅の危機に瀕していた。


 ん、このままでは押し負ける。

 魔法で強化しておこう。


 そう判断を下したリリンサは、四方に散らばっている触手鮫を一か所に集めようとした。

 今度はどんな魔法で強化しようかと想いを馳せつつ、意思を触手に反映させ――、自分の触手に他の触手が巻きついている事に気が付く。



「ん!もう実践で使えるとは凄い!!」

「でしょ?私って天才だもの!」



 カルーアが発動したのは、リリンサの魔法講座を受けて使用できるようになったランク9の大規模殲滅魔法『時を忘れる樹精霊ピリオッド・ドリュアデス

 この魔法は、最大100mにも及ぶ魔法陣を大地に発生させ、範囲内に自生していた植物を呼び覚ます。

 まるで時の流れなど忘れてしまったかのように数秒で新芽を大樹へと成長させ、対象物を木の中へと取り込むのだ。


 時を忘れる樹精霊ピリオッド・ドリュアデスによって地面に近い位置にあった触手鮫は植物に絡め取られ、身動きが取れなくなった。

 そして、状況を理解したリリンサが触手鮫を解放するべく自らが魔法を放つも……もう手遅れとなる。


 今まで触手鮫の隙を付いて攻撃を行っていたバルワン。

 だが、一斉に触手鮫の動きが止まった事により、その身体能力の100%が攻撃に使用される事になったのだ。


 結果的に、触手が硬直していた時間はたったの4秒だった。

 これは、カルーアの魔法が4秒以上保たなかった……という事ではない。


 周囲一帯で燃え落ちている触手の残骸ですらセブンジードが弾丸で消し去った事により、全ての触手鮫がゼロになったのだ。



「セブンジード、あのイカを捌いてナインアリアを救出しておけ」

「へいへい。分かってますとも。……おら、いつまでビビってんだ、ナインアリアぁ!《魔弾・極炎殺!》」

「ちょ、銃を学生に向けるのはどうかと思うでありますよぉぉぉ」



 弾丸によって細切れにされていく終海の龍異形を一瞥したバルワンは、本来の敵であるはずの仮面魔導師へ視線を向けた。



 勝敗は決した。後は如何に事を荒立てること無く、あの魔導師を捕獲するかだ。

 私は口が回る方ではないが、誠意を以て説得すれば聞き耳を持ってくれるかもしれない。



 数多くの敵兵の命を奪ってきたバルワンであるからこそ、救える者は救いたいと願う。

 そんな優しさを知ってか知らずか、目の前の仮面魔導師は満面の笑顔を溢した。



「すごい。素直に称賛を送りたい」

「……称賛だと?」


「私が使用していた終海の龍異形は、いくつかのランク9の魔法を合成して作った擬似的なランク(オーバード)。ショボイ魔法理論しか知らないあなた達では攻略できないと思っていた」

「ランク0だと……?噂上では存在しているとされる伝説の魔法か?」


「そう。そして終海の龍異形が纏っていた防御魔法など、魔法十典範オムニバスである『原初守護聖界』。この魔法は私ですら思考錯誤を重ねざるをえない程に扱いが難しい、全ての防御魔法の根源となったもの」



 パチパチパチ。とリリンサは可愛らしい拍手すら鳴らし、心の底からバルワン達を称賛した。


 実は、リリンサはバルワンとセブンジードを捕まえておき、その内出てくるであろうレジェリクエに見せつけるつもりでいた。

『レジェの教育よりも、お父さんの教育の方が凄い!』と自慢しようと思っていたのだ。

 だが、結果的に終海の龍異形は破壊され、バルワン達が残った。


 ……その意味を。

 ……これから起こるであろう惨劇を。


 バルワンは未だに想像できていない。



「これなら白い敵と戦う事になっても大丈夫そう。ちょっと安心した」

「……なに?」


「でも、あなた達まで安心するのはダメ。戦いというものは、相手の心を折るまで終わらないものだから。《天から降下(エアロアウト)》」



 リリンサが唱えたのは、ランク3の風魔法『天から落下(エアロアウト)

 上空から空気の塊を叩きつけて、空にあったモノを大地に落すだけのランクの低い魔法だ。


 そして、今更そんな魔法を使った所で……などと、バルワンは思わない。

 この酷過ぎる大魔王的やり口に、心当たりがあったからだ。



「な……!」

「ふふ、今度は3対3」



 ひゅるるるるるっと音を鳴らしながら、ゴマ粒ほどの黒点が空から落下し始めた。

 それは地上に近づくほどに大きくなり、やがて、ぶにょぶにょとした巨大な影を地上へと落す。



「ひゅるるるるる……ドドゲシャーッ!」

「ひゅるるるるる……ドドゲシャーッ!」

「ひゅるるるるる……ドドゲシャーッ!」


「さぁ、もっともっと凄い所を見せて欲しい!!」



 平均的な大魔王顔で笑みを溢したリリンサの後ろに、同形状・同性質なる終海の龍異形が3体も落下した。

 これは、戦闘中に暇だったリリンサが人目を忍んで用意していた『おかわり』だ。


 突然始まった、第2ラウンド。

 いや、目の前の仮面大魔王の性格から判断するに、第10ラウンドくらいは覚悟した方が良いかもしれない。

 知ってしまった事実を確かめるように、バルワンは思わず呟いた。



「……キサマ、鬼か何かか?」



 **********



「魔王だろ」

「魔王だろ」



 あ。イースクリムとツッコミが重なった。

 どうやら、満場一致で大魔王だと判定が下りたようだ。

 うん、パートナーの俺が言うのも何だが……なんかもう、本当に酷ぇ。


 ただでさえランク9以上のぶにょんぶにょんドドゲシャー!なのに、原初守護聖界を掛けやがったのは……まだ許せる。

 白い敵が使ってくるかもしれないし。


 ……だが、おかわりはダメだろッッ!?

 見ろ!!あまりの絶望にセブンジードがライフルを抱いて横たわってるぞ!?

 明らかに、生きる事を諦めちゃってるだろ!!



「なぁ、ユニクルフィン。アレは流石にないと思うんだ。頑張って倒したのに増えるとかさ……」

「俺もそう思うが……。あえて言うぞ。あそこに居るのは、お前の初恋の女の子だ」


「……過去の自分に正気か?と問い詰めたい。マジで」

「まぁ、まだマシだろ。俺なんてリリンの婚約者だからな!」



 俺はリリンに好意を抱いているが、その行動を全肯定するつもりはない。

 つーか、あんな大魔王の所業を放っておいたら友達がいつまで経ってもできねぇだろ。


 せめて、トップ10にクソタヌキが入らなくなるくらいには友人が欲しいぜ!



「そうか、婚約者だったっけな。よし、責任を取ってアレを全部倒して来い。出来るんだろ?ほれ」

「あーあ、結局こうなったか。しょうがねぇなー。じゃあ行ってくるぜ!」


「……は?いやいや流石に冗談だぞ!?あんなん一人で倒せる訳ねぇだろっ!」

「できるさ。だってアレは、リリン一人で起こしてる事だしな」


「つっ!確かにそうだが……」

「ま、見てろって。剣皇様流の剣技じゃないが、代わりに英雄直伝の剣技を見せてやるよ。《覚醒せよ、神壊戦刃グラム=終焉にて語りし使命エンドロール・ゴッデス!》」

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