第43話「本気出す大魔王・確率の確立」
「神の因子か……。時々聞く言葉だけど、その実態をよく知らないんだよな。教えてくれ」
ブローチを手に入れた以上、戦争を起こせば絶対に勝利できる。
そう大魔王陛下が断言し、その言葉にはしっかりとした確証があるらしい。
そしてその確信こそ、大魔王陛下が所持している神の因子だ。
俺の認識では、『神の因子』とは『特別な才能』という言葉に置き換えられる。
ようするに、天才と呼ばれる人は何らかの神の因子を持っているからこそ、他人より優れた事が出来る訳だ。
一方、俺に宿っているという神の因子『神壊因子』は、神の因子を止めるという力。
ぶっちゃけ異能と呼ぶべきもので、その効果は人の枠組みを軽々と越えている……っぽい。
そう、結局、ふわっとした事しか知らないから、イマイチ実感が湧かないんだよなぁ。
大魔王陛下は何かを知ってるようだし、ぜひ話を聞かせて欲しい。
「あら?結構食い付きが良いのねぇ?神の因子が気になるのぉ?」
「あぁ、ギンに聞いた話だが、俺も神の因子とやらを持ってるらしくてな。だけど、どんな効果があるのかイマイチ実感してなくてさ」
「そうなのぉ?じゃ、教えてあげるぅ。だからねぇ……」
「だから?」
「余の事は、レジィおねーちゃんと呼んでぇ」
さっきも言ったけど、何でだよッ!?
もしや、既成事実を作って俺を捕獲するつもりかッッ!?!?
大魔王共から提案されたよく分からない事に同意をするのは、絶対にヤバい。
思い出せ、俺。
大魔王女医も、大魔王聖女も、大魔王保母さんも、全員残らず俺をブチ転がそうとしてきただろ。
というか、だんだん酷くなって、最後はマジモンの実戦だったしなッ!!
俺の危機感が最大級の警笛を鳴らしている。
こうなったら、代替え案を提示して許してもらうしかねぇ!!
「俺は親しい人の事は名前で呼ぶようにしてる。だから、レジィおねーちゃんだと逆に余所余所しくなっちまうんだが?」
「……じゃあ、なんて呼んでくれるのぉ?」
……。
…………。
………………大魔王陛下だな。
そんな事をこのタイミングで言おうもんなら、神の因子の情報と一緒に闇に葬られそうだ。却下で
「そうだな……。普通に『レジィ』じゃダメか?ローレライさんもそう呼んでたんだろ?」
「んーいいわよぉ。……出来ればもっと甘えた声でぇ」
「それは断るぞ。レジィ」
「つれないわねぇ。まぁ、おねーちゃんに反抗する弟っぽくて良いかもぉ?」
俺がレジィと気安く呼ぶと、大魔王陛下は何故か熱い吐息を漏らした。
何を言っても喜びそうだな、この大魔王陛下。
というか、心無き魔人達の統括者の中でもぶっちぎりのロリ枠なのに、表情が恍惚としてるとかキワモノすぎる。
「ということで、早速、話をしてくれ。レジィ」
「いいわよぉ。おねーちゃん出血大サービスぅで、見せてあげるぅ」
見せてあげる?
説明してくれるって話だけど、何かの資料でも出してくれるのか?
そう思って大魔王陛下の出方を窺っていると、何やらおかしな動きをし始めた。
いきなり正面に向かって右手を突き出し、見るからに魔力を高めてから、ゆっくりと口を開く。
「《審問に答えなさい。確定確率確立》」
その静かな問いかけに対し、世界は答えを示した。
空間に揺らぎが生じ、半透明の文字が創られてゆく。
『―000.000%―』
大魔王陛下の目の前に、突如、レベル表記に似た数字が出現した。
その数字は0で統一さており、末尾に%という記号が付いている。
……神の因子って、こんな事も出来るのかよ!?
ある程度は予想してたけど、これは流石に反応に困るんだがッ!?
「おい、ちょっと待て。何だこれは?」
「これはねぇ、余が持つ神の因子『確定確率確立』によって創り出された演算装置」
「すまん。まったく訳が分からねぇ!」
「要するに、余だけが使える超能力よぉ」
大魔王陛下、とうとう超能力とか使い始めやがったな。
ほんと、うちの大魔王は食い意地が張っているだけで良かったと、心底思う。
「神の因子は大きく分けて2種類あるのぉ。一つは『他者よりも優れた才能』。こっちは『足が速い』とか『歌が上手い』とかそういう普通の才能」
「それは理解できる。要するに天賦の才ってやつだな?」
「その通りぃ。そして、余やテトラが持っているのは『他者が持たぬ才能』。世界にたった一つしか存在しない超能力」
「世界にたった一つしか存在しない?」
「そう。その人しか使えない異能と言い換えても良いわねぇ」
だとすると、俺の認識は大体が正解だったようだ。
神の因子の中には、その人しか持っていない特殊な力がある。
それは人間として備わっている能力を超えたもので、他者には真似できないものだ。
そして、その『確定確率確立』使用した結果が、目の前の数字表記なんだろう。
……で、肝心のその効果のほどは?
教えて、レジィおねーちゃん!
「余が持っている神の因子は、正直に言ってレア中のレア。ワルトナに調べて貰ったけど、似たような神の因子は数千年の歴史の中でも一例しか観測されていないわ」
「ん?世界にたった一つしか存在しないのに、似ている能力があるのか?」
「例えば『火を操る』神の因子と『火を発生させる』神の因子。それは似ていると思わない?」
「なるほど、確かに似ているな」
「そう、そして似たような神の因子を持っていたとされる人物は……『神』」
「は?」
「滅びの時代に地上へ降り立った神は、『このまま世界が終る確率』を賢者に示したという。そういう、神がこの世界に降りた時に多用する神の権能の一つが『確定確率確立』なのぉ」
「……。滅茶苦茶凄そうなの、キターーーッ!!」
神が多用するって、どう考えてもチート能力だろッ!!
というか、そんなもんを大魔王が所持しているって、絶望感が半端じゃないな。ロイ的に。
「それで、その能力が勝敗にどう影響を及ぼすんだ?」
「直接的な影響は無いわよぉ。ただ、余は勝ち筋を選んで行動を起こせる。だから、絶対に負けないのぉ」
「勝ち筋を選ぶ?」
「この『確定確率確立』は、『一日に3回まで、これから起こりうる未来の確率を数字で表す事が出来る』のぉ」
……なんか、すげぇ悪用できそうな能力なんだけど。
言葉通りに受け止めるなら、大魔王陛下は戦う前に可能性の高い未来を知っている事になる。
普通の戦争では、勝った時と負けた時、その両方を考慮しながら戦う。
だが、予めその結果を知っているのだとしたら、他の可能性を切り捨てた大胆な戦略が取れるようになるはずだ。
まさに、この大陸を支配する大魔王に相応しい神の因子。
なお、そんな異能を神が多用しているのは、どうかと思う。
「一日3回といえど、絶大な効果を発揮しそうだな、その神の因子」
「おかげ様で、余は常勝無敗の大魔王。それはそうよねぇ。勝率80%以下では仕掛けないしぃ」
「まぁ、確率が分かるんならそうするよな。でもさ、80%なんて高い確率、そう簡単に出るもんなのか?」
これはこの確定確率確立の性能による事なんだが、仕様次第ではそう簡単に高得点は出ない。
その名前の通り、この能力を使った時点で未来が確立されているのなら、それを知った後でどんな事をしても数字が変動する事がないからだ。
だが、俺の懸念を否定する様に、大魔王陛下はニヤリと笑った。
「この能力は、その時の状況を考慮して運命を逆算するのぉ。つまり、万全の準備をしてから能力を使用すると、それだけ数字が高くなる傾向がある」
「数字は変動するって事か。なら、万全の準備を終えたら100%になるのか?」
「ならないわ。だって相手も準備をするものぉ。結論、『相手の準備よりも余が行った準備の方が、より戦局を有利にする』場合に、数字が高くなるわけぇ」
……なるほど。
この能力は、『自分が行っている戦略がどのくらいの効果があるのか』を示す指標。
いくらこの神の因子が有能なものであろうとも、戦局を優位に進める為には優れた戦略が必要になる。
最終的にものをいうのは、大魔王陛下の采配だ。
そして、おそらくだが……。
「段々、話が見えてきたぜ。つまり、レジィがこの能力を前に使った時『ブルファム王国軍に勝利する確率』は高かったのに対し、『ブルファム国王になる確率』が低すぎた。だから、何らかの要因が国王になるのを邪魔しているってことだろ?」
「あらあらあら!この話をして理解出来たのは、ワルトナとテトラに次いで3番目よぉ!褒めてあげるぅ!!」
どうやら俺の答えは正解だったらしく、大魔王陛下が身を乗り出して俺の頭を撫でてきた。
それに負けじとリリンが応戦。
二人の大魔王が俺の頭をこねくり回して戦っている。
……そろそろやめてくれ。
俺の頭が戦場跡地になりそうだ。
「ブルファム王国に攻め入っても余が王になれる確率って、すごぉく低かったのぉ。ブルファム王国は男性が国王を務めるという慣例があるからぁ」
「ん?それがブローチとどう関わるんだ?そもそも、初代国王は女性じゃなかったっけ?」
「その通りぃ。初代国王ライセリア・ディアナ・ブルファムはそのブローチと共に国を立ち上げ、そしてそのブローチが無くなった後、国が滅びかけた」
「国が滅びかけただと?」
「諸説あるんだけどぉ、王位を継承したライセリアの娘がダメだったらしくてねぇ。纏まった諸国が再び紛争を始めたりと散々だった。そしてそれはブローチを無くしたからだとされているのぉ」
「ブローチを無くしたから?ホーライが回収したんだろ?」
「そう。ここで真実が見えてくるわけぇ。『ブルファム王国がブローチを無くした』とはつまり、『英雄ホーライの加護を無くした』となるわけねぇ」
「そういう事か。確かに英雄の力があれば、国を栄えさせるのだって簡単かもな」
「でも、それを民衆に言う訳にはいかないでしょぉ。だから、込められた意味を伏せる為にブローチその物を宝具化し、それを持たぬ女性は王位に就くべからずなんて馬鹿げた慣習を作ったわけ」
そう言う事か。話が繋がったぜ。
大魔王陛下は、ブルファム王国を落とせるだけの戦力を所持している。
だが、王位に付ける可能性が低く、その可能性を高める為の暗躍に奔走していたと。
そんでそこに、超ド級の決戦兵器を腹ペコ魔王さんが持ち込んだわけだ。
うん、俺も勝利を確信したぜ!!
近い内にお前の家で祝勝会をする事になるから、準備を進めておいてくれ、ロイ!!
「ちなみに陛下?ブローチを手に入れる事で王位を継承できる確率はどのくらいになりますの?」
「余の試算ではかなりの高得点になるはずよぉ、ちょっと見てみましょぉ」
どうやら俺達の目の前で、神の因子の能力を披露してくれるらしい。
大魔王陛下は目の前の数字に手をかざすと、静かに目をつむって問いを発した。
「《審問を発するわぁ。これから7日以内に、レジェンダリア軍がブルファム王国を首都へ侵攻する確率は?》」
大魔王陛下が発した質問、それを噛み砕くと『ブルファム王国首都に到達するまでに行う戦闘の勝率は?』となる。
ブルファム王国に至る前に、ロイがいるフィートフィルシアをどうにかしなければならない。
そこには鏡銀騎士団がいるというし、そこで足止めを喰らうと、7日以内にブルファム王国の首都に到達できる可能性はぐっと低くなる訳だ。
そして、大魔王陛下の問いかけに神の因子は答えた。
『―96.417%―』
「うおっ!?高ぇ!!」
「おぉ、中々の高得点ねぇ」
ロイのいるフィートフィルシアが陥落する確率、驚異の96.417%。
分かってはいた事だが、すげぇ絶望的な数字だな。ロイ。
可哀そうだから、いっぱいSサイズのワンピースを持って行ってやるぞ。
領民全員で着れば寂しくないだろ?
俺は勝つ側だから着ないけどな!
「ということで、次ぃ《審問を発するわぁ。これから9日以内にブルファム国王にレジェリクエが即位する確率は?》」
そして本題だ。
大魔王陛下が国王の資格としてブローチを手に入れた影響は……?
『―78.364%―』
「おぉ!こっちも中々いい数字だな!!」
「……んー、微妙ねぇ」
「え?これで微妙なのかよ?」
「微妙ねぇ。余が国王を継承する為の大義名分を手に入れた以上、後は純粋な戦力比べになるわけねぇ。で、4回戦ったら1回負ける程度には戦力が拮抗してる訳ぇ」
「そう言われると、確かに微妙だな」
例えば、普通の冒険者と超魔王ヤンデリリンが戦ったら、100回戦って100回リリンが勝つだろう。
それが4分の1となると、リリンクラスの戦力が潜んでいる事の証明になる訳だ。
だが、レベル10万のラルラーヴァーがいる以上、この数字は良いもんだと思うんだが……?
「逆に考えれば、ラルラーヴァーと戦っても78%は勝てるって事なるんじゃないのか?」
「そうはならないわよぉ。ラルラーヴァーが出てくるとは限らないものぉ」
「いや、出てくるだろ。ラルラーヴァーは俺達と敵対するって言ってるんだぞ?」
「……。ねぇ、ラルラーヴァーって発音しにくくなぁい?」
いや、なんだよ唐突に!?
今は発音を気にしてる場合じゃないと思うんだが!!
「発音しにくいからぁ、ワルラーヴァーにした方がいいと思うわぁ」
「ん!!それはとても良い案だと思う!!悪い幼虫、ワルラーヴァー!!」
で、今までクッキーに夢中で大人しかった大魔王さんが、変な所に喰いついたな。
たぶん、難しい話を俺達がしていて会話に入れなかったから、自分がついて行ける話題を探していたんだろう。
それにしても、大魔王さん達、敵の名前で遊ぶの好きすぎだろ。
本人が聞いたら絶対にブチギレるぞ。
「アイツはセフィナにくっつく悪い虫!!害虫は駆除するべき!!」
「確かに悪い子よねぇ。ワルラーヴァー」
「絶対にブチ転がす!!スキルアップした私の魔法でブチ転がす!!」
「怪我させちゃダメよぉ。精神的に追い詰めて、泣きべそをかかせましょうねぇ」
「分かった!レジェも協力して欲しい!!」
「もちろんよぉ。泣きべそをかいた子を慰めるのは楽しいものぉ」
そうして、大魔王さん達は熱い握手を交わした。
だが、レジィの表情が何処となく嗜虐的なのは何でなんだ?
……あぁ、こういう性格か。
良い御趣味をお持ちのようだな。
「さてと、本当に時間が無くなって来たわねぇ。これでお話はお終いにしましょう」
戦争に勝てる確率も分かったし、大魔王会談もそろそろ潮時のようだ。
レジィは、ゆっくりと椅子に座り直すと優雅に寛ぎ、ティーカップに口を付ける。
そして、これからの予定を話し始めた。
「余がブルファム王国に進軍をするのは、明後日の朝に執り行う式典のすぐ後の後になるわぁ」
「式典?なんの?」
「一人で極秘任務をしていた総指揮官の凱旋式典よぉ、リリン」
「……。そういうのは別に必要ないと思う!!」
あ、これ、大魔王の陰謀的な奴だな?
セフィナを取り戻す為に仕方がないとはいえ、すごく面倒なことになる気がする……。
リリンもそれを分かっているらしく、平均的な渋い顔で嫌がっているが、横から口を出してくるゲロ鳥大臣の前にあえなく敗北。
何だかんだポンコツ感が滲みでているテトラフィーアだが、本気を出したら凄かった。
類稀なる話術で式典にて振る舞われる料理の説明をし、リリンを速攻で丸めこんだ。
「ということでぇ、明日1日は準備期間で貴方達の相手はしてられないのぉ。だから別の場所で遊んでて欲しいのよぉ」
「ん、何処で遊んでればいいの?食堂?」
遊び場を思い浮かべて、まず最初に出てくるのが食堂かよ。
「食堂じゃないわぁ。城内に新設した学校があるのは聞いたかしら?」
「それならメイに聞いた。鳶色鳥の養成学校があると」
ゲロ鳥を養成してどうすんだよ。
怪人ゲロ鳥部隊でも作る気か?
「リリン、ユニクぅ。そこの軍学校の上級学年に、体験入学をしてみない?」
「体験入学?」
「上級学年はもうすぐ軍に入隊する事が決まっている人がいる所……なんだけど、ちょっと最近、学生の認識が甘いのよぉ」
「認識が甘い?それは、戦いを知らないってこと?」
「そうなのぉ。その子たちは軍人になるという事に憧れてはいるけれど、その辛さや過酷さをまるで理解していない節があるのぉ。要するに、平和ボケねぇ」
「なるほど。それは良くない。すぐに矯正しないと取り返しのつかない事になってしまう」
大魔王陛下に目を付けられてる時点で、既に取り返しのつかない事になってるだろ。
なぜなら、大魔王陛下の策謀によって、心無き魔人達の統括者とかいう恐ろしい闇の集団の総統が送り込まれようとしている。
「そう、良くないのぉ。だからリリン達には身分と正体を隠して学生達と交流して欲しいのよぉ」
「ん、交流するだけ?命が掛っているんだし、教育的指導をした方がいいと思う!」
「ううん、年が近いリリンとユニクぅの実力を見るだけでいい刺激になるわぁ。だから、教育的指導は必要ないのよぉ。元も子もなくなるしぃ」
元も子もなくなるって、死なない為の訓練で死人が出るって事かッ!!
うん、そうなる気しかしないな!
かなり初期段階で壊滅竜と戦わせられるしな!!
「そうなの?」
「そうなの。それには、ただの女の子じゃないとダメよぉ。くれぐれも、心無き魔人達の統括者だとバレないように実力を隠してねぇ」
「実力を隠して訓練になるの?どのくらい隠せばいい?」
「ランク0はダメよぉ。あと、魔王シリーズを学生に使うのは禁止」
ランク0は当然として、魔王を学生に使うなってのはどういう事だ?
学校に行くんだから交流するのは学生だけだろ?
「学生には?じゃあ先生には使っても良いということ?」
「正確には、軍学校に出入りしている軍人に、ねぇ。貴方の終末の鈴の音に在籍しているメンバーって、結構、学校に出入りしているのよぉ」
「そうなの?セブンジードとか?」
「もちろんジードも出入りしてるわぁ。むしろ、積極的に出入りしているわねぇ」
「……さぼり?」
「確かに任務に行くのをサボってるんでしょうけど、学生の為になってるのも事実。ジードはかなりの実力者で部下からの信頼も厚く、学生にも人気があるのぉ」
へぇ、確かに面倒見が良さそうだもんな、セブンジードさん。
ナインアリアさんを男だと誤解していたせいでリリンにお仕置きされたが、アレだって、相手の緊張をほぐす為に言ったことだ。
もし俺があの立場だったら、『国に慣れるまで同じ家に住んで、遊びにも連れてってやる』とまで言われたら凄く嬉しいしな。
「そんな訳で、教員として踏ん反り返ってる軍人を見かけたら転がして良いわぁ。刻みつけてあげなさい」
「分かった。セフィナが入学しても大丈夫かどうかを確認しつつ、速やかにセブンジードをブチ転がす!」
「あ。そうそう、リリン達に体験入学して貰うクラスにはナインアリアが在籍しているわぁ。彼女には話をしておくから協力して貰いなさい」
「むぅ?彼女の実力なら指揮官になってもおかしくないはず。何で今更、学校?」
「彼女は有能だけれど、勉学が足りない所があったからよぉ。それにテトラの要望も有ってねぇ」
此処で話を振られたテトラフィーア大臣が立ちあがり、深々とリリンに頭を下げてから礼を言ってきた。
突然の事にリリンも戸惑っているが……すぐに意味が分かったようで、テトラフィーアに顔をあげる様に促している。
「いい。私が彼女を見つけたのは偶然のこと。気にしなくて大丈夫」
「いえ、彼女は私が姫を名乗っていた頃の遊び友達。行方が知れず心配していたのですわ。本当に感謝しています」
そう言って、二人は熱い抱擁を交わした。
一時はどうなるかと思ったが、リリンとテトラフィーア大臣が仲違しないで済んで安心したぜ。
だからな、そこの大魔王陛下。
にやけながら写真を撮るんじゃねぇよ。
つーかその写真、何に使うつもりだ?
「そんな訳でぇ、リリン。学校に遊びに行ってくれるかしらぁ?」
「分かった。せっかくだし楽しもうと思う!!」
「許可証その他諸々は部屋に届けさせるわぁ。さ、一度部屋に戻ってゆっくりしててねぇ。夕食は超豪華なディナーよぉ」
「それを待ってた!!凄く期待している!!」
最終的に飯に釣られたか。
まぁ、良い落とし所かもしれない。
実は俺も、王宮で振る舞われるディナーには凄く興味があるしな!!
「メイ、二人を客室に案内しなさぁい。もちろん、最高位室よぉ」
「心得ております。侍従頭を筆頭に、20名のメイドを専属従者として待機させておりますので、ご安心ください」
「テトラは侵略会議に戻ってねぇ。余が行くまでに場を納めておく事。いいわねぇ?」
「……ユニフィン様と語らえない苛立ちを、ブチまけても宜しくて?」
「いいわよぉ」
「分かりました。今夜の私は、甘さ控えめで行きますわ」
「では、リリン、ユニク、またねぇ」
長かった大魔王陛下のとの会談も一旦終了。
情報の交換は終えたし、明後日にはセフィナ奪還に向けて動き出す事になる。
っとその前に、初めての王宮接待を楽しむとするか!
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「さてとぉ……。侵略会議の前に確かめておかないとねぇ」
騒がしい友人達が退室し、静かになった謁見の間。
床も壁も天井も真新しいが奥に控えている玉座だけは、僅かに古い。
愛するお姉様があつらえた玉座に座ったレジェリクエは、僅かにほぅっと息を吐き、自分の能力を起動させた。
「《審問を発するわぁ。ラルラーヴァーであるワルトナ・バレンシアがブルファム王国に加担した場合、リリンサを筆頭にしたレジェンダリア軍が勝利できる可能性は?》」
その問いかけは、固有名詞が存分に使われた限定的なものであり、確率表記に失敗する可能性がある。
レジェリクエが持つ神の因子『確定確率確立』は、細かい条件を設定していくと数字の精度が上昇する。
その一方で、矛盾する問いをしてしまった場合は数字が表示されず、無為に1日の使用回数を消費するだけとなるのだ。
そして、レジェリクエの問いかけに、神の因子は答えた。
しっかりとした数字を表示し、レジェリクエは顔を歪ませる。
「そうでしょうねぇ。そうなるでしょうねぇ……!用意周到なワルトナだもの、どういう状況になっても、絶対に自分が有利になる様にしてるわよねぇ」
空間に表示された数字を見て、レジェリクエは笑っている。
抱いている感情は『喜意』か。それとも『危機』か。
それを秘める双眸は、真っ直ぐに数字を捉えた。
『―5.964%―』
「ふふ、これはこれは、手加減しない方がよさそうねぇ。……ロゥ姉様がくれた好機。絶対に無駄にしないわ」




