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第15話「簡易的な仲間たち」

「お二方には以前説明をしておりますが、確認の意味を込めて、もう一度説明させていただきます」



 出会って30秒で円陣を組むという謎の儀式を執り行った後、完璧なタイミングでアーベルさんが話を元に戻した。

 流石は受付のプロ、手慣れてる感が尋常じゃない。



「新人冒険者の試験として、皆様には簡易パーティーを組んで頂きます。そして擬似的な任務を達成出来た時を以て、冒険者の資格を申請する事ができます。ここまでは良いですね?」

「あぁ、いいぞ」

「もちろん理解しているさ」

「は、はい!」


「では肝心の任務ですが、冒険者として最もポピュラーである狩猟任務を行って貰います。今回の対象は『ウマミタヌキ』もしくは『ブレイクスネイク』です。それぞれ一人当たりウマミタヌキならば5頭、ブレイクスネイクならば2頭を狩猟して来ていただきます」



 タヌキ討伐、キターッ!!!


 俺の宿敵、ウマミタヌキ。

 奴との出会いはかつてないほど衝撃的で、まさに人生を歪めるほどだった。

 というか、あいつに出会ったからこそ今の俺がいるといっても過言ではない。


 そして、俺は未だにタヌキ討伐を成し遂げていない。

 黒土竜と飽きるほど戦闘をこなしたが、奴らは近寄るどころか姿すら見せてくれなかったのだ。

 黒土竜の弁当として度々目撃しているが既に事切れているし、ノーカウントだ。



「話を聞いた時にも思ったが、随分と簡単そうだな」

「そうですよね!タヌキに蛇とかは冒険者じゃなくても、狩猟会の人とかよく捕りに行ってますよ」



 ロイとシフィーはタヌキの恐ろしさを知らないらしい。

 タヌキはトラウマを簡単に植え付けてくるほどの実力者で、絶対に侮ってはいけない。

 つーか、舐めて掛ったら普通に死に掛ける。


 二人揃って簡単だと声を合わせる様に危機感を覚えつつ、様子を窺う。

 これだけ言うのだから、コイツらはタヌキに慣れ親しんでるって事で良いんだよな?



「この試験は、基本的な任務の流れを覚えて貰うという意味も含めております。受注から完了まで一連の流れを完遂する事が目的です」

「ふむ、そういうことか。ま、スパッと切って拾って帰ってくるだけ、簡単だろ?たぶん」

「そうですよね。タヌキのお肉なんて安いですしね。捕りに行ったことないですけど」

「いやちょっと待て!タヌキと戦ったことないのかッ!?」



 俺の問いに、コイツらは無言で頷きやがった。

 って、戦ったことないのかよ!?素人もいいとこじゃねぇか!!

 つーかそれなのに簡単だって言い張ってたって、馬鹿なのかッ!?



「おい、タヌキと戦ったこと無いのに簡単だとか言うな。死ぬぞ」

「何を馬鹿な事を。タヌキなんて目を瞑ってても倒せるさ。たぶん」

「ですよね。魔法でばきゅーん!ですよ」



 コイツら……、光線を吐き出す謎のウナギを余裕で屠る少女にでも出会って、常識を粉々に破壊してもらった方がいいな。

 価値観変わるぜ?いろんな意味で。



「というわけで、今回の任務の目標はウマミタヌキかブレイクスネイクの二択になります。どちらをお選びになりますか?」

「ん?どっちか一つなのか?」


「はい、ユニクルフィン様。どちらかに絞っていただきます。これは不安定機構の冒険者依頼のルールで決められている為です」

「ルールで決まっているって?」


「冒険者は基本的に依頼を受注してから、任務に赴いて頂くのです。簡単に言いますと、ブレイクスネイクの討伐のついでに、受注していないウマミタヌキも討伐して一石二鳥を狙うのは禁止されております」

「へぇ……。何か問題があるのかい?」


「はい、ロイ様。これは依頼者と冒険者のトラブル防止の為です。例えば、同じ事を考える冒険者が10組いたとしたらどうなるでしょう?」

「それは、市場にタヌキが溢れるな」


「そうです。ウマミタヌキを欲しがっていた依頼者の元に大量のウマミタヌキが押し寄せ、買い取って貰えるかは早い者勝ち。売れ残りは別の人に転売となりますが、品質の劣化が確実です。さらに自然の生態系を崩してしまう可能性もあります」

「確かにそれだと、トラブルになっちゃうかも……?」


「そうですシフィー様。だからこそ我々不安定機構は同時に受ける任務は原則的に一つの依頼までと定めております」



 なるほど、要するについでで他の依頼を達成できない様に制限している訳だ。

 ロイやシフィーはまだ分かっていないようだが、俺はこの制限には大いに納得している。


 だってそうしないと、心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)なんていう理不尽系雷撃少女が、生態系を一網打尽にしかねない。



「理由は分かった。どっちかを選んで達成させればいいんだな?期限とかは?」

「期限は特に定めておりません。皆様パーティーの狩猟数が目標の数を超えた時点で此処に持ってきてください。ただし、あくまで売り物としての価値を維持した状態の物をです。著しく損壊したものや、腐敗が始まっている物などは数に含ませませんのでご了承ください」


「当然だよな。分かったぜ!」

「ふ、この騎士ロイ、規律と規約を守ることを誓います」

「わたしも、がんばりますっ」



 俺を含めた三人が返事を返すとアーベルさんは微笑んで「健闘を祈っております」と言葉を返してくる。

 さすがは接客のプロ、未経験な俺達を前にしても嘲笑したりしない。どこかの村長とは大違いだ。


 そして、試験説明もこれで終わりらしく、ここまでで何かご質問は有りませんか?と聞かれた。

 ……が俺もロイもシフィーも特に質問は無かった。



「それでは、ウマミタヌキとブレイクスネイク、どちらをお選びになりますか?」

「そうだな……。俺としてはタヌキを狩りに行きたいかな」

「いえ!それは良くないと思います!」

「だな」


「……なんでだ?」

「だって最初から楽をすると、良い魔道師になれないって師匠が言っていました」

「それに、猟師の真似ごとは騎士たる僕には似合わんしな。蛇ならまぁ、なんとか体裁が保てそうだ」



 ……こいつら、タヌキと戦った事もねぇ癖に完全に舐め切ってやがる。

 だいたい、そんなに凄い実力を持っているのか?

 どれ、レベルの確認をしてやるぜ。


 シフィー……、レベル1832

 ロイ……、  レベル1784



「なんだとッ!?!?」

「何がなんだとだ?僕の顔に何か付いているのか?」



 ちょっと待て、二人とも民衆の平均値ッ!!

 とゆうかロイ、シフィーに50レベル負けてるじゃねえか!!

 騎士騎士言う割には、この即席パーティーの中で一番レベルが低いぜ!!


 ちなみに俺は、リリンの訓練のおかげか2910レベル。

 この中じゃぶっちぎりに一番上になっている。



「なぁ、戦力に多大な不安が有るんだが、やっぱりタヌキにしないか?」

「断る」

「嫌ですぅ」


「くっ……こいつら」

「ユニクルフィン様、安全面でしたら大丈夫ですよ。こちらとしても冒険者になっていない方を危険に晒すつもりはございません。ちゃんと護衛の冒険者を用意しております」


「護衛?」

「はい。ランク2の冒険者で数多く新人の試験に立ち合って頂いているベテランです。と、噂をすればこっちに近づいて来ましたね。すみませーん!ハンズさーん」



 どこかで見た甲冑騎士風の男がこちらに歩いてきた。

 あぁ、そうだ。最初この部屋の中を見渡した時に眼に付いた男だな。

 使いこまれた甲冑が良く似合う茶髪をしている。



「なんでぇ、なんでぇ。ガキばっかじゃねえか!まともに戦えそうもねぇ優男が二人に、剣すら持てねぇような少女が二人ってかぁ!」



 ん?少女が二人って、何を言ってるんだ?

 ここには、か弱そうな女の子なんてシフィーしかいない。

 そう思いながらも一応辺りを見渡せば、おのずと答えが見えてくる。


 ……この野郎、リリンも数に含めてやがる!

 なんて恐れ多い事をしでかすんだッ!!


 なんとかフォローをと思考を巡らせ始めた時、今まで恐ろしいくらいに沈黙していた理不尽系雷撃少女が口を開いてしまった。



「アーベル。こんなショボイ冒険者なんかにユニクの安全を任せられない。異議を申し立てる」

「あ”あ”?嬢ちゃんてめぇ、言ってくれるじゃねえか……」



 まさに一触即発。

 通常ならば強面の暴漢に少女が襲われているように見える絵面だな。


 ロイもそう感じたようで、剣に手をかけ今にも飛び出そうとしている。

 だけど違う。むしろ危険なのはおっさんの方だ。


 俺の冒険者になるための試験は、開始する前から暗雲が立ち込め始めた。


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