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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第9章「想望の運命掌握」

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第52話「大魔王学院・一時間目、体育」

 

「またバルバの貴族贔屓が出ちゃったでありますか?そういうのをするとロクな事にならないと、何回か警告したでありますのに……」



 俺達はぞろぞろと列を成して階段を下り、外に建てられた体育館へと向かっている。


 その移動時間を使って事情聴取を終えたナインアリアさんは露骨に溜め息を吐いて、「ホント、運が無いでありますねー」と肩をすくめた。

 俺とリリンが話した内容は校門ゲロ鳥乱舞からだし、さっきの言葉はサーティーズさんとバルバロアの両方に向けた言葉なんだろう。


 なお、当の二人は後ろで総指揮官について熱く語り合っている。

 そんで、それをちゃっかり聞いている総指揮官、兼、大魔王様は、何故か平均的な悪だくみ顔で頬笑んだ。



「んー、すげえ良い顔してるな、リリン。何か思いついたのか?」

「一時間目から体育とは好都合。さっき出来なかった分もまとめて転がしたい!」



 まだ転がす気でいたのかよ。

 なるほど、オブジェの拘束魔法を解除したのはこの為か。



「あの、一応確認でありますが……、本気を出すなとテトラちゃんから言われてないであります?」

「言われてる。だから3割くらいの力でブチ転がす!」


「3割なら安心であります?」



 3割と聞いたナインアリアさんは安心した雰囲気を出しているが、それは早とちりだと思うぞ。

 俺達は闘技場で戦った時よりも格段にパワーアップしている。

 今の力の3割でも、ナインアリアさんと戦った時とは比べ物にならない。

 ……なにせ、カツテナイ機神から尻尾をもぎ取って、自分に移植したくらいだからな。



「着いたであります。ここが学院の自慢の体育館でありますよ」



 ナインアリアさんに案内されたのは、縦横150mもある正四方形の建屋だった。

 外見にはゲロ鳥が見当たらず、至って普通の体育館だ。


 下駄箱で靴を脱いで中に入ると、見渡した一面が艶やかなフローリング。

 借りたシューズからキュッキュッと音が鳴るし、かなり丁寧に管理されているようだ。



「へぇー。こういう所に来た事は無かったが……なんか良いな、ちょっと青春っぽくて」

「うん、私が学校に通っていた時も、こういう体育館で部活をするのが楽しみだった」


「お?リリンにもそんな時代があったのか」

「あった。特に、運動した後に食べるおにぎりは格別の味!」



 青春を分かち合った友達と食べるおにぎりは格別に美味しい……という事にしておこう。


 さっそく学校らしさを堪能している俺達をよそに、ナインアリアさん達は慣れた感じで整列を始めていた。

 壁を背にして立つナインアリアさんと向かい合う形で、綺麗に3列で並んでいる。

 俺とリリンも端っこに加えて貰うと、タイミング良く始業のチャイムが響いた。



「えー、では、一時間目の授業を始めるであります。起立!はしているでありますから……礼!」

「「「「「お願いします」」」」」」



 実に学校らしい挨拶を交わした後、ナインアリアさんへ視線を向ける。

 ナインアリアさんを含め全員が軍服だし、俺もリリンも冒険者の格好だからこのまま運動をしても問題ない。

 人生の初の授業が体育か。どんなもんか楽しみだぜ!



「本日は『基礎教練Ⅲ・近接格闘とバッファ』でありますね。本来ならば、テキストを読みながら実技を行うであります、が……」



 冒険者訛りがあるとはいえ、ナインアリアさんの言葉使いは凄く丁寧だ。

 よく通る声で話している事もあり、実に教官という言葉が似合っている。


 そして、ナインアリアさんの話を聞いている生徒の数人は、すでに教科書を取り出してページを開いている。

 驚くべき事に全員が異次元ポケットを習得しているか、異空間収納魔道具を持っているらしく、平然と空間から教科書を取り出していた。


 流石は大魔王様謹製の心無き魔人達の学生徒アンハート・スチューデントだな。

 手に入れるのが難しい空間魔法を全員が利用しているとか、普通の冒険者が見たら目玉が飛び出すほどに驚くぞ。



「サティちゃんやバルバ、イースクリムの入隊も決まったでありますし、なによりリリンサ様がいるであります。だから今日は時間いっぱい模擬戦を行うでありますよ」

「ん、ナインアリア、ちょっといい?」


「どうしたでありますか?リリンサ様?」

「それ。その『リリンサ様』が気になっている。敬称いらない」



 リリンは相手の事を呼び捨てにする一方、自分が敬われるのも好きじゃない。

 舐められるよりかは良いが、友達のナインアリアさんに様付けで呼ばれるのは、とても不満なようだ。



「え、でも、セブンジードさんがちゃんと敬称を付けろって言ってるでありますよ?」

「今の私はナインアリアの生徒であり、学友。何の問題もない。だからリリンって呼んで欲しい!」


「えっと、そうであります?」

「そうであります。もし、セブンジードに何か言われたら文句を言い返すから大丈夫!」


「じゃあ問題ないでありますね!」



 いや、その理屈で納得できるのは、リリンが魔王様だと知っている奴だけだ。

 実際、バルバロアは眉間に皺が30本くらい出来てるし、サーティーズさんも口に手を当てて驚いている。



「ちょっと待って下さい。リリンサさん、それはダメですよ!」

「何がダメなの?」


「ナインアリアさんは学友ですし、呼び捨てでもいいとは思います。ですが、セブンジード様を呼び捨ては絶対にダメです。処罰されますよ」

「そうなの?別にそこまで偉くないと思うけど?」


「滅相もございませんわよ!?セブンジード様はかの総指揮官殿のお眼鏡に叶い、2等級奴隷の中でもかなり上位者なのですから!!」

「あ、そういえば、かなり高く査定もふぅ!」



 俺、渾身の右ストレート饅頭がリリンの口に突き刺さった。

 フワリと吸い込まれた饅頭によって頬が膨らんだリリンは、強制的に口を閉ざしている。


 って、危ねぇええええ!?

 かなり高く査定したって、それを言ったら自白だろうがッ!!



「えっと、さてもふぅ?」

「もぐもぐ……。かなり高く査定する事になったとレジェが言っていた。もともと理由があって低評価にしていたけど、この機会に隊長格へと昇進させると」


「まぁ!そんな裏事情があったのですね。でも、それとこれとは話が別なのでは?」

「テトラに許可を貰っている。なんなら『チャラ男』と呼んでも良いと」


「チャラ男……」



 魔弾のチャラ男。

 これはセブンジードさん自ら名乗っている肩書きだ。


 だが、学生であるサーティーズさんは、憧れの軍人の事をチャラ男と呼ぶ事に納得できないらしい。

 一人でブツブツと呟いた後、「まぁ、それに比べれば呼び捨ての方がカッコイイですね……?」と無理やり納得した。



「それにしても、そのような機密情報を教えて貰えるなんて、陛下達とそんなに仲がよろしいのですか?」

「ん、まぁまぁ良いと思う。何だかんだ衣食住を共にした仲だし」


「衣食住をっっ!?!?」



 関係性を疑われないために遠まわしな言い方をしたんだと思うが、そのせいで意味がだいぶ変わってしまったらしい。

 サーティーズさんを含む半数が赤面し、視線をふら付かせている。

 そして今気が付いたが……バルバロア、お前は俺と同じ清らかな身体なようだな。



「ひ、一晩だけでも、あんなに恥ずかしかったのに……。リリンサさん、一体どれほどの回数を?」

「数え切れないほど?よく覚えていない」


「なんですって!?」



 うちの腹ペコ大魔王さんは気が付いていないらしく、どんどん深みに嵌っている。

 というかこれ、意味を知ったら恥ずかし過ぎて尻尾を生やして襲いかかってくるんじゃないか?俺に。



「はいはい、濃ーいお話は後にするでありますよ。で、単刀直入に切り出すでありますが、リリンちゃんと戦ってみたい人はいるでありますか?」



 そう言って、ナインアリアさんは自ら手を上げた。

 その表情は満面の微笑みだ。


 確かに、総指揮官と戦えるなど事情を知っている人からしたら垂涎ものの提案のはずだが、今のリリンは正体不明な体験入学生。

 どのくらいの戦闘力を持っているのかも分からないし、ここで手を上げる身の程知らずは……あ、いた。



「誰も居ない様だし、私が立候補させて貰おう」

「バルバ?一応、聞くでありますが理由は?」


「そこの田舎者の平民共に身の程を知らしめさせるためだ。正直に言って、戦場で実力の過信をしていればすぐに死亡する事になる」

「差別意識は良くないと言ってるでありますが……。まぁ、身の程をわきまえさせるのには賛成であります。加減も手抜きもしないで本気でぶつかると良いでありますね」



 オブジェにされても懲りて無いのかよ、バルバロア。

 つーか、どんだけ貴族を誇りに思ってるんだ?

 どうやらリリンも俺と同じ気持ちなようで、平均的な疑問顔をしつつ舌で唇を舐めた。



「確かにあなたの言うとおり。僅かな差が生死を分ける戦いでは過信など足枷にしかならない」

「当たり前の話だろう」


「だけど、あなたのはそれ以前の話」

「……なに?」


「目の前に立つ敵の実力を見誤っている場合、それは『戦い』にはならない。ただの暴行」



 あぁ、そうだな。

 確かに、リリンの実力を知らないで訓練をすると暴行になる。

 それも、黒土竜がビビって逃げ出すレベルの奴だ。



「言わせておけば!……いいだろう。女子供に手を上げるのは趣味じゃないが、これもお前の為だ。覚悟しろ」

「覚悟なんて必要ない。私は常に臨戦態勢!」



 おう、そうだな。

 毎朝、おはようと同時に第九守護天使を掛けるもんな。

 宿を消し飛ばすレベルの不意打ちを喰らっても、まったく問題ない。



「本当に、平民の癖に口が減らない奴だ」

「そう?じゃあ少し黙っててあげる。好きなだけバッファを掛けると良い」



 たぶん、そういう意味じゃねぇと思うぞ?

 この切り返しにはバルバロアも戸惑ったが、何を言っても無駄だと悟ったようでゆっくり隣へ視線を向けた。



「サティ、バッファだ」

「え?あぁ、どのバッファですか?」


「最強の奴で頼む」

「具体的に言っていただけると助かるのですが……。要するに、いつもの奴って事で良いですよね?」



 ……自分で掛けろよ、バッファくらい。

 魔法が苦手な俺だって、基礎的なバッファはマスターしてるぞ?


 今度は腹ペコ魔王様が平均的な苦笑い。

 かなり呆れた様子でバルバロアを眺めている。



「では行きます。《多層魔法連・瞬界加速スピィーディー飛行脚フライトステップ次元認識領域トライキュービクルスフィア!》」

「ん!」

「ははっ、どうだ驚いただろう?魔法の多重詠唱など平民に扱えるものではないからな」



 悪いが、リリンが驚いたのはそこじゃない。

 サーティーズさんが使ったのは、リリンお気に入りのバッファ魔法群。

 低ランクのバッファでは、この組み合わせを超えるものは無いと言い切る程に効果的な奴だ。



「確かに驚いた。サーティーズ、この組み合わせはレジェに聞いたの?」

「いえ、これはバルバロアさんと一緒に考えた組み合わせですよ。いろいろ研究した結果、これが一番効果が高かったので」


「……そう、あなたの事をちょっと見直した。ババロア」



 ババロアじゃない、バルバロアな。

 見直したなら名前を間違えるなよ。



「ふっ、平民に敬われるのは貴族として当然だ。だが、その言葉は受け取っておこう」

「そして、これなら手加減をしなくても良さそう。3割ではなく、10割の力でブチ転がす!」


「……ん?」



 あ、今度こそ死んだな。バルバロア。

 オブジェの次だし、墓標にでもなると思う。


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