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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第9章「想望の運命掌握」

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第34話「ローレライ②」

「おぉ、ローレライよ。そなたから余に会いに来るとは珍しいな」



 枯れたと称されるレジェンダリア国であっても、国王の椅子ともなれば豪華なものとなる。

 そんな、高級と贅沢を掛け合わせたような椅子で寛いでいる者こそ、レジェンダリア国王『チュインガム・B・レジェンダリア』だ。


 不躾に入室してきたローレライを咎める風もなく、チュインガムは笑顔で迎え入れた。

 つい先日、ローレライによって得られた戦果を鑑みて、作られた笑みすら溢している。



「先の働きは大義であったぞ。まさか、負け戦を一人で巻き返し、勝利してしまうとはな」

「そうだね。6万人の味方が全滅(・・・・・・・・・)した(・・)けど、敵兵9万人も全滅だ。残ったのはおねーさん一人きりなんだから勝ちだよね」



 ローレライも作った表情で薄く笑うと、それに呼応するように国王も笑みを返す。

 一見して朗らかな空気。

 だが、お互いに本心を出していない事など、当然、両者は分かっている。


 二人きりの国王執務室にて行われているこの会談は、ローレライが戦争から凱旋して2日後のこと。

 事後報告を含む表面上のやり取りを終えているとはいえ、しっかりと話し合うのはこれが初めての事だ。



「それでだ。そなたの武勲に感服した余は、特別な恩賞を賜る事にした」

「……へぇ」


「そちを余の養女として迎え入れ、王位継承権第1位の座をくれてやるとしよう」



 チュインガムは憮然な態度で、その恩賞とやらをローレライへ提示した。

 王としては実に正道な態度でありながら、にこやかながらも悦に浸っているという嫌みも併せ持つ。


 そして、それに受け答えするローレライもまた、憮然とした態度で言葉を返した。



「貰っておくよ。それで、王位継承権第1位として国王陛下に奏上賜りたき事があるんだけど」

「なんであろうな?余の願いと一致するものであると良いのだが」



 厳格な賢王だと臣民から称えられているチュインガムには、一つの悩みがあった。

 それは、次代の王に誰を選ぶべきかという後継者問題だ。


 几帳面な性格ゆえに堅実な施政を引くチュインガムだが、その反動のせいか女性関係が緩みきっている。

 妃が2人、側室が10人と他国の王と比べても異常なほど多く、当然、王位継承権を持つ子供も多い。


 だからこそ、次代の王座を争うのが目に見えており、等しく可愛い我が子の醜い姿など見たく無いと思っていた。

 奇しくも、全ての子供達が特出した能力を持っていないのも事態に拍車をかけ、国亡の危機とまで揶揄される事もある。


 そんな時に現れたのがローレライだった。

 誰の目に見ても明らかな、天才という言葉ですら適せない、”何か”。

 そんな得体のしれない少女はついに、誰もが成し得ない偉業ですら、平然と手に入れた。


 レジェンダリア軍6万が敵国の襲撃を受け、全滅に等しい被害を出した。

 増援として向かっていたローレライは死屍累々たる惨状を見て激昂し、感情のままに敵兵を一人残らず撃ち滅ぼした……と、歪められた戦果が(・・・・・・・・)伝わっている。



「一考に値するであろう。話してみよ」

「じゃ、遠慮なく。『ユヴァ』と『フィナン』、おねーさんの両親を殺せと命じたのは、お前だな?」



 ローレライから湧き出たそれは、無機質な声だった。

 まるで感情の籠っていない事務的な質問は、対話のエキスパートたる王ですら揺らぎかねない程に、鋭く研ぎ澄まされている。



「ふむ、そなたの両親であるか。まこと、賊徒に襲われるなど残念な話ではある」

「別の場所で働いていた二人が、同時にか?」


「それこそ、神の裁きという奴なのかもしれんな。二人ともが、盗みの前科がある事は知っておるか?」

「知っているよ。調べたからね」


「だが、その子たるお主まで罪が及ぶものではない。先んじて逝去された両親の為にも、余に忠誠を尽くし働くがよかろう。さすれば両親も――」

「もういいよ。御託はさ」



 ローレライは話を打ち切ると、ゆっくりと視線を王へと向けた。

 14歳という年齢のローレライの目線は、椅子に座している王よりも低い。

 ならばこそ、視線は見上げる形となり、そして……その瞳は遥か上を見据えている。



「どれだけ取り繕うが、すべて分かってる。気分が悪くなるだけだからさ、さっさと認めろよ」

「ふむ?どうやら誤解があるようだな。確かにそなたの両親は殺されておる。しかも、近衛兵の手によってだ。しかしそれは――」


「それは、『我が子に王位を継承させる為に、必要な生贄だった』だろ?」

「……ほう、そこまで知っておるのか?」



 再びチュインガムの言葉を遮ったローレライは、その続きを言い当て吐き捨てた。

 さしもの王も驚き、つい肯定の言葉を呟いてしまう。



「知ってるさ。『作り過ぎた子の誰へ王位を継承するか悩み』、『”ローレライ”という明確な部外者へ王位継承権を与える事で、仮想敵を創り出し』、『侵略者ローレライを討った者に、改めて王位継承権を与える』だろ?」

「……ふむ」


「そして、ローレライを買い殺しにする為には、その両親が邪魔だった。なぁに、貧民が幾人消えようが些事だ。我が子の方が尊い。そんな所だろ」

「流石に聡いな。愚民風情が余の前に立つだけはあるという事か」



 和やかな会談は豹変し、代わりに張りつめた空気が場を支配する。

 好々爺のようだった王は威厳を振りかざし、不敵に笑った。



「そなたの言うとおりである。自分の子らが愛しくて仕方がない。余は兄弟との熾烈な争いの末に王位を継いだのでな、子らにはそんな思いをして欲しくないのだよ」

「へぇ、勝算がない戦いをさせるのが家族愛ってやつなんだね」


「確かにローレライは強大であろう。だが、所詮は個人。軍に勝てる道理はなく、軍を率いる者こそが王たる資格を持つのだ」

「って、思っていたんだろ。一昨日までは」



 三度、王の言葉を奪ったローレライは、無機質な瞳で王を睥睨した。

 まるで足元に湧いた虫へ向ける視線の様に、感情がこもっていない。



「うむ、今回ばかりは余が間違っていたと認めよう。お前の様な化物は、王位を継ぐ前の子等にどうこうできる存在ではないわ。……近衛兵ッ!!出合えいッ!!」

「そうだね。すべてが間違ってるよ。前提も、策も、認識もね」



 勢いよく立ちあがった王は、ローレライ越しに入り口のドアに向かって怒声を飛ばす。

 此処は国王執務室。

 両隣りは近衛兵の詰め所になっており、すぐに鍛え抜かれた兵が集まってくるだろう。


 そんな目論見は、最初から破綻していた。



「なぜだッ!?何故、誰も来ないッ!?」

「お前の近衛兵程度が来れる訳ないじゃん。第四魔法次元(ワールドフォース)にさ」


「な……に……?」

「窓の外を見てみなよ。そこには何もないからさ」



 現在は宵越しに近い時間帯であり、窓に掛っているカーテンは閉められている。

 だからこそ、その窓の先が深淵である事に気が付かなかった。


 いつから、こうなっていた……?


 引きちぎるようにカーテンを剥ぎ取ったチュインガムは、本能的な恐ろしさを感じる闇へ向かって視線を泳がせている。



「そこには何も作ってない。別に必要ないしね」

「……なんだこの闇は?何が起こっているというのだ?」


「この部屋を隔離したんだよ。世界からね」

「せ、世界から隔離……?な、何の事だ……?」


「はぁ、王宮(自分ち)にある魔導書()すら読んでないのか。これだから愚王は」



 ローレライはあらか様に落胆し、頬を掻いている。

 王に向けるべき態度にあるまじき暴挙も、咎める者がいなければ問題とならない。



「『魔法次元乗ディメニスマジック四番目の世界へ(ワールドフォース)』だよ。お前ら王族のみが使えるっていう大規模儀式魔法でさ、『魔法で作った別の世界へ指定した物質を移し、あらゆる論理法則から寸断する』っていう魔法だ。知らないの?」

「なんだと!?」


「あぁ、愚王の頭じゃ分からないか。ようするに、お前が装備している身を守るためのあらゆる魔道具は効果を発揮できず、助けも来ないってこと」

「結果を問うているのではないわッ!!その魔法には、そのような効果など無いと言っているッ!!」


「お前が使えないってだけで、王術書にはしっかり載ってるよ」

「それこそが答えだろうッ!!お前は王族ではない!まして、王紋が刻まれた指輪も無しに、儀式魔法を扱うなどあり得るはずがないのだ!!」


「補助輪がないと魔法が使えないってのは、お前らが未熟だからだ。おねーさんには関係ない」



 ローレライが発動したランク(オーバード)の魔法、『魔法次元乗ディメニスマジック四番目の世界へ(ワールドフォース)』。

 この魔法は、指定した人間一人を別次元へと隔離する『牢獄魔法』だと、国王たるチュインガムは思っていた。


 だが、事実は違う。

 この魔法の真の効果は、『世界を構成している真理が、魔法という論理に置き変わっている四次元にて、術者の思うがままの世界を構築』するというものだ。

 その作られた世界では術者こそが創造主であり、絶対的な優位者として君臨。

 あらゆる法則が『術者・ローレライ』の思うがままのこの場所に侵入できる者など、それこそ、神の御業を持つ者だけだ。



「この部屋に入った時、正確には、おねーさんがドアに手を掛けた瞬間にはもう、お前は捕らわれていた。案外難しいんだよ。音もなく魔法を発動するってのは」

「ありえぬ!!詠唱すらも無しに発動するなど、ありえぬッ!!」


「できるんだよ。おねーさんにはね」

「ありえぬ、ありえ、ぬ……?そうだ。そもそも余は、どうしてこんな話をこんな所でしている? 余は『詰め所』が隣り合っていると知っている。万が一の為に、会話は全て隣の部屋に筒抜けになっていると知っているのに、なぜ限られた者しか知らぬ秘密を話しているのだ……?」


「それはね。お前らの自我が、すべて掌握されてるからだよ」

「なに……?」


「答え合わせをしようか。国王陛下」



 訳が分からず床にへたり込む『国王』と、揺るぎなくそびえ立つ『王位継承第1位』。

 交差している視線の角度は変わり、既に立場が逆転している。



「お前が計画していたと思いこんでいる(・・・・・・・)『王位継承政策』。それは、おねーさんが描いた筋書きだ」

「な……に……?」


「デザインした仮想敵を討伐した者を、次代の王とする。仮にも、国軍総長を倒した人間(・・・・・・・・・・)へ矛を向けさせるなんて、慎重な性格のお前が考えると思うかい?」

「そ、それは……!」


「そう、考える訳がない。だけど事実として国王の口から命令は発せられ、秘密裏に関係者各位に通達済みな訳だ」

「最初から謀っていたというのか……?14になったばかりのお前が……?」


「そういうこと。偶然にも国を手に入れる為のカードを持ってたからね。使わないと勿体ないじゃん」



 道で拾った割引券でも使うかのように、ローレライは平然と言ってのけた。

 そしてそれだけで、賢王と謳われたチュインガムは悟ってしまう。


 先の戦争、その戦果。

 その全てが歪に狂っているのだと気が付いたのだ。


 戦争という人間の争いに置いて、全滅などあり得ない。

 兵法論では、兵士の3割が傷した時点で負け戦となり撤退を選択する。

 攻勢よりも防衛に力を置いている消極的なレジェンダリア軍は特にその傾向が強く、全滅するまで継戦するはずがないのだ。


 そもそも、ローレライが一人で戦地に向かう訳がなく、敵兵を殲滅出来る戦闘力を持ちながら仲間をすべて失うなど、起こるはずがない。


 だからこそ、王は理解した。


 自国の兵6万人と、敵国の兵9万人。

 合わせて15万の軍勢が、たった一人の少女に殺され尽くしたという、戦慄の結果を。



「ばけもの……この、化物がッ!!」

「化物だなんて心外だね。その化物の楔を断ち切ったのはお前だというのに」


「何を謀るかッ!!」

「……もうちっとさ、あとほんの少しだけ、大人しくしてるつもりだったんだよ。でも、それをする意味が無くなった」




『無くしたんだよ、両親を。気が付かなかった、良心を』


『ずっとずっと居ないと思ってた、ただの偶像で、無価値で、目に映らない。そんな架空の存在だった両親は、それでも、きっと、良心だった』


『飯だ。食え。寝ろ。起きろ。病気か。薬だ。文句を言うな。本だ。服だ。靴だ。そんな単語の羅列を聞いても、僅かも心が動きやしない。ただそれが当たり前すぎて、幸せだって気が付けない』


『会話こそなかったけれど、二人は育ててくれた。豊かでは無かったけれど、食事が絶えた事は無かった。二人が一緒に居ないのは、三人分の食事を用意できないからだって気が付いていた』


『ユヴァとフィナンだけは、いつまでも子供扱いしてくれた。今になって思うよ。お前らみたいな濁りきった笑顔とは違う二人の笑顔を、両目に映してみたかったんだって』




「……結局さ、何もないと思っていた日常こそ、最優先で守るべきものだった。それが無くなって、初めてその大切さに気が付いたわけだ。あーあ。おねーさんも、まだまだ未熟だったかー」



 雑談のように淡々と、無機質な声が響く。

 それでも最後の方だけは僅かに、ただ、確かに声が震えていた。



「初めて礼を言うよ。チュインガム・B・レジェンダリア。両親を奪ってくれて。良心を奪ってくれて。これで心置きなく、燻ぶっていた感情のままに行動出来る」

「な、なにを……?」


「すべて選別は終えている。すべての準備も終えている。必要だったのは、いや、不要だったのは、リョウシンだけだった」

「選別だと?まさかッ!!」


「命令だ、チュインガム。明朝、すべての臣民を庭園へ集めろ。《洗脳簒奪フュプノジャック誉れ高き賛美(フラワーブレイン)》」



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