第14話「冒険者になろう」
「ここが不安定機構の支部だってのか?本部じゃなくて?」
「支部で間違いない。まあ、支部としては大きい方だと思うけど」
冒険者登録をする為、俺達は不安定機構・アルテロ支部にやってきた。
まぁ、やって来たといっても、俺達の宿『癒心の館』から大通りにまっすぐ道なりに歩いてくるだけという大変にイージーなものだ。
リリンの訓練に比べればなんてことはない。
そう、俺と目標を共有してテンションが上がったリリンの訓練に比べれば、なんてことはない。
思い出し武者震いをしつつ、俺は目の前の建物を見上げている。
そこにあるのは、汚れ一つない純白の城塞。
磨き抜かれた大理石に散りばめられた宝石が魔法陣を模し、それが列された壁が続く。
流石は冒険者という荒くれ共の巣窟。頑丈さが半端じゃない。
「だいぶ丈夫に作ってあるみたいだな。魔法を使っても傷一つ付かなそうだ」
「並みの冒険者の攻撃など、普通に弾き返すよ」
「ちなみにリリンが攻撃したら?」
「私の威信にかけて、木端微塵に粉砕する!」
粉砕できんのかよ。
すげぇな。心無き魔人達の統括者。
圧倒するような威圧感にたじろぎながらも、奥にそびえる城塞へ向かって俺達は歩き出す。
ただの芝生なのに、随分と足が重く感じる。柄にもなく緊張しているらしい。
一方、リリンは慣れた道に思う事など何にもないという表情をしている。
あっ、欠伸もしている。緊張感などまるでない。
「ここが不安定機構、俺が初めて冒険者登録をする場所か」
「普通は冒険者登録は一度しかしないし、そんな予定もない!」
リリンの的確なツッコミに舌を巻きつつ、いよいよかと気持が高ぶる。
リリンが目の前の扉に手をかけ、俺の冒険者人生が開かれようとした時、不意に手が引っ込んだ。
「せっかくだから、この扉はユニクが開くといい。私も初めての時に両親にそうしなさいって言われている」
「自分の手で……か。ありがとな、リリン!!」
意外とロマンチックな事を言い出したリリンに感謝しつつ、そっと扉に掌を当てた。
この扉を押し出せば、俺は冒険者になれる。よし!
そして、俺は手の平に力を込め、扉を押した。
しかし扉はビクともしなかったッ!!
「……ユニク。その扉、引き戸」
「……おう」
そしてすんなりと扉は開く。なんだか締まらない。
扉一枚開くと、溢れんばかりの喧騒がひしめき合っていた。
ガヤガヤと慌ただしく人が動き回り、様々な者々が眼に映る。
使いこまれた甲冑の騎士風の男と、綺麗なローブをなびかせた魔法使い風の女。
動きやすそうな革鎧の小柄な三人組の男達。
きっちりとした執事服を着た老獪な従者とドレス姿の少女。
眼付きの悪いゴロツキ風の集団。
小綺麗な顔立ちの青年剣士。
爆乳と言わざるをえない、美人なおねぇさ――、ゲシッィ!!
「いてぇ!」
「ユニク。どこを見ている?事と次第によっては、ここいら一帯が……」
「木端微塵になっちゃう!?よそ見してすみませんでした!」
「分かればよろしい。受付はあっち」
指差された方向へ視線を向けると、ちょっと人気の少ないカウンターがあった。
上の看板には、『新規冒険者登録および、不安定機構使徒・昇格受付』とある。なるほど、用件によって窓口が違うんだな。
人気のない受付に足を向け、スイスイと進み簡単に到着。
すれ違った人たちが俺に眼を向け、うんうん。と頷づいた後、何故かカッ!と眼を見開いているんだが、なんでろう?
もしかして、俺が田舎者だってバレているのか?
冒険者の観察力って恐い。
「こんにちわ。不安定機構へ、ようこそお越し下さいました。新規登録受け付け員の『アーベル』です。本日はのご用件はどのようなものでしょうか?」
「この人、ユニクルフィンの冒険者登録をしに来た。ユニク座って」
「おう、よろしくお願いします」
明るい色の金髪が良く似合う美人な受付のお姉さんは、受け賜わりましたと頬笑みながら何枚かの書類を取り出した。
では簡単にご説明を、と一番上の紙を差し出し、冒険者についての説明を始める。
「冒険者とは不安定機構に登録し、日々発信され続ける依頼を達成し報酬を受け取る人々の総称であります。基本的な仕組みについてはリリン様からお伺いしていますか?」
「ちゃんと説明している」
「では割愛させていただきます。実務の方を済ましてしまいましょう。こちらにお名前と身元保障人のお名前、それと万が一の時についての連絡先をご記入下さい」
「身元受付人と連絡先って?」
「冒険者が何かしらやらかした場合まず、身元保障人に連絡がいく。それが悪事だった場合は身元保障人を拘束し、容疑者捕獲の餌とすることも。連絡先は不測の事態、たとえば、冒険者が怪我を負ったり死亡した際に連絡が行く先のこと」
「リリン様の説明は雑ですが、大体の意味合いは整合しております。ではご記入ください」
「何かあったら身元保証人には迷惑がかかるんだな。じゃあ、村長でいいや。連絡先はレラさんっと」
さらさらっとナユタ村の住所と村長やレラさんの名前を書き、受付のアーベルさんに返す。
はい、ありがとうございますと心地よい返事の後、慣れた手付きで不備がないかを確認をしている。プロの技だな。
「はい、書類の方の記入は以上となります。こちらは書類の控えとこれから行っていただきます、登録試験の注意事項になります」
「え?試験が有るのか?」
「はい?リリン様からお伺いでないのですか?」
「ユニクの実力なら合格は間違いない。試験なんてないも同然。説明すら不要」
「いや待ってくれリリン!せめて説明くらい聞かせてくれ!合格の条件が分からなかったら合格のしようがないから!」
いきなり飛んでもない事を言い出したリリンを放って置きつつ、俺はアーベルさんに説明をお願いする。
ちょっとだけ苦笑しつつも、すぐに登録試験の注意事項が書かれた紙を一番上に置き直したアーベルさんは、真剣な顔を俺へ向けた。
「それでは、試験のご説明を致します。これからユニクルフィン様には簡単な狩猟任務を受領して頂き、その狩猟任務を達成出来た時点で正式に冒険者として登録をすることができるようになります」
「狩猟任務……か。一人でやるのか?」
「いいえ、本日は後二名ほど新規の冒険者お申し込みがありまして、そちらの方たちと簡易的なパーティーを組んで頂きます。あちらのテーブルに着いている方たちですよ」
ぐるっと一周室内を見渡すと、隅っこの方に何脚かの椅子と机があった。
そこはパーティーメンバーで打ち合わせをする場所らしく、熱い議論を交わしている冒険者もいる。
そして、その中に一人の少女が座っていた。
銀色の髪に茶を基礎とした色合いの魔道服を着ている。
どうみても魔道師志望。机に本を広げて、どうやら勉強中のご様子。
一生懸命ノートに向かっていて、とても真面目そうな子だ。
で、一人しか居ないけど?
「あれ?ロイ様がいらっしゃいませんね。放送で呼び出してみましょう。キンコンカンコーン!『シフィー様』『ロイ様』、新規受け付けまでお越しください。繰り返します。『シフィー様』『ロイ様』受付までお越しください」
アーベルさんが放送をした直後、急に名前を呼ばれて吃驚した銀発の少女が「え、は、はい!!」と言って立ち上がり、なぜかファイティングポーズを取った。
そして、受付から呼び出された事を思い出し……、慌てて机の上の本を片付けようとして盛大にぶちまけた。
どう見てもドジっ子属性です。
さらにそこに、頭を押さえながら「何してるんだ?君は?」と小奇麗な金髪青年剣士が接近。やれやれと言いつつ本を拾い始めた。
そして、ある程度拾った所で、ほらっ。と本を差し出すもタイミングが合わず、受け渡し失敗。再び本がぶちまけられた。
こいつもドジっ子属性です。本当にありがとうございました。
「アイツらが俺と同じ新人冒険者か?うーん」
「最低限の基礎すら出来ていなそう。間違いなくタヌキに敗北する」
俺もリリンが辛口な評価を下していると、片付けが終わった二人が揃ってこちらに歩きだした。
やっぱり二人がそうなのだろう。……先が思いやられるな。
「剣士ロイ、参上いたしました」
「あ、シフィーです。お呼びですか?」
「はい、こちらが三人目の冒険者志望のユニクルフィン様です。これで規定数の三人に到達致しましたので、これより試験開始となります」
どうやら、登録試験の規定人数は三人の様で、俺を含めたこのメンバーで簡易的な依頼を行うらしい。
とりあえず、黒土竜の群れなら何とかなるが……。
「なるほど、君がそうか。ロイだ。よろしく頼むぞ」
「シフィーです。よ、よろしくおねがいします」
「ユニクルフィンだ。こちらこそよろしくお願いするぜ!」
ロイから差し出された手を握り返し、握手を交わす。
そこに、ちょんと乗せてくるシフィー。このドジっ子属性はさっそく握手という儀式をぶち壊しに来た。
しかもそれをロイが受け入れて、握手は三人の意気込みを高める円陣に進化。
エイエイオーと掛け声までかける始末。
……本当に先が思いやられる。
このメンバーで無事に合格出来るのか?