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第13話「お願い」

「俺のお願いは――、今すぐにでも不安定機構に登録をして、冒険者になることだ!」



 リリンから与えられた、一度だけお願いを叶えてくれる権利。

 それこそ、数十万エドロの大金を簡単に支払ってしまう財力をもち、人間一人跡形もなく消し去れるであろう威力の魔法を使えるリリンが提示してきた報酬な訳で、有効に使えば人生をずっと楽に出来るはずだ。

 さらに言ってしまえば、リリン自身も可愛らしい顔立ちの美人さんなわけで、事と次第によっては良い思いも出来るだろう。


 ……だけど、だ。

 与えられるだけで、本当にそれで良いのだろうか?

 

 俺はリリンと出会ってから、人生が180度変わったと思う。

 その中には多大な良い事と、今のところ見えたり隠れたりしている悪い事が多分に含まれているが、結果的には良い方向に進んでいる。


 だが、本質は変わっていないとも思った。

 俺の持つ全てが誰かの善意によって与えられた物ばかりで、俺が計画して手に入れた訳じゃないからだ。


 この高級な宿代も、美味しい料理も、剣も魔法も与えられたもの。

 いや、それだけじゃない。

 着ている服も、持ちうる知識も、ナユタ村にいた頃に得た財産と呼べるもの全てが与えられたものばかりだ。


 そしてこの先の未来まで、誰かから与えられ続けられる人生を送る、そんな人生なんて俺は嫌だった。


 だからこその冒険者登録。

 自分で考え、切磋琢磨して実力を身に付け、自立した人生を送る。

 そのためには冒険者になることが一番手っ取り早い。

 そう判断したからこそ、お願いは『冒険者登録をしたい』だ。



「………だめか?でも俺はどうしても冒険者になりたいんだ」

「ダメなんてことはない。むしろユニクの実力ならば推奨されるべきだけど、私は別なことに驚いている。せっかくの機会なのに、こんなことで良いの?」


「そうだな、もし良ければなんだけど、条件を付けたい」

「条件?」


「もし俺が冒険者になれたら、一緒にパーティーを組んでくれないか?お互いが同じ立場の仲間としてだ。勿論、リリンに対して俺が弱すぎるってことは分かっている。だけど、俺はどうしても同じ立場の冒険者になりたいんだ」

「………それはね、ユニク」



 同じ立場で、一緒に世界を冒険したい。

 一つの事柄の価値観を共有しながら、世界中を旅して回る。

 お互いに笑いあったり喧嘩したり悩んだりして、充実した毎日を送り、いつの日にかリリンに仲間と呼んで貰えるようになりたいと心から思った。


 俺の能力が足りないのは分かっている。

 今すぐには無理だろう。

 それでも、望んだ未来を手に入れる為の一歩が、このお願いなんだと確信している。



「それは、そのお願いは……ううん。そのお願いこそが、私がずっと、ずーと長い間、憧れを抱きながら恋焦がれてきたもの」

「…え?」


「神託を授与されたあの日、私は生きる意味を与えられた。家族を失ってどうすることも出来ずに呆然としていた私にとって、ユニクルフィンの隣に立てという神託は新たな目標以上の意味があった」

「俺との出会いに目標以上の意味……?」


「この信託は、全てを無くした私に神様がくれた贈り物なんだって思った。でも、その神託に書かれていた『ユニクルフィン』には、泣いてばかりいた私では辿り着けないような途方もないステイタスが付いていた」

「俺の親父が英雄だって事か?」


「そう。……英雄。それは幼き日から何度も読み返した絵本の、燃えて無くなってしまった思い出の中の憧れ。山を切り、空を駆け、海を割る姿を読むたびに蓄積されていった羨望の対象で、その子供「ユニクルフィン」という存在は、泣いてばかりいる私とは比べ物にならないんだろうなって思ったんだ。だからこそ、今の私がここにいる」



 リリンは透き通る鈴とした声で言葉を続けた。

 光が灯り輝く瞳から、俺は目が離せない。



「きっとユニクルフィンは私の遥か先を歩いている。だから私も強くならなくちゃいけない。少しでも追い付いて、いつか隣を歩けるようになろうと誓った。強力な魔法も、崇高な武器を手に入れたのも、全部、ユニクと共に歩むため」



 思いもよらないリリンの独白は、俺の思いなんかよりも、ずっと気高いものだった。

 最初から何も持たず解からない俺と、全てを失ったリリンの思いが同じ重さの訳がない。


 そして、リリンは俺の想像の付かないような努力を積み重ねてきた。

 英雄の息子()なんていう偶像を心の寄りどころにして、汗と血を流しながら力を培ってきたんだと知った。


 それは当たり前の事だった。

 リリンも言っていたじゃないか、「どんな英雄の魂でも、生まれた瞬間は名もなき小さな魂だった 」と。

 リリンは全てを持っているって憧れや嫉妬をしていた俺は、なんて愚かなんだろうか。



「だからね、ユニク。そのお願いは私のお願い。なので放っておいても叶うもの。だから、違うお願いをした方がお得」

「いや、これでいい」



 そう言って頬笑んだリリンの瞳から、一滴だけ涙が零れた。

 俺と一緒に居る事が、幼いリリンが目指した目標か。なら……。


 俺の柔らかな否定の言葉に、リリンが首を傾げた。



「このお願いがいいんだ。『二人が隣り合って冒険者をする』ってこの願いは、俺とリリンの両方が願ったもので、二人が初めて共有する想いにしたい。これから先の、数えるのが面倒なほどの思い出の中で、一番最初の想いにしよう。俺と冒険に行こうぜ、リリン!」

「そういうこと……。うん、よろしくね、ユニク!」



 こうして、俺のお願いは決まった。

 リリンと共に過ごす事が、俺の人生の目標だ!



 ※※※※※※※※※※



「それで、具体的にどうする?」

「うーんと、ユニクが最速を望むのなら出来るだけ尊重したい。だけど、今のままだと中途半端なので、後三日間だけ私と訓練ボディランして貰う。そうしたら不安定機構に行って冒険者登録をしよう」


「おう!分かったぜ」

「うん、それでね、その後なんだけど……、ちょっと買い物に付き合って欲しい」


「買い物?」

「冒険者になるのなら装備品は必須になる。服も利便性に特化したものになり防御用の小手やポーチも必要になるから買い揃えなければならない。だからユニクと一緒に買い物したい。もう言質は取っている。いつでも付き合ってくれると!」


「もちろん良いぜ!あぁ、楽しみだなーって、これじゃまるでデートに行くみたいだな!ははっ」

「……でぇと、、、、私がユニクと、でぇと、、、、」



 なぜか顔が赤くなって俯いてしまったリリンを横に、俺は三日後に想いを馳せた。

 そして、あっという間に訓練が進み、約束の日が訪れる。


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