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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第9章「想望の運命掌握」

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第59話「大魔王学院・二時間目、魔王の儒教」

「はわわわ……わ、分かりました」

「落ち着け、サティ。俺たちなら必ず成功させて、貴族馬鹿をぶにょんぶにょんきしゃーできるさ。行くぞッ!」



 バルバロアの鋼鉄の黒芙蓉は正常に発動し、自らの机を取りこんでそびえ立っている。

 それに視線を向けたイースクリムとサーティーズさんは、意を決したように腕を前に突き出して……なぜかカッコイイポーズをとった。


 なるほど、やはりこの大魔王学院では、あんな小恥ずかしい姿を晒すように調教されるようだ。

 ……で、それになんの意味があるんだよ!?

 戦場でそんな隙だらけのポーズを見かけたら、躊躇なくぶち転がすぞ!?



「《大海の潮、優しく揺らぐ花、慈しんだ豊穣はどこへと消えた?》」

「《かの混沌、原初にて終局。並び立つ滅びが蠢き飲み込まん》」



 タイミングを見計らった二人が頷き合い、一つの呪文を唱え始めた。

 これは二人掛りで行う重複詠唱って奴だな。

 ランク9の魔法の負荷を減らす手法で、ずっと前にシシトとパプリが発動させた時にも使っていた。


 いきなりの高等テクニックに、カルーアさんとバルバロアも興味津々な様子だが……まだ余裕があるようだ。

 まぁ、イースクリム達が発動させようとしているのがランク9だって知らないしな。


 ……でさ。すっごい今更だけど、ここは室内なんだが?

 なに当たり前にランク9の魔法を使おうとしてんだよ。



「《――ヌルリと光る後悔と崩壊。べた付く肌にしたたる赤血》」

「《――零れ出た声は、やがては魂へと結ぶだろう。祈りも恨みも混濁し、ただただ無に孵らん》」



 とりあえず、いつでも介入できるようにグラムを準備しておく。

 ……なにせ、出てくる呪文がいちいち物騒すぎるッ!!

 シシト達が使った時はもうちょっと大人しい呪文だったのに、どうしてそうなった!?

 呪文には個人差があるって言ったって、限度ってもんがあるだろ!!



「《重合せよ、深海に巣食うもの――》」

「《終劫せよ、罪深き咎人よ――》」


「「《かの邪悪の名は――ッ!!》」」



 ついに邪悪とか言い出しやがった!!

 大丈夫か、教室と生徒ッ!!

 どうせ吹き飛ばすんなら、校長室を巻き込んでくれると助かるぜ!



「「《出現せよッ……!崇拝の異魚王ダゴン・オブ・クトロフ》ッッ!!」」

「…………………………。水害の王ぶにょんぶにょんきしゃー、どこ行ったッッッッ!?!?!?」



 ちょっと待て、俺の予定と違うんだがッッッ!?!?

 知ってる魔法だと思って悠長に構えてた俺が馬鹿だったッ!!


 突然の暴挙に困惑するも、あまり時間は残されていない。

 流石に、正体不明のランク9の魔法を使われるのは困る。

 教室が壊れる程度で済めばいいが、生徒全員が保健室送りになった日には、どんな嫌みを大魔王校長先生に言われるか分かったもんじゃない。


 俺は素早くグラムに魔力を通すと、躊躇なく『神への反逆星命ハイオーダー・コラプス』へ覚醒させた。

 とりあえずこれで様子を見るとして……よし、事情聴取を始めよう。



「リリン。聞いてた魔法と違うんだが?」

「ん、違くない。あれは間違いなく、ぶにょんぶにょんきしゃー」


崇拝の異魚王ダゴン・オブ・クトロフとか言ってたんだが?名前の凶悪度がレボリューションしてるんだが?」

「……の派生形。パパの凄い魔法知識を得た私は、一人でも魔法の改変が出来るようになっている!」


「うん。そういうのは前もって教えてくれると助かる。というか、黙ってやると死人が出る」

「大丈夫。極限まで性能を尖らせた安全仕様だから!」



 極限まで性能が尖ってんなら安全じゃねぇだろッ!!

 机どころか、その持ち主まで貫通するぜッ!!


 グラムを覚醒させた事により感覚が伸長されている俺は、平均的な暗黒微笑の大魔王さんにツッコミを入れつつ、生み出されようとしている崇拝の異魚王ダゴン・オブ・クトロフへ視線を向けた。

 イースクリムとサーティーズさんが向かい合って突き出している手の先には、真紅の球体が出現している。

 その大きさは3cm程度と小さく、何重にも横に線が入っているのが見えた。


 しいて例えるなら、包丁で切り込みを入れたミニトマト……って感じだが……。

 纏っている魔力の波動のせいで、周囲の空気が渦巻いてやがる。



「な、なによあれ?リリンサ、あんた一体どんな魔法を教えたのよ?」

水害の王クラーケン・オブ・タイタニカ


「くらっ……!それって総指揮様が闘技場で使ったっていう魔法じゃない!!何でそんなのをあんたが使えんのよ!!」


「厳密に言うのなら、アレは水害の王クラーケン・オブ・タイタニカの派生系。私が作ったオリジナル魔法」

「……。はぁん?」


「安心するといい。貴方が負けた証拠など残らない。鋼鉄の黒芙蓉ごとき、机ごと木端微塵になる!」

「なんですってっ!?」



 木端微塵にするんじゃねぇよッ!!

 机の中にはバルバロアの私物が入ってるんだぞ!!


 流石にそれは可哀想なんだが……なんか、リリンはしっかりとした企みがあって必要以上に煽ってるっぽい?

 今も平均的な悪巧み顔で微笑み、カルーアさんとバルバロアの出方を伺っている。



「ちょ、そんな訳ないじゃない。このプレートで発動した鋼鉄の黒芙蓉は、私の第九守護天使に匹敵する強度を誇るのよ?」

「……カルーア分隊長殿。報告したい事がございます」


「なによバルバロア。あんたもプレートが信じられないって言いたいわけ?」

「私は先程、リリンサの魔法により負傷しました。この第九守護天使と同等の効果を及ぼす制服を着ているのにも関わらず、です」


「言っている意味が分からないわね。負傷したにしては、新品みたいにきれいな制服じゃない」

「……新品です」


「は?」

「私の制服はリリンサが使った謎の魔法により爆裂。防御魔法どころか衣服としての機能も怪しい形状となった為、新しい物を購入してきました」



 大魔王学院の制服は、上下ともに長袖・長ズボンであり、素肌が見える場所は手首から先と顔だけだ。

 しかし、リリンに転がされた後のバルバロアの身体は8割が露出していた。

 具体的に言うのならば、半袖・半ズボン……どころか、ノースリーブとブーメランパンツみたいになってた。



「……嘘でしょ?その制服の第九守護天使の術式を考えたチームって、私も在籍してる凄い奴なんだけど」

「本当です。私の腹部に足跡が残っていますが確認しますか?」



 足跡?あぁ、打撲になってるのか。

 明日になればリリンが総指揮官だと判明するだろうし、軍の同僚に自慢するといいんじゃないか?


 それはそうと、イースクリム達の魔法の溜めが長いな?

 チラリと視線を向けてみると、まだ魔法を構築中ならしく、赤黒い球体の周りに何かが纏わりつき始めていた。

 ん、急にギュルギュルし始めたな。そろそろか?



「第九守護天使を突破したですって……?どんな魔法よ?」

「それが分からないのです。私には、ただ蹴られているようにしか見えず……」



 それは間違ってないぞ、バルバロア。

 実際、普通に蹴られてただけだからな。

 大魔王さんが英雄直伝のバッファを纏っていただけだ。



「……。やな予感するわね?あんた達、ちょっと待――」

「「いっけぇ!崇拝の異魚王ダゴン・オブ・クトロフ!!」」



 カルーアさんが何かを感じ取り制止を呼び掛けるも、一足遅かった。


 周囲の空気を取り込んで膨張した赤黒い球体が膨れ上がり、ぬめっとした物体に変貌。

 ついに完成してしまった崇拝の異魚王ダゴン・オブ・クトロフは、ぶにょんぶにょんと空中で蠢き「きしゃー!」っと産声を上げている。


 ……魔法が鳴いただとッッ!?!?



「えっ、何それ気持ち悪ッ!!」

「カルーア分隊長殿、ご、ご指示をください!!」



 あまりの緊急事態に、思わず金切り声をあげそうになるカルーアさん。

 だが、流石は正規軍人とも呼ぶべき忍耐力でこらえ、迎撃の準備をし始めている。



「え、なにがなんだか……取りあえずーー」

「「あの貴族馬鹿の魔法を喰い破れぇ!」」


「ちょ、まっ!」



 しかし、腹ペコ大魔王の教え子達は無慈悲だったッ!!

 混乱する二人を見たイースクリムとサーティーズさんは容赦なく攻撃を指示し、それに崇拝の異魚王が「きしゃー!」と答える。


 って、魔法と意思疎通ができるってどういう事だよ!?

 マジで魔王のシモベでも召喚したのかッ!? 


 思わず後ずさるカルーアさんと、血走った眼で命令を飛ばすイースクリム達。

 そして、反射的にバルバロアが前に飛び出した。



「机を壊されてなるものかッ!!」

「ん……。見られたくない物でも入ってるの?」


「お前には関係なっ、ぐぁああ!!」



 机を守るために走り出したバルバロアは……同じく前に飛び出した崇拝の異魚王と衝突し、あっけなく弾き飛ばされた。

 その勢いたるや凄まじく、黒板に激突させられたバルバロアが地面へと落ちてゆく。


 で、なんだ……あれは……?

 バルバロアを突き飛ばした謎の未確認魔法物体Xは、なんかもうすごい。

 ドス赤い核からドス黒い突起物が生え、ドス紫の触手がぶにょんぶにょんきしゃーしている。

 そして、超高速で地面を這いずり回り、鋼鉄の黒芙蓉に飛びついた。


 よし、改めて言おう。

 アレは間違いなく、大魔王のシモベか何かだッ!!



「なにこれ気色悪いわね!でも、こんなんじゃ鋼鉄の黒芙蓉は壊せ……えっ」



 鋼鉄の黒芙蓉に取りついた崇拝の異魚王ダゴン・オブ・クトロフは触手を唸らせ、ぶにょんぶにょんぶによんぶによん!!と超高速連打を繰り出した。

 だが、一見して、まったく攻撃力が感じられない。

 なにせ、ゴムのように柔らかい触手で鋼鉄を叩いている様にしか見えないのだ。


 だが、暫くすると……。

 一撃ごとに激しい火花が吹きあがり鋼鉄が叩き割られてゆくという、凄惨な光景へ進化した。



「なによこれぇえええええええええええ!?」 

「私の鋼鉄の黒芙蓉が削られていくだとッ!?」



 未確認魔法物体Xに取りつかれた鋼鉄の黒芙蓉が、あっけなく外殻を弾き飛ばされてゆく。

 それは、無数の触手が奏でる阿鼻叫喚。

 まるで金属が断末魔を叫んでいるかのように、触手が叩きつけられる度に甲高い炸裂音が響いている。


 うん、あんなふざけた形ですげぇ攻撃力だな。

 流石はランク9。

 で、アレは結局なんなんだよ!?



「なぁ、リリン。アレは本当に何なんだ?ファンタジー小説に出てくる触手の化物にしか見えないぞ?」

崇拝の異魚王ダゴン・オブ・クトロフには、通常の魔法には無い命令式が付与してある」


「……命令式?」

「魔法の効果を高めるために、限定的な効果を及ぼさせること。今回は、一定以上の魔法硬度を持つ物を襲う様に指定した」


「なるほど。だからさっき飛び出して行ったのか。教室の外にある魔法に反応したって事だよな?」

「正解。校庭で訓練をしていたジルバシラスを背後から襲ったらしい」



 完全にとばっちりじゃねぇか。

 本当にすみません。全部、大魔王一派の悪ノリのせいです。



「ちなみに、触手で強度を計測してから、一気に破壊する仕様にしてある!」

「うわぁ、一度は油断させるとか、なにそれエゲツナイ」


「あ、あ、あ、壊れてしまう!私の机が、あの中にはっ……!」



 そうこうしている内に、鋼鉄の黒芙蓉の形がだいぶ変わってきた。

 既に表面はボロボロになり、割れた隙間から机の角が見え始めている。



「ん、もってあと5秒。4、3、2、!」

「くそぉぉぉ!!いい加減にしろぉ!!」



 リリンの無慈悲なカウントにより追いつめられたバルバロアは、咄嗟に空間から剣を引き抜いて走り出した。

 ん?なんだあの剣。

 かなり魔力の波動が濃いけど、魔法剣って事か?



「ぶった切ってやる!《語らずの剣……》」

「あ。だめ」


「弱点かッ!貰ったッッ!!」

崇拝の異魚王ダゴン・オブ・クトロフにそのタイプの魔法剣は相性最悪。気を付けて」


「ぐあああああああ!!私の剣が食われたッッ!!」

「そういう、剣の耐久力を上げて斬れ味へと転化する武器を優先して狙う様に性能を尖らせている!」



 錯乱したバルバロアは剣を上段から振り下ろし、崇拝の異魚王を一刀両断しようとした。

 ……が、剣の先端が触れた瞬間、崇拝の異魚王がものすっごい勢いでぶにょんぶにょんぐわッ!っと膨張し、バルバロアの腕から剣をもぎ取って飲み込みやがった。

 そして、ばぎんばぎんばぎん!!っという、ものすっごい悲しい咀嚼音が響く。



「剣が……くそ!このままじゃまた転がされてしまう!!せ、《第九守護天使セラフィムっ!!》」

「うん、それも悪手」


「えっ?」

「崇拝の異魚王は防御魔法が大好物。つまり、次に狙われるのは貴方になった」


「えっ。やめてくれ。……ぐあああああああああああああああああああああああ!!」



 バルバロア、逝ったぁあああああああああああッッ!!

 本日二度目の蹂躙に、腹ペコ大魔王さんも普通に笑顔だ!!


 魔法剣を美味しく召し上がった崇拝の異魚王は、リリンの宣言通りにバルバロアへ触手を伸ばした。

 そして、ぶにょぶにょぶにょぶにょぶにょ!と超高速で地面を這いずり、きしゃーッ!!っと飛びつく。


 それにしても本当に運が無いんだな、バルバロアって。

 行動の全てが裏目に出ているし、なにか悪い事でもしてるんじゃないのか?

 ……って、えっっ?



「ぎゃああああああああああああああああ、尻がッ!!私の尻がッ!!」

「 ばmあろばさんっ!?!?」


「……は?なぁ、リリン。なんか、魔法がバルバロアの尻を狙ってるんだが?」

「んー?普通に考えてお尻を狙う理由が無い。魔法を発動する時に、変な命令式が混じったっぽい?」



 崇拝の異魚王が、なぜかバルバロアの尻を狙っている。

 もう一度言おう。

 崇拝の異魚王が、バルバロアの尻へ、執拗に触手を叩きつけている。


 そして、それを見て顔を真っ赤にしているサーティーズさん。

 この人が犯人かよ。

 魔法を発動させる時に、一体何を考えてやがった?



「リリン。これは色んな意味で見てられねぇ。どうにかしてくれ」

「……分かった。《覚醒せよ、星丈ールーンムーン!》で、どーん!!」



 俺が投げやりに事態の解決を申し込むと、リリンは躊躇なく星丈ールナを覚醒させやがった。

 そして、大ぶりに杖を振り回してバルバロアのケツを砕……崇拝の異魚王を魔法拡散の能力で掻き消しに掛る。


 ……うん、これは木端微塵だな。

 机が無事なだけ良しとしよう。



「ばるばろあさんっ!?ばるばろあさんっ!?ばるば……いやーーーー!!」


「なぁ、このやりとり二回目なんだが?」

「別にいいんじゃないか?これくらいやっても貴族馬鹿は治らないと思うぞ」



 教室の隅っこでバルバロアが横たわっている。

 一時間目はパンツだけ残ったが、今回はその逆だ。


 ……差し引きゼロだぜ!



「ということで勝負は……あ。鋼鉄の黒芙蓉を崇拝の異魚王が破壊する前に、私が手を出してしまった。……引き分け?」

「勝負とかもうどうでもいいわよ!?何なのアレは!!」


「さっきも説明した通り、ランク9のオリジナル魔法。水害の王の『魔法耐久性』『追尾性』『持続性』を上昇させて、『物理破壊力』『殺傷力』『強靭性』を極端に下げたもの」

「魔法のカスタマイズとか聞いた事もないんだけど……」


「今回は魔法効果を宿していない物体に危害を加えないようにもしてある。だから本当はバルバロアも机も壊れないはずだった」

「そうなんだ……。って納得できないわよ!?」


「英雄のパパは、魔法は自分で作るものだって言ってた!」

「英雄のパパ……?ってことはあんた、英雄ユルドルードの娘なのッ!?!?!?」



 ちょ、放っておいたら大惨事ッ!!

 正体を隠せって言われてるだろ!!


 しかし、時すでに遅し。

 このやりとりは、クラスのほぼ全員に見られてしまった。

 そして、言い訳をするのは不可能なほどに、リリンへ向けられている視線が驚愕に満ちている。


 なお、一番調子に乗ってるバルバロアは気絶しているので見ていない。



「……あ。どうしようユニク」

「もういいや。そっちの素性は話して良いぞ」



 一応、大魔王陛下に口止めされているのはリリンの正体だけだったはず。

 何かの拍子に繋がってしまうのが怖いから、黙っていたわけだが……。


 こうなったら、英雄全裸親父の名前を隠れ蓑に使うぜ!!



「ふっ、バレてしまったのならしょうがない!」

「えっ、じゃあ……あんたは本当にユルドルードの娘なの……?」


「そう!そうなる事が確定している!!」

「……うぅん?」


「私はユルドルードの息子のお嫁さんになる!つまり、ユルドルードの息子はユニク!!」



 この大魔王さん、ちゃっかり恋人宣言まで混ぜ込んできやがった。

 確かにこれなら全てのヘイトが俺に向くし、リリンの正体を探ろうとする人も居なくなるだろう。


 だが、これ以上に混沌とさせるのは止めて欲しいんだが?

 ほら、イースクリムが瀕死だぞ。



「なんですって?このパっとしないのが英雄の息子……?」

「自分も知らなかったであります……」

「はわわわわ……あの全裸英雄さんの……」

「マジかよ……お前、マジかよ……」



 ホームルームの時にも言っていたはずだが、イースクリムは完全に忘れていたらしい。

 俺がリリンの恋人だと聞いて膝から崩れ落ち、バルバロアの隣で横たわっている。



「あぁ、パッとしないが本当だぞ。この剣も親父が使っていた物だしな」



 ユルドルードの息子だという証拠を見せろ!とか言われても困るし、先手を打っておく。

 グラムは素人が見ても凄い剣だって分かるから、これで信じてくれるだろう。



「こんな所で英雄の息子が出てくるなんて……。ユニクルフィンって言ったわよね?あんた、うちの隊に入りなさいよ!」

「それはだめ!ユニクは総指揮官の部隊に入隊する事が決まっている!!」


「あ、そうなの?まぁ、そうかぁ……。残念」



 カルーアさんは心底残念そうに呟き、チラリと俺を見て「やっぱり、パっとしない……」と呟きやがった。

 きっと、俺が手に入らなかったから悔しいんだろう。……という事にしておいてくれ。


 さてと、完全にカルーアさんの戦意が削がれたし、事態の収拾を図るとしよう。



「それで、カルーアさんはリリンの魔法技術の高さに納得したか?」

「そうね。疑ってごめんなさいね、リリンサ。正直、ぶにょんぶにょんきしゃーとか言い出したあたりから馬鹿にしてたわ」

「ん、私もあえて騙そうとしていた。謝らなくて良い」


「そうなの?変な事を考える子ね。……それで、新しい魔法技術とやらを教えてくれないかしら?」

「もちろんいい。あなたの魔法技術が向上すれば、終末の鈴の音が強くなる。総指揮官も凄く喜ぶと思う!」



 そう言って頬笑んだリリンは再び黒板の前に立つと、サーティーズさん達にしていた魔法理論をもう一度話し始めた。

 カルーアさんは最前列で、さらに、さっきまで横目で見ていた生徒達も加わってしっかりとした魔法授業となっていく。


 ……うん、みんな真剣に聞いているし、心の中だけで呟いておこう。


 俺達は体験入学しに来たはずなんだがッ!?!?

 授業を乗っ取ってるんじゃねぇよッッ!!


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